冬目景(とうめけい)は、知る人ぞ知る実力派の女性漫画家です。年齢は非公表ですが、4月13日生まれの神奈川県座間市出身で、多摩美術大学を卒業しています。
中高生の頃に好きだった漫画家は、『らんま1/2』や『犬夜叉』で一世を風靡した高橋留美子や、当時漫画雑誌「りぼん」で『フランス窓便り』など数々の漫画で看板作家を務めたほどの実力者・田渕由美子で、自身の作品のキャラクターについて高橋の影響があるとインタビューで述べています。
1992年に『六畳物語』という作品でコミックバーガー新人漫画賞佳作を受賞、その後誌面に掲載されてデビューしました。しばらく同誌で読み切り作品を発表したのち、1993年には『KUROGANE―クロガネ―』が、月刊誌アフタヌーンの有名な漫画賞である、四季賞を受賞しています。
そして、「コミックバーガー」で『羊のうた』を、「モーニングオープン増刊」で『黒鉄〈KUROGANE〉』の連載を開始。不定期連載も多いものの、様々な雑誌で作品の発表を続けています。
父の友人に預けられて育った高校生の高城一砂は、同級生の八重樫葉に思いを寄せる普通の高校生でした。しかしある日、八重樫が目の前で小さな怪我をしたのを見た瞬間、血への渇望に駆られます。
古い家で父と姉の千砂と暮らしていたことを思い出した一砂は、かつて住んでいた家を訪ね、そこで姉と出会い、自らの一族にまつわる秘密の一端を知るのです。高城家は、呪われた吸血鬼の一族だと……。
- 著者
- 冬目 景
- 出版日
- 2009-10-23
注目すべきは登場人物が、血が欲しくなる奇病を患う人々のことを社会的な弱者として捉えている点でしょう。他人の血を欲するという凶暴な衝動を抱える彼らは、いつ人に襲いかかるかわからない危険な存在で、精神的に追い詰められていきます。その末に弱って死ぬか、自殺を図るという悲劇的な存在なのです。
一砂には、大切な人を傷つけたくないから遠ざける、という人間らしい気持ちがあるのに、体に巡る衝動はすべてを奪い去ってしまいます。彼らの葛藤が静かに描かれていて引き込まれる一方、悲しく美しい愛がたどり着く結末に、すさまじい余韻が残ります。
アニメ化や実写映画化もされた作品ですが、まずは漫画から読んでいただきたいです。
『羊のうた』については以下の記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
漫画『羊のうた』が欝展開なのに美しい!最終回までの魅力をネタバレ紹介!
繊細なタッチの絵柄と退廃的な雰囲気で人気を集める『羊のうた』。代々伝わる「ある病」を軸に展開する物語は、哀しくも美しい人間たちの物語です。今回は、そんな『羊のうた』の最終回までの魅力をネタバレを含めて紹介していきます。
大学卒業後、やりたいこともなくフリーターとして働くリクオと、ある日カラスを連れて登場したミステリアスな少女ハル。そしてかつてリクオが告白をして榀子との三角関係が描かれている作品です。
第1巻が1999年に発売され、最終巻である第11巻の発売が2015年と、長期にわたって連載された作品です。次の単行本が出るまでに2年以上かかるなど、待ちわびるファンが多かったタイトルとしても知られています。
- 著者
- 冬目 景
- 出版日
3人の関係を中心に描いた恋愛日常漫画ですが、リクオや、周りの登場人物たちも恋愛を進展させるスピードがみなゆっくりで、ある意味とても現実的です。
そのゆっくりとした流れのなかで、同じ人を好きでい続ける想いの強さや苦悩など、震える感情が様々な角度から丁寧に描かれています。
友達以上恋人未満の関係性や、なかなか諦めきれない気持ちの行きつく先、皆が少しずつ遠回りしてそれぞれに選び取っていくさまがじんわりと感動を誘う、冬目景の傑作です。
母親の海外赴任のため、祖父のいるしきみ野アパートに引っ越した空木基海。そこで、紫色の髪をした少女アコニーと出会います。
アメリカ人と日本人のハーフのアコニーは、10年前、ある事故で死んだはずでした。しかし、事故の後消息不明の母親をアパートで待ち続けていたのです。
- 著者
- 冬目 景
- 出版日
- 2009-03-23
時間が止まってしまったようなアパートで、変化のない毎日を過ごしてきた少女……ともすれば悲劇的に聞こえますが、この物語の舞台は不可思議なアパート。そこで巻き起こるのは幽霊、付喪神、精霊など不可思議な住人たちとのドタバタ劇です。
しかしそこは冬目作品、ギャグがありつつも独特の線と絵柄ゆえに、どこか落ち着いた抒情的な空気を放っています。
全3巻と短いですが、その後のことを思わせるラストになっています。さらさらと読めるのにほんのちょっと胸に痛みが残るような作品です。
建築科の大学一年生、土神東也。彼には、「建物の記憶を視る」という不思議な能力がありました。取り壊している洋館で、同じ能力を持つ深沢真百合と出会い、物語は始まります。
本作には、洋館やコンクリートのビルなど古い建物が描かれており、そこにはかつての人々の歴史が染みついていて、やがて建物自体が特別な想いを持つようになっています。古い建物やノスタルジックな話が好きな方にはたまらない作品です。
- 著者
- 冬目 景
- 出版日
- 2012-01-30
冬目景がとても楽しく描いたというこの作品。ヒロインは美しいですが恋愛ものではなく、まさに建築ものと呼ぶのが相応しい内容です。
といっても、冬目のややねじくれた人間模様や、整理しきれない心の機微を描く手腕はさすがです。劇的なハッピーエンドなど訪れなくとも、人は過去を受け止め、向き合い、自分なりに進んでいくことができるのだとそっと背中を押してくれます。
ミュージシャンの父と2人暮らしのギター大好き女子高生・磨音が、美しい歌声を持つ美少女転校生・夜祈子と出会います。一見、女子高生のバンド漫画かと思えるのですが、注目すべきはこの2人の関係性。
「夜祈子は最悪の女だった」(『空電ノイズの姫君』1巻から引用)
というフレーズから物語が始まりますが、この関係性がどう変わっていくのかが見逃せないポイントとなっています。
- 著者
- 冬目 景
- 出版日
- 2017-04-24
磨音は天然パーマのふわふわした髪でかわいい女の子ですが、ギターを弾くと急にかっこよくなります。対する夜祈子は黒髪ロングの美人で、歌が上手。並んだ姿を見るだけでもワクワクする2人が、好きな音楽を通じて関係性を築いていく様子に目が離せません。
これまで冬目作品をとっつきにくく感じていた方も、青春モノとして読めるでしょう。一方で、静かに淡々と人の気持ちを描くという冬目の特徴は健在なので、従来のファンも楽しめます。
独特の画風と、物語の繊細さが魅力の冬目景作品。特にノスタルジックなテイストが好きな方は、ハマること間違いなしです!