藤田和日郎の代表作の1つでもある、不動の名作。今なお語り継がれるこの漫画は、キャラクターの1人1人、ストーリーの1つ1つに魂が込もっていて、読み終わった後にまた読みたくなってしまいます。2018年にはテレビアニメ化、2019年には舞台化も決定している話題作でもあります。 今回はそんな本作から、あのキャラクターの、あの名言をご紹介。あなたの心に響く言葉が、きっと見つかるはずです。
藤田和日郎の長編第2作目となる本作。単行本43巻からなる複雑で壮大なストーリーです。
ファンからはなぜアニメ化しないか不思議がられていた超人気の漫画ですが、2018年、ついにテレビアニメ化が発表されたことでも、再度盛り上がりました。さらに2019年には、舞台化も決定しています。
藤田は前作の『うしおととら』で、人間と妖怪の戦いと絆を力強く描きましたが、今作は彼のその画力で数々のアクションシーンやバイオレンスシーン、敵も味方も、誰もが魅力的なキャラクターを描いているのです。
- 著者
- 藤田 和日郎
- 出版日
登場人物も多く、ストーリーが複雑に絡み合っているので、ぜひ最初から最後まできちんと読むことをおすすめします。風呂敷を広げに広げ、それを見事に畳みきったこの作品から得られる感動とカタルシスは、読者の心にトラウマといっていいほどの何かを打ち付けてくるのです。
この記事では、そんな本作のプロローグ、サーカス編、からくり編、からくりサーカス編のあらすじ、そして名言をご紹介します。
藤田和日郎の他の作品も気になる方は<藤田和日郎のおすすめ漫画ランキングベスト5!活躍を続ける巨匠>も要チェックです。
本作は「プロローグ」「サーカス編」「からくり編」「からくりサーカス編」「機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)編」で構成されています。
主人公は、ゾナハ病という人を笑わせないと呼吸ができなくなる奇病にかかっている拳法家・加藤鳴海(かとう なるみ)と、小学5年生にして180億の遺産を相続した才賀勝(さいが まさる)、そして懸糸傀儡(マリオネット)「あるるかん」を操り、勝を守る美女・エレオノール(通称・しろがね)の3人です。
「プロローグ」では3人の出会いと、鳴海の影響で精神的に成長していく勝の姿、その成長を見つめながら信頼関係を築いていく鳴海とエレオノールの様子が描かれます。
勝は、父・才賀貞義の死によって膨大な遺産を相続しました。そのため叔父である才賀善治に遺産目当てで命を狙われ、そこに偶然居合わせた鳴海と、勝の祖父・正二に頼まれて駆け付けたエレオノールに助けられるのです。
しかし、鳴海は勝を救出した際に爆発に巻き込まれ、その衝撃で切断された片腕を残したまま、姿を消してしまいました。
「プロローグ」が終わると、「サーカス編」と「からくり編」の2つのパートが、幕間を挟みながら交互に描かれます。
まず、残された勝とエレオノールの視点で語られる「サーカス編」。
善治を抑えたとはいえ未だに遺産目当てで狙われる勝は、普通の学校に通うと危険なため、旅芸人のサーカス一座「仲町サーカス」で生活を始めます。
サーカスの暮らしをとおして、彼もエレオノールも成長していくのですが、2人とも命がけで自分たちを救ってくれた鳴海のことが頭から離れません。特にエレオノールは、常に意識から彼の存在が離れないのです。そんな状態の2人が追手と戦いながら、物語は進んでいきます。
また、新たに出会った懸糸傀儡・ギイから聞かされる意味深な助言と、死んだと思っていた祖父・正二の話で、勝はこれまで知らなかった自分の出生の秘密と、200年前から続く、この物語の黒幕の存在を知ることになります。
そして彼は、これまでエレオノールに守られる立場でしたが、彼女を守る覚悟をし、そのために仲町サーカスを離れる決意をするのでした。
- 著者
- 藤田 和日郎
- 出版日
一方「からくり編」は、鳴海が片腕を失い、記憶喪失となった状態で目覚めるところから始まります。
世界中でゾナハ病を振り撒く「自動人形」と戦うギイと出会い、ギイの所属する組織「しろがね」とともに、その戦いに巻き込まれていくのです。
最初は乗り気ではなかった彼でしたが、世界に蔓延るゾナハ病と苦しんでいる人々を知り、自ら戦いに身を投じていきます。
戦いのなかで彼は、自動人形の指揮者である「偽フランシーヌ人形」と、最古のしろがねの1人・フウと出会います。その結果、勝とは違う形で黒幕の存在を知り、エレオノールがゾナハ病の止め方を知っているのではという推測をして、日本に向かうのです。
