孔子や儒教という単語は知っていても、自分の言葉で説明できる人はあまりいないのではないでしょうか。しかし、大昔の人なのに、孔子の思想はいまだに生き続けています。そんな孔子や儒教を知るための5冊をピックアップしました。
儒教の創始者である孔子は今から約2500年前、中国が春秋時代だったころの小国・魯に生まれました。周王朝が力を失い、諸侯が力をつけ始めた戦乱の時代です。
彼は社会秩序を取り戻し「仁」に基づく政治が行われるよう説く「儒教」を創始しました。自身の「儒教」を用いる場所を探して中国全土を巡るなか、何度も戦乱や暗殺の危機にあいます。
世の流れと逆行し、大国に仕えて理想の政治を実現する機会には恵まれませんでしたが、彼の元には3000人もの弟子が集まりました。死後数百年経っても、彼の教えを慕う人々はあいつぎ、亡くなってから250年以上たった漢の時代以降、儒教は国教となります。
その後儒教は、中国文明を支える思想のスタンダードであり続けました。さらに孔子を祭る廟などの建造物が日本も含めて世界各地に立てられ、彼は学問の神様ともなりました。
1:身長が2m16cmもあったため、「長人」と呼ばれていた
歴史書「史記」によりますと孔子の身長は9尺6寸、2m16cmもの高身長であったため、世間では「長人」と呼ばれていたそうです。彼は恵まれた体格だけではなく、剣をはじめとする武芸全般にも通じていました。諸国を巡るなかで何度か暗殺されそうになりますが、逃れてこられたのはこの体格と武芸の心得があったからかもしれません。
2:孔子の一族は400万人以上!ギネスにも登録されている
孔子の教えである儒教が盛んになるにつれて、彼の子孫も保護され、栄えるようになりました。そのため約2500年前の人物であるにもかかわらず、彼の血脈はしっかりとたどる事ができるのです。2005年には「世界一長い家系図」としてギネス・ワールド・レコーズにも登録されました。2017年現在では83代目まで系譜が続いていて、孔子の子孫と推定される人は、直系で無い人も含めると400万人以上にものぼります。
3:孔子が説いた儒教を信仰する人は、世界中に約630万人ほどいる
孔子が創始した儒教は、彼の死後、数百年を経た漢の時代に国教となりました。その後、隋の時代に始まった官僚採用試験「科挙」においては、孔子の著作を含む儒教の書物が試験範囲の大部分となるなど、儒教は中国文明の中心であり続けました。
科挙が廃止されてから100年以上が経ち、その後中国政府は儒教を国教ではなくしましたが、それでも儒教の教えを信仰する人は世界中に約630万人もいるそうです。孔子が説いた「目上の人を敬う」「父母に親孝行する」といった教えには、時代を超える普遍性があるのでしょう。
4:理想が高すぎたため、孔子の言葉を受け入れてくれる国はあまりなかった
死後には自身の教えが大人気となった孔子ですが、生前は彼の教えに耳を傾ける王様はほとんどいませんでした。なぜなら彼の説く教えに従うと、諸国の王は弱体化した周王室に従わなければならなかったためです。軍備を強化し国境を広げたい諸国の王からすれば、孔子の思想は耳障りなだけでした。
孔子は母国・魯の重臣として国政に携わるのですが、他の重臣の反発にあい失敗してしまいます。現実の政治に失望した彼は下野し、弟子を相手に自身の考えをまとめあげていきます。こうして儒教が出来上がったのです。
5:孔子にゆかりのある地が世界遺産に登録されている
孔子の死後、彼が住んでいた家は彼を祭る廟所に作り変えられ、時代を経るごとに拡張されて、現在では巨大な建築群となっています。この「孔廟」や、彼の墓「孔林」、そして彼の子孫が建てた邸宅「孔府」は、1944年に世界遺産に登録されました。
中でも「孔廟」は、皇帝の城である「紫禁城」と中国の聖地・泰山を祭る「岱廟」と並んで中国三大建築と呼ばれており、彼のスケールの大きさがうかがえます。
『論語』は孔子や彼の弟子の言行録です。孔子の著作のなかでも、現代に通じる教えが多いので幅広く好まれています。ある昔の人などは「貴族の位は戦争の時代には何の役にも立たないが、『論語』を読んでおけば人を教えることができる」と言ったほど。
