今、90歳を超えて現役で活躍する女性が注目されています。2017年に99歳を迎えた家事評論家・吉沢久子は、日々の暮らしについてペンをとる傍ら、老いについて語り下ろした著作を次々発表している1人。そこには老いに向き合うヒントが満載です。
1918年、大正生まれで100歳を目前にしている吉沢久子は、長年にわたって「家事評論家」として食生活や日々の暮らしについて執筆を続けてきました。古くから日本に伝わる食文化や生活習慣を、ほどよく暮らしに取り入れつつ、世の中の変化、逆に変化しないものについて綴る優しい筆致に、長年のファンも少なくありません。
そんな吉沢久子が近年、自らのシニアライフについての語り下ろしを世に出しはじめたことで、今あらためて注目を浴びています。90代にして一人暮らしを楽しむ姿や、日々の食事や掃除、洗濯を自分なりにこなす様子を紹介したのです。
老いは悲しみなげくことではなく、生きていれば自然に訪れる当たり前のこと。老いてみなければわからない楽しみがある。そうした姿勢で生きる吉沢久子の姿は、とくに老年世代を中心に大きな驚きと共感を集めています。
そこで、近年の著作から選りすぐりのものピックアップしてみました。
吉沢久子の人生は波乱と無縁だったわけでは決してありません。幼くして両親は離婚し、15歳で仕事に就き、婚約者を戦争で亡くし、夫となった人は気難しかった……。姑の介護も経験しています。
つらいことのない人生などありません。楽しいばかりで生きていくことはできません。でも私たちは、自分が幸せに生きていくのか、不幸に生きていくのかを、選ぶことはできます。
人は人、自分は自分。くよくよするより笑って切り替える。「ご機嫌に生きるヒント」が満載の一冊です。
- 著者
- 吉沢 久子
- 出版日
- 2017-02-08
「しかめっ面で過ごしても人生、笑っても人生。だったら、笑って過ごしたほうがいい。」
(『さっぱりと欲ばらず』から引用)
幸せを選ぶのなら、つらいことなど忘れてしまえばいいのです。よかったこと、うれしかったことだけ、いつまでも覚えておくことができたら、ふりかえった人生には自分を笑顔にする宝物ばかりであふれます。
でも、「忘れる」ためには練習が必要です。日々の感じ方、受け流し方、考え方にちょっとした工夫がいるのです。この本は、その「忘れ方」を自分の人生に起こった出来事の中から見つけ出し、私たちに教えてくれます。
世の中は、人が老いていくことをいつもマイナスに捉えるものです。女優が年相応に肌のハリを失えば「老けた」と騒ぐ若者たちがいます。しかし、その若者たちも、30年、40年経てば、必ず顔にしわがより、足腰を悪くするのです。以前はあっという間に開けられたビンのフタが開けられなくなったり、ある日突然、重い物が持てなくなったりするのです。
老いは自然なこと。誰の身にも起こるあたりまえのこと。だからこそ、老いを受け止め、さらに、たくましくしなやかに毎日を過ごすことが大切なのだというメッセージがこもった一冊です。
- 著者
- 吉沢 久子
- 出版日
- 2016-01-21
老いは当たり前のこと、死もまた当たり前のこと。そして、老いてみなければ知り得ないこと、気づけないことが、この世にはいくつもあります。本書は、老いを厭う人たちに、老いの楽しみ方を垣間見せてくれるのです。
その一方で、本書は「自立して生きる」ことの大切さも伝えています。歳のせいにして子どもや親戚をこき使う老人がいますよね。それで楽ができたとしても、本人は幸せなのでしょうか。
プロ野球選手であっても練習しなければ腕がなまるように、人はできることもやり続けなければ、やがてできなくなります。1度人に頼れば、もう自分ではできなくなるかもしれないのです。だからこそ、「自分のことはできるだけ自分でやる」ことを著者は常に心がけているといいます。
本書は、老いへの不安を和らげてくれる一方で、老いてなお日々を自分らしく生きていくための戒めにもなるでしょう。
