池内紀は1940年兵庫県姫路市出身のドイツ文学者、エッセイストです。翻訳家としても有名で、カフカやゲーテなどの翻訳をしています。主な著書に『ゲーテさんこんばんは』、『海山のあいだ』、『恩地孝四郎』など各文学賞を受賞した作品も多数あります。
池内紀は、1940年兵庫県姫路市に生まれました。東京外国語大学外国語学部卒業後、東京大学大学院の人文科学研究科に入り修士課程修了します。
その後は神戸大学助教授、東京都立大学教授、1985年東京大学文学部教授と国公立大学で文学を教える傍ら、文筆活動も行っていました。1996年に定年前に退官すると、以降は文筆家や翻訳家として活躍。特にフランツ・カフカの翻訳家として有名です。
教科書や歴史の資料集の中の哲学者カントはそこにいません。真面目で融通の利かない石頭、一生独身で寂しく哲学的なことを考えていた、なんて思い込みや偏見が消し飛んでしまうような痛快さです。
実はカントは、おしゃれが好きで社交的な人でした。ちょっと癖のある方言を使って、街の名士の晩餐会に引っ張りだこ。財テクが得意で、話題も豊富だとしたら、あなたはどう思いますか?
- 著者
- 池内紀
- 出版日
- 2016-07-05
カントの印象が、はっきりと変わる一冊です。多くの人がイメージするカント像というのは、こだわり屋で頑固、変わり者の清貧な大学教授という感じではないでしょうか。
しかし事実はさにあらず、カントはお洒落で社交的な人で、友人の英国商人のグリーンからの助言により、財テクをしていて結構な小金持ちだったなど、一般的なイメージの中のカント像が崩壊していくのを感じることでしょう。
かなり難解な哲学書を書いた哲学者ということで、大変な先入観を抱きがちですが、この本を読めば、孤独の中で思索に耽っていたわけではなく、友人のグリーンとの対話により『純粋理性批判』は生まれているということも知るかもしれません。
カントは生涯独り身を貫きましたが、食事はもっぱら外食、時に贅沢な晩餐会に招待されるといった有様だったようです。カントが内向的で陰気な性格だったとしたら、1度招かれたら、おしまいとなってしまったのでしょうが、意外にも社交的でウィットに富んだ会話が出来たので、晩餐会を催す側にとってみれば、カントは招きたい客のようです。
また、あとがきでも触れていますが、この本の内容の3分の1が「老い」になります。この老いていくカントの様子は、意欲がなくなっていったり、冷徹な頭脳の持ち主のはずの彼が、記憶の衰えに悩まされていったりします。そういうエピソードの一つ一つがとても、新鮮で、その人間臭い話に親近感を得られる人もいるかもしれません。
池内紀にとって、今は亡き忘れがたい人々に対するエッセイです。28人の故人に対する、エピソードが書かれています。これは、様々な誌面に寄せたエッセイを描き下ろしの「死について」とあわせて、編集したものです。
著者が故人一人一人について、その人に相応しいトーンで思い出とともに綴っています。
- 著者
- 池内 紀
- 出版日
- 2016-04-20
取り上げられている方は、年齢性別、文筆活動をしている人たち、著名人、それぞれバラバラですが、亡くなった方に向き合う、著者の姿勢は真摯なものだとよくわかります。
28人分、28通りの追悼文ということになりますが、そこには寂しさや悲しさといったものは直接的には表現されていません。そこには故人とのある日の出来事や、お葬式のことが淡々と綴られているだけです。
だからと言って、まったくドライに感情がないかのように書かれているわけではなく、直接的な表現こそされていませんが、池内紀の故人への温かい見守るような眼差しは、全編に渡って読み手側に伝わってきます。
巻末にある、自身の死生観が出ている「死について」において、わずか数行で語られる身内の死は、圧倒的な影響力を感じます。それと同時に、家族に対して引き算とかかれているところや、死はチリよりも軽いなどという表現が出てきます。
身内の死を通じて、諦観や無常観を持っているのかもしれません。その気持ちが、この本にも反映されているのでしょう。
本好きな人が、好きな本に出会ってその本を読む。そうして出会った大切な本たちを、自分の友だちのように紹介している本です。ここで紹介される本には、自由で、自立した生き方がそのまま反映されています。
そんな著者のお眼鏡にかなった本と本にまつわるとっておきの話が、53編の珠玉のエッセイとして綴られているのです。
- 著者
- 池内 紀
- 出版日
- 2015-01-10
池内紀がまとめた自身の読書録。きっと膨大な量の本を今までに読んできているはずなので、その読書歴の中から選ばれた53冊ということになるのでしょう。
