橋本治は東京都出身の日本の小説家であり、評論家であり、随筆家です。その他にもイラストレーターとして活動したり、編み物にも才能を発揮しています。今回は多方面で活躍し、たくさんの著書の中から厳選してオススメの本6冊をご紹介します。
橋本治は1948年(昭和23年)3月25日に東京都杉並区で生まれました。大学在学中に印象的なキャッチコピー、「とめてくれるなおっかさん 背中の銀杏が泣いている 男東大どこへ行く」という東京大学駒場祭のポスターで注目を集めます。
そして1977年に出版した『桃尻娘』を皮切りに広い知識と独特な文章で作家として活躍しました。なお、それだけでなく編み物の本の出版や、1984年度のフジテレビのイメージキャラクターを務めるなど、多方面で成功を収めています。
下山忠市は少年時代を戦時中という厳しい環境のもとで過ごし、続く昭和期をただ真っ当に生きてきました。……いや、生きてきたはずでした。
いつしか下山は家族を失い、道を失い、周囲に非難の目を浴びせられながら1人ゴミ屋敷に住んでいます。そんな今に至るまでの過程が丁寧に書かれています。橋本治、初の純文学長編です。
- 著者
- 橋本 治
- 出版日
- 2012-01-28
この作品では下山が人生の紆余曲折を経て段々とゴミ屋敷の主人となっていく姿がリアリティを持って書かれています。ゴミ屋敷の主人となるまでの下山の精神状態を繊細に書き表しているのです。また、心理描写だけでなく、戦後の日本の農村社会から年社会への変貌も細やかに書かれています。
ゴミ、と聞いて何を想像しますか?あなたにとってのいらないものですか?それとも大多数の人間が「いらない」と判断したものでしょうか?
はたして、下山が「ゴミ」として敷地に集めている物たちが、あなたと同じゴミを指していると思いますか?この物語のラストで予想もしない展開があなたを待ち構えています。
帝国大学出身で官僚であるこの物語の主人公、砺波文三は3人の娘がいます。戦後に文三は公職追放されてしまいますが、復職を果たします。しかしそんな喜びもつかの間、妻ががんによって亡くなってしますのです。2人の姉は愛する人を見つけ順々に家を出ていく中、老父になってしまった父親と二人暮らしになってしまった三女も自分の幸せを探し始めますが……。
- 著者
- 橋本 治
- 出版日
- 2012-12-24
この小説の登場人物はシェイクスピアの「リア王」を模され、父親と娘の言い争いの部分などは少し演劇風に書かれています。彼らはそれぞれ自分なりの感情や理屈を持ち、一生懸命に人生を生きようとします。しかし、文三は頑張れば頑張るほど今まで築いてきたものの中身が空虚であったことに気づいてしまうのです。
話の構成には工夫が凝らしてあり、視点も父から娘、娘から父、と変わりますが、決して読みにくいということはありません。そしてこの構成と視点の方法をとることにより、娘や父親の僅かな心の動きを丁寧に汲み取り、細やかに表現する事が出来ています。
急速に変化する日本の中に生きる人々。時代の波に翻弄されながら、彼らは食卓で何を話していたのでしょうか?戦後小説の決定版です!
