漫画『羊のうた』が欝展開なのに美しい!最終回までの魅力をネタバレ紹介!

更新:2017.10.23

繊細なタッチの絵柄と退廃的な雰囲気で人気を集める『羊のうた』。代々伝わる「ある病」を軸に展開する物語は、哀しくも美しい人間たちの物語です。今回は、そんな『羊のうた』の最終回までの魅力をネタバレを含めて紹介していきます。

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『羊のうた』が欝漫画なのに美しい?魅力をネタバレ紹介!

著者
冬目 景
出版日

 

『イエスタデイをうたって』で人気を博す冬目景の名を世に知らしめたのが、初期作の『羊のうた』です。

幼少期に両親と離れて暮らすことになった男子高校生・高城一砂(たかしろ かずな)を主人公にくり広げられる、切なく耽美な世界観を描いた本作は、OVA化やドラマ化もされ話題を集めました。

作者の冬目景は、油絵のような独特のカラー絵や繊細なタッチが特徴で、コアなファンを獲得しています。

本作の魅力といえばやはり、作品全体に漂う厭世的な空気感と、ヒロインである千砂(ちずな)の退廃的な雰囲気でしょう。

父を亡くし、ひとりで暮らす千砂は、高城家に伝わる「病」に侵されていました。発作的に他人の血が欲しくなる奇病で、これまで先祖で発病した者は、精神に異常をきたして自殺するなど非業の死を遂げています。

幼い頃に病を発病した千砂は、血が欲しいという葛藤や「他人とは違う」という孤独、さらに倒錯した父親への愛情など屈折した心理をもてあましていました。そんな彼女の破壊的衝動を伴った孤独な姿が、作品を一層盛りあげる要素になっています。
 

また物語が進むにつれ、一砂も病を発病し、いつ他人を傷つけるか分からないような状態になってしまうのです。

そのことで葛藤する彼は、育ての親や好きな女の子など、大切な人たちを遠ざけてしまうことになるのですが、そこにあるのはただただ「巻き込みたくない」という彼の優しさだというところが、どうしようもなく切なくなります。

以上のように、吸血行為にはじまり、倒錯した愛情、近親愛、さらには親殺しのような描写まで、どこまでも暗く重苦しいテーマを包み込んだ雰囲気が、本作の最大の魅力といえるでしょう。

 

漫画『羊のうた』のあらすじ

漫画『羊のうた』のあらすじ
出典:『羊のうた』1巻

幼い頃に母親を亡くし、父の友人である江田夫婦によって育てられた主人公の高城一砂。

特に変わり映えのない日々を過ごしていましたが、ある日、気になる存在である同級生の女の子、八重樫(やえがし)の腕に血がついているのを見て、急に気持ちが悪くなるような奇妙な気分に襲われます。

それが彼に訪れた最初の変化であり、物語が進んでいくなかで重要な出来事となるのです。

小さな頃の夢を頻繁に見るようになっていた一砂は、夢に導かれるように、かつて両親とともに過ごした家を訪れました。そこで実の姉である千砂と出会い、彼の日常は大きく変化していくことになります。

切なく美しい物語は、千砂が語った高城家の秘密から動きだします。

『羊のうた』の登場人物①突然知らされる自身の病。葛藤をかかえる少年【高城一砂(かずな)】

『羊のうた』の登場人物①突然知らされる自身の病。葛藤をかかえる少年【高城一砂(かずな)】
出典:『羊のうた』1巻

美術部に所属している高校1年生。幼いころに母を亡くしており、3才からは父の友人であった江田野夫妻の家でお世話になっています。

ある日、美術部で同級生の八重樫(やえがし)の腕についた赤い色を見たときから異変を感じ、昔住んでいた家を訪れたときに姉の千砂に再会しました。

高城家には代々、謎の奇病が伝わっていて、一砂が血の色を見て気持ちが悪くなるのは、この病によるものでした。

突然知らされた家系の秘密。幼くして亡くした母や、バラバラになった家族の過去を知ったとき、彼は何を思うのでしょうか。自身がかかえる病とどう向き合っていくのかという点も注目です。

『羊のうた』の登場人物②奇病と向き合ってきた少女【高城 千砂(ちずな)】

『羊のうた』の登場人物②奇病と向き合ってきた少女【高城 千砂(ちずな)】
出典:『羊のうた』1巻

一砂が昔住んでいた家に訪れたときに現れたのが、彼の1歳年上の姉である千砂でした。ストレートの長い黒髪で、日本人形を思わせる容姿です。どことなく物憂げな表情が、さらに彼女の美しさを引き立てています。

