教育学者、コメンテーター、文筆家と多くの顔を持つ齋藤孝。いつも笑顔で、見るからに優しげな彼の中で、常に一貫しているのは「日本語」へのこだわりでしょう。今回は、齋藤孝が言葉への造詣の深さを培った、彼の読書術・読書遍歴を紐解く本をご紹介します。
2017年現在、明治大学文学部教授である齋藤孝は、教育学者である傍ら、文筆家として数多くの著書を出版しています。テレビに顔を出すことも多く、世間に広く知られている教育者の一人でしょう。
そうした輝かしい経歴を持ちながらも、若いころは苦労人でした。齋藤孝は18歳で受験に失敗し、一浪して東大に入学後は裁判官を志したものの、司法試験にも失敗。その後、教育学へ興味を向けることになりました。
ただし、教育への道も順調ではなく、33歳で明治大学に席を置くまでは、妻と共働きをしながら家族4人なんとか生活していたのだそうです。
齋藤孝の名前を一躍有名にしたのは、ある一冊の本でした。そこから著者は「日本語ブーム」を巻き起こし、数々の著書を世に出していくことになります。中でも、言語や読書、学びに関する著作には、これまでにない新しい発想・手法を登場させ、世間を驚かせてきたのです。
そこで今回は、齋藤孝式の「読書」について学べる本をご紹介していきます。
日本語の響きというのは、海外の人にもやさしく耳障りよく聞こえるのだと言います。
齋藤孝の名を世に知らしめた『声に出して読みたい日本語』は、まさにその「日本語の響きの美しさ」を、改めてこの国に思い出させることになった、画期的な一冊でした。
- 著者
- 齋藤孝
- 出版日
- 2011-02-05
本の作りそのものは、とてもシンプルです。歌舞伎の文言、有名な古典や落語の一節、有名な童謡の歌詞、慣れ親しんだ早口言葉まで、数々の日本の「名文」が集められています。
本書が独特だったのは、齋藤孝がこれらの文の「暗誦・朗誦」を提案したことでした。文の意味を知ったり解釈したりしなくとも、声に出して読んでみれば、そのリズムの軽快さ、音の美しさ、テンポのよさが身に染み込んでいく。何度も読んでいれば、いつかその意味するところにハッと気づくときがくる。
それこそが文化の伝承であり、教育であると、著者はこの本で私たちに投げかけてきました。そして多くの日本人がこの本を手に取り、心惹かれ、声を出して読み、子どもたちに本書を紹介したのです。結果、250万部を売り上げる大ベストセラーとなりました。
「ここにとりあげたものは、日本語の宝石です。」
(『声に出して読みたい日本語』から引用)
美しい日本語を心ゆくまで味わいたいなら、本書ほどうってつけの本はないでしょう。
現代の若者の心は「浅い」。学生たちとの関わりや、世の中の動きからその事実に直面し、危機感を抱いた齋藤孝が、あらためて読書の重要性を説いたのが『読書のチカラ』です。
「読書しない人間は人にあらず」と明言するほど強い意志を持って、本を読まなくなった日本人たちに強く警鐘を鳴らしています。
- 著者
- 齋藤孝
- 出版日
- 2015-06-12
なぜ読書が思考を深めてくれるのか、どう読めばより自分を成長させられるのか、どんな本を読めばいいのか、なぜ読書が人生を変えてしまうのか。自身の読書歴の一部を辿りつつ、それを教えてくれるのです。
齋藤孝は世に存在する「本」に対して、「その深さ、表現力、洞察力などには明らかな優劣が存在する」と明言しています。読めば何でもいいわけではなく、水準の高い本を選ぶことが大切なのです。
とくに齋藤孝が薦めるのは古典を読むこと。「一体何を読めばいいのか?」と迷いそうな人はご安心ください。巻末に著者が推薦する300冊のリストが掲載され、その中には古典も含まれているので本選びの参考にできます。
これまでの自分の読書人生を振り返らずにはいられなくなるのと同時に、本書で紹介されている齋藤孝セレクトの良書の数々を、今すぐにでも読みたくなってしまう一冊です。
待ち合わせ場所に約束より15分早く着いてしまったら、あなたは何をするでしょう?スマホでニュースをチェックしたり、ゲームをしたりしますか?近くのコンビニに入って時間を潰したり、音楽を聞いたり、本屋で立ち読みする人もいるかもしれません。
齋藤孝は、空いた時間に喫茶店(カフェ)に入って作業をするようにすすめるのです。ただしパソコンを用いた作業ではなく、ノートとペンを持ってです。
- 著者
- 齋藤 孝
- 出版日
