池田晶子は、哲学者で文筆家です。彼女の特徴は著書の『14歳の哲学』のように、専門用語や難解な言葉を使わず、日常の平易な言葉で哲学を表現するところにあります。哲学エッセイという分野のさきがけである彼女の著書を、5冊ご紹介いたしましょう。
池田晶子は1960年に東京都港区で生まれました。慶応大学在学中に『JJ』の読者モデルとなり、卒業後もモデル事務所に所属。モデルとして事務所に籍を置いていた時、たまたま『文藝』で校正の仕事をしたことで、文筆活動に専念するようになります。
その後は哲学をより身近な言葉で表す、哲学エッセイで多くの読者を得ることになり、評判となった『14歳の哲学』は中学の国語の教科書でも紹介され、入試にも頻出するほどになりました。
晩年は週刊新潮やサンデー毎日といった週刊誌で精力的に連載を続けており、さらに20代の女性をターゲットとした情報誌『Hanako』で人生相談の回答者として参加したことで、話題を呼びます。
2007年2月23日、腎臓がんで46歳の若さでこの世を去りました。最後のエッセイの墓碑銘には「さて、死んだのは誰なのか」という言葉を選んでいましたが、哲学者として池田晶子の原点である、「存在」するという事について考えさせるものだと言えます。
14歳以降の多感な年頃の世代に向けた「考える」ことのきっかけを与えてくれる本です。
「言葉」「自分とは何か」「死」「心」「他人」「家族」……。ここに取り上げられいる30のテーマを、哲学用語ではなく、日常の言葉で語りかけるように問いかけてきます。
読書感想文の推薦図書に選出され、中高大学入試にも頻出し、累計発行部数30万部を超えた本書は、池田晶子の代表作と言えるでしょう。
- 著者
- 池田 晶子
- 出版日
- 2003-03-20
「哲学」というテーマを扱う書籍として、レベルを落とすような真似は少しもしていないと言い切った著者ですが、日常的な言葉をつかい語りかけるような文章で書かれていますので、14歳の中学生たちにとって、挑戦しやすい難易度の本ではないでしょうか。
「14歳からの哲学[A]」、「14歳からの哲学[B]」、「17歳からの哲学」の3部で構成されており、さらにその中を「考える」「言葉」「家族」「社会」「宇宙と科学」「歴史と人類」などのテーマで細分化しています。
「考えるということは、答えを求めるということじゃないんだ。考えるということは、答えがないということを知って、人が問いそのものと化すということなんだ。どうしてそうなると君は思う。
謎が存在するからだ。謎が謎として存在するから、人は考える。謎とは、自分の人生、この生き死に、この自分に他ならないのだったね。
さっぱりわからないものを生きて死ぬということが、はっきり分かっているということは、自覚すること、人生の覚悟だ。だからとても力強く生きて死ぬことができるんだ。」(『14歳からの哲学』より引用)
自分を知ることで絶望を感じ、それでも自分自身であるということを受け入れなければいけないということを、思春期の真っ只中の子どもたちに、繰り返し心を込めて訴えています。「考えること」を強みとして、目の前に広がる世界と立ち向かえるように背中を押してくれる、そんな本です。
腎臓がんで46歳という若さで亡くなった池田晶子の、最後の一年間が綴られた哲学エッセイが、44篇集められたものです。移り変わる季節、日々の暮らしの中で求め続けた「私とは何なのか」という最も根源的な問題が、文章の根底にあります。
- 著者
- 池田 晶子
- 出版日
- 2007-06-29
本書の内容は、もともと『サンデー毎日』連載されていたものでした。
ところどころで、可愛らしい本音が漏れていて、池田晶子の人間的な魅力も感じられるでしょう。
「幼稚園から始まって、小、中、高、大その後ずーっと、男が好きなのは、何がどうあれまず第一に、可愛くてきれいな人だ。美しい人、美人が好き、これはもうほぼ一貫して決まっている。これ、どういうことでしょうね。面白くもないというか、芸がないというか、ひょっとしたら男はバカなんじゃないかと思う。」
(『暮らしの哲学』より引用)
女性なら誰しもが「そうそう、その通り」と言いたくなりそうな内容に、笑いを誘われます。このような、考えすぎずに頷ずけて、親近感を感じる内容がところどころに挟まれているのも、本書の魅力です。
「考える」ということを常に頭に置いていた池田晶子の、時代を照らす、変わらない言葉がここにあります。日常の言葉で哲学の本質を伝えようとし、ロングセラー『14歳からの哲学』を含め、50冊あまりにものぼる著作の中から、彼女のエッセンスを集めた本です。
激動し、混沌としたこの時代の中で、私たちが物事を正しく考え、最上に生きるためのガイドラインとなる言葉を、11のテーマ別に選り抜き、まとめ上げた「言葉集」となっています。
- 著者
- 池田 晶子
- 出版日
- 2015-02-24
