中学校で誰もが習うピタゴラスの定理。しかし彼自身のことはよく知らない方が多いのではないでしょうか。実は彼自身については現在でもまだほとんどのことが未解明です。謎に包まれた哲学者について知ることができる本を紹介します。
ピタゴラスは紀元前582年に生まれました。彼は商人だった父に連れられて世界各地を旅します。その中で彼は多くのことを学びました。エジプトでは幾何学とエジプトの宗教を、フェニキアでは算術と比率を、カルディア人からは天文学を教わったそうです。
その後帰郷してセミサークルという学校を開きますが、迫害され南イタリアに移住しました。そこで哲学者、数学者として大いに活躍します。しかし政争に巻き込まれ失脚してしまい、また市民の反感を買っていたこともあり、彼は亡くなってしまいました。彼の最期については諸説あり、殺されたとも、自殺したともいわれています。
しかし死後もなお彼の影響力は強く、事実彼の弟子が各地に学校を作ることで、幾何学などの大きな発展に貢献しました。
1. 哲学者タレスと出身地が同じだった
タレスはピタゴラスと同様に有名な数学者、哲学者で、哲学の始祖ともいわれています。数学においてもタレスの定理で有名です。年は離れていますが、二人はイオニア地方のサモス島という同じ場所で生まれています。彼がタレスに教わったという話も残っています。
2. 大きな宗教結社の創始者だった
その名も「ピタゴラス教団」、あるいは「ピタゴラス学派」。五芒星をシンボルマークとする、独自の哲学学派・宗教結社です。彼等は数学・音楽・哲学を中心に研究していました。また教団は原始的な共産制で、教団に入るには財産を教団との共有にすることが必要だったようです。
3. 秘密主義者だった
彼と彼の教団は秘密主義にこだわっており、新たな発見や考えがあっても外部に伝えようとしませんでした。著作もしなかったようで、今日彼らが書いたとされるものは一切残っていません。よって彼らについては謎が多く、ここにかかれていることも同時代または後世の他の哲学者や史学者の証言をもとに推論されたものです。
4. すべての根源を数と考えていた
古代ギリシャの哲学者たちは全ての物事の根源、すなわち「アルケー」とは何なのかについて様々な主張をしていました。代表的なところでは、タレスは水、ヘラクレイトスは火、デモクリトスは原子がアルケーであると考えていたようです。そしてピタゴラスと彼の教団は数がアルケーであると考えました。彼がいかに数学を重視していたがわかりますね。
5. 数と抽象概念を結びつけた
前項で言及したように彼は数をアルケーと考えたので、次にそれを他の概念と結びつけて説明しようとしました。いくつか例をあげると、1が心、2が意見、3が全体の数、4が正義、5が結婚を意味するそうです。
6. 輪廻転生を信じていた
ヨーロッパでの宗教といえばキリスト教を思い浮かべる人が多いとおもわれますが、紀元前のキリスト教がまだない時代では様々な宗教観が存在していたのです。その中で、彼は輪廻転生を支持し、禁欲で魂が牢である肉体から浄化されると考えていました。
7. ピタゴラスの定理は本人が発見したわけではなかった
この定理は中学校で習いますから多くの方がご存知でしょう。他にも彼の名を冠する様々な定理などが伝えられていますが、それらはピタゴラス本人でなく彼の教団が考えだしたものだったのです。彼がどの発見に深く関わっていたかは今となってはわかりません。
8. ピタゴラス音律を発見した
音律とはある一定の音の周波数の比のことで、よい音律は美しいハーモニーを生み出します。ピタゴラス音律とは2:3の音程を基に作られる音律のことです。伝説では、彼は鍛冶屋の叩くハンマーが響き合っているのを聴き、そのハンマーの重量が整数比になっていることに気づいて、この音律を見つけ出したといわれています。
9. 初めて「コスモス」という言葉を「宇宙」の意味で用いた
「コスモス」というギリシャ語は「秩序」という意味で、「カオス」の対義語です。それを彼は「宇宙」という意味で用いました。「宇宙」、すなわちこの世界を秩序だったものとして捉えたわけですね。
ピタゴラスの秀でた点の1つとして彼が教団、つまり学校を設立したことがあげられます。その後も弟子たちによって似た学校が造られ広まりました。そんな彼の学校にあなたが入ったらどうなるでしょう?
