経営理念は、会社の存在意義を明文化したもので、社員のモチベーションを上げ、企業のブランドイメージをつくる効果があります。どんな理念があれば人は共感し、行動するのか、成功している企業は何が違うのかを考えさせられる本を選びました。
経営理念とは、「会社や組織が何のために存在しているのか」を誰にでもわかるように言い表したものです。それは会社や組織が大事にしている「信念」と言うこともできます。
創業者は誰でも、この会社を通して、社会をこんな風に変えていきたい、こんな価値を提供したい、など、さまざまな想いを持っています。それらを一緒に実現する仲間を集めるときには、想いを共有することが必要です。その際、大きな働きをしてくれるのが経営理念です。
創業者の想いを端的に表した理念があれば、それに共感してくれる仲間を集めやすくなり、人が増えてきてトラブルになりそうなときも立ち返れる柱になってくれます。また、外部の人が「この会社はどんなことをやっているのだろう」と思ったときにも、打ち出された理念があれば、ある程度イメージをわかせることができます。
ただ、経営を続けていくと、経営理念がただのお飾りになってしまう例も少なくありません。少ない言葉で会社の方向性を示しているため、つくりかたや社員の受け取り方次第では、理念は「きれいごと」としか感じられなくなってしまうのです。
一方で、社員が常に理念を意識し、モチベーション高く働いている会社もあります。この差はいったいどこから生まれてくるのでしょうか。
今回は、経営理念に関するおすすめ本を5冊、ご紹介します。経営理念とは何なのかというところの理解に役立つ本や、具体的な理念のつくり方、浸透のさせ方などの手法が書かれた本です。経営者の方はもちろん、人事担当者の方、ブランディング担当の方などには読んでほしい良書ばかりです。
経営理念はもともと人の頭の中にあるものなので、いざ学ぼうと思ったときに手ごたえを感じにくいと思います。そこでまず、経営理念をうまく実現させている企業の事例をいくつか学んでいくことをおすすめします。
- 著者
- 関野 吉記
- 出版日
- 2016-04-02
本書にあるのは、8つの企業・団体のブランディングの成功事例です。株式会社ニトリなどの有名企業から、伝統工芸のブランディングプロジェクトまで、幅広く掲載。ブランディングをテーマとした本ですが、ブランディングとは社外だけでなく社内にも必要なものであり、そこには経営理念の存在が欠かせません。
商品やサービスの質を上げていくのは、揺るぎない経営理念の浸透です。一人ひとりが自社の経営理念(存在意義)を理解し行動していくことで、企業ブランドは定着していきます。
著者の関野吉記氏は“企業の「想い」をブランドにまで高める「リブランディング」”を中心に、2000社以上のコンサルティング実績を持つ人物。業界や企業規模などの異なる事例を数多く見ていくことで、経営理念とは何か、どのようにつくり、浸透させていけばいいのかということが少しずつ見えてくるでしょう。
経営理念についての定番書といえば、この『ビジョナリーカンパニー』です。アメリカで厳選された、歴史と実績のある18の企業を6年間調査した結果をまとめた本書。実績を上げている企業は、いったい何が優れているのか。会社が活力を持って永続する共通点として導き出されたのは、経営理念でした。
- 著者
- ジム・コリンズ ジェリー・I. ポラス
- 出版日
- 1995-09-26
マネジメントの重要性は経営者であればだれもが理解していると思いますが、最も重要なことは管理システムをつくる、福利厚生を整える、成果に応じてインセンティブをつけるなどの手法ではなく、一貫性を持った基本理念があることです。
IBMもディズニーも3Mも、一貫した理念のもとに企業文化が生まれ、それに基づいた行動で成果を残し続けているのです。「重要なのは指導者ではなく、目標」という記載があるように、カリスマ経営者の存在よりも、未来を見つめ、ビジョンのある企業の方が大きなインパクトを与えることができます。