読みやすい言葉で「考える」ことの大切さを書き表す池田晶子の言葉をまとめた本書は、至って真面目で芯が通った言葉を、多大な著作物の中からテーマを絞って選んであります。
彼女の著作をまったく読んだことがない方にこそ、読んでほしい作品です。11の哲学的なテーマをカテゴリー別に編纂してあります。ただ一番大切なこととは、彼女の言葉をきっかけに、自分で「考える」ことに違いありません。その手助けとして彼女の言葉の本質だけが集められたこの本は、とても重要です。
ただし、池田晶子の本を読み進める前に、入門編のつもりで気軽に読み始めると、痛い目にあうかもしれません。全編を通して、自分で「考える」ことを繰り返し、繰り返し、まるで波が何度も寄せるように促されます。
またこの本を読んで何をか感じたならば、あるいは気になる文章やフレーズがあったならば、出典がわかるようになっているので、ぜひ全文通して読んでみて下さい。ここで読んだ印象と、また違ったもっと深い意味を感じられるでしょう。
旧著の絶版から『残酷人生論 あるいは新世紀オラクル』として新たに増補新版として登場しました。雑誌『Ronnza』に「新世紀オラクル」のタイトルで連載した作品を基本として、旧著の内容を網羅し、旧著に未収録の関連作品1篇を加えてあります。
新世紀神託(オラクル)とは、さすが哲学の巫女というタイトルです。
- 著者
- 池田 晶子
- 出版日
- 2010-11-13
池田晶子の著作を比較し、読みやすさと内容の濃さでは、1、2,を争う本です。
まず1つの話が1600文字弱で、それぞれに「精神と肉体」「私とはなにか」「なぜ拝むのか」「科学は神を否定できるか」などの哲学的なタイトルがつけられています。これらのタイトルだけで、一冊の本が書けてしまいそうですが、池田晶子は慌てず騒がず、肩の力を抜いて、短く平明な言葉でこの難題を説いていくのです。
この本の中で著者は宗教も科学も、構造主義もポスト構造主義も、容赦のない程にけなしています。それだけ強い意志と思想が働いているということが、読み手側にもひしひしと伝わってくるでしょう。
「生死とは論理である」の中で、実際のところいくらデータを積み上げてみたところで、生きているものは本当の「死」というものは語ることができないし、逆に死んだ人には「死」どころか語ることすらできない、という趣旨の話が出てきます。
「そんなに知りたいのなら、死んでみれば ー 意地悪ではなく、率直に私はそう思った。何百何千の事例を集めたところで、臨死体験を語る人は、一人残らず生きている人である。死を語る人は、ひとり残らず、生きている人である。」(『残酷人生論』より引用)
驚きの提案が気軽な文章で書かれており、唖然としてしまいそうですが、書いてあることは至極もっともです。多くの人が気づかない「当たり前」を池田晶子が言葉にすることで、読者たちは初めててハッとさせられます。平明な言葉で簡潔にまとめられていて、スッと読めますが、一筋縄ではいかないこの作品、是非お手にとってみてください。
どこまで考えても死なんてものはなく、「言葉」だと知るだけで、人生が存在しているのは「死」という謎があるからだ。とまで言い切る作者の潔よさに、きっと読者は感服します。
本書は、人生の味わいと存在の謎について、池田晶子の死の1ヶ月前に書かれた未発表原稿とともに紡がれる、終わりのない精神の物語です。
- 著者
- 池田 晶子
- 出版日
- 2009-04-04
「死ぬということはどういうことなのか。これが精神にとっての最大の謎である。それは、有史以前、人類以前の宇宙それ自身の謎として、精神を惹きつけてやまない謎である。だからこそ、我々は、いついかなる時、いかなる場所においても、それについて思考し、思索し、可能な限りの遠くまで、想像力を巡らせてきたのである」(『死とは何か』より引用)
「死とは何か」と問われたら、なんと答えるのが正しいのでしょうか。考えたところで正解に辿りつけるのか、そもそも正解があるのかさえ、わかりません。しかし、死は必ず誰のもとにもやってくるものです。「死とはなにか」を知るチャンスは、いつか来るその瞬間にしかないのかもしれませんね。
『死とは何か』というタイトルのこの本は、池田晶子の死後『私とは何か』『魂とは何か』と共に刊行された3部作です。また、『死とは何か』の中に、亡くなる1ヶ月前の時に書かれた未発表原稿が入っており、著者本人が死に直面しながらも、よくこれほどまでに冷静に死と向き合えたものだと、用意には想像できない精神力の強さに驚かされます。
いかがだったでしょうか。『14歳からの哲学』が有名ですが、それだけではないことがお分かりいただけたかと思います。実際、池田晶子の著作を書店で手にとってみて、興味が湧いたものから読んでみることをおすすめします。文章は平明ですが、内容はとても「考える」ことを必要としているので、きっと読者を成長させてくれる本となります。