ギャンブル依存症では、勝った体験が脳に刻まれ、ギャンブルにしか脳が反応しなくなります。正常な脳が大根ならば、それがたくあんに変わってしまうという例えもあるほどです。今回は症状や特徴、弊害、原因、対策について、参考書とともに整理しました。
最初に債務整理ナビ(2016)を参考にして、ギャンブル依存症に陥りやすい性格的特徴をまとめます。
・真面目
・ストレスに弱い
・警戒心が強い
・おとなしい
・努力を惜しまない
・金銭などを出し惜しむ
・理論的
・相談相手が少ない
・趣味が限られている
・自尊心が強い
このような性格を有する人物は、依存症になりやすい傾向があるといいます。とはいえギャンブル依存症は、一定の条件下では誰もがなり得るものだという指摘もありますので、誰もがその危険性について考えておく必要があるといえるでしょう。
ギャンブル依存症という病気をわずらうと、パチンコや競馬といったギャンブルにのめり込み、やめられない状態に陥ります。
結果的に、借金や失職、家族関係の悪化、精神疾患(いわゆる「躁うつ病」など)の発症が多くなるのです。また日本では、パチンコやスロットがギャンブル依存症を生み出す最大の要因とされます(2017年時点)。
2014年には厚生労働省が、日本には536万人のギャンブル依存者がいると発表。つまり、ギャンブル依存症をわずらっている人の率が5%弱(4.8%)ということですが、これは先進国のなかでは、抜きん出て高い数字なのです。たとえば、アメリカでは1.6%、フランスでは1.2%という依存率です。
また2016年12月には「カジノ解禁法案(特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案)」が成立しました。同法に反対する人の多くは、ギャンブル依存症の拡大を懸念していたといいます。
2017年3月には、パチンコや公営ギャンブルといった依存症対策のための「論点整理案」が、政府によってまとめられました。具体的な対策や実施方法については、2017年5月時点では未定です。
上述したように、日本でギャンブル依存症を生み出す最大の要因は、パチンコやスロットです。このことを詳しく学べる1冊が『パチンコに日本人は20年で540兆円使った』です。
著者はかつてのギャンブル依存症は、競馬・競輪・競艇などの公営競技から抜け出せなくなるタイプが多数派だったものの、バブル崩壊後の「失われた20年」で、パチンコによる依存症が急増したと主張します。本書のタイトルにもあるように、その間の20年間に約540兆円、より正確には539兆6330億円がパチンコ玉やパチスロのメダルに投じられたのです。
それでは、どのような層の人たちがパチンコに通い続けるのかといえば、それは「なけなしの元手が少しでも増える快感を求めて、昼間、時間のある主婦や年金受給者」だといいます(本書より引用)。
また比較として、カジノの客層は超富裕層です。だからこそ本書では、「1億円負けても自殺しないのがカジノなら、1万円負けて命を絶つ人が出てくるのがパチンコである」と述べられているのでしょう(本書より引用)。
日本においては、パチンコ依存症とギャンブル依存症がほぼイコール関係とのことですので、日本におけるその実態や背景を知りたい方におすすめしたい1冊です。
- 著者
- 若宮 健
- 出版日
- 2012-02-29
それではギャンブル依存症によって、どのような害が生まれるのでしょうか。
『ギャンブル大国ニッポン』では、その弊害として、借金や多重債務などを挙げます。たとえば借金については、ギャンブル依存症発症から病院に来るまでのおよそ10年の間に、平均して1000万円近い借金をしてしまっている、というデータがあるほどです。
さらに、なんとかして資金を得たいギャンブル依存者のなかには、学資保険や子どものお年玉にも手をつけてしまうケース、会社のお金を横領するケースなども見られるといいます。
本書では以上のように、ギャンブル依存症について、基本的な知識や問題点を吸収できます。岩波ブックレットという岩波書店から発行されている小冊子シリーズですので、詳しい知識というよりは、その問題の大枠を掴みたいときに便利な1冊です。
以下の項目からは、ギャンブル依存症がなぜ発症するのか、ということに迫っていきましょう。
- 著者
- 古川 美穂
- 出版日
- 2013-02-07
ギャンブル依存症には、いくつかの要因があります。今回はDoctors Me(2017)などを参考に、5点整理しました。
①《ストレス》を発散したいため
②《遺伝的な要素》があるため
③ギャンブルで勝ったり負けたりを繰り返すと、負けを繰り返しても「次は勝てるのではないか」という《心理状態》にとらわれてしまうため
④《ギャンブルが身近な環境》で生まれ育ったため
⑤ギャンブルへのアクセスの良さや借金のしやすさといった《環境的要因》があるため
