折原みとのおすすめ著書5選!エッセイや漫画も幅広く手掛ける作家

更新:2021.11.7

少女のあどけなさと瑞々しさ、大人の女性の知性とユーモア、その両方を併せ持ち乙女心を鷲掴みにする作家、折原みと。創作のフィールドにおいて、たゆまぬ探求と挑戦を続け、表現の幅を広げる彼女の名作を5冊厳選!その多彩な魅力に迫ります。

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創作のオールマイティプレイヤー、折原みととは

1964年生まれの折原みと。本名を矢口美佐恵(やぐちみさえ)といい、少女漫画家、恋愛小説家として知られています。

小学生の頃から漫画家を志し、高校時代には同人誌制作など本格的に活動を開始しました。高校卒業後は映画監督を目指して上京し、1985年、雑誌『JUNE20号』に「倒錯の保健室」、「愛の生徒会」を発表。同年夏には『ASUKA』で「ベストガールになりたいの」を発表し漫画家デビューにいたりました。

小説家としては、1987年に『ときめき時代 つまさきだちの季節』でデビュー。1990年刊行の『時の輝き』は110万部のベストセラーをたたき出し、高橋由美子主演で映画化もされました。

漫画や小説に加えて、エッセイ、絵本、詩集、料理本、CDなどマルチに才能を発揮する折原みと。2010年のバンクーバーオリンピックの際には、フィギュアスケーター安藤美姫の衣装デザインにも携わり話題を呼びました。

折原みとの珠玉の純愛小説

湘南で生まれ育った倉沢みちるは、高3の夏に中学の同級生の蓮見優斗と付き合い始めます。熱く眩しいひと夏を共に過ごした2人でしたが、優斗は留学することに。不運なすれ違いで会えずじまいのまま、悲しい別れを迎えます。

傷心のみちるは「小説オリオン」の新人賞に応募し、なんと史上最年少で受賞。それまでの静かな暮らしから一転、脚光を浴びた倉沢家は急激に変化していきます。

高3の運命的な恋から5年、再会した優斗とみちるは、再び共に過ごすようになります。愛する人のもとで大好きな小説を書き、幸せ絶頂のみちるでしたが……。試練を前に絆の強さが試される、心揺さぶられる純愛小説です。

著者
折原 みと
出版日
2017-04-19

一見ありがちな恋愛もののようにも見えるかもしれませんが、ベタな展開を予想してナメてかかると痛い目をみます。数多の乙女の共感を呼んだ甘く切ない折原節は、もちろん顕在。しかし本作には、甘いだけでは終われないリアルな現実、心に巣食う黒い闇、そして逆境にも負けずひたむきに生きていこうとする、強さと美しさがあります。

章ごとに異なる人物の1人称語りで展開される本作。心理描写の細やかさとリアリティーには舌を巻きます。特にみちるの一途な性格と、真っ直ぐさゆえの葛藤には、微笑ましさと歯がゆさ、いじらしさとじれったさなど、等身大のアンバランスな魅力があるのです。

多感な少女時代を経て、現実を突きつけられる大人の世界へと足を踏み入れたみちる。何度も障害に阻まれ、引き裂かれ、大人の分別を求められ、それでも愛する人の手を離さずに強く生きようとする純粋さに胸を打たれます。

600ページ近くずっしりとした読み応えですが、今後の人生の指針となってくれる宝物のような言葉にたくさん出会えることでしょう。生きるということ、そして愛するということについて考えさせられる1冊です。

折原みとの「イヌ充」エッセイ

「犬を飼いたい」という小学校からの夢。“おひとりさま”の折原みとが、幼少時の夢を強い決意で実現させたのは、30歳を過ぎてからのことでした。

東京から湘南へと移住し、車の免許を取得。ゴールデンレトリバーの子犬を家族として迎え、「リア充」ならぬ「イヌ充」ライフが始まります。犬と過ごす日々とそこで感じる喜び、訪れる出会い、楽しさと苦労、そのかけがえのない日々を、ユーモアたっぷり赤裸々に綴ったエッセイです。

著者
折原 みと
出版日
2012-09-14

作者の犬に対する愛情と優しさが、文章の端々から伝わってくる本書。数多く掲載された写真からは、飼い主と犬の絆が見て取れるようです。様々な苦労も伴う犬との暮らしですが、愛情を注げば注ぐほど全身でそれを返してくれる犬の健気さは、なんともいとしく愛らしい。言葉が通じなくても伝わる想いは、確かに存在するのだと感じさせてくれます。

確実にやってくる別れをも優しく見つめ、受け入れる覚悟をもって、家族として犬と接する作者の姿は、温かさに満ちています。幸せは享受するだけでなく、共に創り上げていくものなのだということを、思い出させてくれる1冊です。

