2017年9月に実写映画化される『亜人』。邪道な主人公と狂った敵というちょっと変わった作品です。しかしそんな作品がなぜここまで人気なのか? 今回は登場人物たちと最新巻の見所からその魅力を探ります!ネタバレを含みますのでご注意ください。
漫画の主人公というのは、努力をして周囲の友達や恋人を大切にし、まっすぐに目的に進んでいく…そんなイメージではないでしょうか?しかし、王道に比べて邪道な主人公がいる、それがシリーズ累計発行部数は900万部を突破した人気漫画『亜人』です。
彼らは怠け者だったり、弱虫だったり、独善的だったりします。そんな邪道な主人公たちの中でもどうしようもなさでは上位にランクインするであろう少年が本作の主人公・永井圭です。彼はとにかく合理的。感情に流されず選択する様は人間でないかのような冷淡さです。
そんな一見感情移入しづらそうな人物たちが主人公でもなぜ人気が出るのか?それは彼らのどうしようもなさに、どこか自分の心に隠された「したいけど出来ない」黒い部分を重ねられるからかもしれません。
そして彼らが変わっていくことで、自分が成長したかのようなカタルシスを味わえるのです。それは主人公たちが邪道であればあるほど大きいものになります。永井はその点ではかなりの時間をかけていい方向へ変化していくので、変化していく様子の感動が大きい主人公です。
- 著者
- 桜井 画門
- 出版日
- 2013-03-07
では本作では敵キャラ・佐藤が逆に感情移入しやすい人物かというとそんなことはなく、彼もかなりどうしようもない。楽しいことが大好きで、人を殺すのもゲーム感覚の人物です。
『亜人』は今までにない新しい設定である亜人という存在に興味をそそられて本作を読んでいるうちに、彼らの人情味を欠いた戦いに惹かれていき、慣れてきた頃に永井も人間として成長し始めるのでついつい読み進める手が止まらなくなってしまうのです。
さらには、マンガ大賞受賞、3部作のアニメ映画化、2期の地上波アニメ化もされ、勢いが止まらないこの人気作の魅力をご紹介していきます!
本作の舞台は人間と「亜人」が存在する世界。そもそもこの言葉の意味は「人であらざるもの」というもの。巨人や獣人、仙人まで含めた総称です。
本作での亜人は不死身である人間を指します。彼らは痛みは伴うものの、死ぬと再び全ての傷が治った状態で復活。また、体内に異物が混入した場合なども分解することができます。
しかし不死であるものの、彼らは断頭によって「死にます」。体に新しい頭が再生され、記憶や感情も引き継がれはするのですが、それは厳密にはもとの自分ではなく、似ている存在なのです。
そんな亜人は見た目は何ら変わらず人間への敵対心もありません。しかし人間たちは未知の存在への恐れ、嫌悪の感情で同じ生物としては扱わないのです。
- 著者
- 桜井 画門
- 出版日
- 2013-06-07
世間的には不死身であるということくらいしか知られていませんが、政府が明らかにしていないある事実があります。
それは「黒い幽霊」、通称IBMの存在です。亜人の分身のような存在で全身包帯で包まれたような見た目のもの。
出現させられる亜人とそうでない亜人、行動を制御できるIBMと制御できないものの、亜人が意識を失っている間にも「自走」といって、自らの意思で動くIBMなどそれぞれの特徴によって様々です。
光の屈折率が0%の物質で構成されていることから通常は亜人本人たちにしか見えない存在ですが、IBMから強い殺意を向けられると人間もその姿が見られます。
しかしIBMを研究する機関も亜人本人たちも詳しいことは分かっておらず、この謎が作品の見所のひとつとなっています。
