走る村上、ぼやく角田【ランニングにおすすめの本4冊】

走る村上、ぼやく角田【ランニングにおすすめの本4冊】

更新:2021.3.29

ある日ふと、走ってみようと思ったとして。どこ走る?どう走る?つーか自分、そもそも走れる?学生時代以来走ってないし、最近体力落ちてきたし、何だか辛そう、あれ面倒臭くなってきたな、やめとくか。こうならないために。走るあなたの背中を押す本。

山本裕子プロフィール画像
俳優
山本裕子
劇団・青年団所属。1974年、三重県生まれ。京都大学法学部卒。ドラマ『踊る大捜査線』にはまり、警察官僚を目指すか、このまま司法試験に向け勉強を続けるか、散々迷った末、勢い余って俳優になる。現在長野県在住。四歳の男児持ち。「トマト農家の嫁」と「俳優」二足の草鞋を履く。 【出演情報】 映画「シスターフッド」 監督:西原孝至 アップリンク吉祥寺にて特集上映 2020年1月4日(土)19:50の回 https://joji.uplink.co.jp/movie/2019/4221
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世界陸上、いかがでしたか。早朝うっかりテレビつけちゃうと、その日一日、裕二の歌声がずっと頭の中でリフレインする季節が二年に一度やってくる。そぉーれーだっけーがっぼぉーくぅーのぉーおおーるまぁーいぷれじゃあーー。いや、大好きですよ。

さて、女四十代、ジョギングはじめました。去年の1月突然に。

昔から200m以上走ることは大嫌いでしたが。あったでしょ、学校でマラソン大会とか。大会前できるだけ足の遅い知り合いを探して、マラソンとかほんっといやだよね~~ほんとほんと~~ゴールまで一緒にゆっくり走ろうね~~そうしようそうしよう~~と道連れを約束して盛り上がり、当日あっさり裏切られるとか。

短距離走る時みたいな疾走感や肉体的充実感もなく、ぜーぜーはーはー息は切れるわ、やたら時間は長いわ、つらくて変な顔になるわ。何より、そんな姿を人に見られることが一番恥ずかしい!という自意識こそが、最も自分を苦しめていたあの頃。ああもう、ほんと、若さって、めんどくせぇよな。

それが何故いまさらこの年になって走ろうと思ったのかというとですね。

妊娠出産による体力の大幅低下と、加齢による新陳代謝の大幅低下、このダブルの低下により、端的に申し上げると、とどのつまりが、あっちゃこっちゃの現場で衣裳がぱっつんぱっつんになったからだよ、言わせんな。

あらあらうちの箪笥は魔法の箪笥、入れた洋服がどんどん縮んでいくのよ~ラララ~ララランド~~~なんて歌ってる場合じゃないのよ。どうすんだこのわがままボディ。わがままが過ぎて衣裳さんに睨まれんぞ。すいませーん、このシャツ、前がぱっくり開いちゃうんで、裏側からガムテ貼ってもいいですか。ふざけんな、痩せろ。

しかし、40年も女やってりゃ、飲むだけでするする痩せる魔法のサプリメントが資本主義の生み出した商業的幻想であることを知っている。経験的に。そして田舎にゃ託児付きのスポーツクラブなんて気の利いたものはねぇんだ。残るは、子がまだぐっすり寝ている早朝に、そのへんトコトコ走ってくるぐらいしかあるまいよ。

幸いここは田舎、行きは南アルプスを遠くに眺めながら、帰りは中央アルプスに向かって、川沿いの道をほとんど人に会うことなく、どこまでもどこまでも走っていくことができます。ちょっと山道走りゃ気分はあらら、最先端のトレランっすよ。たまにシカやらキツネやらイタチやら飛び出してくるけれど。どうかクマとイノシシには出会いませんように、神さま!

