ありきたりじゃないビートルズの詩集5冊[Part.2]

ありきたりじゃないビートルズの詩集5冊[Part.2]

更新:2021.12.3

英語の歌詞だけを見るなら、昔はレコードに勝るものはなかった。とはいえ、67年の『サージェント・ペパーズ~』以前は歌詞はすべて聴き取りによるものだったので、ミスが多い。しかもそれを日本語に訳していたわけだから、よほど英語に堪能な人以外は、特に中期の難解な歌詞はちんぷんかんぷんだったはずだ。その後「正確な原詩」+「意味を踏まえた自由な訳詞」をまとめた詩集があれこれ刊行されるようになった。しかし、ソロ以降の詩集はほとんどないのが現状だ。リンゴはひとつもない。今回はソロ編+洋書を中心に5冊紹介します。

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世界で最も売れたビートルズの詩集

ビートルズの歌詞集の中で、世界中で最も有名かつ最も売れたのがこれ。イラストレーターや写真家、造形作家などがビートルズの曲をビジュアル化。それらの作品を、ロンドン生まれのグラフィック・デザイナー、アラン・オルドリッジがひとつの本としてまとめ上げた。収録されているのは、ポール・マッカートニーがピーター&ゴードンに提供した「ノーバディ・アイ・ノウ」を含む全101曲。

ビートルズ・ソング・イラスト集

1970年03月20日
アラン・オルドリッジ編
誠文堂新光社
本書に出てくる特にイラストの数々は、ブートのジャケに使うと映えるものが多い。実際にそうなったものもあるが、ブートじゃなくて、80年に発売されたビートルズの『バラード・ベスト20』には本書の最初の見開きページに登場するジョン・パトリック・バーンのイラストが転用された。ちなみにジョン・パトリック・バーンはドノヴァンの『HMSドノヴァン』(71年)のジャケットで知られているし、アラン・オルドリッジも、彼の絵本を題材にしたロジャー・グローヴァー(ディープ・パープル)主導で制作された『バタフライ・ボール』(74年)やザ・フーの『ア・クイック・ワン』(66年)のジャケットも手掛けている。原書は69年発売だが、日本版も70年に出るほどの人気だった(といっても日本語訳は序文のみだが)。表紙の異なるものも多数発売されたが、掲載したやつがやっぱりベスト。

ジョージとリンゴの歌詞のはなし

ビートルズの歌詞集の中で、個人的に最も愛着があるのがこれ。ビートルズを深く聴くようになった中学から高校にかけては、歌詞を見ながらLPを聴く日々を続けていたが、たしか高校2年のときに長兄が海外に仕事に行ったついでに買ってきてくれたのだった。表紙は上の本と同じだが、中身は違う。全195曲と曲数が多く、ビートルズの音楽活動歴をソロも含めて時代ごとに追った写真が104点も掲載されている。

The Beatles Lyrics Illustrated

1976年05月01日
Richard Brautigan
Dell publishing
目を見張るのは、195曲の内訳だ。ジョンとポールがビートルズ時代に他人に提供した全19曲と、レノン=マッカートニー名義の「平和を我等に」が含まれていること。もうひとつはジョージとリンゴのオリジナル曲が一切含まれていないことだ。他人用の曲でも、レノン=マッカートニー名義の「グッドバイ」はあり、ポール単独名義の「ペニーナ」はない。ということは、本書は60年代のレノン=マッカートニー名義の曲がすべて網羅された歌詞集なのである(「レヴォリューション 9」はないけれど)。洋書らしいコンパクトなサイズも紙質も申し分ないし、どんなに余白があっても「1曲1ページ」にこだわった見映えもすばらしい。

締まって行こうぜ

前回紹介した『ビートルズ詩集』に続く岩谷宏氏によるジョン・レノン詩集。「あとがき」によると、ジョンの代表作である『ジョンの魂』と『イマジン』は「版権等の関係でごく一部の曲しか訳出できなかった」とあり、たしかに「労働階級の英雄」や「真実が欲しい」あたりが収録されているとなおよかったと思うけれども、その分『サムタイム・イン・ニューヨーク・シティ』収録曲が増えたと思えば、これはこれで十分。