世代を超えた不朽の名作

郊外の住宅地に引っ越してきた小学5年生の樹。ある日テレビ画面越しに、「誰かわたしの声を聞いて」という不思議なメッセージを受け取ります。樹は声の主に応え、“緑の王国(グリーンフィールド)”という世界を救うために立ち上がります。

勇者となった樹は、女王サラや緑の民たちとの出会いと冒険の中で衝撃の真実を発見していくのですが……。自然のかけがえのなさと生命の尊さを描く、冒険ファンタジーです。

著者
折原 みと
出版日

本書は、冒険ファンタジーという形式をとりながら、環境問題について説いた児童書です。しかし、その強いメッセージ性と完成された描写、ストーリーの巧みさから、質の高いエンターテイメント小説として大人が読んでも十分に楽しめます。柔らかな表現で紡ぎ出される文章は、心にそっと明かりを灯してくれるようです。

また本書は、自然破壊に関する教育的な側面だけでなく、冒険を通して変化する樹の成長の物語でもあります。登場するキャラクター達はなんともチャーミングで、樹が彼らと友情を築き、残酷な真実を前に勇気を持って立ち向かう様は、胸をじんと熱くさせます。

強いメッセージを秘めた本書ですが、説教臭さは皆無です。作者の願いと祈りが込められた結末は、私たちを優しく包む自然の声として素直に心に沁み込みます。読了後にはきっと、社会の発展とその中で犠牲にしてきたものの大きさに、思いを馳せることとなるでしょう。

キマグレンの名曲から生まれたストーリー

最愛の妻が亡くなって1年半。幼い息子2人を連れた真人は、癒えぬ傷を抱えたまま、海辺の街でカフェを営んでいました。

静かに毎日を過ごしていたある日、愛犬の死に落ち込んでいる少女と出会った彼は、彼女が書いた手紙にこっそりと返信をします。それ以降、自宅のポストはいつしか「天国に届く郵便ポスト」として噂となり、真人はポストを経由して亡くなった人への想いを託されることになるのですが……。

著者
折原 みと
出版日
2012-07-13

本書は折原みとが、音楽ユニットキマグレンの名曲「天国の郵便ポスト」にインスパイアされて書き上げた小説です。舞台は神奈川県の逗子市。初夏の日差しと潮風が吹く海辺の情景は、爽やかで心地良く、磯の香りすら漂ってくるようです。

妻に先立たれ深い傷を負った真人が、悲しみに潰れそうになりながらも日々奮闘し、息子2人を育てる姿には思わずエールを送りたくなります。

広まった噂通り「天国に届くポスト」を演出し、他人に成り代わって手紙に返信し続けることは、確かに偽善かもしれません。しかし、真人のついた小さな嘘は結果的に何人もの人を勇気づけ、生きる力を与えます。生と死の垣根さえ超えて大切な誰かに伝えたい、その想いの強さに胸が震えます。

誰もが心のどこかに抱える痛みに、そっと寄り添って癒してくれる、そんな温かな物語です。是非ともキマグレンの「天国の郵便ポスト」を聴きながら、本書の優しい世界に浸ってみてください。

折原みとが恋人達に贈る再生の物語

28歳の養護教諭奈帆は、高校時代に付き合った初めての恋人、シンタを事故で亡くした過去を持っています。10年を経ても古傷は生々しく痛み、過去に閉じ込められたままの奈帆。養護教諭として訪れた先の母校に、ある日死んだはずのシンタが、出会った時の姿で現れます。明かされる10年前の想いに記憶が呼び覚まされ、奈帆の心は揺れ動き……。時空を超えた恋の物語です。

著者
折原 みと
出版日
2006-12-19

鎌倉の四季折々ののどかな風景を舞台に、現在と過去が交互に展開される構成で描かれている本書。時間を飛び越えて追っていく2人の物語には、甘さと切なさ、幸福とほろ苦さが矛盾なく同居しています。

恋が始まる微妙な時間、ぎこちない告白、初めてのキス……。若い2人の緊張と鼓動が伝わってくるような繊細な描写に、思わず胸がきゅんとします。そして、一途な2人の熱い恋は、息苦しさや痛みも含め、全てが眩しく記憶される青春という時間を特別なものにしていくのです。

どんなに願っても、変わらない過去。しかし大切な人と出会い愛しあえた2人は、間違いなく幸せだったという、優しい肯定と希望を感じさせてくれます。前を向いて生きていくことの大切さを教えてくれる1冊です。

いかがだったでしょうか?柔らかな感性で綴られる折原みとの優しい世界は、日々の暮らしに埋没して忘れてしまった大切なことや、これからの未来を生き抜くヒントに溢れています。人生の節目節目で読み返したくなるような、たくさんの発見や感動に出会えることでしょう。

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