細川貂々は、コミックエッセイのスタイルの漫画が人気の作家です。まだそれほど「うつ病」がポピュラーではなかった頃に、「うつ」という病気を、分かりやすく取り上げた『ツレがうつになりまして。』で、大ブレイクしました。
細川貂々(ほそかわてんてん)は、1969年9月16日埼玉県行田市生まれの漫画家でイラストレーターです。
セツ・モードセミナーを卒業した後、様々な職業を経て、1996年に少女漫画誌『ぶ〜けDX』にて漫画家としてデビューしました。2006に発表した『ツレがうつになりまして。』はベストセラーとなり、それから後、コミックエッセイという形で、趣味や日常生活についてなどの著作を多く発表しています。
今も昔も、洋の東西を問わず、ストレスのない環境なんてあった試しはないでしょう。ただし、適度なストレスや緊張が成長をもたらすのに対して、過度のストレスは人間の心を折り、病気にしてしまいます。これが精神面で現れたのが、うつ病です。
明るく元気で、頑張り屋の夫が、ある日突然うつ病になっていました。当初困惑していた著者も夫を見守り、支えていきます。そんな2人の二人三脚の日々が綴られた物語です。
- 著者
- 細川 貂々
- 出版日
- 2009-04-01
本書が出版されるまでは、うつ病について書かれた本というと、専門書的で一般読者には難しい、又は途中で読むのをやめようかと思うほど、苦しさや辛い胸の内を綴ったものが圧倒的な割合をしめていました。
しかし本書は、表紙に大文字で書かれるほど「うつ病」が大きなテーマとされていますが、読み進めるうちに感じる居心地の悪さや悲壮感を、あまり感じません。コミックエッセイという形で書かれていることも、関係しているのかもしれませんが、テーマに対して気軽に読むことができます。
文字にすると、言葉の選び方や受け手側の状況で、同じことが書いてあっても、想像する映像が変わってきます。しかし、例えばうつの症状がひどくて、ご主人が布団に入ってシクシク泣いている絵が書いてあれば、細かい状況説明はいりません。症状がひどい状態なのだな、とすぐに分かるのです。
時として、詳細な心の動きや説明が読み手側を苦しくさせることもあるでしょう。しかし、例え同じ内容を扱ったとしても、ゆるキャラのようなほんわかとしたイラストで描かれていると、不思議とすんなり読めます。
この本がロングセラーになっているのは、家族がうつになった時どういう風に接したら良いのかが、ものの1時間ほどで解る(読める)ということと、ただの闘病生活を見守るということではなく、病気を通して著者自身が成長していく過程が見られるからではないでしょうか。
著者夫婦が何だかお互い上手く行かないことばかりが続いていて、2人揃って失業中だったある日、偶然行ったペットショップで、余り物のイグアナと出会うところから、この話は始まります。
専門外でペットショップでも持て余し気味のイグアナを、なけなしの一日分の食費(千円)で買うことになった2人でしたが、このイグアナと出会ったことで、夫婦はイグちゃんのためにと、少しずつ変わっていったのです。
- 著者
- 細川 貂々
- 出版日
- 2011-04-12
イグアナが2人のもとにやって来たからといって、すぐに暮らし向きが良くなったわけではないのですが、誰かのために何かをしようとする気持が2人に芽生えたことは、大きな変化だったようです。
「わたしはダラダラ過ごしても生きていけるけど、イグは私がちゃんとやってあげないと生きていけないんだな。誰かが必要としてくれるのっていいかも、そんなことに気づいた新しい生活のはじまり」(『イグアナの嫁』より引用)
そもそもペットショップでイグアナを託されたときから、すでに「このイグアナのために」という気持を、無意識に感じていたのかもしれません。自分たちにとってはポンと出せない金額のものでも、イグちゃんのためと、高価な紫外線を出す特殊なライトを買ったり、寒くないようにヒーターや温室も用意したりしました。
この後も細川貂々自身、いろいろ自分ができそうなことをやってみたり、漫画の連載が決まって喜んだり、その漫画の連載が半年で終わってしまい意気消沈したり、目まぐるしく良い時、悪い時を味わいます。また、最大の危機として、夫がうつ病になってしまい、その闘病を支えることになるのです。
本人は自分のことをネガティブクィーンなどと評していますが、細川貂々自身が前向きだったからこそ、乗り越えられたということは、明白です。確かに、常にマイナス思考の方から入ってはいきますが、それでも夫のため、イグアナのため、自分が頑張らなくてはと変わっていく姿は、ドラマチックでもあります。
細川貂々の初めての本『ぐーぐーBOOK』を再編集したのが、この本です。絶版になっていて、なかなか手に入らない幻の本でしたが、ここにこうして蘇りました。
何でも不眠気味の独身の若い女性イラストレーターが快適な眠りを求めて、色々調べたことを頑張ってイラストエッセイで書いてみました、というコンセプトで作ったものがベースになっているそうです。
- 著者
