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米原万里のおすすめ作品5選!ロシア語の同時通訳も務めた作家

更新:2017.6.9 作成:2017.6.9

ロシアの要人や世界的プロジェクトでの同時通訳で名をはせた米原万里。作家としてもその経験から生み出した傑作を数々残しています。今回は米原万里の人柄や環境を色濃く感じることのできる5冊をご紹介します。

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ロシアと日本の仲介者、米原万里

米原万里は日本のノンフィクション作家であり、翻訳家です。幼少期に家族の仕事の都合でチェコスロバキアに渡り、そこのソビエト学校に通った米原は、帰国後もロシア語の勉強に励みます。

学んだロシア語を活かし、その後は翻訳活動を始めました。エリツィン大統領の傍らでの通訳や、宇宙プロジェクトでの翻訳グループリーダーなど、高い語学力を活かして活躍の場を広げます。

同時に、自身の生い立ちに関わるエッセイや文学作品も発表しました。雑誌への連載も複数持ち、作家としての高い評価を得てきました。

癌の転移により、2006年に亡くなります。ロシアの歴史を日本に伝える第一人者として活躍した生涯となりました。

3人の少女の消息が歴史を語る『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』

『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』は幼少時代に米原と級友だったギリシア人、ルーマニア人、ボスニアのボシュニャク人の少女たちの消息を追った短編集です。

ギリシャ人で故郷の青空が自慢だったリッツァ。父が「プラハの春」でソビエト介入に反したため、家族共々プラハを追われることになります。(リッツァの夢見た青空)

父親が政府要人だったルーマニア人のアーニャは、家庭の環境と民族文化のしがらみから虚言癖を患います。イギリスに移住し、ロシア語を忘れた彼女はその後幸せに暮らせているのでしょうか。(嘘つきアーニャの真っ赤な真実)

優秀で美人、美術の才能が長けていたユーゴスラビア人のヤスミンカは、ユーゴスラビア内戦に巻き込まれてしまいます。(白い都のヤスミンカ)
著者
米原 万里
出版日
2004-06-25
『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞しました。あえてシンプルに表現した作風の中にも登場人物が色濃く描かれており、その表現力は審査員をはじめ多くの書評家から高い評価を受けています。

3編それぞれのタイトルに入った赤・白・青の3色は、フランス国旗を構成する3色でもありますが、元々スラヴ民族を象徴する色。離れ離れになり、故郷を失った3人の少女を描くことにより、スラヴ民族の統合を目指す思想を表しているとも言われています。

それぞれは短編ですが、登場人物にはゆるやかな繋がりがあります。米原万里は、彼女たちの仲介者としてその記録を鮮明に描き、歴史の現実を見事に描きました。

物語でありながら史実を読む感覚の長編小説『オリガ・モリソヴナの反語法』

舞踊教師オリガ・モリソヴナは、高齢であるにもかかわらず衰えない、天才的なダンサーです。ソビエトの学校に入学した志摩は、小学生ながらこの才能にほれ込みます。

しかし、オリガ・モリソヴナは一筋縄ではいかない女性でした。指導力はあるのですが、彼女が指導の際に使う表現は反語や独特の罵り言葉。

出来が悪いと激しく罵倒される彼女の指導の下、志摩はダンサーを夢見ますが、やがて挫折してしまいます。時を経て志摩は1992年ソ連崩壊直後のモスクワで、 オリガとの再会のため、オリガ探しの旅を始めるのでした。
著者
米原 万里
出版日
2005-10-20
『オリガ・モリソヴナの反語法』は、Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞しました。フィクション小説ですが、ソビエト革命やシベリアでの生活など、ロシアの文化や歴史を紐解く史実が多く描かれています。

どんな状況に置かれても美しくエネルギッシュなオリガは、女性像として憧れる存在です。一方、彼女の周囲にあるロシアの激動の歴史は、小説として読むにはあまりにも壮大で、胸が苦しくなるものも。

知らなかった現実を、物語を通じて知ることのできる、学びのある一冊です。

米原万里のエネルギッシュな表現が楽しい書評集『打ちのめされるようなすごい本』

米原万里は大の読書家です。1日に7冊、20年間読み続けたとも言われる彼女の読書量は凄まじいものでした。そんな彼女が選りすぐりの本について語る『打ちのめされるようなすごい本』は、内容の濃い書評集です。

