それぞれの時代における事柄や、当代の人間の機微を魅力的に、また臨場感たっぷりに感じさせてくれるのが歴史ものの特長ですよね。歴史をモチーフにした漫画はたくさんありますが、今回はその中でもおすすめの少女漫画をランキング形式でご紹介します。 スマホアプリで無料で読めるものもあるので気になった方はそちらもどうぞ。
紀元前の戦乱の世にあった「亜国」の姫である亜姫(アキ)と、奴隷の少年・薄星(ハクセイ)とが織りなす心の交流を描く本作。物語は二人を軸に、国の統治や侵略など歴史の流れを組み込んで展開していきます。
亜姫は女であるがゆえに、実父からも冷遇され、後妻からも疎まれていますが、卑屈になることなく日々を過ごしていました。ある日、金の髪と天の色の眼を持つ薄星と出会い、物語は動きはじめます。
女王の花
2008年08月26日
互いに勢力争いを繰り広げる、亜国・土国・黃国・曾国という国々に囲まれた戦国時代を舞台に、国の統治やそこで暮らす人々の人間関係、恋愛模様などを織り交ぜて展開する重厚なストーリーを楽しめます。
幼い頃に出会った亜姫と薄星には、片や親からいじめられ、片や奴隷として虐げられるという、似通った部分があり、それゆえ強い絆で結ばれすことになりました。特に、奴隷という立場から救われた薄星は、亜姫に心からの忠誠を誓い、亜姫を守り従う頼りになる従者へと成長するのです。
しかし、敵対する妾の土妃の策略によって、亜姫の母が毒殺され、亜姫も人質として黃国へと送られる事になってしまいました。しかし亜姫は、黃国で力をつけて「亜国に戻る」ことを誓い、奮闘します。
いつしか愛し合うようになる2人ですが、そこには身分の違いやお互いを想い過ぎるがゆえの葛藤があり、そうやすやすとはうまく関係が進まないのです。果たして2人はどうなってしまうのでしょうか?
亜姫は無事に亜国へ戻ることができるのか? 亜姫と薄星の恋の行く末はどうなってしまうのか? ドキドキしながら楽しめるストーリーは必見です。
原作は上田秋成の作で、江戸時代の怪異小説集。漢文を交えた流麗な文章で綴られる、恐ろしくも情緒あふれる物語です。
この文庫本では、『雨月物語』の中から有名な「菊花の約」「浅茅が宿」「吉備津の釜」「蛇性の婬」の4編が漫画化されています。原文の雰囲気を残した、しっとりと格調高い作品に仕上がっているのはさすがです。
- 著者
- 木原 敏江
- 出版日
- 2001-07-01
『雨月物語』で有名なのはやはり「究極の同性愛」とされる「菊花の約」。「菊花の契り」といえば男色(いわゆるBL)の雅語にもなっていますよね。9月9日を陽が重なる重陽の日として菊酒を飲む習慣は、陰陽五行説に基づいた中国の習慣です。
また「蛇性の婬」は「白蛇伝」「娘道成寺」と言い換えるとピンと来る方も多いのではないでしょうか。「白蛇伝」は正確には中国・明代の白話文学集『警世通言』内の1話「白嬢子永鎮雷峰塔」です。そして日本に古くから伝わる「安珍・清姫伝説」をベースにしたのが『娘道成寺』。これらふたつを元にしたのが上田秋成の「蛇性の婬」であるようです。
蛇と人間との恋物語は日本と中国、どちらにもあったのですね。
こんな風に『雨月物語』には中国の文学も大いに影響しているのですが、木原敏江はその原典もたどり、ジャパニーズ・ホラーというよりはむしろ男と女(あるいは男と男)の愛情の深さゆえの物語としてまとめあげています。
21世紀に入っても江戸時代が続いているというパラレルワールド。江戸開府から405年後の江戸を舞台に繰り広げられる、コメディタッチな少女漫画が『ちょっと江戸まで』です。
ラテン系のノリをした「チョイ悪セクスィー旗本」である桜井家当主が、愛人に生ませた子どもの数は実に11人! ……と思っていたら、死に際にもう1人いることが発覚して……!?という冒頭から物語は始まります。その最後の1人の子どもが、本作の主人公・桜井そうびです。
- 著者
- 津田 雅美
- 出版日
- 2009-01-05
父親の後を継いで桜井家の当主となった貴晄は家臣に、箱根に住むというそうびの様子を探りに行かせます。すると家臣は、そうびに貴晄の面影と武士らしい素質を見出し、江戸へと連れ帰ってしまいました。
「山育ちなんで 山菜や獣なんかの旨いのを採ってこれんです」と言うそうびは、泥棒も1人で退治してしまうほどたくましく、鍛えれば立派な武士となるに違いありません。また、「自分が身分ある方との子だとは聞いてはいましたが 何かしてもらおうとは思いません」と、他人をアテにしないドライさも持っている、さっぱりとした性格をしています。