千砂は母が亡くなった後、父親の志砂と2人で暮らしていました。しかし、父親が半年前に自殺。その後は、1人で暮らしています。

一砂に再会したとき、父親の死や高城家に伝わる病を説明しました。そして、自分もその病を抱えていることを伝えるのです。

初め病を受け入れられなかった一砂に対して、落ち着いた態度で諭す姿が印象的。すでに長年1人で奇病と向き合ってきた様子がうかがえます。

しかし、彼女は自殺した父親との間に複雑な関係をもっていて……。一砂との出会いは、千砂の乾いた心にどのような変化をもたらすのでしょうか。

魅力1:全体の雰囲気が暗いのに、美しい

 

代々、高城家の人間に現れる奇病は、「吸血鬼のように血を欲する」というものでした。そんな病をある日突然発病してしまった一砂の「血が欲しい」という暴力的な衝動と、それに抗おうとする葛藤に、胸がえぐられるような展開が続きます。

一砂と彼の姉である千砂との間に隠された過去の出来事や、愛憎が入り乱れる複雑な人間関係、また千砂の屈折した心理など、作中に漂う退廃的な雰囲気にゾクゾクさせられるでしょう。

また物語の鍵を握る父親は、回想シーンなどでも顔がほとんど描かれず、死んでいるような象徴的な存在となっているところも物語の暗さを醸し出しています。

 

著者
冬目 景
出版日

 

どこまでも暗く重苦しい空気感をまとった物語ながらも、次から次へとページを捲る手が止められないのは、「怖いものみたさ」に似た感情と、「2人がたどる未来への結末を知りたい」という渇望からくるものでしょう。

またこの雰囲気は決して不快なものではなく、むしろその暗さが本作を彩る最大の魅力となっています。

さらに、人を傷つけることを恐れるあまりに他人をシャットアウトし、2人きりで暮らしていく一砂と千砂の排他的なシーンは、映画や絵画を見ているような美しさすら感じることができます。

他人(=羊)の血をすする「狼」としてではなく、「牙をもった羊」として生を受けた姉弟が共有する秘密と、心の睦みあいによって紡がれる物語は、何とも哀しくも美しいものとして表現されています。

 

魅力2:人と吸血鬼の間で揺れ動く心に共感!

 

本作では、作品全体をとおして「血が欲しくてたまらなくなる感覚」と「吸血行為に抗う感情」との間で揺れ動く心理を巧みに描き出しています。

千砂が発病したのは3歳の頃なので、彼女はすでに血が欲しくなった時の対処法を身につけ、緊急事態の時は主治医の水無瀬に処方された薬を飲むことで症状を抑えていました。

しかし、ある日突然発病してしまった一砂は違います。血が欲しくなって、他人を襲ってしまうことだってあるのです。

一砂はいつ発作が起きるのかの予測がつかないため、極力ひとりで過ごすほかありません。さらに、千砂からもらった症状を抑える薬も彼には効果がなく、発作を治める方法は「他人の血を飲む」しかないのです。

滅多に笑わないところが好きだと思っていた同級生の八重樫に対しても距離を置こうとし、「笑わない女は嫌いなんだ」とひどい言葉を投げかけることで嫌われようとするなど、健気な彼の姿に胸がしめつけられる思いになります。

 

著者
冬目 景
出版日

他人を巻き込まないために、育ての親である江田夫妻の家を出て、千砂と暮らしはじめる一砂。荷物を取りにかつての自宅に戻った時に待っていたのは、ずっと育ててくれた「育ての母」であるおばさんでした。

千砂と2人で暮らすことにしたという一砂に「本当に、それでいいのか」と疑問を投げかけてきます。

本当は大切にしたい相手だからこそ傷つけまいとして、「気を遣って、幼いころから心にもないことを言う術を身につけた」「期待に応えたいと無理をしていた」と言い放つ一砂ですが、おばさんには、彼が「嘘をつくときに人の目を見ない」癖があることを分かっているのでした。

だからこそ一砂に対し、「何か隠していることはないか」と問いかけます。しかし発病したとは言えない彼は、頑なに嘘をつき続け、最終的に言い争いになったすえに、「互いに気を遣って、まるで家族ごっこをしてるみたいだった」と秘めていた想いを吐露するのです。

一砂は、やっと本当の家族のように言いたいことを言えるようになったと思うと同時に、これですべてが終わりなのだと打ちのめされてしまう展開がたまらなく哀しいです。

いつか傷つけてしまわないように、と恐れるあまり、大切な人を裏切らないといけないもどかしさ、そして胸を締め付けるストーリーが、一層人間らしさと吸血行為とのジレンマを象徴する展開となっています。

著者
冬目 景
出版日

魅力3:千砂が黒髪美少女として確立している

もはや一砂と千砂、どちらが主人公か分からないですが、千砂は何といってもそのビジュアルがすばらしいのです!

