「はみだし者」達の遠い夏の伝説

「はみだし者」達の遠い夏の伝説

更新:2021.12.3

こんにちは。藍坊主の藤森です。暑い日が続きますね。藍坊主は10年前にリリースしたアルバムのリバイバルツアーが終わり、ニューアルバムの制作も一段落したところです。キャンプにいったり、武者修行に出たり、しばしの夏休みを過ごしています。 コラムの連載が始まったのは、まだ寒かった今年の2月。早くも半年が経ったわけです。本と言えば漫画か教科書くらいで大人になるまで読書の「ど」の字も知らなかった僕が、よくもまあ、本を紹介出来るようになったと思います。

hozzy(Vo)、藤森真一(Ba) 神奈川県小田原市出身の4人組ロックバンド。ジャンル、サウンドのスタイルを様々に変化させながらも、秀逸なメロディーと2人のソングライターにより表現される「日常」と「実験的」な世界観の歌詞、確かな演奏力と透明感のあるボーカルが魅力のバンド。 2004年のメジャーデビュー後は数々のフェスやイベントに出演し、2011年5月には自身初の日本武道館公演を開催し大成功に収める。2015年には自主レーベルLuno Recordsを設立しより精力的に活動範囲を広げている。2016年9月14日(水)には『ココーノ』以来、1年9ヶ月ぶりとなる自身8枚目のアルバム『Luno』をリリース。 Vo hozzyは「MUSIC ILLUSTRATION AWARDS 2014」にてBEST MUSIC ILLUSTRATOR 2014を受賞する等、ジャケットデザインの描き下ろしの他にも映像作品の制作、レコーディング機材の制作や楽曲のトラックダウンを自身で行う等、アーティストとして様々な魅力を発揮している。2015年7月からよりパーソナルでコアな表現活動のためのプロジェクト「Norm」をスタート! Norm HP norm.gallery Ba 藤森真一は関ジャニ∞「宇宙に行ったライオン」や水樹奈々「エデン」等への楽曲提供を行う。 藍坊主公式HP http://www.aobozu.jp
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こんにちは。藍坊主の藤森です。暑い日が続きますね。藍坊主は10年前にリリースしたアルバムのリバイバルツアーが終わり、ニューアルバムの制作も一段落したところです。キャンプにいったり、武者修行に出たり、しばしの夏休みを過ごしています。

コラムの連載が始まったのは、まだ寒かった今年の2月。早くも半年が経ったわけです。本と言えば漫画か教科書くらいで大人になるまで読書の「ど」の字も知らなかった僕が、よくもまあ、本を紹介出来るようになったと思います。

日常生活の中に読書が溶け込んだきっかけは司馬遼太郎さんの作品でした。音楽漬けだった当時、ハマっていたブルハの雰囲気に似ている気がしたのです。
THE BLUE HEARTS→ブルーボーズ→あおボーズ→藍坊主、という経緯を辿ってきた僕らのメジャーデビューの1曲目「鞄の中、心の中」にも司馬遼太郎さんのエッセンスが含まれています。ドレミファの「ド」と読書の「ど」を繋げてくれた彼らに敬意を払い、今回はこのようなテーマで紹介しようと思います。

「はみだし者達の遠い夏の伝説」

ブルハの『TOO MUCH PAIN』の歌い出しを拝借しました。はみだし者、つまり世間から疎ましがられている人物に魅力を感じる本を紹介します。物語は全部で3つ。三者三様の読み応えがあります。一人は幕末の志士、一人は池袋のワル、最後の一人はアメリカに住むヴァンパイア。ブルハのマーシーが「それぞれの痛みを抱いたまま、僕ら必至で分かり合おうとしてた」と書いたように、どうか皆様、個性豊かな彼らを理解しようとして見て下さい。きっと楽しいはずです。

テーマにある「夏」は実質的には関係ありません。3作品とも長編小説なので物語上でも四季が巡ります。しかし、この夏に読んで欲しい本ばかりです。心まで熱くしてくれます。最初に紹介するのは読書の「ど」の字を教えてくれた司馬遼太郎さんの作品『燃えよ剣』です。興味を持ってくれたら嬉しいですが、その時は目頭の熱中症に注意してお読み下さい。

ドデカイ嘘を突き通すより他に、本物になる方法はない

著者
司馬 遼太郎
出版日
『燃えよ剣』は司馬遼太郎作品の中で2番目に読んだ本です。最初に読んだのは『竜馬がゆく』。あっと言う間に司馬遼太郎と坂本竜馬のファンになりました。
ツアーの空き日には神戸の海軍操練所や京都の寺田屋に、レコーディングの合間には近所の勝海舟氷川邸跡地に足を運んだりしたものです。

さて。その竜馬の暗殺をも企んでいたのが『燃えよ剣』の主人公、新撰組副隊長の土方歳三です。竜馬ファンからすれば敵側の人間。最初は新撰組や土方歳三のことがあまり好きではありませんでした。そんなマイナスイメージから『燃えよ剣』のページを開きましたが、読み終わったら竜馬と同じくらい好きになっていました。いまや彼は僕の心で生きるラストサムライです。

