鋭い洞察力と幅広い教養、トップコンサルタントとしての豊富な経験に裏打ちされた、斬新な自説を展開する作品によって、これまで多くの読者や知識人を唸らせてきた山口周。数ある著書の中から選りすぐりの5冊をピックアップしてご紹介します。
近年、多数のビジネス書を刊行している著者の中でも、多岐にわたる幅広い知識と、難解な内容を徹底的なリサーチと読みやすい文章でわかりやすく解説してくれることで、若い人から知識層にまで支持されているのが、山口周です。
彼は現在、外資系コンサルタントとして活躍する傍ら、年間に数冊の本も出版するという、かなりのやり手となっています。
その経歴は、まさに華麗の一言。慶応義塾大学・大学院を出たのち、電通に就職、その後、ボストン・コンサルティング・グループや、A.T.カーニーに勤めたのち、外資系企業コーン・フェリー・ヘイグループに在籍しています。
こうした経歴だけ見ると、東京都心の一等地にある超高層ビルの中で、最先端の世界を生きている光景が目に浮かびますよね。
それも間違いではないのですが、一方で山口周のプライベートをのぞき見ると、雰囲気がガラリと一変します。自宅は葉山にあり、朝には海に出てボディーボードでひと泳ぎしてから、都会にあるオフィスへ出勤。夜には薪ストーブで暖をとるような、自然のなかでの優雅な生活を楽しんでいるそう。
そんな山口周が著すのは、主に経営や仕事術、キャリアにまつわる美学を説いた本です。今回は多数の著書の中から選りすぐりの5点を選んで、ご紹介したいと思います。
頭の中には画期的だと確信できる企画や、取引先に気に入ってもらえると自信のある提案があっても、それをうまく伝えることができないために、相手に納得してもらえない……。ビジネスでは、こうした壁を感じる瞬間がよくあります。
どう伝えればいいのか、どう見せればいいのか。企画・提案がビジネスの主軸にある場合、これはビジネスマンにとって永遠のテーマです。山口周はそれらを本書で丁寧にまとめています。
- 著者
- 山口 周
- 出版日
- 2012-10-19
また、デジタルツールの発達によって、ビジネスシーンにおいて避けて通れなくなっているのが、スライドの製作です。
グラフやチャートを盛り込めたり、項目をシンプルに提示できたりと大変便利である一方、視覚的に興味を強く引きつけるだけに、作り方を間違えると、「一体何が言いたいのか?」「ごちゃごちゃで意味がわからない」という混乱を招く危険性もあります。
また、慣れないうちは、スライドを作成すること自体に時間をとられ、効率化を図るどころか、準備の時間が足りなくなってしまうことも……。
そういう人のために、正確でわかりやすいスライドを、少ない労力で手早く作成するための方法について、わかりやすく解説したのが本書です。
スライドの構成要素や、わかりやすいレイアウトのルール、見やすい文字の大きさや行数にいたるまで、事細かなスライド作成のポイントを、100点にもなる図解や事例を交えて、わかりやすく解説されています。
練習問題もあり、自分の実力を知ることができるのも便利な点です。また、表現のパターン数が豊富なので、非常に実践的で、実際のビジネスにすぐ活用できる1冊となっています。
スライド作成は、いまやビジネスの行方を左右するほどの重要な要素ですが、それに特化した指導があるわけでもなく、個人の裁量に任されている部分が多いのが実情です。逆にいえば、ここを攻略し、スキルを身につけることで、自分の可能性を広げていけることは間違いありません。
スライド作成の初心者でも、すでにベテランの人でも納得できる著作です。
この記事を読んでいるみなさんの中には、読書好きな人が多いのではないでしょうか。より熱心な方なら、本を読んで気になる部分にマーカーを引いたり、心に残ったフレーズを書き留めたり、感想を短くまとめて残しておいたりすることでしょう。
それでは、本で読み、学んだことを、自分の仕事に活かして成果につなげられた、と胸を張って言える人は、どれだけいるでしょうか。もし「まだまだ活かしきれていない」と反省する点があるのなら、ぜひ本書をおすすめします。
