先人から学ぶ! 言葉を磨く3冊

更新:2021.12.13

マーケターにとって言葉は大切です。適切な人に、適切なタイミングで、適切な内容を適切な言葉で届けていく。それが求められる役割のひとつだと思うためです。いくら価値ある製品があっても、相手にしっかりと情報が届かないと宝の持ち腐れ。社内で協力を得るときも同様でしょう。そのためにも、常に高くアンテナを張りながら言葉を磨き続けていく必要があります。その手段のひとつとして、昔から読書の大切が説かれてきました。読書にも様々な切り口がありますが、今回は「先人」から学ぶという切り口で書籍をご紹介します。

ブックカルテ リンク

偉人と対話できる読書は贅沢な「思考のバッティング・マシーン」

著者
松下 幸之助
出版日

困難や悩みなどに直面したとき、友人やその道の専門家に相談をして乗り切ろうとする方も多いかと思います。一方、先人の書を紐解いて本の著者と自分で“対話”をしながら内省をし、困難や悩みと向き合う方もいらっしゃるのではないでしょうか。

「読書は思考のバッティング・マシーン」という喩えを以前見かけたことがありましたが、読書は自身の思考と本の著者の思考をぶつけ合う他流試合の場です。「自分はこう思う。でも、なるほど…、そう来たか。」その繰り返しで、思考が深まり、多くの気付きを得ることができるでしょう。その相手に、長く読み継がれる先人の書はうってつけです。その中で、言葉の感覚も磨かれていくものです。

そのような書籍のひとつだと思うのが、「経営の神様」として有名な松下幸之助氏の著書。長く読まれる本著には、珠玉の言葉の数々があります。

その時々の問題意識によって、得られるものもまた違ってきます。私も今回読み返してみて、何度も視界が晴れる想いをしました。その中で特に今回、ストーン(ズシーン?)と自分の中で腹落ちしたのが以下のくだりです。引用してご紹介します。

▼「道」
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自分には自分に与えられた道がある。天与の尊い道がある。どんな道かは知らないが、ほかの人には歩めない。自分だけしか歩めない、二度と歩めぬかけがえのないこの道。

広い時もある。せまい時もある。のぼりもあればくだりもある。坦々とした時もあれば、かきわけかきわけ汗する時もある。

この道が果たしてよいのか悪いのか、思案にあまる時もあろう。なぐさめを求めたくなる時もあろう。しかし、所詮はこの道しかないのではないか。

あきらめろと言うのではない。いま立っているこの道、いま歩んでいるこの道、ともかくもこの道を休まず歩むことである。自分だけしか歩めない大事な道ではないか。自分だけに与えられているかけがえのないこの道ではないか。

他人の道に心をうばわれ、思案にくれて立ちすくんでいても、道はすこしもひらけない。

道をひらくためには、まず歩まねばならぬ。心を定め、懸命に歩まねばならぬ。

それがたとえ遠い道のように思えても、休まず歩む姿からは必ず新たな道がひらけてくる。

深い喜びも生まれてくる。
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こちらの内容をご覧になって、いかがでしたでしょうか? もし気持ちの変化が生まれたら、それは言葉を磨くチャンスかもしれません。ぜひその気持ちと向き合われてください。

原理原則を偉人はどう言い表してきたか? 様々な先人の言葉に触れる。

著者
岩田松雄
出版日
2015-01-19

続いてご紹介するのは、元スターバックス コーヒー ジャパンCEO岩田氏による著書。

岩田氏も指摘されているように、言葉とは本当に不思議なものです。その一言で、人を勇気づけたり、励ましたり、傷つけてしまったり…。人の心に大きな影響を与えます。それが言葉の面白さであり、難しさでもあるのではないでしょうか。

多くの名言や格言に接してきて岩田氏が感じたのは、世の中に「原理原則」があること。本質的なことはあまり多くあるわけでもなく、世の中が変わってもあまり変わりません。永きにわたり語り継がれる先人の言葉からは、その原理原則を学ぶことができるのではないでしょうか。そして、それを自分なりにかみ砕いて理解し、人に伝えていくことで言葉が磨かれ、深みが出てくるのではないかと思います。

その中から今回は以下の言葉を引用してご紹介したいと思います。

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「どこから来たか」ではなく、「どこへ行くか」が最も重要で価値あることだ。