本場中国はもとより、日本や朝鮮などにおいても古くから必読の書とされてきました。大航海時代以降はヨーロッパにも持ち込まれ、ヴォルテールやモンテスキューといった知識人に大きな影響を与えました。
- 著者
- 出版日
- 1999-11-16
2000年以上前に書かれたからといって古色蒼然とした時代遅れのものではありません。中国を創り上げた書物だけあって、現代にも通じる教えがいくつもあります。
学問の姿勢に関する有名なものを『論語』より引用してみます。
「之を知るは之を知ると為し、知らざるは知らずと為す、是れ知るなり」(知っていることは知っているとし、知らないことは正直に知らないとする。それが真に『知る』ということなのだ)
「学びて思わざれば、則ち罔し。思いて学ばざれば、則ち殆うし」(知識や情報をたくさん得ても思考しなければまとまらず、どうしていかせばいいのか分からない。逆に、思考するばかりで知識や情報がなければ、独善的になってしまう)
「過ちては改むるに憚ることなかれ」(もし自分に過失があれば、まごころに従ってすぐにでも改めることだ)
このほかにも、周囲の人との接し方、目上の人や父母への態度など、現代に生きる私たちにも参考となるものばかりです。自戒にもスピーチの引用などにももってこいの1冊です。
白川静といえば漢字研究の大家ですが、本書では「孔子の生涯」「儒教の成立」「春秋時代の政治」「論語について」「儒教に対する批判」の5つを柱として、孔子と彼の打ち立てた一大思想を、リアルタイムで接しているかのように論じています。
- 著者
- 白川 静
- 出版日
孔子といえば約2500年前の人物ですし、彼の創った儒教は国教として伝わる中で何度も教義の変更がなされました。そんな儒教の成立当初の教えや、孔子のありのままの姿に肉薄できるのは、白川の比類なき漢文研究のベースがあったからこそでしょう。
虚飾にまみれていない孔子と儒教に触れることができる1冊です。
『論語』にいきなり挑戦するのはちょっと荷が重いなあという人におすすめです。論語を中心に、孔子とその弟子の言行を漫画でわかりやすく、かといって孔子の思想を薄めることなく教えてくれます。
- 著者
- 蔡 志忠
- 出版日
- 1994-12-13
孔子の一生や弟子の紹介にも十分にページが割かれています。本書独特のデフォルメされた人物、それとは対照的に緻密に描かれた背景や事物といったイラストもとても魅力的です。
学生から大人まで幅広い人におすすめできる入門編となっています。
「楼蘭」「蒼き狼」など中国大陸をテーマとした名作を数々生み出した、井上靖の最晩年の作品です。
政界で挫折した孔子が下野し、弟子たちと放浪する道中を描いています。題材は孔子ですが、中国の歴史や文化に精通していた井上の思想が色濃く現れています。
- 著者
- 井上 靖
- 出版日
- 1995-11-30
本書を何度読んでも飽きが来ないほど、巨匠・井上靖の視点と解釈には深みがあるのです。
「孔子や儒教を知りたい人」が読むべき本ではなく「孔子や儒教について考えたい人」が読むべき本と言えるでしょう。
明治の実業界をリードし、近代日本の土台を創り上げたと言っても過言ではない渋沢栄一は、少年期から『論語』を常に携えて心の支えとしていました。
本書はその『論語』を、渋沢自身の人生経験も交えながら解説したものです。
- 著者
- 渋沢 栄一
- 出版日
- 2017-03-23
実は渋沢は、若い頃に幕末の動乱のなか刀を手に戦っていた経験があり、単なる経済人ではありません。数々の会社を創設し、産業の発展に尽力した人物が『論語』という2000年以上前の書物から、何を学び人生にどう生かしていたのかが書かれています。
「解説付きの論語」として読むのも良いでしょうし、「論語の読み方や生かし方」を学べる1冊でもあります。
以上、孔子に関する意外な豆知識と、孔子や儒教についての5冊でしたがいかがでしたでしょうか?2000年以上の時を経ても思想が受け継がれるほど魅力的な人物の一端に皆さんが触れる助けとなれば幸いです。