そして鳴海は記憶を失くしたまま、勝の抜けた仲町サーカスで、エレオノールと合流することになります。
ここからは、サーカス編とからくり編が交差する、「からくりサーカス編」です。
勝の元父親であり、実は物語を裏から操る黒幕だった、フェイスレス。勝は彼の狙いがエレオノールだと知ります。そして彼女を守るために仲町サーカスを離れ、ギイの薦めで黒賀村の阿紫花(あしはな)家に居候することになるのです。彼はそこでギイから、懸糸傀儡の訓練を受けます。
一方、自動人形との戦いを経て日本に帰ってきた鳴海。勝と入れ違いになりながら仲町サーカスに接触を果たします。彼はエレオノールに対してある勘違いをしていて、彼女にゾナハ病の止め方を問い詰めるのです。
エレオノールは変わり果てた彼に戸惑いながらも、彼に対して何もできない自分に悲しむのでした。
- 著者
- 藤田 和日郎
- 出版日
黒賀村の人々とも交流を深めながら、フェイスレスより送られてくる刺客を次々と撃退し、修羅場をくぐり抜けていく勝。ゾナハ病を止める方法を探るため、エレオノールに憎悪を持って接する鳴海。ずっと想い続けていた鳴海に憎まれながらも、まだ彼を想い続けるエレオノール。
この3人の心境と、さらに絡み合っていく複雑な人間模様を描きながら、物語は最終舞台へと移行していきます。
「機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)編」は、仲町サーカスが黒賀村を訪れ、勝と合流し、意味深な幕間を入れ、世界中の人々がゾナハに感染するところから始まります。
ついに、勝と鳴海が合流。鳴海は記憶を取り戻しながらも、エレオノールへの想いを打ち明けられずにいました。しかし勝の采配で、彼はこれまでの憎悪を捨て、彼女のもとへと向かうのです。
一方の勝は、フェイスレスのところへ向かい、ゾナハ病の止め方を問い詰めます。それぞれの想いと価値観がぶつかりあい、その果てに、ついにサーカスは終演を迎えるのです。
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ネタバレを含みますのでご注意ください。
黒賀村でギイと特訓を続ける勝は、阿紫花家の次女・れんげと2人、洞窟で遭難してしまいます。暗闇の中で、彼女はかくれんぼをしてもいつまでも見つけてもらえなかった思い出と、これまでの経験を話しました。
「幸せなんて自分には似合わない」と言う彼女。そんな彼女に、勝は「幸せが似合わない人なんて、いない!」と返すのです。
子供ながら、親戚に命を狙われ、エレオノールを守るため戦う勝。彼の半生が決して幸福だとはいえない複雑なものだっただけに、このセリフには普通に生きている人にはない重みが表されているのです。
勝の采配によって、エレオノールのもとに向かった鳴海。目がまともに見えないまま、彼女の協力もあって敵の自動人形を倒します。
そして彼は戦いの後、これまでの憎悪の心を捨て、ついに愛だけを持って彼女に接するのです。エレオノールの肩を抱きながら、このセリフとともに想いを伝えます。
その言葉を聞いた時、エレオノールは初めて涙を流します。憎悪に囚われた鳴海を想いながらも、彼のために泣くこともできず、ずっと自分を責めていた彼女の、初めての涙です。
これまですれ違いをくり返していた2人が結ばれる姿を見ると、物語の最初から彼らを応援してきた他の登場人物の姿も思い浮かび、感動を抑えられません。
世界中でゾナハ病の進行が早まるなか、未だ記憶喪失のまま、この人類の危機の原因がエレオノールにあると考えて彼女を憎んでいる鳴海。
エレオノールは仲町サーカスで彼と合流し、これまでの経験を聞いて自分に憎悪を抱えていると知りながらも、彼のことを想い続けてきました。
どれだけ憎まれていても愛する人を想い続ける彼女の一途な心と、2人の気持ちがすれ違うこのシーンの切なさに、胸が締め付けられます。
しかも後に、鳴海は記憶を取り戻していることがわかります。もしかしたら、この時すでに記憶を持ちながら、自分の心を滅して彼女に接していたのかもしれません。そのような視点で見ると、さらに切なくなるでしょう。
ゾナハ病を止めるため、フェイスレスのもとへ向かう鳴海たちを見送り、1人避難所に残って自動人形と戦うギイ。
そこに勝が合流し、ギイを連れてその場を離れようとしますが、彼はこの舞台は自分のもので、勝も自分の舞台で命をかけろと先を促します。
そして自動人形との戦いのなかで、最期に鳴海とエレオノールのことを考えるのです。