- 著者
- 山口 周
- 出版日
- 2015-10-17
本書では、読書をビジネスにつなげるために、どの本を、どのように読み、どうやって情報を整理して、仕事に活用すればいいのかについて、具体的にまとめられています。
興味深いのは、山口周が読書を「お金」と「時間」を原資とした将来の仕事への「投資」と位置づけている点です。
この考え方をベースにすると、面白くないのに「本代がもったいない」と最後まで読み続けるのは時間のムダであり、そういう本には早々に見切りをつけ、価値ある本に限られた時間を当てるべきだという考えに行き着くのです。
もっとも、ビジネス書や教養書というのはお値段も張るもの。できることなら本選びには失敗したくありませんよね。そういう方には嬉しいことに、本書では、著者が知人のコンサルタント80数人から聞いた「読んでよかったビジネス書」の中から、さらに厳選した71冊が紹介されています。
「マーケティング」や「意思決定」「リーダーシップ」など8つのテーマ別に、中心・基本・応用の三段階に分けた「ビジネス書マンダラ」が構成されています。今自分が求める本が一目でわかる作りになっているのです。どのような本を読めばいいのかと迷っている方は必見といえるでしょう。
その他、「本は『2割』読めばいい」「5冊読むより『1冊を5回』読む」など、気になる読書の原則がいくつも紹介されています。読書を現実に活かしたい方に、ぜひ読んでほしい1冊です。
本書のタイトルを見て、「知的生産とは何だ?」と疑問に思われるかもしれません。でも、仕事をしている方なら、多かれ少なかれ何かしらの「知的生産」を行っているはずです。
たとえば、仕事でどこかへ視察に行ったら、必ず報告書をまとめて上に提出しますよね。それも立派な知的生産物です。
また、上司から「〇〇社の新しいプロジェクトの情報を集めて」と指示され、リサーチし、その結果をまとめて、提出したことはありませんか。それも知的生産物にあたります。
- 著者
- 山口 周
- 出版日
- 2015-01-15
こうした「知的生産」の作業をやらせると、不思議と段取りがいい人だったり「仕切りが良いね」と褒められたりする同僚がいます。そういう人は、何をどう考え、どうやって情報収集をし、それらを行動につなげているのでしょう?本書では、そのコツが解明されています。
山口周によると、知的生産性を左右するのは、「どう考えるか」ではなく、「情報をどう集めるか」「それをどう処理するか」という、具体的な行動の技術を知っているかどうかだといいます。本書はその具体的な「行動の技術」を「99の心得」として紹介しています。
”99”という数字だけを見て挫折しそうな人も、本書を開いてみれば、それが決して大げさでも、実現不可能な数字でもないとわかるはずです。それぞれの心得はシンプルかつ基本的。でも、1つひとつを確実に実行し、いくつも積み重ねることで、知的生産性を格段に上げていくことが可能になるのです。
もちろん、すべての心得を身につけることは、一朝一夕には難しいでしょう。しかし、たとえば取引先との意思疎通がうまくいかなかったり、上司を納得させる報告書が仕上がらなかったりしたとき、本書を開いてみれば、そこに解決のヒントが見つかるはずです。
ピンチのときの救世主として、いつでも手元に置いておきたくなる1冊です。
「イノベーティブな組織」とは直訳すれば「革新的な組織」となり、要するに、まったく新しいアイデアや、これまでになかった価値や商品、テクノロジーを生み出し、社会的に大きな影響を与える組織ということです。
すぐに思い浮かぶのは、iPhoneを生み出したAppleや、Facebookなどではないでしょうか。
一方で、近年まことしやかに言われるのが、「日本人には創造性がないので、そもそもイノベーションには向いていない」という考え方です。