古くから美人の象徴として描かれてきた黒髪のロング、しかもストレートヘアという日本人形を思わせる最強ビジュアルなうえ、制服はセーラー服、家では和服を着ているなど、古典的な美少女像を完璧に表しています。

著者
冬目 景
出版日
2002-01-01

また、彼女の魅力は外見的な美しさだけでなく、精神的な強さと弱さを兼ね備えている点にもあります。それは「他者に弱みを見せない強さ」であり、「父親の呪縛から逃れられない精神の弱さ」です。

クラスメイトを「あたしにかまわないで」とつき放し、発病していることを知る前の一砂にも「もう来ないで」と威圧的な態度を取り、主治医の水無瀬の助けも受け入れようとしない、頑なな強さが描かれています。

「普通の生活も送れない 未来に希望も持てない それでも生きてるなんて滑稽よ!」と心情を吐露するように、孤独ゆえに強くならざるを得なかった彼女の切なさが胸が突き刺さるのです。その強さが「他人を巻き込みたくない」という優しさゆえの対応であることが分かると、ますます彼女が魅力的に映ります。

そこに「心臓に疾患がある」という身体的な弱さが加わって、最強黒髪美女としての存在を確立しているのです。

亡くなった母の面影を追う父のために生き、父を愛した千砂が、生きる意味を一砂に見出して破滅へ向かっていく終盤では、ハラリと舞う黒髪のロングヘアがすさまじいまでの美しさを演出しています。

物語を構成する耽美さを表現するためには、「黒髪の美少女」という古典的存在は必要不可欠であり、彼女の存在が物語全体を引き締め、まとめ上げる大切なものになっています。

魅力4:最終回が壮絶!

他者を遠ざけ、2人きりで過ごす一砂と千砂の行くすえには、明るい未来を描くことがなかなかできません。

人間としての理性を保ったまま、吸血衝動や破壊衝動に抗い、読んでいるこちらが苦しくなるくらいもがいている彼ら。幸せになってほしいと願うのですが、最終回に進んでいくまでのストーリーには、もはや破滅しかないのではと思わせる雰囲気が漂っています。

他人に愛されることを望みながら、愛されないことに安堵し、他人を傷つけることを恐れながら自らも傷つきたくないという、矛盾した感情を抱える一砂と千砂の物語は、狭い世界だけで完結してしまうように感じられるのです。

著者
冬目 景
出版日

彼らの実の母親は病を発症し、発狂して死んでしまいました。2人にも、すでに母と同じ道を辿ることしか残されていないのです。

互いの血を飲めば何とか生きていくことはできるのですが、千砂は「ある理由」から一砂の血を飲むことをよしとしないため、強い薬で発作を抑え、それが原因で徐々に身体が衰弱していきます。

そして、吸血衝動をともなう奇病に侵された姉弟の物語は、圧倒的に美しく、それでいて壮絶なラストへと繋がっていくのです。

馴染むことができないと自覚しながらも「外の世界」を求め続ける悲哀、そして自分の「内の世界」でくり広げられる甘美で倒錯的な愛とのはざまで生きるしかなかった2人の、集大成がつまったラストシーンだといえるでしょう。

『羊のうた』の世界をのぞいてみよう!

著者
冬目 景
出版日

 

何気ない一砂の日常からスタートした物語は、切なく破壊的な結末へと進んでいきます。

吸血行為や近親愛などダークで重苦しい内容を美しくも厭世的に仕上げた本作は、読む人を選ぶ作品といえるかもしれません。

しかし、それを差し置いても濃密な世界観を満喫できる傑作です。一砂と千砂の関係、2人と両親との関係、そして彼らを取り巻く人たちの心模様などが複雑に絡み合う物語を、ぜひ味わってみてください。読後は何ともいえない余韻に浸ることができます。

悲壮感すら漂うがゆえに面白い『羊のうた』は、葛藤し、もがき苦しむ人間たちの愛憎劇も見どころです。主人公とヒロインの2人の愛と憎しみの物語としてだけでなく、「吸血鬼モノ」や「ヒューマンドラマ」としても楽しめる、珠玉の物語を堪能してください。


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