亜人の存在が初めて確認されたのは物語が始まる7年まえ。アフリカの戦場で不死の新生物である「亜人」が発見されました。
当時世界中に大きな波紋を呼んだその存在でしたが、死なないこと以外は人間と同じだということが判明し、人々の興味は薄れていきました。
現代日本では死なないこと以外人間と同じだということですが、同等の権利を持った生物とは捉えられず、差別の対象になっていました。しかも研究所で一生を過ごすこととなる、まさに新種の生物であるいう認識だったのです。亜人であるかどうか分かるのはその人物が死んだ時のみであり、普段はまったく同じ人間なのです。
- 著者
- 桜井 画門
- 出版日
- 2013-11-07
主人公の圭はある日、交通事故に巻き込まれて、亜人だということが判明しました。
すぐさま研究所に送り込まれることを懸念してその場を逃げます。
その逃避行中、彼は佐藤という人物と出会います。彼の平和的な解決策に賛同しようとしますが、実は彼は人間の大量殺人を企てていました。佐藤の思惑で研究所に送り込まれた圭はそこで残忍な実験を続けられます。
そして頃合いを見計らって助けに来た佐藤。全ては圭に彼を信頼させるための作戦だったのです。
しかし研究所から逃げ出す途中で、佐藤の冷酷非道な一面を見て、圭は彼からも命からがら逃げ出します。
その後静かな暮らしを望んで田舎に逃げ込んだ圭でしたが、亜人の代表のように振る舞う佐藤が凶行を続けることにより、敢えなくその生活を断念。
政府の「佐藤対策班」のリーダーである戸崎たちと協力し、佐藤を倒すことを決めます……。
アニメも臨場感があるので、ぜひ興味のある方は見てみてください!
主人公の永井は、不治の病を患った妹の治療法を見つけるために勉強に勤しむ少年。限られた時間の中で最短ルートをたどるため、合理的な性格を活かして効率的な勉強をしていました。
勉強する理由は涙ぐましいものですが、そのためには友を切り捨てるという冷たい面もあり、母親に似た超・冷徹な性格です。
幼い頃にIBMを見ており、その時に亜人として目覚めてはいましたが、彼とIBMの繋がりは不安定で、高校生になるまでそれを見なかった永井は自分が亜人だとは気づきませんでした。
車との衝突事故によって自身が亜人だと気づいた彼はそのまま政府の研究機関に連れていかれ、残忍な実験を繰り返されます。声帯が切除された状態で包帯でぐるぐる巻きにされ、様々な体の部位を落とされ、何度も殺されるのです。
そしてそのトラウマから彼の冷淡な部分がさらに加速していきます。
- 著者
- 桜井 画門
- 出版日
- 2014-05-07
ちょうどその時、自分に従順になるようにわざと政府の研究所に引き渡し、頃合いを見て永井を助けに来た佐藤が目の前に現れます。しかし永井は期待通りの変化をしておらず、それどころか自分を殺そうとしたことから佐藤は彼を殺そうとするのです。
佐藤からの逃亡の途中で、永井は自分を助けてくれて、ひどい実験をしたと謝る医者と出会います。しかし永井は謝罪する彼に不思議そうにこう言います。
「なんで他人を気遣えるんですか?
人の痛みなんてわかります??
僕は上辺以外で人の心配なんてしたことない」
(『亜人』3巻より引用)
そしてその医者が佐藤に撃たれても「あーあ」と言って微動だにしないのです。セリフにどこか分かるところがあったとしてもこれはひどすぎます。
しかしそんなことを言っておきながらも医者がまだ息があることに気づくと危険を冒してまで彼を助け、「アンタは助けたい」と言うのです。彼はどうしてここまで極端な性格の違いを見せるのでしょうか?
