北大路魯山人とはいったい何者だったのでしょうか?その謎に迫ると彼の意外な姿が浮かび上がってくるのです。今回は多彩な芸術家である北大路魯山人のおすすめ本をご紹介します。
北大路魯山人は1883年生まれの芸術家です。1959年に76歳で亡くなるまで芸術家だけでなく美食家、料理家、漆芸家、画家、篆刻家、書道家など様々な顔を持ち、芸術全般において美の追求をし続けました。
私生活では6度の結婚と6度の離婚を経験し、息子を亡くしたり娘を勘当したりと波乱万丈な私生活を過ごしていました。勘当した娘については魯山人の死に際にも立ちあわせなかったという徹底ぶり。度重なる離婚や娘との関係など家族の愛に飢えることが多く、その寂しさを消し去るように芸術に全身全霊を投じた人生だったと言えるかも知れません。
様々な肩書きをもつ北大路魯山人でしたが、やはり代表的なのが美食家としての顔です。芸術全般に精通していた彼が生涯飽きることなく極めていたのが美味しいものを求めるという「味道」の道。本書ではそんな彼が書いた食べ物に関する文章が集められています。
- 著者
- 北大路 魯山人
- 出版日
- 1995-06-18
北大路魯山人は本書の中で料理の道に目覚めたきっかけをこのように語っています。
「僕が料理を始めた動機かね。どちらかと言えば、料理は昔から好きだったね。美味い不味いが判る方だったらしく、子どもの時から家の食膳に上るものを、いつも批評していたらしく、美味いとか不味いとか言っていたらしいね。一度くらい黙って食べたらいいだろうと、よく母なんかに注意されたものだ。」(『魯山人味道』より引用)
才能溢れる芸術家として知られる彼は、あたかも凡人には理解しかねないようなエピソードがあるのかと思いきや、彼の幼少時代には「黙って食べなさい」などと母親に注意される、温かみのある北大路魯山人の原風景あったのです。
北大路魯山人の親しみやすさはこんな所にも。本書で紹介されている料理の一つに「天ぷらの茶漬け」があります。昨日の天ぷらを網にのせて焦げ目がつくまで焼いて塩をかけて濃い目の熱いお茶をかける。ポイントは「てんぷらのつゆをかけてはならぬ。必ず生醤油か、塩をかけるべきである。」
読めば読むほど食の豊かさに気づかされる一冊。北大路魯山人が終生変わらず追い求めた美食の道をあなたも味わってみませんか?
美食家や書道家、芸術家などさまざまな顔を持っていた北大路魯山人ですが、じつは書道家としての評価はあまり高くありませんでした。しかし1996年にその評価を覆す書論が出版されたのです。それがこの『魯山人書論』。北大路魯山人の慧眼がうかがえる読者をうならせる一冊です。
- 著者
- 北大路 魯山人
- 出版日
- 1996-09-18
作者が評価しているのは西園寺公望、森鴎外、伊藤博文など公家、作家、政治家など今や「歴史の大物」となった人々。「字は人物を表す」とよく言いますが、その書を通しての人物評価はまさに痛快の極み。辛辣な評価に辛辣な評価を重ね、包み隠さず北大路魯山人の書道家としての意見を披露しています。今の時代なら辛辣な評価を繰り返すこと自体に批判が集まりそうですが、魯山人の批評は相手を蔑むための批評ではありません。自分はこう思うがあなたがそう思わないなら全く構わない、といった相手を尊重する余地を十分に残した批評なのです。
本書では自身の書道家としての歩みにも触れられています。書道家として中々満足のいく評価を得られなかった北大路魯山人ですが、実は書を始めたのは15歳の頃。世間の評価が得られなくても本人にとっては書の活動は思い入れの深いものであることが記されています。読者にとっては大変興味深い事実でしょう。
辛口の論評を繰り広げる中で絶賛しているものもあります。それはとある有名作家のとある道具なのですが……。続きは本書でお楽しみください。書道家としての北大路魯山人の確固たる書への思いが自由に展開する一読に値する一冊です。
『料理王国』は北大路魯山人が料理をテーマに書いた文章を集めたエッセイです。料理については書いても書いても足りないと言わんばかりに、伝統的な日本料理から中国料理、はたまた西洋料理まで世界中の「食」について自由に語った一冊になっています。
- 著者
- 北大路 魯山人
- 出版日
- 2010-01-01