何故、好きになったか。竜馬と土方の考え方を比べてみました。「信念が変わらないなら自分は変わるものだ」竜馬はそんな風に思っていたように感じます。
孔子の『君子はと時に従う』に倣い「社会情勢が変わっているのだから昨日の是が今日の非になるのは当然である」と喋ったとか。激動の時代を愛嬌と先見の明で走り抜けた彼らしいエピソードです。

それに比べて土方は信念も自分も岩のように動かず、尊王の勢いが増す中、直向きに幕府の側にいました。仲間の近藤や沖田がいなくなっても新撰組を貫いた。物語の最後、一人で参謀府へ向かう土方が敵の長州部隊に囲まれます。「何者だ」と聞かれ「新撰組副隊長土方歳三」と名乗るシーン。次の瞬間、命を落とすわけですが「死んだ」ではなく「生き抜いた」と感じるラストです。

そんな二人は、共に武士の生まれではありません。竜馬は商人の家。百姓のせがれの土方は、まげは素子鬢という形にすべきところを、武士のまげを真似して叱られては「なぁに。いずれは武士になるのさ」と言っていたそう。

ブルーハーツは「ドデカイ嘘をつきとおすなら、それは本当になる」と歌っていたけれど、ラストシーンも見て分かるように、土方はどんな武士よりも武士になったと思います。「ドデカイ嘘を突き通すより他に、本物になる方法はない」
そんな風に思わされる作品です。

現実世界もはみ出し者ばかり?共感を集めた青春小説

著者
石田 衣良
出版日
2001-07-10
「誠」といえば新撰組の隊旗ですが、次に紹介する本の主人公の名前でもあります。この物語のマコトは池袋のワル。喧嘩も強くて女にもモテて僕の憧れでした。今年34歳の藍坊主ですが、僕たちが高校生の頃にドラマ化になり、爆発的に流行りました。まさに青春の1ページという小説です。

マコトの親友タカシもカラーギャングのリーダーだったり、不良少年という意味での「はみだし者」のイメージが強い作品ですが、読み進めると登場人物のほとんどが人と違う何かを抱えていることが分かります。

アニメおたく、電波おたく、風俗おたく、多重人格障害、サバン症候群、学習障害、ED、幼児プレイマニア、サディスト、引きこもり、ニューハーフ……。
様々な珍事件を解決するストーリーが面白くて没頭し、ふと我に変えると「ひょっとして現実世界もはみだしものばかりじゃないか」と感じることがあるのです。

はみだしものである僕が共感しハマった作品が大ヒットした=沢山の人が共感した=この世界はみだしものばかり? こんな強引な理論も頭に浮かびながら思うのは、藍坊主もそういうメンバーで構成されているなと。そう言えばスタッフも。サイレントマイノリティーが本当はマジョリティーなのかもしれません。是非あなたも読んでみてください。もしハマったならあなたも「はみだし者」の仲間入りです。

当たり前の生活が尊いと感じるのは、人とは違う何かがあるから

著者
ステファニー メイヤー
出版日
2008-04-19
幕末の志士、池袋のワルと紹介してきましたが、最後のはみだし者はアメリカ合衆国アリゾナ州のヴァンパイアです。伝説上の生き物であるヴァンパイアの家族と、その中の一人に恋をする少女を主人公にした全4シリーズ、単行本は13冊からなる長編小説。『はみだし者達の遠い夏の伝説』というテーマに一番近いかもしれません。

高校で知り合った二人は恋に落ちますが、そう上手くは行かず苦悩します。ベラは、自分だけが年老いていつかは先に死んでしまう事を。エドワードは、吸血への欲望を抑えきれず、大切な人を傷つけてしまうことを。

青春を分かち合い、数々の障害を乗り越えますが、それでもなお、分かり合えない部分があり、第二シリーズでは二人は殆ど合う事がありません。なかなかそんな恋愛小説はありませんよね。長い物語で彼らは結婚し、子宝に恵まれるのですが、やはりそれも壮絶な試練でした。

「クラスメートとして出会い、デートを重ね、たまには喧嘩もし、仲直りもし、それでもいっしょにいたいから結婚をする。新婚旅行へ行き、家族になった2人にしばらくすると子供が産まれる」こんな2人関係を纏めれば、なんてことのない「あたりまえ」のことです。

人とは違う何かがあるだけで、当たり前の生活が尊いものに感じる。それを極端に表現した物語じゃないかと僕は思います。もし、あなたが「はみだし者」なのだとしたら、当たり前の生活に倖せを見つける力があるということかもしれません。

今回のコラムの冒頭、10年前にリリースしたアルバムのツアーが終わったばかりだと書きました。そのアルバムに「スプーン」という曲が収録されているのですが、10年経った今、僕がはみだし者だから書けた曲なのではないかと思います。この夏、スプーンをBGMにして『はみだし者達の遠い夏の伝説』3作品を読んで頂けたら嬉しいです。では。またお会いしましょう。藍坊主の藤森真一でした。

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