ここ数日で一気に夏の様相、皆さまいかがお過ごしでしょうか。わたしは毎日じりじりと焦げています。日焼け止めクリームよ、頼む、仕事してくれ。塗っても塗っても、焦げる焦げる。お肌のターンオーバーが追いつきません。東京スカイツリーよりも高い標高の地に住まうものの定めか。降り注ぐ太陽光線のきつさ、まじパねえす。せめて目から入る紫外線の量を減らそうと、薄目で生活しています。物が見にくいったら!
思いおこせば去年の夏も暑かった。都内某スタジオ内、地下牢の中で汗だくだった。
すごい女優さんは自由自在に片目だけから涙を流すことができるというけれど、わたしは鼻の下に噴き出る汗すら止められないのだよ。じょゆうなのにな!
ちょうど去年の今頃クランクインした映画『忍びの国』が、つい先日、7月1日より劇場公開となりました。原作・脚本:和田竜、監督:中村義洋、主演:
大野智の大型エンターテイメント時代劇です。敬称略。
ということでさっくり便乗商法。今回は小説『忍びの国』一作品をピックアップ。
- 著者
- 和田 竜
- 出版日
- 2011-02-26
「あの者の前に門は無し」伊賀一の腕を誇る忍びの無門は、しかし無類の怠け者。安芸国からさらってきた女房のお国に稼ぎのなさを咎められ、すっかり尻に敷かれている。金のために渋々忍び働きする無門は、やがて伊賀攻略を狙う織田信雄の軍勢と、伊賀衆との戦いに身を置くことに。侍と忍びが直接対決した戦国唯一の戦、天正伊賀の乱を背景に、壮絶な騙し合いと知略が繰り広げられる。
『のぼうの城』や『村上海賊の娘』で、なにこの読みやすい時代小説!いい意味で!と以前から思っていました。時代小説って、ちょっと構えるところないですか。特に武将モノは。年末の大型時代劇を思わせる、武士道好きなお父さんたちのジャンル、的な。根っからの歴史好きならいざ知らず、まあなんせ長い名前の人たちがわさわさ出てくるからさ。登場人物一覧表が手元にほしいわよ。
にもかかわらず、この人の書く時代小説が頭にすらりと入ってくるのは、やはり、題材としての時代モノでありつつ、心情表現や言い回しが今っぽいからですかね。堅苦しさがない。
逆に言うと、行間を読んだり、流麗な言葉の連なり、響き、をじんわり楽しむタイプのそれではないけれど。幅広い世代に受け入れられやすい、間口の広さ。
読み手をぐいぐい引っ張るスピード感、キャラクターの立ち方や見せ方が映像的なのも、そもそもが脚本という形で物語を書いてきた人だからかしらん。とくに今回は、題材の「忍び」自体が超人的なモノなので、戦いの場面なんてまんまマンガのようなポップさです。
無門のキャラなんて、ほんと、もうね、反則ぎりぎりですよ。ツンデレ武家嫁に頭が上がらない、最強忍者なんてさ。女子のハート鷲掴みでしょ。怠け者で、猫背で、へらへらしてて、そんで戦う時にはものっすごいの。後ろから飛んでくる矢を、見もしないで掴んじゃったりすんの。いやん、ギャップ萌え~~。
その他、お父さん(信長)に認めてもらえず、すっかり屈折してる若大将。かつての遺恨から伊賀を攻め滅ぼしたい、元・伊賀者。強い者だけが生き残る、乱世の生き方を是とする武将。対照的に、武者らしい清々しさを極端に好む剛腕の者。支配階級としてのさばる悪人だらけの評定衆。などなど、登場人物たちがめっぽうカラフルです。
そして、これらすべてを支えるこの物語の主役は、下忍としてひたすら地侍に搾取される大勢の忍びたち。幼いころから忍びの術を命がけで習得させられ、普段は小作として畑を耕し、雇いの忍び働きでなんとか糊口をしのぐ。血なまぐさい殺戮を好み、人を騙し出し抜くことを至上とする。お金に異常な執着を見せ、人としての情を全く持たず、虎や狼のような獣たちの意で「虎狼の族」と呼ばれている。全員、人でなし。人でなしで伊賀国はできている。
ともあれ、今回ご本人の脚本担当で実写化と聞いて震えましたよ。好きな作家さんの映像作品に一端なりとも関わることができるのは、本好きの一俳優として大変にうれしいことです。
原作のある映画に常に生じる「原作のほうが(または映画のほうが)面白かったのにィ~!」問題もあっさりスルー。物語自体の肝をびしっとおさえています。
なお、読み手は文字情報のみから登場人物の姿かたちをそれぞれ勝手に想像するわけで、実写となればいろんなイメージのずれはもちろん生じます。まあそれも一興。
例えば、本読んでいる時のわたしの脳内画像はこちら。
無門 → ヒゲのないルパン三世の次元大介。やたら細長い人。美男に非ず。
日置大膳 → 横山大輝『三国志』の張飛。やたら暑苦しいでかい人。美男に非ず。
こちら、映画ではそれぞれ大野智、伊勢谷友介、両氏になっていました。おお、美男たちよ!
そして脳内を軽く飛び越えてやってきた、伊勢国の殿さま北畠具教。ズバリ國村隼さんです。きゃあああ~~~。
「この北畠具教は足利義輝公と同様、塚原卜伝に印可を受けた乱世の国司よォ!」
殺陣と滅びの美学。はああ、どんぶり飯3杯いける。ごちそうさまです。
ところで、話は全然変わりますが、わたし地元が三重県なんですけどね、伊賀のイメージっつったらそりゃ、ヒーローの里ってなもんでしょ。なにかしらのすごい技いっぱい持ってて、たぶん飛んだり跳ねたりがすごい、戦国の世に暗躍したダークヒーローの末裔たちよ。どんぐりまなこにへの字口、忍者ハットリくんだって伊賀者でござるよ、にんにん。
そんな伊賀忍者、この本でえらい言われようですがだいじょうぶかしらん。「人でなし」「奇怪の痴れ者」「虎狼の族」「銭阿呆」などなど。ちょっとちょっと~ひどくな~い。
ともあれ、伊賀市は今年2月22日に忍者市宣言いたしました。忍者の歴史や精神を、国内だけでなく、世界へとひろめてまいります。ワールドワイド忍者。
ちなみに2月22日は「ニンニンニン」で忍者の日だそうです。
かの地を走る伊賀鉄道では、松本零士先生デザイン、メーテルくノ一がどーんと描かれた忍者列車が走り、網棚には黄色い忍びマネキンが乗っています。
三重大学の「国際忍者研究センター」もこのたび伊賀市に開設されました。ヘイヘイ。三重大て、地元の優良国立大なんですけど、いつの間にこんな面白いことに。
県を挙げての忍者おしだ、わっしょい。レンタルの忍者装束に着替えて、忍者屋敷でどんでん返しを体験して、忍者の携帯食の異様に硬い煎餅「かたやき」(不用意に齧ると歯が欠ける)をお土産に買って、ブランド牛の伊賀牛を堪能して。とてもよいところですよ。みなさんぜひ伊賀市へお越しください、にんにん。