橋本治の初恋を基盤として、普遍的な恋愛哲学を展開した同著者の作品『恋愛論』を完全版として復活させたものとなっています。表題作の他に、有吉佐和子さんへの追悼文「誰が彼女を殺したか?」や、橋本治自身が執筆したマンガ「意味と無意味の大戦争」などを収録しています。
- 著者
- 橋本治
- 出版日
- 2014-07-10
「恋をする,恋が成立するっていうことで非常に重要な条件っていうのがあってサ,それは何かっていうと,お互いに矛盾してる二つのことなのね。一つは ”その二人が似てる” ってこと。もう一つは ”その二人が正反対だ” っていうこと。違うから惹かれる,同じだから分かる……言ってみれば簡単なことだけど,これはホントに重要。」(『恋愛論完全版』本文より引用)
橋本治はこの著書の中で、恋というものは存在しない、と言い切っています。彼は恋に落ちるのはモラトリアムであり全くの空白期間だといいます。そしてその空白とは自分が次の段階へと進むための緩衝剤である、と定義するのです。
上でも述べた通り、この作品は橋本治自身の恋愛体験を基盤として書かれており、彼の実存主義的な性格も感じられます。そこから読み取れるのは彼を形成する哲学であり、その実践でもあるのです。
上にも書いたようにこの本は知性について考察し、橋本治なりの解釈を書いたものになります。負けない力とはずばり、知性のことなのです。知性があるということはどういうことなのでしょうか?自分の必要とすることはなんなんでしょうか?彼独自は発想で私達を驚かせてくれます。
- 著者
- 橋本 治
- 出版日
- 2015-07-09
「知性というのは、【なんの役にも立たない】と思われているものの中から、【自分にとって必要なもの】を探し当てる能力」(『負けない力』本文より引用)
世の中には何かを教えようとするのが目的で作られた本が数多くあります。しかし時々「学んで欲しい」という気持ちで作られた本もあります。本書はこの後者に属する本です。この本は成熟した知性のあり方を教えてくれます。
人は古くなり不要になった知識を次々と新しい知識で上書き保存します。また、考え方自体も変えようとするときもあるでしょう。しかし知性とは、そういった時代の流れにただ流され染められるだけのことではありません。「自分の尊厳」を信じて自分にできることを探すのが知性なのです。
あなたにとって知性とはなんですか?この本を読んであなたも知性について学んでみてはいかがでしょうか。
題名の通り、平安時代に成立した紫式部の源氏物語の現代語訳です。通常の源氏物語は老婆が昔話をするように語られていますが、この本は光源氏を完全な主人公とする一人称で書かれています。題名にある「窯変」とは、陶磁器を焼く際、炎の具合や釉薬(うわぐすり)中の物質の関係で、予期しない(面白い)色や文様に変わること、という意味です。その名の通りみなさんの知っている源氏物語とは少し形を変えた新しい源氏物語となっています。
- 著者
- 橋本 治
- 出版日
- 1995-11-18
みなさんの頭に思い浮かぶ光源氏とはどのような人ですか?この物語で描かれている光源氏はきっと、誰も想像しないような光源氏になっています。だって、この物語の光源氏は、悪人なのです。
平気で男性女性関係なく人を馬鹿にするし、残酷で、冷酷で、傲慢で……。どうですか?みなさんの知ってる源氏物語とは違うでしょう。
しかしここで書かれている光源氏は、言わば人間の光源氏なのです。人間の醜いところも、そういった嫌な部分全てをたっぷり兼ね備えてる男性です。ただ一つ他の男性と違うのは、その人が他とは比べ物にならないほどの美貌を持っていたことでしょう。
人間味あふれる光源氏によって塗り替えられてく新しい源氏物語にあなたも是非触れてみて下さい。
母方の祖母の家で育てられた孝太郎は小学校に入学する年の春、母の美加に引き取られます。美加は18歳の時に20歳の男性と結婚し、その4か月後に孝太郎を出産しましたが、父の浮気が原因で離婚したため、孝太郎は祖母の家に預けられたのです。その間に再婚した母と共に暮らし始めた孝太郎は、新しい父から邪魔者扱いされるようになり、美加もそんな夫に反論する事なく従い、孝太郎を顧みなくなるのでした。
- 著者
- 橋本 治
- 出版日
- 2008-02-20
本作は、幼い少年から見た母の話から始まる6作の短編集です。
優しいけれどすぐに浮気する男と同棲する女、定年退職した夫に突然先立たれた妻、夫の両親と同居することになった妻など、どの話も世間にありがちな女の災難や不幸が描かれています。
ある話には主人公の今後の人生が良い方向に転換していくような余韻がありますが、ある話からは救いようのない未来が予想され、なぜその人は不幸になってしまったのかを考えると、決定的な瞬間が思い浮かばないのです。後に俯瞰して見れば当然の結果であることがわかりますが、ありがちな不幸に陥る要因は我々多くの人間が経験したり考えたりしている中に常に潜んでいて、わずかな糸口から綻びていく可能性は誰にでもあるのだということを教えてくれます。
ひらひらと飛んでいく頼りない蝶のような人々を描く橋本治の目は、一歩引いた観察者のようでありながら、観察対象への優しさも感じられます。ただ幸せに生きることの難しさを描いた、哀愁の漂う作品集です。
ここまで橋本治の6冊の本を見てきましたがいかがでしたか?いずれも彼が多方面で活躍しているからこそできた本だと言えます。いろんな能力に恵まれた人物、橋本治。そんな彼の世界にあなたも行ってみてはいかがでしょうか。