一昔前と比べると、だいぶ生きやすくなってきているはずの今の日本。昭和の時代、女性はクリスマスケーキにたとえられ「25を過ぎると売れ残り」などと言われることも少なくありませんでした。それが今や30代での結婚は珍しくないですし、そもそも何歳で結婚しようが自由。もちろんずっと独身でいるのも自由……なはず。でも今の時代も、独身生活をおくる中で「葛藤」のようなものを抱く女性は少なくないようです。今回はそんな女性達の葛藤を描いた3冊をご紹介したいと思います。
ユニークなタイトルに思わず笑ってしまいました。『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』はタイトル通り、女性がプロポーズされない理由を分析していますが、同時に独身生活の楽しさを描いています。気兼ねなく自分の趣味嗜好にまつわる「こだわり」を追及できること、時間を気にすることなく友達とワイワイ夜遅くまで出かけることができること。そして交友関係が広がる楽しさ。それらの楽しさをジェーン・スーさんは「独身は麻薬!」と表現しています。本書にも書かれているように「シングルイズドラッグ」というわけですが、この英語が正しいかどうかは別として、独身生活には「結婚していては味わえないような気軽さ・身軽さ・楽しさ」が伴うのは確かです。
本書はその楽しさの数々を紹介してくれているのでそれだけでも十分楽しめるのですが、タイトルの『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』のように、その楽しさがある種の自虐とともに描かれているのが興味深いです。独身は楽しみを追及することが許されている反面、あくまでも「私たち独身はプロポーズされないから独身でいるのですよ」という心の叫びをまとめたものがこの本というわけです。リアルでコミカルな描写が楽しい1冊です。
- 著者
- ジェーン・スー
- 出版日
- 2013-10-11
『女子をこじらせて』などの著書もある雨宮さんのこの本『ずっと独身でいるつもり?』はご自身のことを書いています。彼氏からのプロポーズを断ったり、自ら進んで独身でいることを選んだはずなのに、ふとした拍子に「あれ?私なんで独身なんだろう? 私ずっと独身のまま?」と自身に問いかけてしまう現実。本書には「世間での”独身”の立ち位置」のようなものもそれはシビアに描かれています。
「独身」は自らが望んでいなくても、世間から恋愛市場に身を置いているとみなされるため、あらゆる場面で値踏みされる運命にあります。独身である本人も少なからずそういった「世間からの扱い」に精神的に影響を受けてしまうため、「独身の今の私は仮の姿」だといわんばかりに、楽しみというものを先延ばしにしてしまう傾向があります。たとえば「寝心地の良いベッドを買い、インテリアに凝る」という、独身でも十分叶えられることを「結婚後の楽しみ」としてとっておいてしまったがために、結果的に独身の何年間もの間を「寝心地の悪いベッド」にて過ごすことになってしまったという女の性のようなものについて描かれています。
そんな「独身であること」にまつわる女性特有の思考について描かれていますが、本の最後のほうに書かれている「誰かと一緒の旅も楽しいけれど、一人で見る風景は細胞に染み渡るように印象的です。」(167p)に深く共感しました。二人で見る風景は「共感」が前面に出るけれど、一人で見る風景は「より深く自分の中に入ってくる」という経験を筆者(サンドラ)もしております。風景に限らず、人生について考えるとき、二人より一人で考えたほうが本当に深いところまで考えるような気がします。なにより「一人で考えて出した答え」は自分に正直な答えなんですよね。
この本、独身に限らず、人生を歩んでいく中、ある種の生きにくさを感じた時に読んでみるといいかもしれません。包み隠さず女の人生の本音が書かれているので、「女の本音を知る」という意味で男性が読んでみても面白いかもしれません。
- 著者
- 雨宮 まみ
- 出版日
- 2013-10-19
『しょうがの味は熱い』は言わずと知れた芥川賞作家・綿矢りささんの小説です。独身は独身でも、一つ屋根の下、同棲生活をおくる女「奈世」と男「絃」の感情の行き違いを描いた作品です。切ないけれどリアルな描写に引き込まれてしまいます。恋愛、そして生き方そのものに関する男と女の感覚の違いのようなものが浮き彫りになっています。同じ屋根の下、すぐそばにいる愛おしい人であっても、男と女の立場の違いによって、こうまで見方や感じ方が違ってくるのだと考えさせられます。
愛とは何か? 家族とは何か? 色んな質問にヒントをくれる作品です。個人的にドキッとしたのは「あともう少しがんばれば、幸せになれるかもしれない。でも愛や結婚は、あともう少し、と努力するものでしょうか。」というフレーズ。奈世を通して、自分の「愛」についても考えてみたくなりました。
- 著者
- 綿矢 りさ
- 出版日
- 2015-05-08
最後に。独身であるということを語る時「独身であることを楽しもう!」という単純な展開にはなりくく、「結婚が目的の独身」となるケースが結果的に多いのですね。「ずっと独身でいよう」と思いながら独身でいる人というのは少ないようです。それにしても「独身」というテーマに限らないことですが、今の自分を「仮の自分」とし、「将来起きるかもしれないハッピーな何か」に向けて今をセーブしたり、葛藤したり。「今」を思う存分楽しめていないのだとしたらもったいないなあ、などと思いつつ、それが人間の性なのかもしれない、なんて思うのでした。