結婚する娘を送り出すような気持ちで回想する、このシーン。長い間彼らを支え、親のような存在でもあった彼の見事な最期を表しています。
「からくり編」で登場する、サハラ砂漠を中心に活動している「しろがね」の一員ファティマ。彼女は「しろがね」でありながらも結婚したアンジェリーナという女性に憧れていて、人間の心を持たず自動人形と戦い続ける「しろがね」のなかでは、ある種変わった存在です。
そして、そんな彼女は自動人形との戦いのなかで、鳴海を愛するようになります。
鳴海とファティマを含む「しろがね」のメンバーは、フランシーヌ人形の前で、「最古の4人」と呼ばれる4体の強力な自動人形と戦っていました。
強敵との戦いで、瀕死の状態に陥る鳴海。彼を助けるために、ファティマは彼の手当てをしている場所から敵を引き離そうとするのですが、その結果傷を負い、瀕死の状態になってしまいます。
鳴海が復活して「最古の4人」を退けた後、彼に看取られながら息を引き取る前に言った言葉です。作品半ばでいなくなってしまいますが、彼女もまた魅力的なキャラクターといえるでしょう。
フェイスレスに作られた、「しろがね」をさらに改造した「しろがね-O(オー)」のひとり、ジョージ。登場した当初は、手段を選ばず常に合理性を求めて行動し、非道な手段も取っていたため、鳴海とも対立していました。
彼はかつて善次に雇われて勝の命を狙っていましたが、その後味方となった阿紫花家と行動をともにすることで、しだいに人間らしくなっていきます。
フェイスレスによって拡大したゾナハ病の脅威を退けるための装置「ハリー」を回収するため、ジョージはかつて鳴海と対立したレイ疫病研究所を訪れます。
そこで、仲町サーカスの道具方・生方に促され、子供たちにピアノを弾くのです。「またピアノを弾いてね」と言われ、その言葉を胸に、強敵であるカールシュナージーとの戦いに挑みました。
劣勢のなかで煙草を吸いながらこのセリフを言い、当初よりもずっと人間らしく笑います。見事カールシュナージーを破りますが、傷を負った彼は「次は何を弾いてあげよう」と言いながら眠り、安らかな最期を迎えるのです。
ギイの母親でもあり、鳴海を不器用ながらも見守りながら戦いに同行する、最古の「しろがね」の1人、ルシール。
自動人形の「最古の4人」の1人であり、彼女の息子の仇でもあるドット―レとの戦いで一撃を受けながらも、その存在を崩壊させることに成功しました。
死の淵で「しろがね」のメンバーに看取られる彼女は、「自分は人生という絵を黒く塗りつぶすばかりだった、あんたはしっかりクレヨンをにぎって、まっすぐに紙を見て書くように」と伝えます。
彼女もまた序盤でいなくなってしまうキャラクターですが、その存在は大きかったといえるのではないでしょうか。
200年前から続くこの物語の始まりは、銀と金という2人の兄弟と、彼らに愛されたフランシーヌという女性の3人にありました。
彼女は銀のことを愛し、やがて2人は夫婦となります。しかし彼らの結婚式を見ていた金は嫉妬に狂い、フランシーヌを誘拐してしまうのです。
銀は2人を追いかけますが、再会できたのは9年後。そのときフランシーヌはある村で病気にかかり、幽閉されていました。
彼女の病気を治すため、銀は万能の薬「柔らかい石」を作りだすのですが、夫以外の男と9年間も暮らしてしまった自責の念で、フランシーヌは自らに火を放ちます。
「ありがとう、出会ってくれて。ありがとう、ことばをくれて。」と薬指につけた結婚指輪を銀に見せ、「こんなにつらいなら、次は銀さんを嫌っちゃおう、心なんて絶対開かない。」とおちゃめな顔で明るく言い、このセリフに続くのです。
そして、彼女の記憶を引き継いだ子孫であるエレオノールに、物語は繋がっていきます。
フランシーヌの心を自分に向けることができなかった金は、「生命の水」を使って、生きた人形である「フランシーヌ人形」を作ります。しかし彼女は、金の望んだ「笑う」という行為ができません。
しだいに思考能力の低下を疲れと感じ、正二とアンジェリーナを訪ねて自らを破壊するように頼みますが、2人に生かされてしまいます。そして、その後も彼らとともに生活し、2人の子供・エレオノールの出産にも立ち会うのです。
ある時、突如自分の命令が通じない自動人形に襲われて、フランシーヌ人形はエレオノールを庇いながら井戸の中に逃げ込みます。
しかし、エレオノールの心臓についている「柔らかい石」の影響で、井戸の水が「生命の水」に変わってしまい、フランシーヌ人形は溶けていってしまうのです。
亡くなる最後まで幼いエレオノールをあやし続けるこのセリフ、彼女もまたヒロインの1人だったのだと感じさせてくれます。
