女性はこうあるべきという固定概念を時代の波にさらわれず主張し続けてきた桐島洋子。彼女の生き方は多くの人の心を惹きつけて、新しい価値観の風を人々の心に吹き込んできました。今回はそんな桐島洋子のおすすめ本5冊をご紹介します。
桐島洋子は1937年生まれのエッセイストでありノンフィクション作家です。数々の破天荒な経験をしてその経験を独特の語り口で読者に伝えることで、女性の新しい生き方という概念を世の中に伝えた一人だと言えるでしょう。
既婚の26歳年上のアメリカ人と愛人関係になり未婚の母として3人の子供を出産。遺書のつもりで書いた『渚と澪と舵 ふうてんママの手紙』が人気を博し、人気作家としての道を歩き始めます。今回の記事でも紹介する『聡明な女は料理がうまい』は彼女のベストセラー作品となり、さらにはこの本の印税でアメリカの高級避暑地であるイーストハンプトンで1年間の借家生活をした、というエピソードも残しています。
3人の子供を連れて海外へ行き、無一文になりながらも仕事を渡り歩いて子供達を育てた桐島洋子。その苦労は想像を絶するものですが、なぜか本書からはそのわびしく辛い感じが一切伝わってきません。本書はそんな破天荒な人生を歩んできた母・桐島洋子が子供達に贈る自伝的エッセイです。
- 著者
- 桐島 洋子
- 出版日
海外で女手一つで子供3人を養っていた作者。全てが順風満帆でなかったことが、引ったくりに遭ったエピソードからも伝わってきます。しかしそんなことで泣き寝入りするような彼女ではありません。袋にゴミや要らないつまらないものを詰め込んで同じ場所で同じように立ち、スリにそのガラクタ袋を盗ませたのです。まるでマンガの中のエピソードのようですが、桐島洋子が体験した実話。彼女の勇敢さには脱帽するでしょう。
本書を読むと彼女の逞しさが伝わってきます。「シングルマザー」という型にハマらずに自分の行きたい方向へ、自分の心が弾むことだけを選んで、人生を思う存分謳歌している様子が読者に伝わってくるでしょう。時につらいことがあったとしても口から出るのは「辛い」という言葉でなく「楽しい」という言葉。そんな風に言わんばかりに、桐島洋子の生き方は前向きで楽しさと高揚感で満ち溢れています。一人の女性の凛とした姿をぜひ本書でお楽しみください。
「『マザー・グースと三匹の子豚たち』は四十歳を目前にして人生のリセットと家族のリフォームを思い立った私が、一年間の大休暇を宣言して超多忙な日本を脱出し、美しい自然と豊かな伝統と古く佳き価値観が違う今もしっかり息づく、イースト・ハンプトンで過ごした、世にも仕合わせな日々の物語である。」(『マザー・グースと三匹の子豚たち』より引用)
- 著者
- 桐島 洋子
- 出版日
アメリカの大自然に囲まれた暮らし。自然を愛し地球の息遣いを感じながら過ごした日々。人種の壁を乗り越えてアメリカの人々と学び、さらには家族の在り方までを「リフォーム」した記録を描いたのがこの『マザー・グースと三匹の子豚たち』です。
「さあ、これからの一年間、私はただ母親でさえあればよい。これまでいつも後ろ手の仁王立ちで私の背中ばかり見せてきた子供たちに向き直って、存分に胸をかしてやろう。」(『マザー・グースと三匹の子豚たち』より引用)
こんな母・桐島洋子の信念のもと決行されたアメリカでの家族の長期休暇の記録は、アメリカでの新鮮な風を感じさせてくれるだけでなく、家族がゆっくりと時間をかけて心の疲れを癒していく様子を読者に伝えてくれます。
洗練された日本語にも注目です。彼女の語彙力は広く深く、言葉の持つ余韻まで計算され尽くして選ばれた一級品。まるで詩を読んでいるかのような流れる彼女の日本語も本書の大きな魅力の一つだと言えるでしょう。母親としての想いの詰まったハートフルな一冊です。
1976年に出版されたこの本は、本来の料理の概念をぐるりと変えて料理ブームを巻き起こしました。料理人といえば男性が今よりも一般的だった時代に、女性の料理に対する新しい価値を生み出して世に伝えたのです。当時は誰もがその内容に驚く斬新な料理エッセイ本でした。
