言葉を学びたいならこれ!言語学徒が薦める言語学の超基本入門書。

更新:2021.12.20

「言語学ってなに?」と聞かれると説明に窮してしまう。言語学は日常会話、文学作品、言語教育から、ゴリゴリひとつの文法を分析していくものまで幅広い。だから、一言で説明するのが難しい。そこでまず、言語を学びたいあなたへ言語学の入門書を紹介しよう。

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言語学あれこれ

『フシギなくらい見えてくる! 本当にわかる言語学』では、これでもかというくらいわかりやすく言語学の全体マップを見ることができる。まず、言語学とは何か定義しよう。

 「言語学という学問は、〔…〕『結局、語学の一種なのではないか』と思う人もいるでしょう。しかし、言語学と語学では目的が違います。語学には、ある言語を学習し、それを使いこなせるようになるという実用的な目標があります。それに対し、言語学を学んだからと言って、ただちに英語がぺらぺらになるとか、日本語の文章がうまくなるとか、そういうことはありません。

それでは言語学は何を目指しているのでしょうか。簡単に言ってしまえば、言語学は、動物の中で人間だけが使いこなせる言語について、その仕組みを明らかにする学問です。」(佐久間2013, 「はじめに」)
 

著者
佐久間 淳一
出版日
2013-11-28


さらに「言語学者の日常」の章では多様な言語学者の姿が紹介されている。たとえば、研究対象の言語の話者が多いか少ないかで研究者はやることがずいぶん違ってきてしまうという実情。

後者のマイナー言語は資料がほとんどないため現地で調査せねば仕事にならず、さらに言語が使われている社会の状況や文化についての研究もほとんどなされていないため、人類学的あるいは民俗学的な研究にも取り組まざるを得ないことがある。(ちなみに、私はフィリピン語というマイナー言語専攻だ。)

逆にメジャー言語は先行研究が多く、国内にいてもコンピュータを使えばデータが引き出せる。しかし、過去の研究者が多いのでは、その研究者の研究は微に入り細を穿つことになりやすくもある。

そういう観点から見ると、マイナー言語は否が応でもその言語の全体像を研究でき、過去にない研究成果を出しやすいというやりがいもある(と思っている)。

 「ビデオカメラによる観察が研究に必須という研究者もいて、それは、幼児が言語を習得する過程を研究している研究者だったり、人々が会話を交わす際に用いる方略を研究している研究者だったり、あるいは手話の研究者だったりする。また、方言や世代間の言葉の違い、二言語使用といった、集団における言語使用の実態を調べる研究の場合は、聞き取り調査や結果の統計処理が欠かせない。

一方、もっぱら研究室の机の前に座って、本とコンピュータだけで研究をしている人もいる。」(佐久間2013, 15項)

 他にも「人類最初の言語とは」「英語の早期教育は有効か」「新しい単語の作り方」「青蛙は青いか」「会話のルール」「顔文字は文字?」「言葉狩り」「言語と国家」などなど、言語学を学び始める人が何を研究しようか本書をパラパラ見て選んで良いくらいには盛りだくさん。良い意味で浅く広い言語学の入門書だ。
 

阪大の認知言語学の授業でも使った教科書

外国語学部の授業で印象に残った授業のひとつが認知言語学であった。『言語学の教室 哲学者と学ぶ認知言語学』は哲学者と認知言語学者のコラボによる対談形式という、著者たちが

「認知言語学の専門家たちでさえ、本書にたんなる入門書にとどまらないいくつものアイデアや方向性を見出すのではないだろうか」(野矢2013, 4項)

と言うくらいユニークな入門書である。そもそも認知言語学とは何なのかということだが、授業では後ろの方の章である“「村上春樹を読んでいる」——メトニミーをどう捉えるか” から教授が取り上げたのでそこから見てみよう。

「野矢 『赤ずきん』という物語の中では、本来赤い頭巾を意味する『赤ずきん』という言葉が、赤い頭巾をかぶっている女の子を指すものとして使われています。このような例が伝統的な意味でのメトニミーの典型例です。〔…〕
 西村 〔…〕つまり、赤い頭巾をとっかかりとして、赤い頭巾をかぶった少女を指示する。この場合、赤い頭巾が参照点で、少女がターゲットです。『村上春樹を最近また読んでるんですよ』と言う場合には、村上春樹という人物が参照点で、彼の作品がターゲット。そういう風に考えるわけです。」(野矢、西村2013, 142項—155項)

 

著者
["野矢 茂樹", "西村 義樹"]
出版日
2013-06-24


認知言語学は、私たちのものの見方や行動様式などの観点から言語を捉えていこうとする、旧来の言語哲学とは違った学問である。

メトニミーやメタファーが注目され出したのもつい25年ほど前からであった。そして抽象的なところであるため、本章でも野矢と西村が「これはメトニミーであるか、そうでないか」など議論を展開させている。

授業でも即興でメトニミーを考えろと教授が言ったのを覚えているが、認知言語学は言語学の中でもクリエイティブで言葉遊び的な側面が出ている、個人的に面白いトピックである。
 

ことばのおもしろ辞典

言葉遊びを少し紹介しよう。『ことばのおもしろ辞典』は、じつに20人以上もの先生が言葉の雑学を紹介している。

「次のアナグラムの例を見てみましょう(Augarde 1984より引用).
(22)a. astronomers (天文学者) → no more stars (星はもうたくさんだ)
b. funeral (お葬式) → real fun (本当に楽しい)」(瀬田2016, 19項)
 

著者
出版日
2016-04-12


このようなアナグラム、回文、オノマトペ、広告のキャッチコピーなど第Ⅰ部では身近な言葉として取り上げられている。そして第Ⅱ部、第Ⅲ部に進むにつれ徐々に専門的な言語学の知識へと話が広がっていく。

たとえば世界には多くの言語があり、それらの言語同士の類似・相違の度合いのことを「言語距離」と呼ぶのだが、言語距離を取り上げ、世界の様々な言語が図表やイラストとともにわかりやすく紹介されている。

こうして辞典を見ると、言葉のおもしろさにあらためて気づかされる。

言語は、人類の最大の発明であるとも言われている。しかし、近年の進んだ脳科学においても人間がどのように言語習得するのかはハッキリと解明されていない。

ロボットにおいても、工学分野(計算機科学)でコンピュータに実装可能な数理モデルを実際の言語の近似させる試みなど行われているが、一定の条件下で人間の言葉の定型句を発することができるに過ぎないのだ。

古から人間が使い、タイムリー?でもある言語学についてこれからも紹介していくので、この書評をきっかけに言語に興味を持ってもらえたらうれしい。

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