- 細川 貂々
- 出版日
- 2009-04-01
著者は既婚者ですが、この本は「独身女子イラストレーターが不眠気味で、眠ることに興味を持って調べてみました」的な原本です。ちょうどご主人はうつの真っ只中で、著者は来る仕事は拒まず状態でした。担当さんにいわれたことをそのまま本に反映させてしまったことが、のちのち著者としては後悔があったようです。
だからこそ、今回再編の際に、あまりに作り物的なところをカットしたそうな。それもスッパリ、未練なく削除したと言い切っています。自分の名前で出すものだから、それ相応の責任を持ちたかったとのことでした。
睡眠に対しては、著者自身のこととしてではなく、ご主人がうつで睡眠障害になっていたりしていたため、より良い眠りをとるには、ということを人より考えていたようです。
眠れないときの過ごし方から始まって、食生活や日常生活の過ごし方、お風呂で快眠を促すような入り方を工夫したり、運動をしたり、枕や寝具にこだわったり、睡眠環境を整えたり(照明にこだわったり、部屋の温度にも気を配ったり)、安眠できる様々な方法が載っています。
今晩から試してみたくなるものばかり満載の、コミックエッセイです。
スーパーサラリーマンだった著者の夫が、うつ病になってしまった後の物語です。ご主人のうつ病が良くなってきた時、彼が突然専業主夫宣言をします。
著者の仕事が軌道に乗ったことや、もともと家事があんまり得意ではなく、むしろ嫌いという感情もあったので、家事好きが家事をしたほうが良いと、主夫になることを著者も了承するのですが……。日々の家事のこと、慣れていなくて失敗したことなどが、ほのぼのとしたタッチで描かれています。
- 著者
- 細川 貂々
- 出版日
- 2005-12-12
一般的に男性は外で仕事をして、女性が家で家事をを行うものという考え方が、昔ほどは強くないとはいえ、日本人の考え方の根底には「男は外、女は家」というものが少し残っていると思います。
本の中でも、著者の夫がアンケートに答えるという場面で、主婦と自営という自分の職業に当てはまるものに丸を付ける時に、主婦に丸を付けられない現実という触れ方をしていました。2人で選んだことなので、他人がとやかく言うこともないはずなのに、まだまだ偏見があるということでしょう。
実際のところ、家族や夫婦の形も1つのモデルケースがあって、皆それに近づけるようにしているわけではないはずです。十人十色で、人それぞれ幸せのカタチも、何通りもあってもよいでしょう。いつまでも男が女がという役割分担論はナンセンスだともいえます。そういう固定観念を壊してくれる本だとも言えるでしょう。
著者が自分自身の今までの歩みを、十牛禅図になぞらえたコミックエッセイ。十牛禅図とは、中国は宋の臨済宗の禅僧、廓庵という人が描いた、悟りに至る10の段階を、10枚の絵と詩で表したものです。
著者は今まで通ってきた人生の道程を、10の段階にそれぞれあてはめて、自らの半生を辿っています。
牧人が牛を探す図が主だった主題ですが、自分が牧人で、牛が自分の心として、自分探しの旅に出た著者が紆余曲折の末、今の自分になる姿を綴った作品です。
- 著者
- 細川 貂々
- 出版日
- 2009-12-13
十牛禅図は10の場面に分かれていて、1尋牛(牛を探す)2見跡(牛の足跡を見つける)3見牛(牛を見つける)4得牛(牛を捕まえる)5牧牛(牛を飼い馴らす)6騎牛帰家(牛に乗って家に帰る)7忘牛存人(牛のことを忘れてしまう)8人牛倶忘(自分のことも忘れる)9返本還源(すべて元通りになる)10入鄽垂手(世俗に戻り人々を悟りに導く)となっています。
しかしながら、この本は十牛禅図を解説しているのではありません。この十牛禅図という枠組みを借りて、自分というものを否定的にしか見られなかった著者が、ご主人と出会い、少しづつ変わっていきます。ただ、それでそのままトントン拍子で物事が進まないのが世の常。
そこから漫画を描きたいと思う気持ちはあるものの、モチベーションを常に保つことができず、浮き沈みを繰り返します。そんな著者の大きなターニングポイントが、明るく頼りになるご主人が「うつ」になってりまったことでした。自分を支えてくれた相手を、今度は自分が支えなければ、との思いが彼女を変えたのです。
ご主人の病気が大きなきっかけとなり、物事をプラスにとらえようとしたり、大丈夫と言うようになったり……。そうしているうちに、「人生は、自分自身が楽しめなければいけない」、「諦めてばかりいたら、何もできない」ということに気づくのです。
今、行き詰まりを感じていたり、何をやっても上手くいかないと感じていたりする人が、元気を取り戻すきっかけになるかも知れない本書を、是非読んで見てください。
細川貂々の本は、コミックエッセイという形のものがほとんどで、読もうと思ったら、すぐに読めてしまうのが、魅力です。ただ1回読んでおしまいではなく、日々の生活で落ち込んだ時に、何度も読んで元気になりたいと思う本です。そんな元気をくれる細川貂々の本を是非読んでみてください。