人間の思考やコミュニケーション・システムを解明する新たな方法論「編集工学」を提唱し、現在の情報化社会に一石を投じた松岡正剛。理系文系の垣根を超えた松岡の思考の源流に触れる5冊を紹介します。
松岡正剛は、1944年に京都の老舗の呉服屋に生まれます。早稲田大学に進学するも、父親が多額の借金を残して死去したため中退。広告会社に勤務し借金を返済した後、友人らと工学舎を設立し、あらゆるジャンルを融合した雑誌『游』を創刊、編集長となります。この雑誌は、アートや思想など様々な分野に衝撃を与えました。
東京大学客員教授、帝塚山学院大学教授を経て、松岡正剛事務所を設立。「編集工学」を提唱し、Web上の学校「イシス編集学校」を開講するなど、情報文化と情報技術をつなぐ研究開発に多数携わりました。2000年からは、書評サイト「千夜千冊」の執筆を開始し、幅広い分野に及ぶサイトの書評は1600冊を超えています。
本書では、松岡正剛の子ども時代に始まる読書遍歴を振り返りながら、多読をするにあたっての読書に対する心構えや、良い読書のために気を付けること、読んだ本の内容の整理方法、果ては書棚の整理法まで、細かく解説されています。多読の達人である著者が説くのですから、その信頼性は絶大です。
読書と、著書が展開する方法論「編集工学」との関係や、デジタル社会との関係など、松岡正剛の仕事の一端も紹介されています。編集担当者の高田俊哉を聞き役に、「本との向き合い方がわからない」「本をたくさん読みたいけど方法がわからないと」悩んでいる人にとって、心強い味方になるでしょう。
- 著者
- 松岡 正剛
- 出版日
- 2009-04-08
「本は洋服と同じ。読書は、洋服のように組み合わせで楽しむもの」と松岡正剛は言います。そして、「センスのいい多読にはトレーニングも必要、読書は、アスリートみたいなもの」とも。読書は、硬く身構えてするものではありませんが、より良い読書をするたの練習も存在するのです。
それを証明するかのような松岡正剛の読書遍歴が、また興味深く、数々のエピソードなども親しみを持って読めます。彼の読書の原点は、母親のクリスマスプレゼントであった『ノンちゃん雲に乗る』でした。先夜千冊のイメージが先行する松岡正剛ですが、松岡の多読は柔らかく、自然体で行われてきたのです。
中でも「マーキングやマッピングで読んだ本を整理する方法」は、そんな方法があったのか!と目から鱗ものの驚きを感じることでしょう。他にも、何冊もの本を同時に読む方法や、「キーブック」の話などは、多読家の人にとっても、改めて自分の読書を振り返るきっかけになるはずです。
「新しい本」を読むのも楽しいですが、「新しい読み方」をしてみるのも、楽しい事だと思いませんか?
この本では、これまであまり顧みられることのなかった「弱さ」や弱さに潜む「フラジャイルな感覚」に注目しています。「フラジャイル」とは、壊れそう、儚いといった意味が含まれる言葉です。
不完全性やコンプレックス、生命の複雑性、ネオテニー(ある個体が、未成熟な要素を残したまま成熟したとされること)、境界、異端などのフラジャイルな感覚を、小説はもちろん、神話や昔話の登場人物、俳句に漫画、神事に至るまで、膨大な事例あげて「フラジャイルとは何か」というテーマとして論証しています。
弱さの中にこそ多様性があり、弱さこそ歴史を作る原動力であるかもしれない。弱さを軽視してしまった現代社会に警鐘を鳴らす一冊です。
- 著者
- 松岡 正剛
- 出版日
- 2005-09-07
本書の魅力は、取り上げられた事例の量の膨大さです。『家なき子』や『車輪の下』を例にあげたかと思えば、ギリシャ神話や泉鏡花、哲学があれば、物理学、生物学まで、取り上げられる例は多岐にわたります。それだけ、フラジャイルな感覚は多様で、一般的であったということでしょう。
そして、注目すべきは、「フラジャイルなネットワーカー」について書かれた章です。京都の売茶翁の例などは、報化社会に生まれつつある新しい社会運動を暗示しているように思えます。
松岡正剛の膨大な読書量に裏付けされた、社会の中で大切にされるべきことは何かについて論じたのが本書。社会を違う方向から論じてみたい人におすすめです。