こんな彼の不安定さは生まれ育った環境にありました。母親の発言からその理由があきらかになります。永井をクズと評する妹に彼女はこう言うのです。
「あなたは父さん似ね 極めて情動的
あなたのような人達には彼が冷たく
自分勝手な人間に見えるかもしれないけど
圭は合理的なだけで 冷たいという訳じゃないわ」
(『亜人』10巻より引用)
そして永井の合理的な考え方は「より大切なものを本気で実現させる」ために置かれた状況下で取捨選択し、その中から自分にできることに全力を尽くせる子なのだと語ります。しかし、最後にこう付け加えるのです。
「ただあの子…
お父さんのほうにも少し似ちゃったのよ
つまり私ほど合理的でないわ
バカねぇ…」(『亜人』10巻より引用)
正反対の性格の両親に育てられた永井。彼の中では母親に似た冷静さと父親に似た優しさが、いつもせめぎ合っているのです。
表情にあまり表さないのでわかりにくいですが、巻を追うごとに少しずつ自分の殻を破ろうとする主人公が永井なのです。長い目で見てやりたくなる、邪道な主人公です。
映画作品では佐藤健がその役を演じました。
佐藤健が出演した作品を見たい方は、以下の記事もおすすめです。
佐藤健が出演した映画、テレビドラマを大解剖!実写化でキャラが【実物】になる理由
佐藤健と言えば、イケメン俳優の登竜門「平成仮面ライダー」に出演して大ブレイクした俳優です。端正なルックスだけでなく、確かな演技力と素晴らしい身体能力が魅力。主役から脇役まで、印象的な役柄を体当たりで演じてきました。 今回はそんな佐藤健について、プロフィールや過去に出演したドラマ、映画を原作と合わせて一挙にご紹介します。
少しずつ自分のダメなところから一歩踏み出そうとする永井ですが、敵キャラの佐藤は自分にダメなところがあるということすら気づいていません。
実はイギリス人の父と中国系の母の間に生まれたハーフで、本名はサミュエル・T・オーウェンの佐藤。なぜ名前や国籍を偽っているのかという謎もこれからの見所の人物です。
彼は幼い頃から父親に頻繁に殴られていました。虐待のせいで性格が歪んだのかと思いきや、それは佐藤が命を奪うことを何とも思わず、動物を殺しまくって遊んでいたから。純粋培養、幼い頃から狂っていた人物だったのです。
- 著者
- 桜井 画門
- 出版日
- 2014-11-07
そんな佐藤はつまらないことが大嫌い。とにかくいつも楽しいことを探しており、兵服中は戦う必要がないのに敵に自分たちの存在を気づかせ、銃撃戦に持ち込んだりもしました。絶対一緒のチームになりたくありません。
その結果自分も右足を失いますが、中国系マフィアの叔父に誘われて来日し、暗躍します。そしてその途中で射殺されてしまいますが、その時に亜人だということが発覚するのです。
そしてただ「ゲーム」を楽しむために、この国を統治するとマスコミを使って全国民に宣言します。彼の目的は日本の執行機関、軍部・報道機関に壊滅的なダメージを与えること。完全に過程を楽しむタイプで、しかも慈悲がないという最悪の敵が佐藤なのです。
映画作品では綾野剛がその役を演じました。
- 著者
- 桜井 画門
- 出版日
- 2017-04-07
10巻では上記の永井の不安定さの理由、佐藤の過去が明かされます。ここのセクションでは永井がやっと主人公らしくなったシーンをネタバレします。
佐藤の圧倒的な力を見せつけられ、一度は戦うことをあきらめるた永井。佐藤ひとりの暴走なのに亜人全体のくくりで見られる日本にうんざりし、逃げようとします。
それまで打倒佐藤を掲げて一緒に戦ってきたチームは、永井の離脱、リーダー的存在の戸崎が戦う理由であった植物状態の彼女の死を受け、解散しようとしていました。そんなところにひょっこりと永井が帰ってくるのです。
勝算はあるのかと聞いてくる戸崎に、永井はこう返します。
「愚問ですね
勝てっこないでしょう
だが 最後まで戦う」
やっと主人公らしいいい表情になってきました。このままいけばちゃんと正の方向に進んでいってくれそう。
……かと思いきや、「論理的にしか行動しないんじゃなかったのかよ」と突っ込まれ、長々と何やら説明してこう裏付けるのです。
やっぱまだ揺れています。しかしむしろこの方が自然ではないでしょうか。10何年間も自分の身に染み付いてきた生き方は、いくら変化があるとはいえいきなり正反対になるわけがありません。
永井が自分の中の母似に部分と父似の部分に折り合いをつけて戦っている頃、世間では「新亜人管理法」が可決されていました。亜人だと判明した場合、今までより更に強力な拘束、隔離措置すること、厚労省が保有する不確定亜人リストを全国民が閲覧可能にすることなど、佐藤の暴走によってより亜人達への締め付けが強い法案になったのです。
しかしそのニュースを見ていた総理はマスコミが使用する言葉が間違っていることを嘆き、佐藤が宣言した日本国の統治など馬鹿げていると一蹴します。全くこの危機感が政府には伝わっていないのです。
ついに佐藤と向き合うことを決めた永井、そしてそろそろ「長ったらしい」展開に飽きて強硬手段でクリアまで向かおうとする佐藤の戦いはどうなるのでしょうか?