- 著者
- 出光 英則
- 出版日
この本では、則子という、数学なんてちっとも面白くないと言っている女の子がなんとピタゴラスの学校で学ぶことに。実はそれは夢の中の出来事で、夢から醒めた後も夢の中で習ったことの続きを学んでいき……というような物語です。
小学生・中学生向けにつくられた本で、物語を辿っていくと自然にピタゴラスの定理などの数学を学ぶことができます。とても易しく書かれているので、定理を習っていない中学生や、背伸びをしたい小学生高学年でも簡単に学ぶことができ、かつ数学のおもしろさや便利さを体験できます。これを読み終えたころにはきっと数学が好きになっているでしょう。
ピタゴラスの定理は幾何学のみならず、科学のあらゆる分野で顔を出します。それは、かの天才・アインシュタインの生み出した相対性理論でもあてはまるのです。しかも両者のつながりはとても深いものでした。
- 著者
- ["見城 尚志", "佐野 茂"]
- 出版日
- 2006-10-06
この本は、ピタゴラスの定理を掘り下げることで球面幾何、双曲線幾何、複素平面での幾何を次々と学んでいき、はては相対性理論も学ぶことができる、といった構成です。
難しい内容の目白押しで理解できるか不安になりますが、この「知りたい!サイエンス」シリーズの特長である平易な解説と豊富な図解のおかげで、高校生でしたら読み込める内容となっています。
後ろに歴史的な経緯も載っていて、特にここで紹介しきれなかったピタゴラスについての話もあるので、ピタゴラスや彼の定理への理解を深めたい方はぜひ一読を。
ピタゴラスの定理は、彼の教団が発見したものだと言われています。多くの人がそうだと認識していますが、実は彼らよりも1000年以上も前に定理を発見し、活用していた人々がいました。そしてそこから数学の歴史が始まっていたのです。
- 著者
- E. マオール
- 出版日
- 2008-02-27
数学にはある種の魅力があり、これまでもそれに惹きつけられた多くの人々が数学を探求してきました。しかし数学のもつ長い歴史は数学自体とは別のおもしろさを備えています。多くの楽しい寄り道をはさみながら、そんな数学と数学の歴史を同時に紐解いていく、この本はそんな一冊です。
バビロニア人やダ・ヴィンチ、トランスワールド航空など、数学の教科書には出てこない名前がたくさん登場することからもわかるように、教科書ではわからない数学の未知の側面を知ることのできます。知的好奇心が刺激されるコラムも豊富です。
ピタゴラスの定理の発祥についても詳細が載っています。
謎に包まれた哲学者。なぜ彼はこれほど多くの謎をもっているのでしょう。そしてそれにもかかわらずなぜこれほど大きな影響力を持つにいたったのでしょうか。彼の謎を解き明かそうとするとき、そこに目を見張る事実が姿を表わすのです。
- 著者
- キティ ファーガソン
- 出版日
- 2011-09-09
この本では、ピュタゴラスという人物の実像に迫ろうとすべく、多くの逸話を紹介、そして検証していきます。かといって厳密性を追い求めた堅い感じの本ではありません。この本の詩的なタイトルの通り、彼の人物像を芸術的に描き出す、そんな一冊に仕上がっています。
「ピュタゴラス……あなたはそこにいるのですか?」これはこの本の最後の文です。この本を読み終えたとき、きっとこの一文に感銘を受けるでしょう。そして彼という人物をより魅力的に感じているはずです。
いかがでしたか。解き明かされない謎も多いですが、この先の時代でも彼の思想はピタゴラスの定理とともに影響力を持ち続けるでしょう。