山口周は、これを大いなる誤解であり、日本人が創造性豊かであることをいくつもの事例を挙げて証明しています。その上で、創造性が欠如しているのは、日本人個人ではなく、日本の会社組織であると指摘するのです。
- 著者
- 山口 周
- 出版日
- 2013-10-17
何か新しいアイデアを生み出そう、斬新な提案をしようと意気込んでも、目の前に「前例がないから」「君はまだ経験が浅いから」という理由で上司が立ちはだかり、一歩も進めなくなってしまう。そういう経験はないでしょうか。
しかし、山口周がリサーチを重ねた結果わかったことは、イノベーションのきっかけを起こすのは、若い人やその組織に入って日が浅い人だったのです。
こういった人の意見や考えを吸い上げ、活かし、形にしていけるような組織とは何か、リーダーシップとは何かについて、本書は紐解いていきます。
なかなか難しそうな内容ですが、読みやすい文章で綴られ、面白い事例がたくさん紹介されているので、サクサク読めてしまうでしょう。芸術から、映画、文学、科学、歴史、時事問題まで網羅する教養の幅広さには脱帽です。
「組織の作り方」とタイトルにはありますが、リーダーシップ論も豊富に載っています。これからのグローバル時代をビジネスマンとして生きぬくためにも、世界に通用するリーダーシップを見につけておきたい人には、最高の教科書になること請け合いです。
就職活動をしたり、転職を考えたりする時期は、社会人であれば少なくとも一度は通る道でしょう。
「自分は何がやりたいんだろう」「この仕事が向いているのか」と自己分析し、10年後、20年後を思い描いて、「このままでいいのか」「もっと好きなことをやるべきでは」と試行錯誤するものです。
一般的には、自分を深掘りして、自分を知り、「なりたい自分像」と比べて、足りないところを埋めていくのが、自分の天職を得るための唯一の方法だと、多くの人に受け止められているのではないでしょうか。
しかし山口周は違うといいます。天職とは「思いも寄らない時期と場所で他者から与えられるもの」であり、そのような偶然がより良い形で起こるように準備しておくべきである、というのです。
- 著者
- 山口 周
- 出版日
- 2012-04-17
たとえば、好きなことを第一に考え、それに関わる仕事をやるときに「奇しくもそれが得意であった」という結果になるのは、大変珍しいことだといいます。つまり、「好きだから」という理由で仕事を選ぶと、天職になりにくいのです。
それよりは、「得意なこと」を見つけ、それを好きになるほうが、自分の天職を見つけやすいと山口周は考えます。「得意なこと」は、周りからもそれをするように望まれるため、やりがいや面白さを見出しやすく、結果もついてきやすいため、その仕事を好きになれる可能性が高いわけです。
一方で、自分では「得意」と思う面を活かせる会社を探し転職すると、そこには自分と同じことを得意とする面々が大勢集まっているという現実が待ち受けています。
そこでトップレベルに立てる実力があるかどうかは、やってみなければわかりません。校内の学力テストは1位でも、全国模試では太刀打ちできないというのは、よくあることです。世界は広く、自分レベルのことができる人間はいくらでもいるのです。
仕事とは何か、天職とは何か、転職することの意義とリスク、天職に巡り合うために本当に必要なものは何なのか……。
今の仕事に疑問を持っている人、これから就職活動や転職活動を始める人が、「こんなはずじゃなかった」という結果を回避するために、本書を読んで仕事やキャリアに対しての心構えをしておくことはきっと後々に役立つはずです。
ぜひ一度読んでみてはいかがでしょうか。
著作は多数あるものの、それぞれの切り口はどれも斬新で、どの本を手にとっても新しい発見と驚きを与えてくれるという点が、山口周の最大の魅力ではないでしょうか。1冊読めば、また次も読みたくなってしまう、飽きのこない著者の1人です。
自分の今抱える課題や悩みと、本のテーマを照らし合わせ、読んでみたいと思う1冊があれば、ぜひ手にとってみることをおすすめします。