星野道夫のおすすめ文庫本5選!アステカの自然や動物を撮り続けた男

更新:2021.11.7

アラスカの自然やそこに生きる人々も美しい写真と文章で伝え続けた男、星野道夫。彼の魅了されたアラスカには、私たちの人生を考えるヒントがたくさん詰まっていました。今回はそんな星野道夫のおすすめ本をご紹介します。

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星野道夫とは

星野道夫は日本を代表する写真家・探検家のひとり。アラスカの自然や動物を生涯撮り続けたことで知られています。19歳の頃、初めて見たアラスカの写真集がきっかけとなり、アラスカを訪れるようになります。その後26歳でアラスカ大学に入学。大学に通いながらアラスカの雄大な自然をカメラに収め続けました。

41歳で結婚し翌年には子供も産まれますが、43歳の時テレビの取材で訪れていたロシアのカムチャッカ半島でヒグマに襲われて死去。死後20年以上経った今でも彼の写真は多くの人の心を動かし、影響を与え続けています。
 

心の疲れをゆっくりと溶かす一冊

死と生が隣り合わせのアラスカ。死にゆく命が身近に感じ存在する一方で、新しい命が生まれています。『旅をする木』は、そんな豊潤な世界を綴ったエッセイ集です。アラスカを通して星野道夫がたどり着いた人生の真髄に触れられる極上の一冊だと言えるでしょう。

著者
星野 道夫
出版日

この本を読んでいると感じるのが、私たちがいかに生き急いで生きているかということ。常に何かを生み出さなければいけない、常に得をしなければいけない、そんな「人生の生産性」 の呪縛に社会全体が取り憑かれているようにさえ感じます。そんな全力疾走に疲れ果てた私たちをアラスカの大地に招待してくれるのがこの一冊。暖かい語り口で私たちの心に新たな風を吹き込んでくれます。

「人生はからくりに満ちている。日々の暮らしの中で無数の人々とすれ違いながら、私たちは出会うことがない。その根源的な悲しみは、言いかえれば、人と人とが出会う限りない不思議さに通じている」(『旅をする木』より引用)

こんなアラスカの自然が私たちに教えてくれる人生のヒントにこの本を読めば触れることが出来ます。全ての生きとし生けるものには平等な時間が流れている。何も生み出さなくて良い、ただそこに存在して時間の流れを感じれば良い。そんなメッセージを語りかけてくれるようです。 ゆっくり、ゆっくり何度も読み返したい一冊。忙しい私たちの日常が存在する同じ世界に、こんなアラスカの時間も存在している。心の歪みが少しずつほぐれていくようなエッセイです。

ファン注目の遺稿集

『長い旅の途上』は星野道夫の死後、生前未発表だった作品を集めて一冊の本にまとめたものです。短いエッセイが集められているので、星野の独り言を聞くような感覚で楽しむことが出来るでしょう。

著者
星野 道夫
出版日
2002-05-01

私たちが時間に追われて慌ただしく過ごしている時、アラスカではクマがのんびり水面を見つめています。混雑した電車で疲れ切って家路に帰る頃、アラスカではクジラが優雅に海を待っているのです。その一見相反するような私たちの生活とアラスカの生活を結びつけてくれるのがこの一冊。

本書に収められているエッセイはひとつひとつはとてもさり気ないのに、なぜか心に静かに染みるのです。「堂々と発表するほどのことでもないけれど、少し聞いてもらっても良いですか?」と星野道夫が静かに語りかけてくるような、親密さと小さな秘密を内蔵した文章。詩的な描写が読者をアラスカの雄大な大地へと連れ出してくれるようです。

アラスカに生きる動物や人々との交流を描いた本書。消えては生まれ、消えては生まれを繰り返していく波のような命の繰り返し。私たちもその地球という星の「いのち」の一部分であることに気づかせてくれる作品だと思います。

アラスカの人々の尊い悲しみ

『ノーザンライツ』――この作品が星野道夫の遺作となってしまうことなど、誰が予想できたでしょうか。43歳の若さで死去した星野が本書に続く新しい文章を執筆することはとうとうありませんでした。

著者
星野 道夫
出版日
2000-02-29

アラスカの人々はオーロラの事を「ノーザンライツ」(北極光)と呼ぶそうです。この本はノーザンライツを見つめるアラスカの人々の悲喜交交を星野道夫の視点から語ったエッセイ。何十年にも渡って現地の人々と交流を重ねてした星野だからこそのエピソードが語られています。

