歌手、作詞家、作曲家――音楽を奏でる、ミュージシャンの書いた本
わたしは昔っから、憧れている人の書いた本を読むのが好きでした。例えば、ミュージシャンだったら、5分ばかりの曲から見え隠れする思想、人となり。こんな素敵な曲を書いたり歌ったりしているこの人は、いったい普段何を食べて、どんなことを考えているんだろうって気になってしょうがなかったから。それがエッセイでも詩集でも、はたまた小説でも、自分が憧れている人の文章を読むと、インタビューやTVなどで話しているのを見たり聞いたりするよりもちょっとだけ深く、その人を知れたような気になるのが嬉しかったのです。というわで今回は、そんな歌手、作詞家、作曲家など、ミュージシャンの書いた本を5冊ご紹介します。

蒼い時

著者
山口 百恵
出版日
1981-04-20
歌手、山口百恵さんが21歳の引退直前に出された自伝的な本。生い立ち、歌手としてのお仕事、恋愛などについて聡明な文章で綴られています。伝説のように語り継がれる百恵ちゃんの、格好良いだけではない、生身の人間らしさを感じる事ができます。その一つひとつに、時代は違えど、特に女の人は、共感する部分がきっとあるんじゃないかと思いました。

リアルタイムで百恵ちゃんの活動を観れていた訳ではない年代にとっては特に、このような本の存在って貴重だなぁと思うのです。雑誌やTVのインタビューは時間とともに紛れて簡単に目がつくところには無くなっていってしまうけれど、本はもう少し、確実に手を伸ばせる存在としてあり続けてくれる。そんな本ならではのありがたも、感じた1冊です。

風のくわるてつと

著者
松本 隆
出版日
2016-03-18
作詞家、松本隆さんが19歳から22歳までに書かれた詞、エッセイ、小説などが収められている1冊です。例えば4つの季節だけじゃなくて、そのあいだに無限に存在する細かな気温や湿度を、ちゃんとすくい取って見せてくれる。そんなたくさんの季節と時間の匂いが詰まった本だと思います。日常生活の隙間で、ふと、なんだか自分の心が感覚が鈍くなってしまっているなと思った時にこの本を読むと、松本隆さんの言葉たちが、ふわっと正しいところに連れ戻してくれるような気がするのです。

瀕死の双六問屋

著者
忌野 清志郎
出版日
2007-09-06
忌野清志郎さんが雑誌に連載されていた文章が、まとまって文庫化された本。小説みたいに始まったかと思えば、途中エッセイの様でもあり、さらに読み進めていくと文章まるまるが詩であるような気もして来てしまう不思議な1冊ですそしてお話の中にさり気なく出てきた曲を、終わりにレコード評でも紹介してくれているのです。双六問屋は理想郷。清志郎さんの言葉たちにどんどん引き込まれた挙句には最後に紹介される曲たちを聴いてみずにはいられなくなります。

うれしい悲鳴をあげてくれ

著者
いしわたり 淳治
出版日
2014-01-08
いしわたり淳治さんの小説とエッセイがどちらも1冊に収められている本です。改めて、物語にはいろんな種類があるなぁと思う。ここにあるエピソードたちは実際にありそうで無さそうで、でもやっぱり無いよなあと冷静に考えると……ってところに最終的には落ち着くのですが、そんな日常的な風景なのにファンタジーでもあったりするのが面白いのです。一度予想した展開を裏切られると、それから次はどんな衝撃的なオチが待っているのだろうと期待しながら読んでしまうのですが、その期待は最後まで裏切られません。

想い事

著者
Cocco
出版日
2011-10-12
歌うたい、Coccoさんの本はいつも私にとって大切な1冊になります。“やわらかな線と奥行が温かい”フィルムカメラで撮られた写真とエッセイが順に出てきます。柔らかくて難しくなくて、それでいて奥行きのある言葉たちは、まるでフィルムカメラのそれみたいだなぁと思います。写真、歌、お花、傘、などの小さなお話がいくつも出てくるのですが、歌う人になりたかった私は、この本の一番最後のエッセイ「夢ものがたり」という、Coccoさんのたくさんあった夢とそのリストにはなかった歌手になったこと、そして押し入れから出てきた通信簿にあった言葉、などの書かれているエピソードが大好きでした。お勧めです。

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    バンドマンやソロ・アーティスト、民族楽器奏者や音楽雑誌編集者など音楽に関連するひとびとが、本好きのコンシェルジュとして、おすすめの本を紹介します。小説に漫画、写真集にビジネス書、自然科学書やスピリチュアル本も。幅広い本と出会えます。インタビューも。

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