結婚は幸せの象徴である一方、昔の女性は、夫に傅き、夫の都合に合わせて生活をすることを求められました。「飯」と言われれば食事を用意し、「風呂」と言われれば風呂を炊く。自由になる時間などなかったものです。
吉沢久子は、介護していた姑を亡くし、その後夫に先立たれたとき60代でした。その歳から実に30年以上の月日を一人暮らしで自立した生活を過ごしています。
100歳近くの吉沢久子が、老いてなお自立した生き方を実現するための考え方や自身の経験を紹介した一冊です。
- 著者
- 吉沢 久子
- 出版日
- 2015-01-23
著者は1人になったとき、悲嘆にくれるどころか、1人で暮らせることを喜んだそうです。疲れれば誰の目も気にせず横になれるし、食欲がなければ食事を作らなくても構わない。すべてにおいて自由に生活できる喜びが、寂しさに勝ったのです。
それも孤独の1つの受け止め方であり、新しい受け止め方でしょう。寂しさに涙する前に、目の前にある自由を楽しまなくてはもったいない。本書からは、「独り」を楽しむためのヒントをたくさんもらえます。
いくつになっても「自分の足」で立つ、自分なりの「価値観」を持つことが大切だということを、本書から感じとってみてください。
夏の太陽の下で花開くどくだみ、秋の訪れを知らせるみずひき、友人がくれたキツネずし、庭のかめで泳ぐめだか、春の根みつば。本書を開けば、とたんに「和」の世界が押し寄せてきます。
庭に咲く草木や、店に並ぶ野菜、人との関わりの中から、著者は四季の香りをかぎとり、旬の味を楽しみ、ときに失われた日本の姿に思いを馳せながら、ペンを走らせるのです。
老いてこそなお、きげんよく、季節をおいしく、自分らしく生きるコツが満載の一冊。
- 著者
- 吉沢 久子
- 出版日
- 2015-02-16
1999年に刊行された書籍を再編集した本書ですが、古いと感じられる部分は1つもないでしょう。なぜなら、吉沢久子はいつの時代も変わらず、今を楽しみ、四季を愛でて、生活しているからです。
本書には、どこか懐かしい日本の「家」の風景が、やさしい筆致によって描かれています。しかも、「食べることが生きがい」という著者だけあって、登場する料理の数々の美味しそうなことといったらありません。日本に生きるということを再確認し、豊かに生きる知恵をいっぱい学び、無性にお腹がすいてくる一冊です。
90代まで入院経験が一度もない人はそういないでしょう。しかし本書は、吉沢久子が97歳にして初めて入院することになるという、驚きのエピソードではじまります。
著者の文章には、老いや病いが我が身に迫ってくることへの、不安や焦りなど見当たりません。手術をしますかと医者に尋ねられると、「いまさら、しません」とあっけらかんとしたものです。
いま大切にしていること、気をつけていること、そして、日々のたのしみ方を語る、何事も自然体が一番だと教えてくれる一冊。
- 著者
- 吉沢 久子
- 出版日
- 2016-09-07
「休まずに使ってきたからだですから、ある日突然壊れたっておかしくないわけです。無理して長く生きたいとは思いません。」
(『人はいくつになっても生きようがある。 ―老いも病いも自然まかせがいい』から引用)
それが著者の素直な気持ちだといいます。ここから綴られる、体の衰えや病いに向き合う姿は、実に淡々としたものです。どこまでも前向きな著者の姿に、尊敬の念が止みません。
あるがままを受け入れ、できることをできる限りでやる。良くなれば喜び、悪くなればそういうものと受け止める。それが人として無理のない生き方ではないかと、本書は私たちに問いかけてきます。
御年99歳でありながら現役として第一線で活躍を続ける吉沢久子の、おすすめの作品をご紹介しました。長年、生活エッセイを著してきた著者が、その生き方、考え方について、より観念的な部分を明らかにした著作ばかりです。老いへの不安を感じはじめた50代、60代以降の方に特におすすめです。ぜひ一度手にとってみてください。