しかしこの、どこまでもどこまでも走る、というのが最初はできないわけです。すぐ息が上がってくるし。なんだか動きもぎくしゃくしている。そもそも加減がよくわからない。足もすぐ痛くなる。翌日にはひどい筋肉痛に襲われる。いったいどうしたら。

そこで、本、ですよ。とりあえず、本を読むことにしました。わからないときは本を読もう。この道を行けばどうなるものか。迷わず行けよ、行けばわかるさ。私は読書に逃避する癖があります。

金哲彦のランニング・メソッド

著者
金 哲彦
出版日
2006-11-15

プロ・ランニングコーチ、金哲彦さんの本。今回の世界陸上でもマラソンの解説してましたね。沢山ランニングの本を書かれてますが、中でもこれはコンパクトにまとまっていて、持ち歩きやすい。写真も多い。これから走り始める人の実践的な入門書として、必要にして十分。カラダが軽くなる準備体操と走る際の体の使い方、より長くラクに走れるようになる練習方法、そしてボディケア、などなど。

ところで、LSDって知ってますか。決して手を出してはいけないやばいやつに非ず。ロング・スロー・ディスタンスの略で、ゆっくりと息の切れない速さで、心拍数を上げずに長時間走ることです。脂肪を燃やしたいダイエット目的のジョギングにはこれが最適なんですってよ奥さま。いかにも走った気になる全力での疾走は、むしろ体内の活性酸素が増えるし、心臓の負担が大きいので突然死等のリスクも高まるし、なにしろ苦しいので長時間続けられず、脂肪が燃えるヒマがない。つらいから、なかなか習慣として続けられない。

ですので、とにかく、ゆーーーっくり、正しい姿勢で、らくーーーに、あほみたいに走り続ければよいのだった。根性、とか、いりませんのよ。

こういうこと、学校で教えてほしかったよな~体育とかでさ。とにかく一生懸命、頑張って走れ!とかじゃなくてさ。自分が走り続けられるペースを見つける、という考え方自体、頭になかったもの。走ることはすなわち、苦しいことだと思ってたよ。

さて、さらに体脂肪燃焼だけじゃない。走ることのメリットとして挙げられているのがこちら。

・疲れにくくなる
・脳が活性化する
・ストレス解消できる
・姿勢が美しくなる
・ポジティブになる

マジっすか、これこそ魔法。空気の澄んだ気持ちの良い早朝のジョギング中、時折すれ違うものすごい感じの悪いガチランナーに、あいつの体内で活性酸素が今いい仕事をしますように、と静かに呪いをかける私も、走り続けていればいつかポジティブ前向きな人間になるはずです。

マラソン1年生

著者
たかぎ なおこ
出版日
2009-09-29

長らく運動から遠ざかっていた人がゆる~くランニング始めてみようかなあと思った時まさにこちらをおすすめしたい。著者自身が走り始めた経験を書いたエッセイマンガ。時々ランニングのコーチとして、前出の金さんも登場します。

記録重視のガチランナーを目指すわけでもなく、意識高い系都会型シャレオツランナーでもなく、旅行や食べ歩きと絡めながら日常の一趣味としてランニングを楽しむ様が、とても心地よいです。走るモチベーションはラン後のビール!とかね。

実際、走り始める頃この本を読んで、走るということに対するハードルがものすごく下がりました。頑張らずにゆるーくやればいいんだなあと。

このあと、マラソン2年生、マラソン旅、海外マラソン旅、と続いていくので、そちらもぜひお楽しみいただきたい。

ほのぼのとしたかわいらしい絵柄ですが、たまにそこはかとなく漂う岡田あーみん臭は、りぼんなかよし全盛時代に多感なティーン期を過ごした同い年世代特有のものであろうか。神さま、仏さま、岡田あーみんさま。

なんでわざわざ中年体育

著者
角田 光代
出版日
2016-10-11

角田さんも中年、失礼、いい年齢になってからランニングを始めた人です。走り始めたそもそもの動機が、友人たちのランニング後の飲み会に参加するため、とか、もう本当に好きですよ。本文の書き出しが「最初に断言するが、私は走ることが好きではない」だもの。本一冊書いといて、この人きっぱり言い切ってはる!

スポーツ誌『Number Do』の連載なので、マラソン大会に参加したり、ヨガやってみたり、ボルダリングやってみたり、トレラン、登山と、コンテンツがたいそう派手ですが、毎回特に楽しそうではないのが読んでいてとても面白い。走るのが好きではないのになぜ走るんだろう?と首をかしげながら何年も続けている様は、もはやボヤキ芸。

巻末の中年体育心得8カ条はどれも素晴らしいが、中でも、激しく頷いたのがこちら、引用します。

・ごうつくばらない
痩せる、体脂肪を落とす、中性脂肪値を落とす、生活習慣病を予防する、その運動を介して新しい出会いを求める、人生の倦怠を帳消しにしてもらう、等々、何か得しようとすると、挫折は早まります。