「一度読み出したら読み終えるまで寝食などどうでもよくなる」と本人が語る『きみの出番だ、同志モーゼル』(スコリャーチン著)などの有名作品はもちろん、「発声器官が笑い魔に乗っ取られていてちゃんと読めない」などの生き生きとした笑いが伝わる『趣味は読書。』(斎藤美奈子著)など、幅広い本に対する書評がテーマ別に掲載されています。
著者
米原 万里
出版日
2009-05-08
本書は、米原万里の本への愛が伝わる1冊です。彼女の評価はストレートで、表現に嘘がありません。時に褒め、時にぴしりと刺すような言葉を本に対して投げかける彼女は、まるで本の中で生きているようです。

2009年に発売された本作は、2000年代の米原が見た社会を本を通じて描かれている部分も多く、社会論としても価値のある文献と言えるでしょう。特に、スラヴ民族に関わる書評はなかなか米原でなくては見出せないようなラインナップなので、民族史に興味のある人にもおすすめできる書評集です。

米原万里の目が切り取った文化を感じるエッセイ集『心臓に毛が生えている理由』

『心臓に毛が生えている理由』は、米原の考えや経験が活きるエッセイ集です。

エッセイのテーマは、日本の文化を他国との差異で描くこと。日々暮らしている中では気が付けない日本文化について考える機会をくれるエッセイや、逆に他国の文化を紹介することで日本の現状を省みることのできるエッセイが満載です。

日本の文化の集大成と言われる茶道。その家元がロシア要人に招待された際に米原万里が見た、意外な一面とは……?(わたしの茶道&華道修業)

日本人は「カワイイ」が合言葉であるように、ロシアは「素晴らしい」が合言葉。いつでも気軽に言える賞賛の言葉から見る、文化の違いを描きます。(素晴らしい!)
著者
米原 万里
出版日
2011-04-23
新聞や雑誌に掲載されたものを多く含み、手軽に読める文章量のエッセイで構成されています。日ごろのちょっとした休憩時間に読んでは、くすりと笑えるような読み方ができますね。

米原本人の魅力でもある率直な物言いと、鋭い観察眼の光るテーマの切り出し方がとても面白い一冊です。人として彼女がとても素敵な人物だ、と身近に感じることのできる語り口調に引き込まれます。特に、翻訳家としての彼女の仕事術を描いたエッセイは尊敬できるでしょう。

普段は考えない、気付いていない部分に光をあてる『心臓に毛が生えている理由』は、米原万里という人生の先輩の頭の中を覗き見るようなエッセイ集です。

動物への愛が詰まった米原万里のエッセイ集『ヒトのオスは飼わないの?』

とても印象的なタイトルの『ヒトのオスは飼わないの?』は、彼女と動物たちの日々を綴ったエッセイ集です。

猫や犬を「毛深い家族」と呼んで人のように愛する米原。猫4匹、犬2匹と戯れながら過ごす風景は、平和そのもの。いつもは鋭い言葉の米原も、犬や猫にかかるとふにゃりと力が抜けるような一面が可愛らしいです。

タイトルの由来は、恩師に言われた「ネコイヌもいいけれどねえ、君、そんなことより、早くヒトのオスを飼いなさい、ヒトのオスを!!」という名言だそうです。
著者
米原 万里
出版日
2005-06-10
タイトルで誤解される方も多いのですが、ヒトのオスに関する話はほとんど出てきません。全編動物への愛で構成されています。

長編小説やノンフィクション小説で評価された高い表現力や、エッセイで光らせる観察眼の全てが、犬や猫に注がれた大変贅沢な一冊です。

今までの米原万里の作品とは全く違った一冊ですが、やはり米原の文章であると唸らせるものがあります。中には涙を誘うものもあり、豊かな感情を与えてくれる物語としても読めるでしょう。

いかがでしたか。米原万里の作品は、そのほとんどが社会と紐づいています。学びが広がる、知見をくれる米原の作品にぜひ触れてみてくださいね。