「最古の4人」で、かつては勝たちと敵だった自動人形・パンタローネとアルレッキーノ。最終決戦の前には、フランシーヌ人形と同じ顔を持つエレオノールに付き従っていましたが、格上の相手との戦いに瀕死の状態となります。
首だけのパンタローネを持った、右半身だけのアルレッキーノの2人は、ついに結ばれた鳴海とエレオノールの姿を見つけました。
フェイスレスから、自分達が笑おうとさせていたフランシーヌ人形が偽物だと聞かされ、絶望していたなかで出会ったエレオノール。フランシーヌ人形と同じ顔の彼女が、泣きながら満面の笑顔を浮かべる姿を見ます。
アルレッキーノが首だけのパンタローネに「見ろ!フランシーヌ様が笑っているぞ、見えているか!」と声をかけ、首だけのパンタローネが笑い、それを見たアルレッキーノが言うセリフです。
自動人形の2人が迎える最期は、たとえ身体は滑稽でも、人間らしく感じるのではないでしょうか。
黒賀村に勝が移り住んでから、フェイスレスの命令で次々と刺客を送ってくるコロンビーヌ。勝と戦ううちに自我が芽生え、愛とは何か考えはじめます。
「機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)編」では、勝の味方につき、フェイスレスのもとにたどり着くための手助けをしてくれる存在です。
戦いの果てに、最後は首だけになってしまうコロンビーヌ。駆けつけた勝をあしらうのですが、彼はそんなコロンビーヌの頭を抱きしめます。
そこで彼女が満足そうに笑いながら言うのが、このセリフ。フェイスレスに辿りつくまでの長い時間を、彼と一緒に戦いぬいた彼女。その終着点ともいえるこのシーンは、敵や味方という関係だけでは描けない美しさを感じます。
このセリフをここまで純粋に、自己満足のために言える人間はいないでしょう。
勝の前に自らの正体を明かし、すべての黒幕として舞台に立つフェイスレスは、自らの希望とエレオノールへの愛を謳います。
勝の中に自分の意識を転送すれば、そこには必ずハッピーエンドが待っていて、エレオノールが自分を愛してくれると主張するフェイスレス。
勝は不気味に思い否定をしますが、それに対する答えとして、このセリフを言いました。悪意なく不幸を撒き散らす彼を、勝はどす黒く燃える太陽にたとえますが、まさにその言葉を体現するかのような敵役でしょう。
偶然出会ったように思われた、勝、鳴海、エレオノールの3人。
しかし、彼らの出会いは偶然ではなく、遠い過去が関係していたのでした。日本から始まった物語はやがて宇宙にまで広がり、さらには時空まで越えていくのです。
壮大な物語の、結末はいかに。
- 著者
- 藤田 和日郎
- 出版日
ついに最終決戦。黒幕であるフェイスレスの正体は、金という人物でした。
彼の目的は、エレオノールを自分のものにすることだったのです。かつて彼女に似た人物を兄・銀に奪われたことによる逆恨みから、すべては始まっていたのでした。
そして、フェイスレスが新しい肉体を確保するための人員として考えていたのが、勝だったのです。エレオノールからの愛を受けるために……。
ロシアで続く激戦。勝はなんとかカピタンを倒し、シャトルで戦う鳴海の元へ駆けつけます。その後シャトルは宇宙ステーションに打ち上げられ、ついにフェイスレスとの最後の戦いへと突入するのです。
勝と対面したフェイスレスは、勝がエレオノールに対して恋愛感情を抱いていると見抜きます。そして、彼女を鳴海に譲われらことを嘲笑いました。
しかし、それに対し勝は、そのことを後悔していないと言い切るのです。それは、自分の想い人を奪った兄を許せなかったフェイスレスにとって、信じがたいことでした。彼は動揺します。
そんななか、フェイスレスに想いを寄せる、「最古の4人」の1人・ディアマンティーナがやってきて……。
さまざまな人物の想いが入り乱れる最終決戦。果たして、どのような決着を迎えることになるのでしょうか。
また最後には、ついにゾナハ病の治療方法が明らかになります。それは、ある意外な方法でした。エレオノール達にとっては身近な、その方法。それが気になる方は、ぜひ本作をご一読ください。
43巻にもおよぶ、壮大な物語のラスト。その長い旅路の果てに、登場人物達は何を見るのでしょうか。その最後のカーテンコールを、目に焼き付けましょう。
名作『からくりサーカス』いかがだったでしょうか?その魅力が少しでも伝われば嬉しいのですが、1つの記事では語り尽くせないほどの魅力が、この作品には詰まっています。少しでも興味が湧いたら、ぜひ手に取ってみてください。