そんなそうびは、自分の兄である貴晄とともに桜井家で暮らすことになり、武士として鍛練しながら学校へ通うことになるのですが、活発でたくましいそうびは、実は女の子だったということが発覚するのです。
ボーイッシュでサバサバしたそうびは、学校で出会った水戸家の跡継ぎ・廸聖に気に入られ行動を共にするようになるのですが、この廸聖が女の子のようなガーリッシュな風貌だけど、男の子という設定がまた面白いですね。
様々な騒ぎを起こしながら、次第に絆を深めていくそうびと廸聖の関係性はどうなっていくのでしょうか? 2人の行く末から目が離せません。
池田理代子の『ベルサイユのばら』には、木原敏江の「フィリップ」を真似た姿のサン・ジュストが少しだけ登場します。髪型もボブスタイルで『摩利と新吾』の鷹塔摩利そっくり。
そのことと直接関係があるどうかは定かではありませんが、レトロ少女漫画ファンならばあのシーンを思いだし、熱い視線を注がずにいられないのがこの『杖と翼』。 池田の「ベルばら」から30年近くの時を経て、木原敏江が描くサン・ジュストの物語です。
- 著者
- 木原 敏江
- 出版日
フランス革命にて恐怖政治を行ったロベスピエールの片腕、サン・ジュストことレオン。国民議会での演説によって、ルイ16世を死刑に導いた人物です。
「努力しなくても人並み以上になんでもできてしまう」レオンがようやく見つけた、命をかけて打ち込めるものとは、革命だったのです。
少し絵柄が変わっていますが、才気あふれる美青年として描かれたレオンはやはり「フィリップ」を彷彿とさせます。
16歳の主人公・万里子の夫は、30歳以上年の離れた父の親友である青山俊というおじさんです。
父親が残した莫大な借金返済との引き換えの結婚でしたが、幼いころから俊にあこがれていた万里子にとっては苦痛ではありません。しかし、パリへの新婚旅行の最中に乗車した「オリエント急行」の中で、事件は起きました。
様々な国を舞台に、恋や冒険が繰り広げられる『マダム・プティ』は、読後の爽快感ある珠玉の1冊です。
- 著者
- 高尾 滋
- 出版日
- 2012-10-19
オリエント急行の中で遭遇した事件とは、まさかの俊の死亡事件でした。 悲しみに暮れる万里子ですが、実は俊は生きていて、異国の恋人と駆け落ちをしてしまったということを聞かされます。かなり怒涛の展開ですよね。
さらには、オリエント急行に乗りこんだ当初から、傲慢なだけだと思っていたニーラムという名のインド人青年との出会いが、万里子の心を揺り動かしていきます。不遜でなれなれしいニーラムの無神経さが万里子を怒らせることになるのですが、逆に怒っている万里子にキュンとしてしまう変わり者のニーラムが、だんだん憎めなくなってくるから不思議です。
今後、万里子は様々な国や地域へと赴いていくことになりますが、その土地土地での冒険物語としても楽しめる1冊。オリエント急行で急接近した万里子とニーラムの恋の結末が気になって、ページを捲る手が止まりません。
『マダム・プティ』については<無料で読める漫画『マダム・プティ』の魅力を最新10巻まで全巻ネタバレ紹介>で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
本作の舞台は明治時代の旧制高校・持堂院。
当時の高等学校は全寮制。現在では大学の教養課程にあたるエリート養成機関でした。マントをはおり、制帽をかぶり、高下駄を履いて寮歌を歌いながら闊歩する「バンカラ」というスタイルはもともと旧制高校生の象徴です。
日本男児らしい見た目の印南新吾と、ドイツ人を母に持つ中性的な美貌の鷹塔摩利(「フィリップ」のひとり)は幼なじみの同級生。
いずれ劣らぬ文武両道・眉目秀麗のふたりは、神棚に並ぶ一対の徳利にたとえて「おみきどっくり」と呼ばれる仲良しです。
- 著者
- 木原 敏江
- 出版日
個性豊かな仲間たちと過ごす、笑いあり涙ありの高校生活。
序盤のオムニバス形式のストーリーから、次第に物語は摩利が密かに抱きはじめた、新吾への苦しい片思いへ。かたや、全校生徒に摩利との関係を問い詰められても「上か下かは……じゃんけんで決めようと思う!」と真顔で答える、どこまでもまっすぐな新吾。親友である摩利の恋心をどう受け止めるのでしょうか?
