2015年にドラマ化もされた人気料理漫画『食の軍師』。劇画調の絵で、壮大でくだらない戦いを描いた作品です。今回はそんな本作の魅力をご紹介!ネタバレを含みますのでご注意ください。
『食の軍師』は1話完結型のグルメ漫画です。料理を作るわけではなく、基本的には外で食事をとる男を描いた作品になっています。
『美味しんぼ』や『孤独のグルメ』など有名なグルメ漫画はたくさんありますが、本作の魅力は一味違った作風にあります。しっかりとした劇画調の絵に対して、とてもくだらないその内容が何とも面白いです。グルメ通を目指している主人公が、どの料理をどんな順番で注文すれば良いか、頭を悩ませている姿は思わずにやにやしてしまいます。
主要登場人物は主人公の本郷とライバルの力石のみ。グルメ漫画とギャグ漫画のような要素を兼ね備えた本作を、登場人物やエピソードと一緒に紹介します!
- 著者
- 泉 昌之
- 出版日
- 2011-01-08
本作の主人公、本郷播(ほんごうばん)は中年のサラリーマン。常にトレンチコートと帽子を身につけており、基本的にはそれらを身につけたまま食事をとります。それは彼のポリシーであり、店の人に注意されない限りはそのスタイルを崩すことはありません。
漫画『食の軍師』のほとんどは、本郷の食事シーンです。彼は自らの食事スタイルに強いこだわりを持っており、自分と周りの客の注文した品や順番などを比較し、楽しんでいます。周りからみてかっこいい食事をとることが彼の目標であり、様々な店に足を運び、あらゆる食べ合わせや注文を試す毎日です。
本郷は三国志を愛しており、食べ方を三国志の戦術やキャラクターになぞらえることが多く、タイトルである『食の軍師』の軍師は、本郷の頭の中に住み、食べ方について助言をしてくれる人のことを指しています。三国志が好きな方にとっては、にやにやしてしまうようなネタが多くあることでしょう。
人と食べ方を比べ、頭を抱えては食事スタイルを改善し続ける本郷。必死な彼の姿に笑いが止まりません。読者に常に笑いを届ける、とても魅力的なキャラクターです。
- 著者
- 泉 昌之
- 出版日
- 2012-10-31
どの店に行っても必ずといっていいほどいる男が、この力石。本郷に比べると比較的若く、常にパーカー姿のラフな格好をしています。
本郷の先をいった食事スタイルをしているため、一方的にライバル視されてはいるものの、彼を意識している様子は全まったくなく、純粋に食事を楽しむ力石。全まったく意識をしてないことは、本郷のライバル意識を駆り立てている要因の1つかもしれません。
また、1巻の後半からは、あまりにも本郷と遭遇することが多いため、食事の席をともにすることも多くなりました。食事相手を気遣うことや、店長と打ち解けていることが多いことから、純粋にいい人であることが分かります。
真っ直ぐな人で、食事に対しても難しいことは考えず、自分なりの楽しみかたをしていることが多い力石。あまりにも愚直な本郷に比べ、食に対して純粋な彼の姿はとてもかっこいいです。
大人の男になったらかっこよくひやかして帰りたいおでん屋台。最近では見ることが少なくなりましたが、会社帰り、飲み帰りに最適な道草場所です。
昼食をサンドイッチだけにおさえ、おでんで一杯やろうと考えていた本郷。向かった先のおでん屋で、たまたま居合わせたパーカーのフードをかぶっていた男のワンカップの飲み方のかっこよさに敵対心を燃やします。
そして彼が大根、こんにゃく、ごぼう天を頼むのを見て「こやつ……デキル!!」と相手のレベルを見定めるのです。
おでん界で試金石と言われる大根に、歯ごたえの良いこんにゃく、練り物とごぼうの味で店の実力を知ることができるごぼう天という最高のラインナップ。本郷は彼を見てこう意気込みます。
「おでん者として負けられん!!」
そんな通称があったことに驚きですが、彼の瞳は真剣そのもの。野暮なツッコミはなしというものです。それに対して「白三形の陣」で戦う本郷。彼もなかなかいい手を打ってきます。