- 著者
- 桐島 洋子
- 出版日
- 2012-09-01
当時の主婦にとって料理は家族のためにやらなくてはいけない「家事」の1つでしかなかったのでしょう。料理を作ることによって自分を発見できたり、新しいアイデアが思い浮かんだりする楽しさをこの本を通じて知った女性はたくさんいたと思います。桐島洋子の主張する「男勝りの良い仕事をしている人こそ料理の手際が良い」という考え方は新しい女性の道を切り開く力強い価値観だったのです。
世代によって読後感が違ってくるのも本書の面白さのひとつ。憧れの女性として桐島洋子を見る人もいれば、今では少しずつ変わってきている女性像と当時の女性像のズレを感じて、彼女の文章を逆に新鮮だと受け止める人もいるでしょう。
時代を動かしたと言っても過言でない一冊。時代に流されることなく一人の聡明な女性として一時代を築いた桐島洋子のベストセラー。あなたもきっと新しい発見があるはずです。
「『いい加減に落ち着いて、おばあちゃまらしく孫づき合いでもすれば』なんて言われても、しない。これからだって、何が起こるかわからないから人生は面白いのだ。」(『人生はまだ旅の途中〜いくつになってもお転婆ガール』より引用)
こんな力強い言葉で始まる本書は桐島洋子が「旅」を軸に自らの人生を振り返った一冊です。
- 著者
- 桐島 洋子
- 出版日
- 2013-12-12
日本という枠にとらわれず世界というスケールで自分の人生を謳歌している作者。良いものならば日本のものでも海外のものでも取り入れ、間違っていると思ったら日本に対しても外国に対してもはっきりとその間違いを指摘する。そんな桐島洋子のこのエッセイの不思議な所は、作者が海外を知れば知るほど日本への理解が深まっていく印象を読者に与えている所です。それが分かるのがこんなエピソード。
財閥重鎮の父親と、そんな父親にみそめられて玉の輿結婚をした母親との娘として生まれた桐島洋子。幼少期の祖母のしつけを振り返り 、「『お腹』と言っても『はしたない。おみお腹とおっしゃい』と叱られるという過剰な丁寧語の世界」と語っています。
子供達を海外で育てた時も決して自分のことをマミーと呼ばせずにお母様と呼ばせたことからも、桐島洋子がただ海外を良いものとするのではなく、日本の良さを正しく知ることで海外の文化を楽しむ桐島流「旅の流儀」が感じられるのではないでしょうか。
ボーダーレスが当たり前になった今の時代だからこそ、読んでもらいたい一冊です。あなたの人生をより豊かにするヒントがたくさん詰まった作品です。
本書は70年代に書かれた桐島洋子によるリアルなアメリカ人の様子を描いたルポタージュ。アメリカの食文化のリアルから性風俗の実態までを終始一貫して第三者の視点で冷静にかつ鋭く観察して報告しています。
- 著者
- 桐島 洋子
- 出版日
- 1975-02-25
陽気で明るく前向きなアメリカ人——そんなイメージが、面白いくらいガラガラと崩されていきます。赤ん坊を寄付のように他人に軽い気持ちで「恵んで」しまうアメリカ人。出会い系サイトで相手を漁るアメリカ人。精神科医なしでは生きていけないアメリカ人。夢の国アメリカに住む人々の暗く淋しい部分がどこまでも正直に描かれています。
70年代のアメリカを報告した作品ですが、実は今の日本に当てはまることが多くあります。経済的に豊かで誰もが心安らかに暮らしているように見えるのに、世の中には暗いニュースが溢れている。まさに今の日本の現状と一致しています。
あまり伝えられることのないアメリカ人の暗い部分を包み隠さずリポートしてくれる一冊。あまりの衝撃的な姿に開いた口が塞がらなくなるほどの衝撃を受けること間違いなしでしょう。現代の日本人にも新鮮な驚きと衝撃を与えてくれる一読に値するルポタージュです。
今回は桐島洋子の破天荒な人生が上質な文章で楽しめる5冊の本をご紹介しました。お読み頂きありがとうございます。