関東大震災に、世界大戦……激動の時代もふたりの絆に暗い影を落とします。ラストは涙なしに読めません。
また、作品内の着物の描写が正確なことにも驚かされます。ふんわりした総絞りの長羽織、ぱりっと糊のきいた紗の夏着物、絽の夏帯。質感まで描き分けられた着物が物語に奥行きを与えます。
なかでも顕著なのが、摩利の家に集まってお正月を過ごす登場人物勢揃いのシーン。旅芸人の女の子は小紋柄のアンサンブルを着てきました。女学校をやめて働いている少女に恋人が工面したのは、あっさりした柄行きの振り袖に帯はお太鼓結び。そして女学校に通う裕福なお嬢様たちが着こなすのは、紋付きの豪華な振り袖に飾り結びをした豪華な帯。
……というように、着物だけでみごとに少女たちの境遇を描き分けてあり、ひそかに必見の場面です。
この『摩利と新吾』は木原敏江初の長期連載作品だったとのことで、1巻あたりを読むとこのラストまでの構想がはじめから作者にあったとは思えないのですが、だからこそ、笑って泣いて成長する「心優しき野蛮人たち(ヴェッテンベルク・バンカランゲン)」の姿がリアルな熱量をもって胸に迫ってくるようです。
『オトメン(乙男)』をヒットさせた菅野文による本作は、大政奉還が行われた江戸の終焉を舞台に、かつて京都で名を馳せた「新選組」の終焉をも描き出す物語です。
京都時代の新選組ではなく、鳥羽伏見の戦いや箱館戦争など史実をもとに、戊辰戦争の最中、北上と戦いを続けた新選組の姿が描かれています。
「碧に還る」「散る緋」「殉白」の3編が収められた短編集として刊行されたものです。
- 著者
- 菅野 文
- 出版日
- 2004-09-17
史実のうえでは、宮古湾海戦で戦死したという野村利三郎、最後の新撰組隊長である相馬主計、そして京都時代には「鬼の副長」として恐れられた土方歳三の、それぞれの最期の物語が、打ち上げ花火のように美しく儚く、そして力強く描かれた一冊です。
3編から構成されていますが、どの物語にも土方歳三がキーマンとして登場します。人物描写が巧みで、特に、近藤勇という指導者を亡くした後、「何のために戦うのか」「新選組とはなんなのか」を問いながら、己が信じた「義」のために戦う土方の姿に、野村も相馬も力づけられ魅了されている様子がよくわかるでしょう。
史実に忠実に構成されているため、物語の全編に渡ってもの哀しい雰囲気が漂っていますが、土方・野村・相馬のそれぞれの哀しいだけではない生き様をまざまざと見せつけられ、読む手と涙が止まりません。
少女漫画の枠を超えた、濃密で重厚、史実に基づいた綿密なストーリーを楽しめる傑作品なので、ぜひ1度手に取ってみてください。
新選組(土方歳三)ファンはもちろん、そうでない人でも新選組をきっと好きになってしまうはずですよ。
歴史好きに絶大な人気を誇る「新選組」を題材にした本作は、主人公・神谷清三郎が腕を鍛え、人間的にも成長してゆく姿を描いた物語です。
幕末の京都で「壬生浪士組」に入隊志願した神谷清三郎は、その腕っ節と度胸で見事入隊を許されることになります。しかし、隊内での隊士達の軽い振る舞いに落胆し、隊を抜けようとするのです。しかし、実は軽薄な振る舞いには理由があって……と歴史の流れを軸として、様々な出来事が展開していきます。
風光る
1997年10月25日
清三郎は、父と兄の3人で診療所を営んでいましたが、長州反幕府派の浪人に診療所が燃やされ、さらには父と兄が殺されてしまう、という過去を持っていました。そこに、たまたま近くを訪れていた沖田総司に助けられ命を取り留めます。
父と兄の敵討ちのため入隊を志願した清三郎ですが、実は彼は神谷清三郎ではなく、男装した少女・富永セイだったのです! 神谷というのも偽名なんですね。性別を偽って入隊したことが序盤で沖田総司にバレてしまうのですが、沖田は自分の胸の内にその事実を隠し、セイとの交流を深めていきました。
徐々に仕事にも他の隊士にも慣れてきたセイですが、自分が沖田に恋情を抱いていることに気付きます。もともと、助けてもらった時から憧れはあったのでしょうが、「恋」に発展してしまうと大変です。「武士」としての想いと「女の子」としての気持ちの間で揺れるセイの姿は健気で、つい応援したくなる可愛らしさを持っています。
さらに、続々と登場し、物語を彩ってくれる新選組のキャラクター達も、個性豊かで魅力的です。
フィクションと史実がしっかり融合した骨太の少女漫画なので、未読の人はもちろん、何度読んでも楽しめるはず。自信を持っておすすめします!
歴史をモチーフにしたおすすめ少女漫画、いかがでしょうか? どの作品も、読んで面白い、恋模様にキュンとする、さらに時代を懸命に生きる人間のリアルな物語ばかりなので、興味を持ったものから読んでみてください。きっと以外と気軽に読めて、歴史モチーフの漫画を好きになってしまうこと請け合いです。