平安時代は、雅やかで華やかな時代。憧れを抱く人も多いでしょう。反面、政権争いが激化したこともあり、意外と内面はドロドロしているところもあります。ここでは、平安時代を題材にした、恋愛漫画5作品をご紹介。勉強にもなり、手軽に楽しめる物語ばかりです。
昨今、晩婚化が進んでいると言われていますが、平安時代では赤ん坊のころから許嫁がいた、10代の初めには婚姻していた、なんて例は珍しくありませんでした。10代半ばを過ぎると、行き遅れ認定され、肩身の狭い思いをした女性も少なくありません。
しかし、女性は絶対に結婚するべし、という平安時代において、自らの意志で結婚を拒んでいた女性がいました。それが『なんて素敵にジャパネスク』の主人公の瑠璃、摂関家として有名な藤原家の流れを汲む姫君です。内大臣という、政治的にも重要な役職を持つ父親を持っています。
- 著者
- 山内 直実
- 出版日
明朗で活発、聡明な頭脳を持つ瑠璃は、内大臣家の姫君ながら、独身主義を貫く少女。母親を早くに亡くし、その喪が明けぬうちから再婚した父に幻滅し、結婚に夢を見なくなりました。そんな瑠璃ですが、幼少のころ吉野で出会った少年が忘れられず、実は初恋を拗らせています。
そんな瑠璃姫が、いよいよ望まぬ結婚をさせられる大ピンチが到来。そんな時、幼馴染である高彬(たかあきら)に助けられてから、物語は進み始めます。瑠璃は少々わがままですが、気が強く、身分関係なく切られる啖呵の爽快感は格別。女性の地位があまり高くない時代だからこそ、瑠璃の凛とした姿に勇気を貰うことができます。
本作は氷室冴子の小説を山内直実がコミックとして描いた作品です。モデルとなる人物や歴史の流れはありますが、基本的には氷室冴子のオリジナルストーリー。貴族文化や社会の仕組みなどを学ぶのに最適な、入門書的役割も担っています。瑠璃ははたして結婚するのか、幼馴染の高彬との関係はどうなるのか。政治的陰謀や、瑠璃の結婚問題など、心休まる時などない、ハラハラなストーリー展開が楽しい1冊です。
日本最古の長編小説と言われる「源氏物語」は、稀代のプレイボーイである光源氏の恋愛遍歴を描いた作品。様々な女生との恋に加え、政治的争いなども描かれています。とにかく女性にモテていた光源氏。そんな彼が特別な想いを寄せていた1人が、紫の上です。光源氏と紫の上、その恋が平安ではなく、現代で展開されたらどのようになっていたでしょうか。
そんな妄想をかなえてくれるのが、『月下の君』です。「源氏物語」が紫式部の創作ではなく、歴史の流れの中で、実際にあった事として記録されています。そんな歴史の流れをたどった現代に、前世は光源氏だという高校生葉月が誕生。前世の記憶と交わる、切ない恋物語が展開されます。
- 著者
- 嶋木 あこ
- 出版日
- 2002-08-23
成績優秀、容姿端麗と、非の打ち所のない国重葉月。非常にモテる葉月でしたが、どんな美女の告白でも断るなど、女性には少々つれない態度をとっています。そのせいか、女性嫌い、遊んでいるなど、様々な噂が。実際は、女性に触れてしまうと震えが止まらなくなるという特異体質を持っており、周囲に知られまいと、ひた隠しにしているのでした。
そんな葉月が、突然運命の相手とも思える人に出会います。それは、可愛らしい雰囲気の転校生の菊池舟。葉月は女性恐怖症でしたが、舟には惹かれるのでした。
舟に出会ってから、不思議な夢や現実が曖昧になるような瞬間がたびたび現れるようになります。実は、モテまくりの葉月は光源氏の生まれ変わりで、彼が想いを寄せる舟は、紫の上の生まれ変わりだったのです。
すれ違いが多く、悲恋となった前世が葉月と舟の恋に干渉し、現代と平安時代が混じり合う、不思議な世界観が本作の魅力。「源氏物語」を断片的に知ることができ、原典への更なる興味がかきたてられます。ギャグ展開や、くすっと笑える場面も多く、切ない恋の展開に、ふっと息を抜くことも出来ます。嶋木あこの美麗な絵で描かれる、雅で不思議な恋物語を堪能してください。