この本の中では分野別にまとめてあり、5部構成になっています。1「会いたい人と会うように」2「あの頃のこと」 3「山と川と花と」 4「ともに考える」 5「解説を頼まれて」と分かれています。この本のエッセイを読むと、読みたい本がたくさん出てくるはずです。
本好きを豪語する人にはもちろん、何かしら本を読みたいとは思っているけど、自分の興味関心を持てるものが分からないという人にとっても、指南書となり得る本と言えます。自分が普段読まない分野の本にも、試しに読んでみたいというきっかけになってくれそうです。
単なる書評や解説というよりは、作者や作品のエピソード集という方が正しいかもしれません。皆が知っていることや知らないこともそれに関わることが、多く取り上げられているので、読んでいて楽しめますし、初めてその本を読む人だけでなく、再読する人にも新たな発見があるでしょう。
有名なあの作品の生まれた背景や、それにまつわる逸話を紹介する本。 有名作家53人の知られざるエピソード満載です。北海道新聞に掲載されたエッセイをまとめたものですが、短いけれど味わい深いものばかりあります。
自分の好きな作品に、作家にまつわる小話を知ることで、別の魅力を感じることが出来るでしょう。
- 著者
- 池内 紀
- 出版日
- 2010-07-22
そもそもは北海道新聞に連載されていたエッセイをまとめたもので、サブタイトルに日本の文学百年を読むとあるように、近現代の日本の文学作品や作者を取り上げています。
新聞連載という性質上、字数制限があるのでしょう。一人の作家、作品を語るそのエッセイは短く、新書に換算して3から4ページほど、その中に過不足なく、情報が盛り込んであります。このあたりはさすが、池内紀というところでしょうか。
文章は平明で、読みやすく、新聞連載ということを考えて書かれているということを感じさせます。またそこでピックアップされている作品も、有名なものだけでなく、あまり知られていない小品だったりしているのです。
ただし、その作家の本来書きたかったことや、その趣向などが、そういった隠れた名品にこそ、色濃くでているかもしれません。その小品の存在を、その作品に込められている思いを、に気づかせてくれるエッセイです。
一度読んだことがある本をもう一度読むということを、知らなかった作品を読むきっかけをみつけることを、考えるのには最適な本でしょう。実際に、読んだことがあっても作品の背景や作者の思いなど新たな情報を得ることで、読書はより楽しく、深い知識を得られるものとなるはずです。
旅なんてご無沙汰という人も、忙しくてそんな時間はない!という人も、この本を読んだら、きっと何とか時間を作ってひとり旅に出たくなる本です。
この本は、いわゆるガイドブックやハウツー本とは違います。旅先で池内紀が感じたこと考えたことをエッセイにしてまとめたものです。ひとり旅はまさしく、ひとりで何でもこなさなければなりません。いろいろ考え、工夫し、その時間もまた楽しいものとなるでしょう。
旅慣れた著者の気づいたことが、あなたの旅を豊かにし、旅のヒントやコツを教えてくれるはずです。
- 著者
- 池内 紀
- 出版日
- 2004-04-25
中央公論に2年間連載されたエッセイをまとめた本です。
旅というのは非日常ですが、ひとり旅というのはどこか冷静で、醒めている、それこそ日常の延長として振る舞えるという趣旨の記述があります。確かに複数で旅行に出れば、何か行動をするたびに気分は高揚し、さして大したものでなくても、やたらと興奮や感動をしがちなものです。
その点、ひとり旅だとどうしても気ままな分、責任も1人で負わなければなりません。事前に準備が必要なこともあるでしょう。
複数人での旅は感動も分かち合えるし、何か重大なことが起こっても仲間と助け合って乗り越えることもできます。何よりも寂しいなんて気持を持たないで済むかもしれません。それでも、一人旅には複数人で得ることの出来ない、旅の醍醐味が味わえるのも事実です。
問題に直面して解決するのは自分しかいないという不安な気持ち、病気やケガなどというアクシデントも1人で解決しなければなりません。それでも、そのリスクを超える達成感や、充実感はひとり旅の醍醐味でしょう。
是非、旅のお供にしてほしい一冊です。
ドイツ文学者で、カフカの翻訳で有名な池内紀ですが、エッセイの名手でもあります。ここで紹介した5冊はどれも、趣が違うエッセイですが、味わい深いものばかりが揃えてあります。予備知識無しで簡単に読めるものばかりですので、ぜひ読んでみて下さい。