「生命とは一体何なのか」――そんな疑問が頭を巡ったことはありませんか?今回紹介するのは福岡伸一のおすすめ本。人類の永遠の問いである生命の正体に分子生物学の見地から迫っていく5冊の本を集めました。
福岡伸一は1959年生まれの生物学者です。分子生物学が専攻であり、自身のキーワードである、生命は流れの中のよどみであるという「動的平衡」の理論のもと「生命とは何か」という問いを追究し続けています。
新聞や雑誌などのメディアにも多く登場し、書籍も多数発表。中でも今回も紹介する『生物と無生物のあいだ』は75万部を越えるベストセラーとなりました。彼の紹介する生物学の世界の深淵さに人々からは「哲学する分子生物学者」とも呼ばれています。
生物と無生物を区別するものとは一体何なのかを考察した本書。作者も本書での考察を「生命とは何か、への接近」と呼んでいます。科学の面白さを分子生物学の立場から読者にも易しく深めていく1冊です。
- 著者
- 福岡 伸一
- 出版日
- 2007-05-18
福岡伸一の定義する生命とは「自己複製するシステム」のこと。私たちの生きる上で欠かすことができない脳細胞は、波打ち際に立つ砂の城と同じ。脳細胞の内部では常に分子と原子の交換が行われています。生まれてから死ぬまで、常に寄せては返しを繰り返す波のように細胞の分解と修復が行われているのです。
何故か?それは秩序を守るため。「秩序は守られるために絶え間なく壊されなければならない」のです。その状態がまさに福岡伸一の唱える「動的平衡論」。生命は常にバランスを保ちながら破壊と複製を繰り返しているという考え方です。
第11章「内部の内部は外部である」では私たちの身体の中にある膵臓(すいぞう)の働きを例に、さらにこの動的平衡について詳しく考察。私たちの生命への漠然としたイメージを一枚一枚引き剥がし、誤解や無知を正してくれる内容になっています。作者の縦横無尽の知識は私たちの知的好奇心をくすぐると共に、生命の本質を探る新たな世界へと導いてくれるでしょう。
長年研究を続けてきた作者だからこそ書ける研究職の実情が知れるのもこの本の見どころです。福岡伸一を含む研究者たちの日常や研究内容も垣間見れます。ベストセラーになった理由があなたも読めばきっと分かるでしょう。
生命の維持には常に自らを分解し再構築するという危ういバランスを保つことが必要である、という理論である「動的平衡」。このキーワードを掘り下げて私たちの日常生活と絡めて分かりやすく解説したのが本書です。読者の興味を誘う内容で、12万部を売り上げた人気本となりました。
- 著者
- 福岡 伸一
- 出版日
- 2017-05-31
常に壊れていくものと新しく生まれてくるものが同時に発生して均衡を保っている、それが福岡伸一の唱える宇宙の大原則です。秩序あるものが秩序の乱れる方へ、秩序が乱れるものが秩序ある方へ、そんな「動的」な「平衡」の中で生命が維持されていると彼は解いています。一見複雑そうな理論にも見えますが「年を取ると一年が早く感じるのはなぜ?」「生物学から見た効果的なダイエットとは?」「環境と生命の関係とは?」といった身近なテーマと絡めた解説なので、スラスラ読んでいるうちに新しい発見へサラリと導いてくれる、そんな1冊です。
さらに興味深いのが本書では作者の思考の軌跡を感じ取ることが出来るところでしょう。分子生物学者として思考と考察を繰り返し、柔軟にその結果を修正していく様子を本書を通じて読者にも感じさせてくれるのです。生命の正体という壮大なテーマが少しずつ解明されていく過程を楽しめるだけでなく、考察にあたる問題が提示されることで、読者である私たちもその壮大な命題に向かい合う楽しさを感じることが出来ます。
福岡伸一の考察が綺麗にまとめられた1冊。生命の不思議を楽しめる良書ですので、ぜひ手にとってお楽しみください。
『せいめいのはなし』は福岡伸一が内田樹・川上弘美・朝吹真理子・養老孟司の4人と繰り広げた会話が収録されている対談集です。対談相手の4人には共通点があまりないようにも思えますが、一瞬一瞬で移ろいゆく作者を反映する4人なんだとか。福岡伸一の動的平衡状態が見える興味深い1冊です。
- 著者
- 福岡 伸一
- 出版日
- 2014-10-28
川上弘美との対談ではかつて理科の教師として働いていた川上弘美がこんなことを口にします。
