さまざまな変遷を経て、現在のかたちになった「フェアトレード」。生産者や消費者へのメリットは思いつきそうなものですが、問題点も指摘されています。参考になる本とともにまとめてみました。
フェアトレードとは、①開発途上国の農作物や製品を適正な価格で買い取り、②継続的に取り引きすることを通して、③搾取されやすい生産者の持続可能な生活改善と自立を促進する「貿易のしくみ」のことです。
日本では「公正な貿易」といわれることもあります。
ここで、フェアトレードの基本について教えてくれる絵本をご紹介します。その名も『とりがおしえてくれたこと: こどもにつたえるフェアトレード』です。子どもから大人まで楽しめる内容で、どこか暖かみの感じられる絵柄にも好感が持てることでしょう。
タイトルにもあるように、1羽の鳥が子どもたちにフェアトレードについて教えてくれます。それもただ淡々とその定義について教えるのではなく、あるチョコレートが他のチョコレートよりも高いのは何でだろう、という素朴な疑問を切り口にして教えてくれるのです。
企画・制作は、「つくる」「つなげる」「つたえる」を通してさまざまな課題の解決を目指す、株式会社budori。また監修は、児童労働の撤廃とその予防に取り組む国際協力団体である認定NPO法人ACEが担当しています。
ところで、フェアトレードのラベルがついた商品を、スーパーなどで見たことはありますか。あとでご紹介する本『フェアトレードのおかしな真実: 僕は本当に良いビジネスを探す旅に出た』でも触れられている話ですが、ラベルの宣伝効果には大きなものがあります。
以下で、ラベルの種類について整理してみましょう。
- 著者
- 株式会社budori
- 出版日
- 2016-05-22
今回は3種類のラベルをまとめました。
①国際フェアトレードによる認証ラベル
原料の生産から完成品として販売されるまでのプロセスで、国際フェアトレード基準をクリアした商品には、その認証ラベルがつけられます。この基準では、経済・社会・環境的基準について詳細な原則事項が決められ、それぞれが監査・認証されます。
次に紹介するラベルとは異なり、《商品一つ》からフェアトレードに参加することができます。
②世界フェアトレード機関(WFTO)による認証ラベル
企業や団体がWFTOに加盟する際には「事業活動全体がフェアトレード基準を満たしている」(認定NPO法人ACEより引用)ことが求められます。よって①の認証ラベルとは異なり、《商品のすべて》がフェアトレードである必要があります。
なおラベルをつけるためには、別途で認証を取得することが必要です。
③企業や団体による独自のラベル
企業や団体が、商品に対して独自のラベルを掲載している場合があります。
このラベルは、日本でよく見られるものです。というのは、前述した2つのラベルが日本で広がりを見せる前から、現地にいる生産者と直接取り引きを行ったり、生活をサポートしたりする団体が多数存在したためです。
また①や②のラベルよりも厳格な基準を採用している企業や団体もあるのだといいます。
ここまで基本的な知識についてまとめてきましたが、そもそもメリットとして考えられることは何なのでしょうか。
今回は星見学園のHPを参考にして、そのメリットとして5点整理します。
①農薬を使わないため、環境に優しい
②有害なものが避けられるため、身体に優しい
③作り手の顔が見えるため、安心感がある
④高い品質が保たれている
⑤生産者を支援できるため、喜びがある
以下の項目では、フェアトレードの問題点について整理していきます
今回は、問題点を2点まとめます。
①高めに設定されがちな商品価格
②フェアトレード認証制度の限界
※認証団体には、国際フェアトレードラベル機構やフェアトレード財団(イギリス)などがあります。
それでは②の認証制度の限界について、1冊の本とともに詳しく見ていきましょう。
『フェアトレードのおかしな真実: 僕は本当に良いビジネスを探す旅に出た』では、認証制度の実態が明らかにされます。
まず前提として、倫理的認証団体が、農家のあるすべての村へ個々に認証しに行くことは現実的に困難です。そのため協同組合を通して、この認証システムを機能させているというワケなのです。
しかし協同組合は、長への人件費など多額の管理費を消費します。結果的に、コーヒー農家などが実際に手にする価格は、フェアトレードの最低価格(※最低価格は、変動する国際市場価格から生産者を守る一つの方法とされる)を下回ってしまうという事態も生じているのです。
このようななかで、コーヒー農家から直接取り引きを行う仲買い企業も出現しました。本書では、エシカル・アディクションズというイギリスの企業が紹介されています。
彼らは、最低価格を超える値段でコーヒーを買い取るといいます。しかし商品には、フェアトレードのラベルをつけていません。ラベルをつければ、認証団体の一つであるフェアトレード財団にコーヒー価格の2.4%を払わねばならないからです。
実際、エシカル・アディクションズのイアンは、「どうしてあっちに金を払わなきゃいけないんだ?」「その金がこれっぽちも農家に渡るわけじゃないのに」(p. 85より引用)とも述べます。
