お酒が好きなことでも有名な山口瞳。彼が新聞や雑誌で「お酒」にまつわるコラム多く手がけ、これらを本にまとめて出版されたものも多くあります。今回はその中から特におすすめの本と、直木賞を受賞した作品を紹介したいと思います。
1926年、実業家の父の元に生まれた山口瞳は、10代の頃に父の仕事の頓挫、そして第2次世界大戦など波乱の時代を過ごしました。その後、紆余曲折を経てサントリー株式会社へ入社。同社のPR誌『洋酒天国』や商品やキャンペーンのコピーライターとして活躍しました。会社勤めをしながら婦人画報に連載した『江分利満氏の優雅な生活』で直木賞を受賞。その後、サントリー株式会社を退社して、執筆活動に専念します。
2007年、肺がんで他界する直前まで執筆活動を続けていた彼は、酒好きとしても有名でした。また酒に関する連載も手掛け、連載をまとめた書籍も多く出版されました。今回は直木賞を受賞した作品、そして酒好きの彼にまつわるエッセイを3冊ご紹介したいと思います。
『週刊新潮』で31年間続いた山口瞳の雑記を、嵐山光三郎が一冊の本にまとめたこの本は、彼の日常生活での出来事を書き留めたエッセイです。
絵画や俳句など、多趣味でお酒が大好き。ちょっと偏屈でいかにも「昭和の親父」といった雰囲気を感じる彼ですが、麻布出身で山の手の外には住まないと言っていたにも関わらず、息子の進学により国立に移住。銀座の酒場の風景や昔の国立市について触れた内容も盛り込まれています。
- 著者
- 山口 瞳
- 出版日
- 2003-03-28
本書におさめられたエッセイに目を通すと、「ガスの点火ができない」という内容があります。山口はそんな自分のことを「不器用で頭が悪いから」と書いていますが、これは彼が軍隊に在籍していた時に、不発弾をいたずらした男の子が家族を含めて治療に来たことがトラウマになってのことだそうです。
このほかにも軍隊時代の出来事や、向田邦子の作品に傾倒する彼の姿。その一方でビジネスはもちろん、対人関係で上手く会話を成り立たせるヒントになりそうな内容もあり、彼の幅広い視野を感じる作品です。
本書は新聞に連載されたエッセイで、一編一編が短く、どこから読んでも楽しめる内容となっています。
酒を友として30数年、医者から酒を止められても飲み続けたい山口が、世界の銘酒を愛情たっぷりに綴っています。飲むことへの言い訳ではなく、彼流の飲み方が語られている、酒好きの方を肯定する内容です。
この本は日本が高度成長期の1973年に書籍化され、王貞治が現役で活躍していたエピソードや、近代文学で活躍している作家との交流も書かれており、当時を知る人は懐かしく思い出しながら読みふけってしまうかも。
- 著者
- 山口 瞳
- 出版日
- 2010-10-08
お酒を飲む時に、嬉しい気持ちの時もあれば、悲しい気持ちの時もあるのではないでしょうか?また数人で飲む場合には、相手によってお酒のピッチが上がったり、下がったりしていることはありませんか?この本を読むと、豪快に飲みながらも酒に飲まれないように気をつけること、楽しく飲むことを前提に、お酒と向き合えそうな心構えを身につけられそうです。
元サントリーの社員ということもあり、装丁もサントリーオールドがセンス良くデザインされています。味わいを感じる山藤章二のイラストにも、本をより魅力的に演出。お酒が好きな方は気になって手に取ってしまいそうなタイトルも秀逸ですね。
山口瞳が住まいのある東京をはじめ、取材などで訪れた旅行先で見つけた飲み屋を書き留めた一冊です。この本には、彼が連載していた「男性自身」にも登場するお店があります。単に気に入った飲み屋について書いているだけでなく、それぞれの店の雰囲気や従業員の働く姿勢についても触れた奥深い内容に、ついのめり込んで読んでしまうでしょう。
豪快にお酒を飲み、うんちくを語る山口のイメージから想像しにくいのですが、家族がサービス業をしていたために飲み屋の従業員に気を使ってしまう、という意外な一面もしたためられています。
- 著者
- 山口 瞳
- 出版日
- 1999-12-27
本書では、各地にある山口瞳が行きつけの店で美味しいと思った料理が章ごとのタイトルに店名とともに使われています。庶民には高嶺の花のお店もありますが、文章からちらりと様子がうかがえるだけでも十分楽しめる内容となっています。
それぞれのお店を紹介した章では、お店の歴史、客層なども綴られていて、読んでいるとどんなお店なのか情景が浮かんでくるような文体も魅力的です。
2007年には山口の息子、山口正介が、本書に載っている「行きつけの店」を再訪し、父の思い出とともに振り返った『山口瞳の行きつけの店』も出版されています。こちらもあわせて読んでみてはいかがでしょうか。
今から半世紀以上前に婦人画報で連載された「江分利満氏の優雅な生活」で直木賞を受賞した山口瞳。この本は昭和30年代のサラリーマンの姿を描いた物語です。
江分利は1926年生まれ。会社の宣伝部に所属するなど、サントリー株式会社に勤めていた山口の経歴と重なる部分も多く、サラリーマン時代の彼を投影したのではと感じる設定になっています。
短編小説で構成されている、一編あたりが短いオムニバス形式で、気軽に読みやすいストーリー構成になっています。
- 著者
- 山口 瞳
- 出版日
- 2009-11-10
日本が高度成長期に入った昭和30年時代のサラリーマンの悲喜を描いたストーリーが読者にとって身近で自分を投影しやすい、という点もヒットした要因ではないでしょうか。
今となっては一般的な家電となったテレビについて「TVがやってきた」という章で書かれており、当時の価値観や生活の様子がうかがえます。また現代でも流行りの言葉がありますが、この本では逆に最近使われなくなった言葉も使われており、実年層の方は読まれると懐かしさも感じるストーリーとなっています。
テンポの良い文体はとても読みやすく、若い世代の方にも昭和時代を知るきっかけになりそうな一冊ですよ。
新聞で連載されたエッセイを中心に紹介した山口瞳のおすすめの本はいかがでしたか。今回選んだ4冊はどれもショートストーリーの構成になっていますので、ちょっとした空き時間や1日の終わりにお酒を飲みながら読んでみてはいかがでしょうか。