佐藤たちと真っ向から戦うことを諦めた政府は、話し合いの場を設けることにしました。その話を聞いた圭たちは話し合いの場に向かいます。
しかしそこに現れたのは、佐藤と当初から手を組んでいた田中だけでした。もともと関係のない人を巻き込んで戦うことを嫌がり、テロリストとして戦うことに真っ当な理由のある彼は、佐藤からすると邪魔者だったのでした。
そのまま政府の手によって麻酔銃を打たれ、連れ去られてしまいます。圭たち一行は、まだ人の心がある田中を救い出そうとします。
- 著者
- 桜井 画門
- 出版日
- 2017-09-07
一方、佐藤はどこにいるのかというと、埼玉県入間市。政府との秘密裏の会合からも近いその場所では、基地祭が開催されていました。人が多く集まる日に、国家の軍事力の中枢でもあると言える基地で、佐藤は何の装備もせず、入り口から入場しようとします。
もちろん佐藤はそのまま捕まってしまうのですが、彼はずっと人違いだと言い続けます。そんな中、お祭りの催しもののひとつである、総理の挨拶が始まりました。TV中継もされているその映像を見ると、何と総理の背後に佐藤がいるのです!
まさかの佐藤がふたり!?
そして拘束されていた佐藤の方は人違いだということで釈放。しかしテロリストが基地内にいるということでそのままそこで保護されることとなります。そこは基地内でもさらに中枢の場所で……。
佐藤の作戦の種明かしはぜひ作品でお確かめください。スピード感満載の展開に手に汗握ること間違いなしです!
この他にも、圭の出自の秘密、IBM量が多い理由、さらに亜人の寿命や宿主の感情によって発生する大量の亜人「フラッド」についての設定や伏線となりそうな発言など、盛りだくさん!最終回に向けて無駄なく進んでいく様子に読者としても嬉しい限りです。
次巻12巻が待ちきれません!
前巻までに、超合理主義の永井が自分よりはるかに強く凶悪な佐藤と戦う事を決意し、主人公の内面の変化が描かれました。それに対し、最強の敵・佐藤がなぜか堂々と自衛隊に乗り込みます。
そのままいったんは囚われの身となるのですが、実はそれは罠。本物の佐藤が自衛隊基地内で潜伏していたのです。
丸腰で自衛隊に乗り込んで来た佐藤がまず向かったのは、武器庫。対する一尉も佐藤は武器庫に向かったはずだと鋭い読みをみせ、両者は早くも衝突します。
そしてその後のある展開をきっかけに、自衛隊vs佐藤の戦いの火蓋が切って落とされるのです。
- 著者
- 桜井 画門
- 出版日
- 2018-05-07
統率のとれた自衛隊は一人一人の戦闘力も優れており佐藤を苦しめますが、彼のIBMの知能も上がっており……。
更に基地内では、他の集団での行動がストーリーをかき回します。
一方、佐藤に裏切られ政府の人間に囚われた田中は放心状態のまま車に乗せられていましたが、泉が体を張り、田中を救助します。
そのまま一行は共に佐藤の基地に監禁された人物達の救助へと向かいます……。そして基地に到着した永井は、思いもよらぬ方法で壁を登ろうとし……。
13巻では各所で展開される各々の行動に引き込まれる内容でした。どこの展開からも目が離せません。佐藤と永井が直接対決する展開が近づいてきたことが感じられます!
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