ジョン・レノン詩集

1986年11月05日
岩谷宏訳
シンコーミュージック
リンゴ・スターに贈った「アイム・ザ・グレイテスト」と「グッドナイト・ウィーン」や、ジョニー・ウィンターへの提供曲「ロックンロール・ピープル」も含まれているし、遺作『ミルク・アンド・ハニー』収録の「グロウ・オールド・ウィズ・ミー」まで入っているので、ジョンが何を言いたいのかを(わりと)瞬時につかむのに最も適した訳だと思う。各曲に勝手に(?)付けた邦題も最高。中でも「タイト・アス」の「締まって行こうぜ」なんて、とてもいい線(良いセンス)だ。この訳出でもニュアンスが汲み取れるが、「666(悪魔)」や「ルーシー(ルシファー)」に言及した「ブリング・オン・ザ・ルーシー」(『マインド・ゲームス』収録)に、「世界は狂人に支配されている」と喝破したジョンの本気を見る。

あの頃ポールも若かった

『ジョン・レノン詩集』と同じシリーズ扱いで発売されたポール版。まず表紙のポールの写真、というよりも表情がいい。評判の悪い『プレス・トゥ・プレイ』(86年)発売後に撮られた写真で、『ローリング・ストーン』誌の表紙に別カットが使われたりもしたが、ジョンの死後、曲が書けずに苦しんでいた時期には思えない清々しく爽やかな佇まいだ。

ポール・マッカートニー詩集

1988年10月17日
落流鳥訳
シンコーミュージック
87年の『オール・ザ・ベスト!』までしかまだ曲がない時期に発売されたものだが、ライヴ音源しかない「ソイリー」やリンゴに贈った「シックス・オクロック」をはじめ、かゆいところに手が届く絶妙なバランスで全69曲が収録されている。「ビー・ホワット・ユー・シー」もあったらなお良かったが。羽良多平吉氏によるシャープなデザインといい、久しぶりにビートルズ関連の表舞台に登場した落流鳥氏による訳詞といい、ビートルズ関連の詩集でも、質のいい一冊に仕上がっている。それもそのはず、奥付に記載された発行所は「日本MPLコミュニケーションズ株式会社」。ポールの事務所に、そんな日本法人があったとは知らなかった。

ジョージ版ソング・イラスト集

高価で手に入りにくいものはなるべく紹介しないようにしてきたけれど、ソロの詩集が少ないので、ジョージ・ハリスンはこれを挙げることにした。「豪華で高価な」とこれまでにも何度か書いたイギリスのGenesis Publicationsから発売された「革製・2500部限定・直筆サイン入り」のソング・イラスト集。4曲入りの未発表音源(7インチ・シングルかCDシングル付き)まで付いたディープなファン必携の一冊で、出た時は5ケタ(日本円)で購入できたが、今じゃ6ケタ越えは確実、である。

Songs by George Harrison

1987年12月01日
George Harrison
Genesis Publications
1冊目に紹介した『ビートルズ・ソング・イラスト集』は多彩なアーティストが手掛けたビートルズのソング・イラスト集だが、こっちはキース・ウェスト一人が手掛けたジョージのソング・イラスト集で、92年に出た続編『Songs by George Harrison 2』ともども、ビートルズ時代からソロ以降の作品の中から万遍なく選ばれている。ジョージのトーク・イベントに出演するときなど、これまでに3回ほど持ち出したことがあるが、高価で豪華な本は、高いだけでなく、でかくて重くて厄介。後生大事に取っておくという性格でもないし、コレクション自慢をしようという気もさらさらないけれど、何度も見返す気が起きないのもたしかだ。ジョージがどんな歌を歌っているかを知るなら、やっぱり2回目の記事で紹介した『ジョージ・ハリスン自伝 I・ME・MINE』(2002年)が無難かもしれない。

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    バンドマンやソロ・アーティスト、民族楽器奏者や音楽雑誌編集者など音楽に関連するひとびとが、本好きのコンシェルジュとして、おすすめの本を紹介します。小説に漫画、写真集にビジネス書、自然科学書やスピリチュアル本も。幅広い本と出会えます。インタビューも。

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