著者が意図するところは「15分もあるから」という意味ではなく、「たった15分」という短い時間でも、方法次第で限りなく有効に活用できるということ。本書はそのメソッドを教えてくれます。
喫茶店という場所は寛ぎの空間でありながら、人の目があるのでダラけることはできません。公共の場でありながら、お金を払うことで一人の空間を確保できます。その元をとるべく集中して物事に取り組めるわけです。
齋藤孝は本を買ったらすぐに喫茶店へ行くそうです。また、本を読んだり映画を見たりした感想をノートに書きつけるのも、喫茶店での15分間を利用するようすすめています。
家でリラックスして読書を楽しむのもいいですが、ときには喫茶店に腰を落ち着け、ちょっとだけ人目を気にして背すじを伸ばしつつ、本に没頭してみるのはいかがでしょうか。
「どうして勉強しなくちゃいけないの?」
お子さんにそんな疑問をぶつけられ、どんな言葉をかけたらいいのか困ってしまう親御さんも少なくないのではないでしょうか。
なぜ学びは必要なのか。この国は誰が動かしているのか。人とどう関わっていけばいいのか。自由とわがままはどう違うのか……。誰でも一度は、同じような疑問を胸に抱くでしょう。『こども「学問のすすめ」』はその疑問に答えをくれる一冊です。
- 著者
- 齋藤 孝
- 出版日
- 2011-11-01
「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」という冒頭は知っているけれど読んだことはない……。それが、福沢諭吉が著した『学問のすすめ』に対して大方の人が抱く印象でしょう。
幕末の動乱を経て、明治という新しい時代に歩を進めた時代に、福沢諭吉は国を大切に思う心を持つことの重要性や、新時代を生きる自分たちの心構えについて説きました。当時としては非常に読みやすい文章で書かれており、300万部にもなる大ベストセラーとなったのです。
しかし、現代人が読みこなすにはどうにも難しい。そこで、齋藤孝が子どもにも読みこなせるくらい簡単な文章に現代訳したのが『こども「学問のすすめ」』です。子どもたちの日常から例を挙げたり、有名スポーツ選手を取り上げたりと、読みやすい工夫がいたるところに施されています。
子ども向けではありますが、大人が読んでもたくさんの発見が得られ、自らの生き方について考えさせられる一冊です。あまり古典になじみがない人は、まず本書に目を通してみると俄然興味が湧いてくること請け合いです。
「孤独」という言葉にどのようなイメージを抱くでしょうか。寂しさ、悲しさ、心細さ、ひとりぼっち……。孤独を歓迎する人はあまりいないかもしれません。
しかし、齋藤孝はこう言います。
「孤独によってしか効率や生産性を高められないのが勉強や読書といった行為である」
「脳を真っ赤に燃え上がらせる知的活動のひとときは、誰もが持つべき孤独なのだ」
(『孤独のチカラ』から引用)
- 著者
- 齋藤 孝
- 出版日
- 2010-09-29
今でこそ笑顔でおだやかな佇まいが印象的な著者ですが、若いころはまったく違っていたのです。受験に失敗した18歳の頃から十数年間、本人をして「暗黒の十年」と言わしめるほどの孤独な時期を過ごしたのだといいます。
齋藤孝は必要以上に口を聞かず友達も少なく、殻にこもった青年時代を過ごしながらも、その孤独によって力を溜め、成長し、後の活躍へとつなげていったのです。そして力の源となったひとつが、孤独の中で本に没頭する時間でした。
孤独が冷たく寂しいものという印象が強いのは確かかもしれません。けれど、孤独の中で苦しむことでしか到達できない境地があるのだと、齋藤孝は自らの経験を元に断言しています。
まだ若く未熟であった著者がもがき成長する日々への興味深さもさることながら、彼が人生において影響を受けた古典や本や映画がいくつも紹介されており、活字の力、本の力が人生を変えていくさまを目の当たりにできる貴重な一冊です。
以上、齋藤孝の読書術、読書歴を知るのにびったりな5冊をご紹介しました。すべてを通して見えてくるのは、教育者としての著者の一面です。彼は本から多くのことを学び、教養を積み、それを糧にして、自らの人生を切り開きました。その経験があるからこそ、本を読むことの大切さを、様々な手法で訴え続けています。自分の読書歴と照らし合わせて読んでいけばさらにおもしろく読めますし、新しい発見が待っているでしょう。読書好きな方にこそぜひ読んでいただきたい著者の一人です。