栄誉は、その点から与えられる。どんな将来を目指しているのか。今を越えて、どこまで高くへ行こうとするのか。どの道を切り拓き、何を創造していこうとするのか。

過去にしがみついたり、下にいる人間と見比べて自分をほめたりするな。

夢を楽しそうに語るだけで何もしなかったり、そこそこの現状に満足してとどまったりするな。

絶えず進め。より遠くへ。より高みを目指せ。

フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ(ドイツの哲学者)
『超訳 ニーチェの言葉』(フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ著
白取春彦編訳 ディスカヴァー・トゥエンティワン)より
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このニーチェの言葉は、岩田氏が講師を務めていたことのあるビジネススクールで、ある講師が最後の授業で学生に贈った言葉だそうです。「現状に満足をするな」というメッセージ。

岩田氏も指摘していますが、学歴しかり、会社名しかり、肩書きしかり。人はついついその上にあぐらをかこうとし、その状態に満足してしまうことがあります。そして、思考停止になる。そうならないよう自分を戒めなくてはならないと、改めて思わされる言葉です。

どこまで高く、遠くまで行こうとしているのか。特に、今の時代は「これから」が問われると思います。その中で、自分がまわりを牽引して顧客に価値を提供していかなくてはならないかもしれません。その際、言葉がとても重要な役割をもってくるのは間違いないことではないでしょうか。

言葉自体はもちろん大切。でも、それを誰に、いつ、どのように伝えるかも重要。

著者
高野 登
出版日
2011-08-20

「言葉を磨く」というと言葉自体に目が行きがちですが、いつ、誰に、どのようにその言葉を伝えるかということも不可欠な視点です。どんなに良い言葉であっても、相手の状況に合っていなかったら伝わりません。当たり前のことではありますが、その当たり前のことがなかなか難しいもの。

その際、とても参考になると思うのがサービス業のプロの接客。皆様もレストランやホテルなどで気持ちが良い接客を受けて、心が動いたことはありませんでしょうか? 絶妙なタイミングでの声掛けなどをされ、私も感動したことがありました。マーケターとして顧客と接する中でいかにそれを実現するかを考え続けています。

その中でも参考になる書籍のひとつが本著。リッツ・カールトン日本支社長をされていた著者が、自身の経験をもとにどのように顧客と心を通わせる接客をするかということを「言葉がけ」の観点からまとめています。様々な状況の顧客を相手に仕事をしているからこそ、得られる視点。読んでいて勉強になりました。

一流ホテルでの話がすべてなので、「自分と業界が異なるし参考にならないな」と思われるかもしれません。ただ、「自分の仕事だと、どのような状況が近いだろう?」「自分の場合、〇〇するために何をしているだろう?」など自分の話にできるかぎり置き換えてみることで、学ぶことが多くあります。

書籍の中で特に印象に残った顧客に対する言葉がけを挙げると「今日はお薦めできません」「お客様にぴったりのお部屋は、別のホテルにございます」といういわば“自分を薦めない”言葉です。普通であれば、自社サービスを利用してもらいたいですし、より高いサービスを利用してもらいたいもの。ただ、それを提供し、使ってもらうことが顧客にとって本当に良いことなのでしょうか? そのような状況で使ってもらったときに、顧客が感じる価値が期待値を下回るものだったら? きっともう利用してくれなくなるかもしれないですし、悪い評判が立つことも考えられるでしょう。短期間だけ利益が上がればいいということであれば話は別ですが、その方法で事業を継続することはできるのでしょうか?

顧客に合わないと思ったら利用を薦めないという勇気も必要だと思います。そうすることで、得られるものも多々あるのです。私もそのような経験をすることがよくあります。顧客(相手)の立場に立つこと、いつまでも忘れたくないですね。

今回は、言葉を扱う仕事をしていて日々感じていることを交えながら、「言葉磨き」の大切さについてお伝えしてきました。言葉を磨く上で、インプットとアウトプットは不可欠。その繰り返しで言葉が磨かれていくのは間違いないことです。読書はその上で、とても有効な手段のひとつなのではないでしょうか。人は必要なときに、必要な人だけでなく、必要な本にも出会うもの。その出会いを大切にし、たくさんの気付きを得て、人として成長して、言葉を磨き続けていきたいですね。自分も精進していきたいと思います。

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