スタジオ本、と私は呼んでいる。
撮影スタジオに備品として置かれている本。お洒落なスタジオにはイミテーションが多いが、リアルさを売りにしたスタジオだと、実際の本が置かれている場合も多い(イミテーションより、安価でもあるだろう)。
読まれるためではなく、部屋を飾るために、本棚に置かれている、誰が選んだかもわからない、中古本。
私は、そんな本を、撮影の合間に手に取る。
先月出会った「スタジオ本」を紹介したい。
- 著者
- 山崎 豊子
- 出版日
- 1970-05-27
まずは、山崎豊子『華麗なる一族』。
有名すぎる大作だった。
連続ドラマ化されていたそうだが、私は見たこともなく、ただ、暇すぎるこの空き時間をどうにかするため、特に予備知識もないまま、スタジオ「寝室」部屋の本棚にあった、上巻しかないその本を手にとったのだ。
大人の夫婦の寝室、という佇まいに、たしかにこの本は、ふさわしい。なんて、濃い。濃いのだろう。
さて、ジェネレーションギャップ。
万俵家14代目当主、華麗なる一族の家長である阪神銀行頭取、万俵大介が、使えるものはなんでも使って、銀行を守り、財閥を拡大し、悪どく立ち回るというのが、メイン・ストーリーである。
私が知っているのは、合併に合併を重ね、大合併されたあとの銀行。読み進めていくうちに、そっか、こんなに昔は銀行があったんだ、という素直な驚きがあった。もちろん、幼心に、ニュースで聞いた合併の話、長い長い銀行名から、それなりに歴史として知ってはいた。合併しきった現在から見て、万俵大介が勝つことはないとわかりきっている。華麗なる一族が衰退していくさまを見ることになる。
頭取として、外には高潔な人間として通っている大介のおぞましき側面は、家庭内に現れる。妻妾同居、妻妾同衾。
蛇だの獣だのと、繰り返される性描写に、もはやどうでもよくなっていった。これは、女性向けコミックにも移せる設定ではないか?と思ったのだ。
大介は、見方を変えれば、一途な男である。たった二人の女で我慢しているのだ。銀行家はスキャンダルが命取りといえども、他の男性陣の女遊びっぷりから比べると、歪んではいるが、「遊んで」はいない。変態なだけだ。妻も妾も、手放したくない。同じように愛し、同じように抱く。同じように愛され、同じように抱かれる。
大介はクズ野郎だが、女性が好む容姿であることは繰り返し描写されている。ハーレクイン的変換をすることも可能ではないか。
鬼畜な彼は・・・〇〇で〇〇!? 私、一体どうなっちゃうの!?
と、社会派小説ながら、私の下衆な心が盛り上がる。
大介と息子、婿の、男たちのビジネス話も面白いのだが、これが表の戦いだとすれば、ちょうど社会の裏側に当たるのが女たちの世界だ。大介の妻、寧子。愛人、高須相子。閨閥結婚の駒である、娘、一子。反発する、二子。そして名前のない女たち。閨房の中の女たちの立ち回りには唸った。
あわてて、中巻、下巻も購入し、一気に読み進めてしまった。
現在、私の本棚には、上巻だけがない。
続いて出会ったのが、水上 勉『眼』。
- 著者
- 水上 勉
- 出版日
- 2007-09-06
ハウススタジオのかわいい「女の子部屋」にあった長編推理小説。漫画本の横にひっそりといた光文社カッパ・ノベルス。動画撮影の小物として使ったのだが、少し目を通すだけで引き込まれる。慌てて速読したのだったが、これまたすごかった。
当時の東京風俗やビジネスの様子も興味深いし、殺人方法やトリック、その最後といったら……。