東浩紀のおすすめ本5選!「ゲンロン」で有名な評論家であり哲学者。

更新:2021.11.8

評論家、哲学者、小説家など、様々な顔を見せる東浩紀。ここでは彼の思考を覗ける本を5冊ご紹介します。小説、文芸批評、哲学など、独自の世界観を様々な表現で知ることができ、今後の社会のあり方をひとりひとりが考えていくための土台を示してくれるものです。

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東浩紀とは

東浩紀は1971生まれ、出版社ゲンロンの代表取締役兼編集長です。東京大学、大学院を卒業した後に、東京大学大学院情報学環客員助教授、国際大学グローバル・コミュニケーションセンター教授、早稲田大学文学学術院教授など、長らく教鞭をとっていました。

ルソーやヴォルテール、シュミット、アーレントなど西洋哲学への造詣が深く、理論的な哲学の議論も得意とし、1999年には『存在論的、郵便的—ジャック・デリダについて』でサントリー学芸賞を受賞しました。

また2010年には、『クォンタム・ファミリーズ』で三島由紀夫賞を受賞するなど、批評以外の表現手段ももちあわせていて、彼の内側にあるアイデアを様々なかたちで知ることができます。

東浩紀は現代思想と情報社会論のコンビネーションが得意で、従来の哲学の展開を、複雑なインターネット社会の分析に応用して、この社会はどのようなかたちとなっているか、今後、どのような発展をしていくべきかといった問題に、自身の答えを明確に提示していきます。

東の文章は、哲学に特有の抽象的な概念による空中戦を、現実の問題に引きつけて巧みに論じていて、これまで哲学と無縁だった方に対しても開かれているのです。

グーグルの検索エンジン、アルゴリズムを利用したデータ分析による新しい広告表示など、近年のITにおける革新は、文化、経済、政治、社会のあり方を作り変えていく可能性を持っています。そして、いま私たちに必要なことは、この社会変化の意味は何か、今後どのような社会をつくるべきかという問いと向き合うことです。そして、彼の仕事はその問いの重要性を喚起させ、同時に答えを示すようなものだと言えるでしょう。

「観光客」という概念に託した東浩紀の壮大な未来地図

「観光客」とは文字どおり、ある共同体に所属しつつ、他の共同体を訪れる人のことです。しかし本書は観光にとどまらず、インターネット社会における私たちの振る舞い方が「観光客」であるというメタファーを示しています。

そしてこの「観光客」は、いつ、そしてなぜ登場したのか、情報社会で人はどのように生きるべきかを問う大著で、哲学にありがちな観念的議論の難しさを感じさせない、東浩紀の思想の集大成と言えるでしょう。

著者
東 浩紀
出版日
2017-04-08

インターネット社会は莫大な情報が錯綜し、何が正しいのか判然とせず、大局の把握が難しい状況を呈しています。例えば、若者と政治の関係をSNSがとり結ぶと考えても、それが政治的な決定につながるのかはわかりません。

しかし本書の良さは、「観光客」というメタファーを通して、特定の利害に縛られた政治への関与という型からフリーになって、新しい政治へのコミットメントの回路を示唆するにあたり、ひとつの解を読み取ることができるところにあります。

もちろん、先人の哲学を横断的に取り込む筆者のストーリーを信じ切ってはいけません。しかし、壮大な仮説から思い切って未来像を提示する思想家は数えるほどしかいないことも事実で、本書は、これからの社会のあり方についての議論を喚起するのに十分すぎるほどの力があるといっていいでしょう。

民主主義をインターネット社会に対応させよ!

ルソーの「一般意志」は抽象的ですが、それは情報社会という文脈に照らせばはっきりと理解できるものであると筆者は主張します。

そして、検索エンジンやSNSといった新たな情報技術を土台に一般意志の再定義を行い、古臭い民主主義のイメージから脱出し、熟議を通した合意形成に代わる新しい政治回路を構想するという、野心的な内容です。

著者
東 浩紀
出版日
2015-12-15

インターネットが社会を変えるとはよく聞きますが、本書には、インターネットによって民主主義はどのように変わるかという問いから、将来の政治や国家のあり方にまで議論を広げる奥行きの深さがあります。

ネット上で政治はどうなっているのか、どうなっていくべきかという問いを前に、私たちの焦点はぼやけてしまいがちですが、本書はそうした全体像の掴めない状況に、ひとつの「視点」を与えてくれるものです。

