【第1回】夜は短し歩けよ乙女
お仕事方面では役者として舞台や映像でお芝居をしたり、日本テレビ系・朝の情報番組「ZIP!」でレポーターをつとめたりしています。 「電線」に関しては電線愛の強さでバラエティ番組「ナカイの窓」や、能町みね子さんのラジオ番組に電線マニアとしてゲストに呼んでいただきました。

そして、実は本屋さんでアルバイトをしています。 しかし残念なことに、ぽんこつ店員でございます。 仕事でなかなかシフト通りに出られないわ、 筋金入りのさんすうできない人間なのでレジを豪快に間違えるわ……。会うたび「お久しぶりです」と挨拶をする店長からのクビ宣告も秒読みの中、シフトを週3.5時間に減らされつつもしぶとくバイトを続けています。なぜかって、本屋さんが好きだからでございます。

見渡す限りの本に囲まれながらお金をいただけて、お客さんでいる時よりもずっと長く本屋さんの空気を吸い込める。こんな役得を、がめつい私が手放せるはずありません。 物心ついた頃からまっすぐ家に帰るのが大の苦手で、暇さえあればあてどなく寄り道をしているのですが、寄り道の中でも特に好きなのが本屋さんでした。

そんな私が、この度ホンシェルジュさんにお声がけいただき、そして文章を書かせてもらえるなんて……。嬉しくて嬉しくて、うっかり涙そうそうです、埼玉出身ですが。

憧れの地、いざ京都へ

著者
森見 登美彦
出版日
2008-12-25
今回ご紹介するのは『夜は短し歩けよ乙女』著者は森見登美彦さんで、四月に湯浅政明監督のアニメ映画が公開されたばかりの小説です。京都の大学生活を舞台にしたボーイミーツガールの物語なのですが、森見文体がもつ酩酊感と素っ頓狂な展開、主人公の「先輩」とヒロインの「黒髪の乙女」が京都を駆けまわる様子はとってもゆかい。

夜の先斗町、下鴨神社の納涼古本市、京都大学の学園祭、冬の四条河原町……。作中に登場する京都の街は、めくるめく森見ワールドに彩られ登場人物に負けず劣らず魅力的です。

読んだ方は「京都で大学生活を送りたかった!!」「京都に行きたい!」「黒髪の乙女に生まれ直したい!」という気持ちになることうけあい。実際わたしはそんな気持ちが抑えきれずに小説片手に京都まで聖地巡礼をしただけでは飽き足らず、同じく森見さんの作品『四畳半神話大系』のヒロイン・明石さんと同じ髪型にするためバッサリ髪を切ってしまったのが3カ月前のこと。

私にとって森見作品のヒロインは、ただの憧れじゃないのです。ほんとは崇拝に近いくらい形で大好きなのです。子どもの頃セーラームーンになりたかったのと同じような気持ちで、いまは黒髪の乙女になりたいのです。森見登美彦作品のヒロインは、かしこく素直で生き方に屈託がなく、自分の足でずんずん歩き、敵は必殺技のおともだちパンチでやっつけてしまう。

なんてかっこいいんだろう、なんて可愛らしいんだろう。彼女は歩いているだけで物語の主役になれる女の子なのです。

主人公である男子大学生「先輩」は彼女の背中を穴が空くまで眺め、「ナカメ作戦」で京都の街を駆けずり回り、偶然を装って彼女に会おうとしますが私は、京都の街をいない人の背中を追って駆けずり回ります。

まあまあ痛いでしょう。いや、もはやまあまあで済まないかもだけど。こういうことしちゃうのは大学生までだよねって思ったんですけど、全然そんなことはありませんでした。今年で25歳になります。

だけど、もしも京都で大学生になれるよって言われたら、三時間で荷物まとめてホイホイついていくと思います。それほど森見登美彦の描く京都という世界は魅力的なのです。また、作中に出てくる下宿「下鴨幽水荘」のモデルではないかと言われている日本最古の学生寮・京都大学の吉田寮に一晩200円で泊まってみたりもしました。

吉田寮で宿泊したお部屋の写真は撮影できなかったのですが、部屋の広さだけで言えばスイート。散乱するガラクタ、徹夜で麻雀する学生さんが無言で麻雀牌をこねる大部屋の畳の上でうつらうつらしながら夜を明かすタイプのお部屋です。わたしが泊まった日は偶然にも次の日が京大の入試でした。ボサボサの頭を抱え、首には銭湯で買ったタオルを引っ掛け口を真一文字に結びながらずんずん歩く受験生たちと、かれらを応援する予備校講師たちに逆らって作中に登場する喫茶店「進々堂」へ向かいました。

蛇足ですが、わたしは重度の「黒髪の乙女コンプレックス」のせいで映画版の乙女が着ているものと同じデザインのワンピースをポチってしまいました。白い丸襟が乙女チックな真っ赤なシャツワンピースです。24歳、どこへ着て行けばいいかはわかりません……夏コミかな……。

だってわたしその時、京都にいたんです。ちょうど受注の予約日に京都にいたってのは運命じゃないのですか。

人は暮れゆく鴨川を前にし、正確な判断はできないよ。 無理無理!

数量限定の受注品でなかなかいいお値段だったため、今、ものすごい金欠です。ふふふ。もしわたしが実家暮らしじゃなかったら、もう七回のたれ死んでいるに違いない。

茹でもやしをエンジンにして、お仕事頑張ります。

石山蓮華
撮影:石山蓮華

この記事が含まれる特集

  • 電線読書

    趣味は電線、配線の写真を撮ること。そんな女優・石山蓮華が、徒然と考えることを綴るコラムです。石山蓮華は、日本テレビ「ZIP!」にレポーターとして出演中。主な出演作は、映画「思い出のマーニー」、舞台「遠野物語-奇ッ怪 其ノ参-」「転校生」、ラジオ「能町みね子のTOO MUCH LOVER」テレビ「ナカイの窓」など。

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