いい言葉ですね。ほんとうに。紙に書いて壁に貼ります。

走ることについて語るときに僕の語ること

著者
村上 春樹
出版日
2010-06-10

はい、出ました、走る小説家。小説を書くランナー。ずっと読んでいる中でランニングに関する文章はいくつもあったけれど、なんせ走ることが嫌いだった私は、ははぁさいですか、ハルキさんがそう言わはるならそうなんでしょうなあ(まあ私は絶対走らないのでその辺よくわかんないスけどね)と変に突っ張っていたのだけど、走り始めてからそれらの文章を読み返すと、やはりとてもとても楽しい。作家との共通言語が増えたというか、作家の言わんとすることを受け取るツールを一つ得たというか。

何の本でもそうですけど、読み手側にメッセージの受容体が増えれば増えるほど、本は楽しめるものであるなあ。面白くない本というものはない、というのはそういうことかしらん。久しぶりに読んで本の印象が全然変わってたりとか。恋をするといきなり巷の恋の歌がココロに響いてきたりするじゃない。もう恋なんてしないなんて、言わないよぜったい!!

こちら、エッセイというよりは、走ることを軸に、著者が自分自身について正面から語ったメモワール。考え方とか、小説家としてのあり方に、走るという行為がこの人にとってどういう意味をもたらしたか、とか。村上春樹が好きであれば確実に楽しめます。

また、2005年11月のニューヨークシティマラソンに向けた練習メニュー記録、でもあるので、普段小説とか読む読まないに関わらず、ランナーはきっと面白く読めるだろうなあ。

にわかランナー、というかジョガー、としてのわたしの感想は、四十代後半になるまでフルマラソンをだいたい三時間半目安で走っていた、という点だけで仰天ですよ。それって、はええよ。それ、もう、体調管理、とかの範囲じゃないから。結構なガチだから。まあ、ウルトラマラソン(100キロ)とかトライアスロンまで始めちゃってる時点で言わずもがなですが。一に才能、二に体力。肝に銘じます。

嫌なことがあったとき、その分いつもより少し長く走る、そのことで自分を強くする、というような記述があって、それがとても心に残っています。消化の仕方として、とても健全だ。ぶちぶち皮肉な言い方をするときもあるけれど(割と多い)、ときどき現れるこういう健全さ、真っ当さを、同時代的に読んで育ってきた中で、自分のどこか深いところに大事にずっと持ち続けている気がします。

ところで余談ですが、私は中学生の頃から村上春樹読者ですけれども、『ハルキスト』という言葉の持つ熱狂的信者イメージが、どうにもこうにも、もうたまらなく、本当に嫌で、あーわたしも村上春樹が好きなんですよーとかうっかり外では言えません。本屋さんでも「あ、ハルキスト(笑)」と思われる気がして買えず(自意識過剰)やむなくネットでこっそり注文しています。ハルキストって言葉を作ったやつ、マジで許さん。『村上春樹好き(むらかみはるきずき)』くらいにしておけばよいものを。

こんな本たちにモチベーションを上げてもらいながら、今日も女42歳、ちまちまよたよた走っています。週に3回程度、平均10キロちょいずつ。おかげさまで、衣裳は無事入るようになりました。とりあえずは。

ただ、日焼けだけはどうにもならん。日焼け止め塗っても塗ってもこっげこげですよ。夏休み、外で遊びまわってる小学生並みの黒さ。短パンで走ってるから太ももの真ん中でくっきり白黒わかれちゃって。意識高く足首までのスポーツタイツはけってか。暑くて死んでまうわ。

今後の目標は、縦横無尽に走り回る3歳児を追いかける、瞬発力と持久力の維持です。ヤツの体力はこれから飛躍的に上がっていくのに、こちとら間近に更年期を控えた身だ。せめて今からできるだけ体を鍛えておかねば。そして小学校の授業参観で「あいつん家、おばあちゃんが来てる!」とかガキどもに言わせないためにもな。

では今日も炎天下、3歳児とじゃぶじゃぶ池行ってきます(また焦げる)。

淡々と走ることに飽きてくると、たまにMr.ビーンの走り方を織り交ぜたりして己を鼓舞します。これも人目がないからできること。わたし、皇居ランナーにはなれそうもありません。

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