日本では、僧は比較的身近な存在。お墓を持っているご家庭ならば、お盆やお墓参りで顔を合わせる機会がある方も多いでしょう。多くの仏閣が存在する日本では、有名寺院は観光地ともなっており、御朱印や禅寺修行なども人気です。今では親しみやすい存在となっている僧ですが、長い歴史の中で、その役割を大きく変えてきました。
僧侶の役割は、仏の教えをもってして人々を導くことが第一。その他に、軍略や天文、和歌などの文学といった、あらゆる学問を修める学者、教養人としての一面も持っていました。平安末期から鎌倉初期にかけて活躍した僧、西行もその1人。武家出身で、和歌の才に優れた西行は、全国を放浪しながら多くの和歌を残しました。その西行の子孫で、現代を生きる高校生の少年が巻き込まれた、とある少女を巡る物語が『時忘の捨姫』です。
- 著者
- 出版日
- 2014-01-17
修学旅行で奈良に行った佐藤武清は、祖父の忘れ物を取りに行く、と真言密教の聖地である高野山へ向かいます。山中に入った武清は、大量の動物の骨を発見。そこで、一つの言葉を繰り返し呟く少女を見つけます。彼女は遠い先祖である西行が残したもの。西行が山奥に打ち捨てたと言われている、異形の存在でした。
西行は旅の途中、若くして身罷った少女の死体を哀れに思い、秘術でもって蘇らせ、時緒と名付けました。時緒は超人的な身体能力を持ち、ほぼ不老不死に近い身体を持っています。西行が戻るのをずっと洞の中で待っていた彼女は、武清が来たのを西行が自分を迎えに来たと勘違いをしてしまいました。
その後、武清に連れられ、時緒は現代での生活をはじめます。800年以上生きている時緒ですが、山で1人暮らしだったため、とてもピュア。子どものような真っ直ぐが可愛らしくもあり、時によっては恐ろしくもあります。
武清と時緒は様々な事件に巻き込まれますが、徐々に築いていく互いの絆で乗り越えていくのです。少しずつ言葉を覚え、感情を知っていく時緒の変化には特に注目して頂きたいところ。そして、彼女の大きな瞳には、引き込まれるような強い魅力があります。平安末期の日本の後輩も知ることができる伝奇ファンタジー作品、ほわっとしていてもとにかく強い時緒の魅力を堪能してください。
現代人はTwitterなどのSNSや、ブログなどで日々の考えや感じたことを、誰でも発信することができます。1000年も昔の平安時代では、もちろんそんな文明の利器はありません。人々は己の恋心や、日々の出来事で思ったこと、感じたことを、31文字で綴る短歌に託してきました。
「百人一首」は、平安末期から鎌倉初期にかけて活躍した藤原定家が、天皇や上皇の命によってつくった勅撰和歌集より選んだ歌集です。その名の通り100首が収録されていますが、詠み人の身分や立場は様々。歌からは平安時代を生きた人々の考えや、文化も読み解くことができますが、和歌に馴染がないと、なかなか理解は難しいものです。
- 著者
- 杉田 圭
- 出版日
- 2010-08-03
『超訳百人一首 うた恋い。』は、「百人一首」を外来語などを交え、分かりやすく現代語に訳した作品。詠み人を主人公に据え、歌が詠まれたときの状況や心理を描いています。「百人一首」には、実に43句もの恋の歌が収録されており、本作も恋の歌が中心。当時の文化とともに、いつ何時も変わらぬ、人々の複雑な恋心を知ることができます。
絶世の美女と伝わる小野小町(吉子)や、稀代のプレイボーイだった在原業平、第57代天皇である陽成院など、様々な詠み人が登場。31文字に込められた想いが、漫画で表現されていますが、意味がより伝わりやすくなったため、詠み人に感情移入しやすくなります。さらに、現代語訳したことで、元々の歌の日本語の美しさがより際立つところがポイント。背景を理解することで、より歌が身体に馴染むような感覚を味わうことができます。