「一番好きだったのが生態系の授業でした。(中略)地球には人間だけでなく動物もたくさんいて、動物は植物を食べて生きていて、植物は雨水や光をもとに酸素と、生物の栄養素や体のもととなる炭素化合物をつくりだす。では雨水はどこからくるのかというと、地上にあった水分が蒸発して、雲ができて、雨になってまた降ってくる。そういう地球全体で回りまわって成り立っているものがあるんだよ、と。」(『せいめいのはなし』より引用)
そんな彼女に対して福岡伸一は「時間を一万年単位にして見ると私たちの体は分子のゆるい淀みでしかない」と答えます。巡り巡って生まれ変わり続ける私たちは、まさに動的平衡状態にあるのだと。
福岡伸一の分子生物学の語りを聞いているのも充分面白いのですが、彼が人と対話をすることでさらに彼の思考が掘り下げられていく様子が分かるのも見どころ。彼の考えが他の誰かの思考と共鳴したり、交錯したり、時にぶつかって鮮やかに散って行ったり。読者はそのどこへ向かうのか分からないワクワクもハラハラもする対談に目が離せなくなるでしょう。分子生物学を様々な角度から眺めてみたい人におすすめしたい1冊です。
『生命と食』は福岡伸一が『生物と無生物のあいだ』で書ききれなかった内容をまとめた1冊です。全部で62ページと非常に薄い本なので、エピローグを読んでいるような気分で一気に読めてしまいます。
- 著者
- 福岡 伸一
- 出版日
- 2008-08-06
本書では主に「食」に焦点が当てられています。例えば遺伝子組み換え作物については、
「遺伝子組み換え操作は、品種改良と同じだという人がいます。(中略)しかし、この議論では『時間』が忘れ去られています。品種改良では、ある作物と作物を掛け合わせ、次の作物を作りますが、そこには何年もの時間の試練が含まれています。(中略)ところが、遺伝子組み換え作物は、ある部分とある部分を入れ換えて、さあ、どうだと、すぐに市場に出回ります。そこに検証するための時間はありません。」(『生命と食』より引用)
とその問題点を指摘しています。また、人工的な食べ物に慣れてしまった私たちに警告する記述も。昔は豆腐は夜食べるものではなかった、という理由についてこのように述べています。
「昔の豆腐は手作りで、夜半から仕込みをして、早朝にできたものが売られていました。(中略)(そしてそれを)朝の食卓に出して食べる。水に浸けておいても、せいぜい昼ぐらいまでしかもたず、夜には傷んでしまう。かつてはこのように、人の手が加わった食材は作られた瞬間から悪くなっていくという時間感覚が当たり前だった」(『生命と食』より引用)
生命と食は切っても切れない親密な関係です。語りかけるように、人の心に馴染みやすい文体で書かれているので、福岡伸一の語りに耳を傾けているような感覚で一気読みしてしまうこと間違いなしでしょう。
「生活のふとした場面でわきおこる、ささやかな疑問。職場や家庭で遭遇する、さまざまな悩み。そんな身近な疑問やお悩みを生物学者の福岡伸一さんにぶつけたら……?」というコンセプトのもと、まとめられたのがこの『遺伝子はダメなあなたを愛してる』です。
- 著者
- 福岡伸一
- 出版日
- 2012-03-30
「彼氏が部屋にきた時にゴキブリが出ました。ゴキブリに絶滅してほしいと思うのは間違いですか?」「妻が娘を甘やかします。過保護に育てたくないのですが」「結局宇宙人はいるのですか?」など読者の何気ない日常の疑問に福岡伸一が生物学者の立場から答えます。面白いのはその答えのアプローチの仕方。福岡伸一にしか導き出せない回答で、時に可笑しく、時に哲学的に読者の疑問を解決していくのです。
例えば「メールに携帯、ソーシャルメディア。情報化社会は便利だけどなぜか疲れます。」という質問に対しては、水槽のミクロ生物であるボルボックスの常に集まって情報伝達をしている生態を引き合いに出し、こう回答します。
「生命にとっての情報は『現れてすぐに消える』ことがもっとも重要なのです。(中略)ネットやメールの言葉はいつまでも消えません。トゲとなってずっと残ります。つまり私たちが作り出した人口の情報は生命的でないのです。」(『遺伝子はダメなあなたを愛してる』より引用)
日常の悩みを生物学に照らし合わせてみると、思わぬ発見のある楽しさを伝えてくれる1冊です。読み物としても面白いですし、生物学を学ぶ上でも充分有効な書物だと思います。本書を読めば日常の悩みが小さく感じるかもしれません。
今回は福岡伸一の魅力が伝わる5冊の本を紹介しました。最後までお読み頂きありがとうございました。