料理の秘訣、鮎の食べ方、さらにはヒキガエルを食べた話まで。非常に幅広い、北大路魯山人にしかかけない様な魅力的なテーマで読者を楽しませてくれます。本書を読んでいるとまるで彼がご機嫌な様子で語る姿が目に浮かんでくるよう。自身が書いた「狂言『食道楽』登場人物 大名・目・鼻・口・手・心・耳」などというユーモアあふれるテーマもあります。芸術家として厳しい批評を繰り返す北大路魯山人と打って変わって、柔らかく陽気な北大路魯山人が楽しめるのが本書なのです。
一方
「近頃は化学調味料というものが流行して、味を混乱させている。単純な化学調味料の味で、ものそれぞれの持味を殺してしまうことは全く愚かなことというべきだ。よいものがよく見えないで、悪いものが良く見えるのは単に料理だけに限らない。この傾向は今日の日本のあらゆる面にはびこっている。そしてこの事実は、日本の価値を低下させている。」(『料理王国――春夏秋冬』より引用)
と北大路魯山人らしい的確で痛快な指摘もあります。
料理という芸術を愛した彼が綴る料理に対する唯一無二の独自理論が楽しめる一冊です。読みやすい語り口調で書かれていますので一気読みしてしまうこと間違いなしでしょう。
本書の作者は白崎秀雄。彼が魯山人と関わりのあった様々な人に取材を重ね魯山人とは何者なのか?という問いに迫ったのがこの『北大路魯山人』なのです。魯山人の波乱万丈な生い立ちから駆け抜けた人生の出来事まで余すことなく伝えています。
- 著者
- 白崎 秀雄
- 出版日
- 2013-02-01
その強すぎる個性がゆえに人との衝突が絶えなかった北大路魯山人。一方で本当に親しい人にしか見せなかった温かい一面もありました。本書で取材を受けているのは、魯山人のビジネスパートナーや弟子、女中や元妻など。北大路魯山人の真の姿が暴かれ続ける衝撃は、ページをめくる手を止められなくなるほど読者を夢中にさせるでしょう。
特に興味をそそるのは作者が元妻「せき」に取材を申し込んだ時の記述。北大路魯山人が金目当てで彼女に近づき最終的に彼の母親までせきの家に金の無心に来たエピソードや、体の大きいぽっちゃりした女性が好きだったというエピソードなど、本当に親しい人しか知り得ないエピソードが記されています。そんなせきが北大路魯山人について語ったのがこの言葉。
「さあ、愉しいことだのいいことだのは、すこしもございませんでしたねえ。北大路と私の生活は、十年あまりつづいていたわけですが。北大路がいくらか私に優しかったのは、最初の半年くらいのものだったでしょうか」(『北大路魯山人〈上〉』より引用)
魯山人の知られざる姿を垣間見ることができる貴重な作品です。彼の波乱万丈な人生はまるでダイナミックな小説を読んでいるかのよう。作者の強い信念が伝わる大傑作のルポタージュです。
この『魯山人陶説』は北大路魯山人の評論三部作と呼ばれる代表作の一つです。室町時代から江戸時代にかけての陶器の名作を写真と共に紹介・評価。視覚的にも楽しみながらも北大路魯山人の「うつわ論」を堪能できる大満足の一冊になっています。
- 著者
- 北大路 魯山人
- 出版日
- 1992-05-01
40代後半で陶芸家としての活動を始めた北大路魯山人。芸術家としての豊かな才能とその美的感覚を生かし数々の名品を生み出しました。作品を作る時は土作りから焼成まで全ての工程を一人で行うことにこだわり、それをしてこそ人の心を打つ名品を作ることが出来ると説いたのです。またうつわの外見だけでなく、それを使った時の感覚や全体的な雰囲気を重視して評価するべきだという主張も本書で展開しています。
過去の名品と呼ばれた陶器が真正面から酷評されることもあります。その潔さは痛快そのもの。陶器のありのままの姿に美を見出そうとする、その美を追求する姿勢は読むものを深く納得させると共に、だれも疑うことのなかった定評に新しい見方を投じるものもして、私たちを楽しませてくれるでしょう。
北大路魯山人が自身の弱みについて語っている箇所も興味深いです。彼は自身の毒舌ゆえの孤高な立場を理解しつつ「人に誤解されることもある」と謙虚に語っています。辛辣な批評論を繰り広げるだけでなく自身の弱みについても触れられていて、どこか憎みきれない印象を与えているところも読者の心を打つ部分だと思います。
陶芸家としての北大路魯山人を知るにはぜひ読んでおきたい一冊。彼の新しい一面を知ることができる貴重な作品です。
今回は北大路魯山人という時代を代表する芸術家の美意識に触れられる5冊の本を集めました。お読み頂きありがとうございます。