出典:『食の軍師』1巻
初戦は互いに引き分けと終わったところでおでんの陣、第2戦目!要するに2回目の注文です。こう言ってしまうと元も子もないですが。
そこから戦いはさらなる波乱の展開を迎えて……。
- 著者
- 泉 昌之
- 出版日
- 2013-10-28
今日の本郷は雑誌取材お断りのもつ焼の名店「カッパ淵」にやってきました。角席がとれたことで気分上々の彼ですが、その横におでん屋で死闘を繰り広げたフード男がやってくるのです。
椅子に腰を下ろしながら、フードを脱ぎつつ注文して着席するという、流れるような所作を魅せつけられ、本郷はまたしても先手をきられてしまいます。
しかしそこは「もつ焼者として負けられん」本郷。「〜者」は何でもありなのかよというツッコミを読者にさせないままに勢いよく自信たっぷりの注文をするのです。
豚のレバーを醤油で頼むというが通な頼み方をしたと満足気にする本郷の横で、フード男も負けていません。
出典:『食の軍師』1巻
宮本武蔵の面影を見るほどすごい注文かどうかは理解不能。共感もできません。しかし負けてばかりいられないと意気込み、そんな置いてけぼりの読者から更に距離を離していく暴走男・本郷。
彼はカシラ、ネギ間、タンを、関羽、劉備、張飛に見立て、秘技「桃園の誓いの陣」を結ぶのです。それぞれの美味しさを堪能し、見事な陣形だと自画自賛する本郷は自らを孔明と重ね、うっとり……。
意味不明、そして異様な盛り上がりをひとり見せる本郷。彼の食へのこだわり、戦型はまるで異星のもののようです。暴走しすぎています。
しかしひとり満足気にする本郷を見て、フード男は驚きのハレンチな陣形で攻めてきて……。
- 著者
- 泉 昌之
- 出版日
- 2015-03-28
日本料理でも特に料理人との阿吽の呼吸や暗黙のルールに足をとられやすいのが寿司。本郷は初めての寿司屋に入るのですが、天気が悪いということもあって客は彼ひとりでした。
驚きつつも席についておしぼりで顔をふくと、店主に帽子とコートを脱いでいないことを注意されてしまいます。序盤から「寿司を食う」立場から「寿司を食べさせていただく」という上下関係になってしまったことに懸念を抱く本郷。考えすぎではないでしょうか。
しかし、勝負はここからと自らを奮い立たせます。まず最初の難関は1貫め。何から食べるか、そしてどんな順番で食べるかが実力の見せ所なのです。
いきなり大トロなんて田舎侍のような真似はダメだし、イカというのはテンプレートで逆に恥ずかしいし、カッパはへりくだりすぎな感じがするし……と考えあぐね、本郷が頼んだのは握りの松。本郷、いさぎよく店主に判断をまかせたーー!!
しかしそれは大正解。食べるネタ全てが美味く、本郷の心の中は花火が打ち上がったり、美味しさにボクサーさながらにノックアウトされたりと大忙しです。
しかしそんなお楽しみの時間に現れたのがいつも通りのアイツ、フード男です。もはや運命の相手なのではないかと思えるほどに何度も出会うふたり。もう最初から一緒に店をまわればいいのにと思ってしまいます。
そしていつも通りこなれた様子で本郷をノックアウト。
出典:『食の軍師』1巻
聞きたくないのに入ってくる店主とフード男の会話に心がズタズタの本郷はもう寿司の味などよく分かりません。どうにかかっこよく注文して起死回生を狙いたいという気持ちでいっぱいの彼はネタを味わうこともなく次々と口に放り込んでいきます。
両ほほをいっぱいに膨らましながら本郷が起死回生の一発として注文したネタとは……!?
- 著者
- 泉 昌之
- 出版日
- 2016-03-28
大人の男のひとり飯の静かな戦いを描いた『食の軍師』。心の中のドタバタ具合とフード男の我関せずな対比に表れる本郷の独り相撲感に笑えてしまう作品です。
しかし笑えつつも、男には自分で決めた負けられない戦いというものがあるとも考えさせられもします。
くだらないことに全力をそそぐある種の「男らしさ」に熱くなること間違いなしです。