調査対象となった18社が、ライバル企業と比べてどこが具体的に優れていたのかは、それぞれに解説されており、世界的大企業の歴史を学びながら、企業が大きくなる理由を感じ取ることができる贅沢な1冊です。
理念の概観がつかめたら、次は経営理念のつくり方を学べる本をご紹介します。ランチェスター戦略の第一人者であり、経営コンサルタントとして活躍する著者が、たくさんの講演やセミナーを行う中で感じたことから生まれた本です。
- 著者
- 坂上 仁志
- 出版日
- 2011-11-22
著者・坂上仁志氏が感じたことは、「あなたの経営理念を1分で話してください」といったときに大半の人が言えないということ。これは理念を持っていないのではなく、「信念としての強い考え方」がないのだといいます。ピラミッドの土台のように理念があり、その上に戦略・戦術・行動がつくられていくため、理念がなければ会社を維持することができません。
本書では概念の似ている社是や社訓、ビジョン・ミッション・バリューの違いが分かりやすく示され、「経営理念って何?」という初心者にも適しています。また、全体が横書きでコンパクトにまとめられており、非常にわかりやすいつくりになっているのも特徴。
巻末には参考資料として「経営理念作成フォーマット」がついているので、これを活用すれば、手順を1つ1つ確認してつくることができるでしょう。
考え抜いた経営理念をつくったら、組織に浸透させていく必要があります。理念が浸透しなければ、組織はまとまりを持たず、社員は働きがいを感じることもない。その結果、成果も上がりにくくなるのです。本書を読めば、「働きがいのある会社」とは何なのかを感じることができます。
- 著者
- 羽田 幸広
- 出版日
- 2017-04-08
社内で「日本一働きたい会社プロジェクト」を立ち上げ、組織変革を推進していった結果、2017年「ベストモチベーションカンパニーアワード」1位を獲得した株式会社ライフル。7年連続で「働きがいのある会社」ベストカンパニーにも選出された、同社の改革の全貌を明かしています。
プロジェクト成功の立役者となった人事本部長である著者が語るのは、「今後、企業の盛衰は『社員が夢中で働けるかどうか』で決まる」ということ。そして、夢中で働く社員を増やすために欠かせないのが、「経営理念に命を吹き込むこと」と書かれています。
理念を単なるきれいごとで終わらせず、しっかりと個人の肚に落とし込むために同社が行った施策が、チーム分けです。理念に関して、「つくるチーム」「伝えるチーム」「チェックチーム」の3つに分けて浸透を行うこと。それぞれがさらに細分化されており、「ここまでやるのか!」と驚く人も多いでしょう。人事担当者などには特におすすめの1冊です。
ここまで4冊で理念について考えてきたら、最後はより深いところの哲学を学び、知見を深められる本をおすすめします。松下幸之助「心得帖シリーズ」の5作目であり、松下氏が一代で世界的企業に築き上げた要因を自ら分析したのが本書です。
- 著者
- 松下 幸之助
- 出版日
- 2001-05-01
一番初めにある項目が「まず経営理念を確立すること」。ここは言うまでもなく、必読です。60年間にわたり経営を行ってきた著者が最も感じているのが、経営理念の大切さだと言います。“この会社は何のために存在しているのか”という明確な指針があってはじめて人も資金も技術も生かされていくのです。
最初は松下氏も、理念を強く意識していたわけではなく、良いものをつくる、取引先を大事にする、勉強し続けるといったことを一生懸命やっていただけでした。そのうちに、もっと高次の“使命”が必要であると感じて理念をつくったところ、より強固な経営ができるようになったのです。
目次にある「ことごとく生成発展と考える」「自然の理法に従う」「政治に関心を持つ」など、一見経営とは無関係に思える内容も、読んでいくとなぜそれが経営哲学なのかがわかります。経営者は、社会における企業の位置づけや、自分の影響力などをより大きな世界観の中でとらえていく必要がありますが、そのためにマインドを切り替える際、必ず役に立つ本だと言えるでしょう。