ルソーの説に対する解釈に終始せず、常に現在の社会を視野に入れながら思索する自由な思考は、エッセイ好きな人はもちろん、いわゆるネット民から学者まで、幅広い人に何らかの示唆を与えてくれるものでしょう。

人生の指南書!偶然に身を任せよう

グーグルの検索エンジンは、過去の検索履歴から検索ワードの予想を行います。つまり東浩紀は、現代は人生が予測される時代と認識していて、それでも予測されないような「かけがえのない人生」を送りたいのなら、環境を変える、すなわち旅に出ることが必要だと主張しているのです。

この本はインターネット社会への示唆をしつつ、生き方に関するヒントも含んでいます。

著者
東 浩紀
出版日
2016-08-05

まず興味深いのが、インターネットが強いつながり、旅が弱いつながりという整理の仕方です。インターネットは予測機能、関心に応じた広告表示というアルゴリズムに基づいた人生設計を提供し、自分の興味を掘り下げることはできますが新しい発見は難しいです。

一方で、旅をする、つまり身体を使うことは、偶然の発見があります。旅とは、旅行に限らず、普段の自分の生活から離れたことに挑戦するフットワークの軽さのことでしょう。つまりこの本は、人生を豊かにするための指南書であり、誰でも気軽に手にとって、自分の生活に読みかえて実践できるものなのです。

三島由紀夫賞受賞!小説家としての東浩紀

27年後の世界より、自分の娘と名乗る者から届いたメールをきっかけに始まった、家族の絆を取り戻そうとするSF小説です。

本作の見どころは、ありえたかもしれない可能性を巡って主人公が苦悩するところ。パラレルワールドが世界観に深みを出しており、筆者ならではの情報社会、量子力学のアイデアを着想に組み立てられた、独特の味わいがあります。

著者
東 浩紀
出版日
2013-02-05

クォンタムとは量子、つまりタイトルは量子家族です。量子論からは矛盾する状況が並存する、というモチーフが取り出せます。シュレーディンガーの猫でご存知の方もいらっしゃるでしょう。

本書ではパラレルワールドを無設定におくのではなく、科学的な議論が背後に据えられています。小説の舞台設定や登場人物の描写には、東浩紀の思想や社会的背景が色濃く反映されています。評者である東の書くストーリーの重厚さ、その背後に隠れた彼自身の世界観を垣間見せる機知に富んだ表現が、作品の世界にどんどん引き込んでくれるでしょう。

東浩紀の作法を盗んで、アニメを楽しもう

この本の主題は「なぜこの国の創作がかくも現実から遠く離れるのか」ということです。昔の創作には当時の社会背景が反映されていたが、それがある時点から分離されていったというのです。

その理由は何なのか、そして創作はその困難にどう対処するのかを、4人の作家を例に解明します。そして、文学と社会の結びつきを前提とする従来の文芸評論が不可能であることを、文芸評論を通じて解き明かす、という離れ業を見せつけていきます。

著者
東 浩紀
出版日
2013-12-11

大半の読者にとっては、おそらく創作が現実を離れるという意味も、なぜそれが問題なのかもわかりません。しかし東浩紀は、分析に必要な「セカイ系」や「想像界」といった概念の定義を説明し、そしてその道具を使って新井素子や押井守の作品を実際に分析してみせるのです。

この本の魅力は、筆者の文芸評論への問題意識だけでなく、実際に分析する作法を学べるところにあります。筆者のやり方を真似て、一世を風靡した作品の「感動する」以外の面白さを見つけて、楽しむことができるでしょう。

以上の著作からは一貫して、東からみた未来の社会構想を打ち出す大仕事が見て取れます。インターネット社会は私たちの生活やコミュニケーションを便利にしました。ビッグデータやAIを利用して、社会のあらゆる部分を最適化できる可能性に期待感が募る一方で、その莫大な情報量は同時に社会生活を煩雑にもしました。

玉石混交のネット世界のなかで、私たちの社会はどのような広がりをみせ、発展していくのかという議論自体が玉石混交になってしまっている現状に、東は積極的に自身の意見発信をしていきます。しかも彼は単なる空想を語るのではなく、過去の哲学や思想を手がかりに理論的に議論を構築するのです。そのような未来志向な思想家は、ほかに一体どのくらいいるのでしょう。

彼の根底に流れる思想は『クォンタム・ファミリーズ』、小説という新しいメディアを通してさらなる表現の豊かさを獲得しました。様々な味わい方のできる東の作品を、ぜひ一度手にとってみてはいかがでしょうか。

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