例えば星野道夫が初めて友達になったインディアン、アルの話。アラスカで生まれ育ったアルはインディアンとして白人に対する複雑な思いを抱えていました。しかしそんな彼が結婚相手に選んだのはニューヨーク育ちの白人女性、ゲイ。インディアンと白人の2つの血を引く息子にインディアンの世界を強要しない、としつつも複雑な胸の内をこんな風に明かすのです。

「久しぶりに(アラスカの故郷である)スティーブンス村に帰って、ユーコンの川べりで寝ているだろ、(中略)気持ちのいい風邪が吹いていて、ユーコンの川面がまぶしくキラキラと光っている。何もかもが昔と同じなんだ……。その時、突然、幻影のように地平線が白人の建物で埋まって見えることがあるんだよ」(『ノーザンライツ』より引用)

アラスカの美しさと悲しみを巧緻な描写で語った一冊。ありのままのアラスカの人々の姿が星野道夫の染み渡る言葉で綴られています。静かな感動を呼ぶ一読に値する本です。

自然の豊かな表情を見たことがありますか?

出身地である千葉県市川市動植物園で行われた講演。友人に頼まれて引き受けたとある中学校の卒業記念講演。そんな星野道夫のさまざまな講演をまとめたのがこの一冊、『魔法のことば』です。

著者
星野 道夫
出版日
2010-12-03

「日本の自然はゆっくりと季節が変わっていきますが、アラスカの場合、あっという間に自然が変わっていくというか、自然が動いていく躍動感があります。自分がアラスカに魅かれている一つの大きな理由は、その躍動感にある気がします」(『魔法のことば』より引用)

この言葉が表すように本書にはアラスカのありとあらゆる魅力が星野道夫の言葉で語られています。冬ごもりから目覚めたブラックベアの話。アラスカでの伝統的なクジラ漁の話。マイナス60度にもなるアラスカのフェアバンクスの話。話しても話しても言葉が追いつかないと言わんばかりに、星野道夫のアラスカへの情熱が文章から溢れ出します。

掲載されている写真も眼を見張るほど美しいものばかり。アラスカの自然も素晴らしいですが、アラスカの動物たちの豊かな表情には必ず驚かされると思います。微笑むシロクマの顔やのんびり寛いでいるクマの親子。アラスカの自然や動物たちの「生命の豊かさ」を感じることができるでしょう。

心にそっと染み渡るような語り口調で書かれていますので、時間をかけて丁寧にじっくり読んでみてください。自然を愛する全ての人におすすめしたい一冊です。

旅行者から居住者へ

『イニュニック生命――アラスカの原野を旅する』は星野道夫がアラスカの森を買い、家を建てた時のエピソードを軸に、アラスカでの出来事をそっと綴った一冊です。アラスカの自然を愛する彼の過ごしたアラスカでの日々が魅力的に伝えられています。

著者
星野 道夫
出版日
1998-06-30

家を建てることになる森に咲く植物について

「黒々として、空に突きささるように立つシロトウヒの針葉樹が僕は好きだ。そこに、アスペンやシラカバが混じっていると何かホッとする。さらさらと風に揺れる葉音。女性的な木だが、秋の黄葉が素晴らしい。」(『イニュニック生命――アラスカの原野を旅する』より引用)

と語る箇所があります。アラスカにある自然や植物を細かく観察して、敬意の気持ちを持って接している作者の様子が読者に伝わる記述だと思います。家を建てる決心した時もアラスカの極北の紅葉が決め手となったことを次のように語っています。

「私たちが何かを決める時、人の言葉でなく、その時見た空の青さとか、何の関わりもない風景に励まされたり、勇気を与えられることがあるような気がする。」(『イニュニック生命――アラスカの原野を旅する』より引用)

アラスカへの旅人だった星野道夫が遂にアラスカの居住者になった経緯やその時見たアラスカの様子、居住者になったからこそ見えてきたアラスカの素晴らしさなどが、ぎゅっと詰まった一冊。自然の息遣いが聞こえてきそうな、しんと静かなアラスカでの記録的エッセイです。

いかがでしたでしょうか?あなたも星野道夫が伝えるアラスカの世界をのぞいて見てください。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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