とはいえ著者が指摘するように、エシカル・アディクションズの倫理的な取り組みを知らなければ、消費者はラベルのついた商品の方を、農家にとってよりメリットがあるものだと思うことでしょう。それほどラベルの宣伝効果は絶大なのです。
以上でご紹介した部分は本書のごく一部ですが、倫理的なビジネスについて、新たな視点を与えてくれる読み応え抜群の1冊といえるでしょう。
なお「はじめに」で書かれているように、本書は「大手企業がどのように事業をおこなっているかをつぶさに見ることを目的としているわけではなく、むしろ世界でもっとも貧しい労働者たちの暮らしがどんなものかを垣間見せる事例のコレクション」(p. 13より引用)です。
本書で、倫理的なビジネスの裏側にいる絶対的な貧しさにあえぐ労働者の姿を読むと「これでいいのか?」と心が揺さぶられるはず。ぜひ一度チェックしてみてください。
最後にフェアトレードがどのようにして誕生したのか、その歴史に迫ります。
- 著者
- コナー・ウッドマン
- 出版日
- 2013-08-20
1946年、NGOでボランティアしていた女性がカリブ海に浮かぶ島・プエルトリコで働く女性たちの刺繍製品を買い取り、身近な人たちに販売しました。ここから、フェアトレードの歴史が始まったのだといいます。その初期段階においては、貧困にあえぐ生産者たちを救う慈善活動としての色合いが濃厚でした。
1960年代に入ると、貧困から抜け出して自立を促すような開発志向の側面が強まります。この時代には、従来とは別の貿易のしくみを作ろうということで「オルタナティブ・トレード」という言葉が使われていました。
ところが1980年代末、不況と各団体自体の課題であった品質の壁にぶつかり、フェアトレード市場の売り上げが低迷します。そこで《従来のカスタマー》=《商品の品質にはこだわりを持たない倫理的な消費者》を越えて、《新たなカスタマー》=《高い品質を求める傾向にある一般消費者》にも商品を届ける必要性が出てきたというワケです。
かくして、それぞれのフェアトレード団体でビジネス志向の動きが強くなりました。またこの変化は、別の貿易のしくみを作ることを意図していた「オルタナティブ・トレード」から、すでにあるしくみを「フェア」なものへと変えていこうとする「フェアトレード」という呼び方の変化からも、うかがえます。
以下の項目では、歴史を読み解ける本をご紹介します。
『フェアトレードを学ぶ人のために』の第1部第2章では、4段階で歴史展開が明らかにされます。以下に整理してみましょう。
①新規参入促進型(1946年〜)
既存の貿易システムから取り残された発展途上国の生産者を貿易に取り込むことによって、収入の機会を提供していくことを目指しました。
②取引条件改良型(1973年〜)
貿易に参加してはいるのものの、不利な取引条件を強制されていた生産者に向けて、公正な取引条件の提供を目指しました。
③プロモーション・啓発型(1980年代後半〜)
持続可能なフェアトレードにしていくためには、それを扱う企業や購入する消費者を増やしていくことが必要でした。そのためフェアトレード団体は、先進国の企業や消費者に向けて、啓発活動・販売促進を強化させていったのです。
④マクロ貿易システム改良型(1990年代〜)
1995年に世界貿易機関が設立されて以降、自由貿易体制が急速に推進されます。また多国籍企業による発展途上国での労働搾取も表面化しました。これを受けて多くのフェアトレード団体が、国際機関や各国の政府に対して貿易システムの変革を行うよう政策提言もし始めます。
以上の4つの活動は、現在でも《並行》して進められています。またそれぞれのフェアトレード団体の考えやキャパシティによって、上記のすべての活動に関わったり、1つあるいは2つの活動だけに関わったりするなど、さまざまだそうです。
本書はタイトルにもあるように、学生などを含めた「フェアトレードを学ぶ人のために」ぴったりであるように思われます。「はじめに」にも書かれているように、フェアトレードの素晴らしさを伝えることに重点を置く本というよりは、客観性に優れた1冊だからです。
- 著者
- 出版日
- 2011-06-30
フェアトレードとは、《適正な価格での買い取り》《継続的な取り引き》《生産者の持続可能な生活改善と自立》がキーワードとなる貿易のしくみです。
また今回ご紹介した本からも明らかになったように、新規参入促進型(1946年〜)→取引条件改良型(1973年〜)→プロモーション・啓発型(1980年代後半〜)→マクロ貿易システム改良型(1990年代〜)という歴史を歩んできました。
メリットとしては、環境や身体に優しいだけではなく、安心感や高品質な商品といったことがありました。一方で商品価格が高かったり、認証制度の限界も問題点として指摘されています。
生産者を搾取しない真にフェアな貿易を目指すためには、社会や消費者は何ができるのかーーそんなことを考えるきっかけになってくれたなら嬉しいと思います。