このように見てみると、「意志の弱さ」や「自己責任」では片付けられない問題といえます。
さらにギャンブル依存症について、複数の著書がある帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)は、「たとえお釈迦様であっても、ある条件に置かれれば立派な『ギャンブル依存者』になる」とインタビューで答えています。
すなわち《誰もが》ギャンブル依存になる可能性がある、というワケです。そうだとすれば、その対策はぜひ知っておきたいもの。
さっそく以下の項目で、ギャンブル依存症に対して考えられる対策について見ていきましょう。
「ギャンブル依存症問題を考える会」の代表であり、自身もかつてギャンブル依存症を経験した田中は、弁護士ドットコムなどの取材で、以下の4点の対策を挙げます。
①すでにあるギャンブル産業(パチンコ、競馬など)へ規制を行う
②ギャンブル広告を規制する
③啓発や、中学生などに向けた予防教育を行う
④回復施設を支援する
とりわけ②の広告規制については、盲点だったという方も多いかもしれません。たしかに競馬などの広告はCMや新聞でよく目にするものですが、それだけ規制されていないということですね。
それでは海外では、どのようなギャンブル規制が実際にとられているのでしょうか。1冊の本を参考に整理しました。
『ギャンブル依存国家・日本: パチンコからはじまる精神疾患』では、作家であり精神科医である帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)が欧米のギャンブル規制などについて述べます。たとえば、「会員制のクラブのような組織」だというイギリスのカジノには、以下のような特徴があるそうです。
①一般市民への宣伝は禁止
②建物外部の広告は厳禁
③新規会員は、申込書記入・署名後、ギャンブル衝動を抑えるために48時間は待機
④ギャンブル中に判断力を保つため、アルコールは禁止
⑤カジノ内で、歌や踊りなどギャンブル以外の娯楽は禁止
⑥クレジットカードでの支払いは禁止
ギャンブルというと、騒々しいイメージを持つ人も多いかもしれませんが、イギリスではそれは当てはまらないようです。またイギリスだけではなく、一般的にヨーロッパにあるカジノの外観は、規制されているために目立たず、室内は静けさに包まれているのだといいます。
ただこれとは反対に、アメリカのカジノでは規制がありません。そのため、ギャンブル企業は、客を引き寄せるためにボクシングなどの試合を開催したり、客がギャンブルにハマるよう、刺激的な照明や音にこだわったりしているのです。
とはいえ前提として、アメリカのカジノ数自体がそれほど多くありません(2014年のデータでは商業的カジノが510、インデイアン・カジノが約474)。しかしギャンブルへの欲求を高めるような企業の行動は、アメリカ国内の精神科医、心理学者、ソーシャルワーカーには心配の種になっているのです。
ひるがえって500万人を超える人たちがギャンブル依存に苦しむ日本では、その温床となっているパチンコ・スロットが、減少傾向にはあるものの、全国に約1万13000店舗あります(2015年末時点)。
数だけ聞くと想像しづらいですが、ローソンは1万1000店、セブンイレブンは1万7000店あるので、パチンコの店舗数はコンビニレベルなのです。そうであるのに、ギャンブルを総合的に管轄する機関はなく、そもそもパチンコやスロットがギャンブルだという認識も一般的ではないといいます(本書が書かれた2014年時点)。
このようにして本書を読み進めていくと、「日本のギャンブル対策は、これでいいのだろうか……」と考えさせられることが多いと思います。いま日本が抱えている課題は何か、諸外国と比較して何が問題とされるのか、それらをきちんと把握することで、これからの対策が見えてくるのではないでしょうか。
- 著者
- 帚木 蓬生
- 出版日
- 2014-12-11
パチンコなどにのめり込み、やめられない状態になる「ギャンブル依存症」。弊害としては、何としてでもギャンブル費用を得たいために借金を重ねてしまったり、周囲とトラブルを引き起こしてしまったりといったことが考えられます。
また、ギャンブル依存症に陥りやすい傾向の性格的特徴が指摘されてはいるものの、一定の条件のもとでは誰もが依存症になりうる可能性があるといいます。そのため原因は一つに絞れるものではなく、「たとえお釈迦様であっても、ある条件に置かれれば立派な『ギャンブル依存者』になる」ともいわれるほどなのです。
だからこそ、既存のギャンブルや広告への規制、教育面での解決といった対策を、いま一度考えるときが来ているように思われます。またその際には、諸外国がギャンブルに行っている規制なども参考にしていくのも良いのかもしれません。