こんにちは。藍坊主の藤森です。暑い日が続きますね。藍坊主は10年前にリリースしたアルバムのリバイバルツアーが終わり、ニューアルバムの制作も一段落したところです。キャンプにいったり、武者修行に出たり、しばしの夏休みを過ごしています。
コラムの連載が始まったのは、まだ寒かった今年の2月。早くも半年が経ったわけです。本と言えば漫画か教科書くらいで大人になるまで読書の「ど」の字も知らなかった僕が、よくもまあ、本を紹介出来るようになったと思います。
日常生活の中に読書が溶け込んだきっかけは司馬遼太郎さんの作品でした。音楽漬けだった当時、ハマっていたブルハの雰囲気に似ている気がしたのです。
THE BLUE HEARTS→ブルーボーズ→あおボーズ→藍坊主、という経緯を辿ってきた僕らのメジャーデビューの1曲目「鞄の中、心の中」にも司馬遼太郎さんのエッセンスが含まれています。ドレミファの「ド」と読書の「ど」を繋げてくれた彼らに敬意を払い、今回はこのようなテーマで紹介しようと思います。
「はみだし者達の遠い夏の伝説」
ブルハの『TOO MUCH PAIN』の歌い出しを拝借しました。はみだし者、つまり世間から疎ましがられている人物に魅力を感じる本を紹介します。物語は全部で3つ。三者三様の読み応えがあります。一人は幕末の志士、一人は池袋のワル、最後の一人はアメリカに住むヴァンパイア。ブルハのマーシーが「それぞれの痛みを抱いたまま、僕ら必至で分かり合おうとしてた」と書いたように、どうか皆様、個性豊かな彼らを理解しようとして見て下さい。きっと楽しいはずです。
テーマにある「夏」は実質的には関係ありません。3作品とも長編小説なので物語上でも四季が巡ります。しかし、この夏に読んで欲しい本ばかりです。心まで熱くしてくれます。最初に紹介するのは読書の「ど」の字を教えてくれた司馬遼太郎さんの作品『燃えよ剣』です。興味を持ってくれたら嬉しいですが、その時は目頭の熱中症に注意してお読み下さい。
ドデカイ嘘を突き通すより他に、本物になる方法はない
- 著者
- 司馬 遼太郎
- 出版日
『燃えよ剣』は司馬遼太郎作品の中で2番目に読んだ本です。最初に読んだのは『竜馬がゆく』。あっと言う間に司馬遼太郎と坂本竜馬のファンになりました。
ツアーの空き日には神戸の海軍操練所や京都の寺田屋に、レコーディングの合間には近所の勝海舟氷川邸跡地に足を運んだりしたものです。
さて。その竜馬の暗殺をも企んでいたのが『燃えよ剣』の主人公、新撰組副隊長の土方歳三です。竜馬ファンからすれば敵側の人間。最初は新撰組や土方歳三のことがあまり好きではありませんでした。そんなマイナスイメージから『燃えよ剣』のページを開きましたが、読み終わったら竜馬と同じくらい好きになっていました。いまや彼は僕の心で生きるラストサムライです。
何故、好きになったか。竜馬と土方の考え方を比べてみました。「信念が変わらないなら自分は変わるものだ」竜馬はそんな風に思っていたように感じます。
孔子の『君子はと時に従う』に倣い「社会情勢が変わっているのだから昨日の是が今日の非になるのは当然である」と喋ったとか。激動の時代を愛嬌と先見の明で走り抜けた彼らしいエピソードです。
それに比べて土方は信念も自分も岩のように動かず、尊王の勢いが増す中、直向きに幕府の側にいました。仲間の近藤や沖田がいなくなっても新撰組を貫いた。物語の最後、一人で参謀府へ向かう土方が敵の長州部隊に囲まれます。「何者だ」と聞かれ「新撰組副隊長土方歳三」と名乗るシーン。次の瞬間、命を落とすわけですが「死んだ」ではなく「生き抜いた」と感じるラストです。
そんな二人は、共に武士の生まれではありません。竜馬は商人の家。百姓のせがれの土方は、まげは素子鬢という形にすべきところを、武士のまげを真似して叱られては「なぁに。いずれは武士になるのさ」と言っていたそう。
ブルーハーツは「ドデカイ嘘をつきとおすなら、それは本当になる」と歌っていたけれど、ラストシーンも見て分かるように、土方はどんな武士よりも武士になったと思います。「ドデカイ嘘を突き通すより他に、本物になる方法はない」
そんな風に思わされる作品です。