イギリスの黄金時代を築いた君主として名高い「処女王」エリザベス1世。彼女にまつわる歴史的事実や意外な一面などを、おすすめの本とともに紹介していきます。
エリザベス1世は、イングランドの絶対王政全盛期を担った女王です。1558年、25歳のときに即位し、1603年に亡くなるまで45年間にわたって王国を統治しました。
彼女は生涯1度も結婚することが無かったため、「処女王」の異名を与えられることとなりました。またその治世は、芸術や文芸をはじめとした様々な分野で新たな時代が切り開かれたことから「エリザベス朝」とも呼ばれています。
史上最も名高い劇作家のシェイクスピアが登場したのもこのころであり、対外的には無敵艦隊と呼ばれたスペイン海軍に勝利するなどのでき事もあって、エリザベス1世は黄金時代の統治者として有名です。
時を経ても語り継がれるエリザベス1世は、輝かしい栄光のイメージにつつまれていますが、それはあくまで彼女の一面に過ぎません。別の角度から彼女のことをより深く知ることのできる、6つの事実について見ていきましょう。
1:エリザベス1世はライバルに勝つために、汚い戦術を使用した
エリザベス1世は、年を重ね肉体的な美しさが衰えてからも男性の目を自らに惹き付けるために、ある手段を用いました。それは、自分以外の女性には白黒の服装を着用させる一方、自身は華美なドレスを身にまとい、着飾って男性の前に現れるというものでした。
実際に彼女が客人のフランス貴族に対し、宮廷で出会った女性についてどう感じたか尋ねたところ、「太陽が出ているときに星を見ることはできません」と答えが返ってきたので、満足したといいます。
2:彼女は何度も政略結婚の機会があったが、決して結婚しなかった
「処女王」と呼ばれたエリザベス1世ですが、全く縁談や求婚の話が舞い込んで来なかった訳ではありません。スペイン王・フェリペ2世からの求婚や、フランス王の弟・アンジュー公フランソワといった、ヨーロッパを代表する大国の王族との結婚が取り沙汰されていました。
しかし彼女は最終的に男性を選ばず、「国家と結婚」したと公言するようになります。それは政略結婚によって外国勢力の影響が強まることで、自国の政治状況が不安定になってしまうことを警戒してのことだったと言われています。
3:エリザベス1世は、名女優に演じられてきたスターである
イギリスの歴代国王の中でも、彼女は最も多く映画やテレビドラマで取り上げられた1人となっています。1912年の作品で初めて映画に登場して以来、ケイト・ブランシェットやジュディ・デンチ、そしてヘレン・ミレンといったアカデミー賞受賞女優たちによって演じられてきました。1500年代のイギリスを扱った作品では必ずといってよいほど重要人物としての立ち位置を占め、誰が彼女を演じるかが注目される、スターのような存在なのです。
4:エリザベス1世は、国王は民衆の同意によって成り立つと考え、常に議会での意見を尊重した
彼女は高い教養を持ち、思慮深い人物でした。それは統治における彼女のモットー「私は見る、そして語らない」、すなわち政治に関わる事項には基本的に口出ししない、という態度にも表れています。
実際の内政についても、議会で制定される法律に従いこれを尊重しました。結果、近代社会福祉制度の出発点と言われる「エリザベス救貧法」や、現代にまで続くイギリス国教会制度などが議会での手続きを経て成立したのです。
5: 彼女は天然痘に罹った後、肌に跡が残り、髪が禿げ、カツラと化粧で誤魔化していた
肖像画などには描かれなかった事実があります。1562年、当時29歳だったエリザベス1世は天然痘という大病をわずらい、顔面や頭皮に醜い痕跡が残ってしまっていました。しかしそれは、永遠に若さを保ち続ける処女王という神秘的なイメージとはかけ離れるものであったため、彼女は人前に出るときは化粧で顔を、カツラで禿げを覆い隠し続けました。
6: 彼女は晩年、友人たちの死をきっかけに鬱になっていた