誰しも「百人一首」に触れたことがあるとは思いますが、表面通りの言葉から得られるものは、あまり多くはありません。本作は和歌の奥深さと同時に、平安時代の人々の想いを現代人に伝えてくれます。季節の美しさを愛で、ままならない恋心に翻弄される、今も昔も人は変わらないもの。学び、共感し、変わらぬ人の心に少しだけほっとできる作品です。
日本最古の長編小説と言われる「源氏物語」は、稀代のプレイボーイ光源氏の恋愛遍歴を描いた作品です。作者は紫式部で、一条天皇の妻の1人である中宮・藤原彰子に仕えている時、この壮大な恋物語が作成されました。「源氏物語」には、執筆された当時の生活や文化が反映されており、物語に触れるだけで、より平安時代を知ることができます。
数多くの漫画家によって漫画化されてきた「源氏物語」ですが、より原作や執筆当時の文化に忠実に描かれているのが『あさきゆめみし』。学校の図書館などにも置かれ、教材としても優れていると、高く評価されている作品です。また、舞台や映画などの原作としても使用されており、幅広い年代から愛される作品となりました。
- 著者
- 大和 和紀
- 出版日
- 2008-04-25
「源氏物語」は、全54帖からなる物語ですが、本作はそのすべてを漫画化。しかし、光源氏の両親である桐壺帝と桐壺更衣との馴れ初めなど、原作にはないエピソードも描かれました。原作では1文で終わっているところにオリジナルエピソードを追加することで、物語により一層の厚みが生まれます。オリジナルエピソードは漫画としての面白さを追求した結果。本作は「源氏物語」を楽しく知ることができる創意工夫が、随所でなされていることを感じることも出来ます。
また、家財道具や衣装、生活様式なども平安時代の貴族の生活を細かく描写。漫画を読むだけで、当時人々がどのように暮らしていたのかを、知ることができます。数ある「源氏物語」漫画の中でも、その生活描写などの細かさは随一。「源氏物語」の登場人物たちが生きた世界を、よりリアルに感じることができます。
原典では悲恋なども多く、楽しい恋ばかりが描かれているわけではありません。本作では重くなりすぎないような工夫がされており、どこか爽やかで前向きな雰囲気が漂っています。光源氏と様々な女性たちの恋物語、雅やかな世界にどっぷりと浸れる作品です。
『あさきゆめみし』については<漫画『あさきゆめみし』の見所を13巻まで全巻ネタバレ紹介!>で詳しく紹介しています。ぜひご覧ください。
「むかし、おとこありけり」
古典の授業でおなじみの、このフレーズ。その向こうにどんな物語があったのか、もう一度読んでみませんか?
「おとこ」とは在原業平であるというのが通説ですが、作者独自の解釈で業平の恋多き一生をつづった作品になっています。
- 著者
- 木原 敏江
- 出版日
- 2011-10-19
読み継がれるうちにいろいろな物語が混ざってしまったとされている『伊勢物語』の中から、有名な「筒井筒」をはじめとした5つの物語を厳選。
それにしても業平の恋ときたら、冒頭から高貴な姫を盗み出し、幼なじみとも結ばれ、清浄であらねばならない伊勢神宮の斎宮にまで手を出してしまうという……、なんとも情熱的というか、うらやましいくらい自分に正直な生き方ですね。
平安時代は現代とは生活様式や恋愛観、社会的価値観も大きく異なります。しかし、恋心に翻弄されるところは、今も昔も変わりません。恋の切なさに共感しながら、学ぶことも出来る作品ばかり、息抜きにも、学問の入り口としてもおすすめです。
歴史、時代ものの恋愛漫画を紹介した<歴史、時代ものおすすめ恋愛漫画5選!日本の美しい恋物語>もおすすめです。。