現代人は、情報に取り囲まれて生活しています。そして、その中から必要な情報を取り出し、様々な場面で生かしているのです。それを松岡正剛は「編集術」と呼びます。人々が無意識に行なっている「編集術」の方法論を「実践稽古」と呼ぶ練習問題を交えながら、やさしく説いています。
「キーノート・エディティング」の様々な手法や12の編集用法、「らしさ」のショーアップなど、実用的な方法論を多数紹介。著者の言う、編集の時代に役立つ編集術の実践書です。
- 著者
- 松岡 正剛
- 出版日
- 2000-01-20
「編集術とは何か」を知りつつ、練習問題を解きながら理解できるのが、何よりも本書の良い点です。やさしく的確な練習問題がところどころにあり、それらに取り組むと、発想や思考が生み出されてくる過程が体感できます。
編集は遊びから生まれたと論じられる章では、具体的な子どもの遊びが例としてあげられます。遊びのルールが厳密化し、スポーツに発展していった過程を示し、「編集」というものが変化していく様子を具体的に示しているのです。
他の本でも編集術について触れられていますが、この本ほどわかりやすく編集術について書かれているものはないでしょう。今から編集術を知りたい、学びたいと思う人に、ぜひ読んで欲しい一冊です。
松岡正剛が、帝塚山学院大学の人間文化学部の教授として教壇に立った当時に担当した「人間と文化」の講義をもとにした本書です。世界をめぐる「意識」や「文化」が、発生、変化し、対立や融合を生んでいった様子を「編集」という見方を通して語っています。
全体を5講に分け、人間と文化、古代宗教からキリスト教はどのような宗教なのか、さらにヨーロッパと日本において、16・17世紀の文化にどのような変化が起きたのか、などについて言及。読んだ人が、今後の思考や方法を考えることを、やさしく促す本です。
- 著者
- 松岡 正剛
- 出版日
- 2006-12-25
大学生に向けた講義がもとになっているので、学生に馴染みの多い例を取り上げています。さらに平易な言葉で書かれているので、難なく読み解くことができるのが大きな魅力です。
文化や宗教についても、基本の概要から分かりやすく書かれているため、その後に語られる宗教や文化との関係性についても、きちんと理解しながら読み進めることができます。
『フラジャイル 弱さからの出発』で述べられているエッセンスも網羅されていて、高校までの学校教育とは違った見方から、歴史を見ることができるのもよい点です。興味を持って読んだ方には、きっと期待以上の読後感を味あわせてくれます。柔らかく世界を知るために、是非手にとってみてください。
『17歳のための世界と日本の見方』の続編として、エリザベス女王以降の近代と中東戦争にいたるまでの歴史と背景をわかりやすく解説したのが本書です。
帝国主義が促した資本主義を徹底的に解説し、日本の鎖国や開国の背景、ヨーロッパとアフリカの関係、二つの大戦に向かう歴史の流れとともに、カフカやフロイト、ダーウィンなど、思想、文学、心理学、生物学、哲学、文化など様々な方向から世界を編集し、20世紀を検証しています。
- 著者
- 松岡 正剛
- 出版日
- 2007-12-20
18世紀以降の世界の歴史は、二つの大きな大戦へ突き進む歴史。そのような時代の流れがよくわかる内容です。
資本主義社会による行き過ぎた世界の均質化をのりこえるためには、何が必要となってくるか。その答えに迫るためにもってこいの本です。所々にある松岡正剛自身の手によるイラストレーションも見どころとなっています。
特に現在の資本主義と大衆の関係が興味深い内容です。民主社会と消費社会が大きくなっていったことで国家をも飲み込んでいったグローバル社会で、日本人の「ものの見方」が重要になってくるといいます。ぜひ、『17歳のための世界と日本の見方』から通して読んでみて下さい。きっと世界の見方が変わります。
松岡正剛の本は、多岐にわたりますが、いずれも彼の提唱する「編集工学」に基づいて書かれています。松岡の本を手に取り、編集術に触れ、新たな発想や思考を生み出すヒントにしてみてはいかがでしょうか。