1598年には40年間にわたってエリザベス1世の首席顧問官であったバーリー卿が死去し、さらには最も親しい友人のノッティンガム伯爵夫人キャサリン・ハワードを1603年2月に失いました。彼らの死というショックから立ち直れず鬱状態となり、ただ座り込むばかりであったといいます。精神も身体もみるみるうちに衰弱し、ついに同年3月24日に、69歳で没しました。
本書はエリザベス1世の一生を中心に、同時代の人物やでき事、時代背景などの紹介を交えながら語り進められていく伝記です。
上下巻で構成されており、そのうち上巻では主に彼女が女王の地位に就くまでの時期を描いています。エリザベス朝研究の第一人者とも呼ばれるクリストファー・ヒバートによって著されました。
- 著者
- クリストファー ヒバート
- 出版日
エリザベス1世について扱った書籍の中でも本書が特に優れているのは、同時代人の証言などの史料をくまなく調査することで見えてきた彼女の人物像を、極めてリアルに描き出している点です。
歴史的事実や業績についての解説だけではなく、ちょっとした私生活のエピソードなどもふんだんに盛り込まれ、その人となりをまるで同じ時代に生きているかのように感じることができます。また彼女が「私の精霊」とまで呼び厚い信頼を寄せた、バーリー卿ウィリアム・セシルなどの重要人物についても詳しく知ることができる貴重な一冊です。
読みやすくかつ内容量も豊富な、非常に満足できる本となっています。
本書は、エリザベス1世が辿った人生を、絵画や肖像画、写真などを多数掲載して視覚的に分かりやすく解説していて、彼女の入門書としてもぴったりです。
ヨーロッパの並み居る強国と、対等に渡り合った島国の女王としての激動の生涯が、その時代に生きた人々や起こった事件などとともにダイナミックに描かれていきます。
- 著者
- 石井 美樹子
- 出版日
- 2012-06-14
本書の特徴は何といっても、数多くの図版が掲載されていること。華美な服装を好み、王位継承のライバルであったメアリ・ステュアートを上回る美しさを得たいがため、多くの宝石を身につけることで相手を圧倒しようとしたエリザベス1世の姿などを、図版を通してすんなりと理解することができます。
他にもイギリス・ルネサンス時代ともいわれたエリザベス朝の風景を、目で見て分かることのできる本としておすすめです。
本書はエリザベス1世が女王として君臨するなかで、どういったでき事が起こったのかを、ひとつひとつ解説していく内容となっています。
諸外国や国内の有力貴族の思惑に翻弄され、宗教対立の惨劇も目の当たりにしながら、彼女がどのようにしてイングランドを世界の強国へと成長させていったのかを知ることができます。
- 著者
- 青木 道彦
- 出版日
- 2000-01-20
本書はエリザベス1世という人物を知るにあたって立ち返るべき、教科書のような役割を果たしてくれます。豊富な史料研究に基づく信頼性の高い記述や、歴史の初心者にも分かりやすい時代背景の解説なども充実しています。また、彼女ゆかりの地について紹介されているところもポイントです。
エリザベス1世やテューダー朝について描かれた映画などの作品を鑑賞する際にも、参考書として活躍することでしょう。
エリザベス1世の前半生、彼女が女王となるまでの道のりを、歴史史料の研究をもとに明らかにしていくドキュメンタリーです。
著者のデイヴィッド・スターキーは、イギリスにて多数のエリザベス1世やテューダー朝に関する研究・著作を発表している人物です。
- 著者
- デイヴィッド スターキー
- 出版日
歴史小説のようなドラマティックな演出は用いず、かわりに事実を淡々と精密に深掘りしていく内容です。この時代のイギリスについてある程度学んだことのある人に向けて、さらに1歩先の知識を提供するものとなっています。
特に女王に即位するよりも前の時期、常に不安定だった王族としての地位のなかで、いかにして状況を切り開いていったのかを詳しく理解することができ、彼女のことをもっとよく知りたいのであれば必ず目を通しておきたい研究が示されています。
いかがでしたか。エリザベス1世と聞いてイメージするものとはまた違った人物像が見えてきたのではないでしょうか。彼女の人間としての魅力が伝わっていれば幸いです。