発刊する小説が高確率でドラマ化することで有名な女流作家唯川恵の話題作『セシルのもくろみ』。女性には非常に共感を得ている一方、男性はわりとトラウマとなりやすいようです。今回は理由を解説していきます!ネタバレを含むのでご注意ください。
都内の高層マンションに住む主人公宮地奈央(38)は大手自動車メーカーのエンジニアの夫(41)と、剣道に夢中の息子(13)の3人で裕福な暮らしをしていました。ある日、同級生が送った読者モデルのオーディションのエントリーシートに自分も含まれており、たくさんの人間の中からみごと選ばれ、読んだこともない雑誌の読者モデルをやることに。
最初は戸惑いながらも徐々に「美しさ」をみがく喜びを知る奈央。しだいに、誰にも負けたくない、という強い衝動に駆られていき、女同士の泥沼の争いに自ら足を踏み入れていくのです。
- 著者
- 唯川 恵
- 出版日
- 2013-04-11
さて、読むと男性がトラウマになるというのはどういうことでしょうか。そのまえにあらすじをかんたんにご紹介していきます。
宮地奈央は夫と息子と家族3人で裕福でゆとりのある生活をしていました。もともとファッションにはあまり興味はなく、どちらかといえばおっとりしたタイプの女性だったのですが、なんの因果か、同級生が勝手に応募したファッション雑誌「ヴァニティ」の読者モデルのオーディションに見事合格してしまうのです。
最初は戸惑いながらも読者モデルを務めていく奈央。しかしある日、「ヴァニティ」のトップ読者モデルが突然降板してしまいます。急遽空いたトップモデルの席につぎは誰つくのか。そこから女性たちの熾烈な競争がはじまるのです。
ここでまず男性が女性不信になってしまうポイントがあります。モデルの世界に足を踏み入れた奈央が直面する、女同士の派閥争いですね。例えば、さっきまで笑顔で会話していたのにいなくなると急に悪口を言い出すとか、あからさまな無視をグループで行うなど、男性にはなかなか重いです。女性特有の、プライベートを深く掘り下げてアラを探すみたいな行為が非常にえげつない。しかもこの辺の描写はかなりリアルです。
女性というのはそもそも社会的な所属を大事にする生き物であり、無用なあらそいを避けるために感情を隠すのが非常にうまいとされています。しかし同時に負の感情を溜め込むと男性よりも精神的に追い詰められて爆発しやすい、という脆く不安定な一面もあります。
最初は謙虚で、まさに良妻賢母といった雰囲気の奈央が、徐々に闘争心むき出しになっていく様子も、男性からすると女性の二面性を垣間見たようで怖く感じるかもしれません。けれどもこのあたりは、女性の社会進出という強いテーマを表しているようにも見えますし、なにより戦う女性としてかっこよく見えます。環境による考え方の変化を「成長」と見るか、「多重人格」として見るかは読む人それぞれだと思いますね。
さらにすこしネタバレを含みますが、献身的に支えてくれる夫を奈央は裏切るんですよね。夫はどんどんきれいになっていく奈央をとても誇りに思っており、すこしも疑うことをしません。むしろモデルの世界で戦っていく彼女を日々応援するというすばらしい夫です。
奈央はその夫に内緒で雑誌の編集者と関係を持ってしまい、そのことは最後までバレることなく物語は終わってしまいます。「秘密があってもいっしょにいたいと思えるのが家族」という言葉は、男性読者にはどこか引っかかりを残す冷たい余韻を残します。これが女性不信になるといわれる原因ですね。
それ以外にもまだまだ男性がトラウマになる要因がたくさんあるので、この作品を読むときは「この人(奈央)の話」として読むことをオススメします。けっして世の女性たちがみんなこのような考えであるとは思わないようにしましょう。
『セシルのもくろみ』は、一見ドロドロとしたところにスポットが当たりがちですが、単純に読み物としても非常に読みやすくおもしろいストーリー展開になっています。唯川恵の著書のなかでは比較的入口が広い、世界観に入って行きやすい作品といえるでしょう。