手塚治虫の名作漫画『鉄腕アトム』アニメや映画、グッズの販売などで名前を聞いたことが無い方はいないといっても過言ではない存在ですが、詳しい部分を知らない方は多いのではないでしょうか。ここではそんな意外と知られていない『鉄腕アトム』の魅力に迫ります。
人間と同等の感情と10万馬力など7つの威力を持った少年ロボット、アトムが活躍するこの作品。正義の味方として悪を退治するアトムの威力や強さは確かに魅力的です。
しかしそれだけでなく、人間と同等の感情があるからこその葛藤も、本作の見どころになっています。ロボットに対する差別を受けながらも地球を守るアトムの姿に涙した人も多いはず。そんな『鉄腕アトム』の深いテーマや、アトムの細かい設定にも触れつつ紹介していきます。
- 著者
- 手塚 治虫
- 出版日
- 2009-10-09
21世紀の未来を舞台に10万馬力のロボット少年アトムが活躍します。
ひとり息子を交通事故で亡くした科学省長官の天馬博士が、息子にそっくりのロボットを科学省の総力を結集して作り上げました。博士はロボットを本当の息子のように愛していましたが、成長しないことに怒り、サーカスに売り飛ばしてしまいます。
サーカスで働きだしたロボットは「アトム」と名づけられました。
その後、新しく科学省長官となったお茶の水博士によりロボットに人権が認められ、アトムは自由の身となり、お茶の水博士の作ったロボットの両親とともに暮らし、学校へも通うようになりました。
しかしながら、ロボットに対する差別はきえません。アトムもロボットとして差別を受けます。それでもアトムは、事件が起こるたびに悪に立ち向かっていくのです。
- 著者
- 手塚 治虫
- 出版日
- 2009-10-09
地球を守るために人間の感情をもったアトムが悪に立ち向かっていくヒーロー漫画ですが、アトムはロボットであるがゆえにたびたび差別を受けます。当初サーカスに売られて働かされていたこと以外でも、何かが起こるたびに「ロボットなんかやっぱり信用できない」と言われるのです。
現実世界でも連日、人種差別、いじめなどの問題が多く取り立てられています。もちろんニュースの中で起きる問題だけでなく、自分たちの身近でも差別を感じていると思います。
手塚治虫はロボットであるアトムへの差別を表すことで、現実の地球上の差別問題を取り上げていると言えるでしょう。
また、本作の問題提起は差別にとどまりません。未来に対する思い全てです。
命、愛、自然など生きている上で必要不可欠なものと現実に起こりうる問題、起こっている問題に対して多くのことを訴え、大切なものは何かを考えさせてくれる時間を与えてくれるでしょう。
- 著者
- 手塚 治虫
- 出版日
- 2009-10-09
「人の感情を持つ」ロボットと書きましたが、正確には「人と同等の感情を持つ」ロボットです。作品ごとにアトムは、感情を作り上げていくという設定なのです。
自分で考え、悩み、判断して行動できるうえに、親がいないことを悲しみ、悪党に怒り、子供のように意地になるアトム。ロボットでありながら、ほとんど人間のような存在です。
しかし、あくまでも電子頭脳であるアトムの感情には、人間にとって不都合な性質が意図的に取り除かれたり、逆に人間に都合の良い機能が組み込まれていたりします。
例えば、シリーズ3巻の「アルプスの決闘」では、友達のケンちゃんのハーモニカ演奏に他の友達や犬までものが耳を傾け感動する中、一人その良さが分からず落ち込んでしまいます。
お茶の水博士は、感動や恐怖といった感情は敵と戦うときの妨げであるいう理由からアトムのこの感動が欲しいという懇願を断りますが、お試しで一度だけつけてあげるとこにしたのです。
しかし、アトムが人間の感動とともに恐怖心も持ったと知った悪党に両親を誘拐されてしまい、恐怖から戦えなかったことを悔やみ、あっさりと人間の心を諦めてしまいます。彼は結局、ロボットとしての感情で生きることになってしまうのでした。
このエピソードでお茶の水博士が感情搭載を断ったことでもわかるように、アトムはあくまでロボットとして扱われています。結果、アトムは地球の平和を守っているにも関わらず、ロボットとして差別を受け、迫害される存在になるのですが、そのことで「人間の役に立つために生きている」という殻を破り、完全な自立型人工知能搭載のロボットになり得たということです。
ちなみにアトムの電子頭脳の記憶量は15兆8000億ビット。電子頭脳は頭部ではなく胴体内部に設置されているため、頭部は単なる飾りとされています。身長135㎝、体重30㎏。家族構成は、ロボットの両親と妹・のウラン、弟のコバルトです。
アトムの「7つの威力」は原作版、アニメ版などで異なるバリエーションがあります。
原作版では、善悪を見分ける電子頭脳、60か国語を話せる人口声帯、涙も出るサーチライト、10万馬力の電子力モーター、足のジェットエンジン、鼻のアンテナ、お尻のピストル、とされています。
アニメ版では、時代とともにその威力も変化してきていますので、自分の知っているアトムの威力と比べながら読み返してみても面白いですね。
- 著者
- 手塚 治虫
- 出版日
- 2009-11-11
最終回として一般的に知られているものは、おそらくアニメ版『鉄腕アトム』でしょう。
太陽の核分裂が強くなり、地球が滅びることが判明します。太陽の核分裂を減らすためにロケットをうちあげようとしますが、トラブルが発生して不発。そこで、アトムがロケットを抱えてアトムが太陽に飛び込むことになるのです。
地球のために自分を犠牲にするという、なんともアトムらしい悲しい最後。しかし一方で、漫画版の後日談的内容に、アトムの最後が存在します。
この「アトムの最後」をテーマにした内容は、作者の手塚治虫すらも「陰惨でいやな気分になる」と記述するほど殺伐とした悲劇が描かれているのです。
この回ではロボットが支配する世界が舞台となっており、人工授精によって生まれ、ロボットに育たられた青年・丈夫と少女・ジュリーがメインで話が進みます。
この世界ではロボットが育てた人間同士で殺し合いをさせる娯楽が流行しており、アトムが活躍していた時代とは、人間とロボットの立場が逆転しているというわけです。
丈夫とジュリーも例外なく、殺し合いの場に送られようとしますが、二人は拒否し、脱走します。そして、ロボット博物館に展示されていたアトムにエネルギーを与えて蘇らせ、助けを求めるのです。
事情を知ったアトムは二人を助けることにするのですが、アトムの一言で二人に衝撃が走ります。
「僕の時代では人間とロボットの関係はうまくいっていたのに、未来ではこんな風にになってしまうなんて… でも君たちはそうじゃなくて良かった」(『手塚治虫恐怖短編集(4)科学の暴虐編』から引用)
なんとジュリーはロボットだったのです。驚いた丈夫はジュリーを殺してしまいます。
ジュリーを殺した丈夫に追手から知らされる衝撃の事実。ジュリーも元は人間だったが、丈夫が小さい時彼女と首吊りごっこをしている時に死んでしまったということ。ジュリーを二度殺したと知った丈夫は、そこで銃撃により殺されます。この間にアトムは追跡ロボットに一撃で破壊されてしまうのでした。
アトムも人間も皆殺し状態の衝撃のラストです。なんとも恐ろしく衝撃的すぎる「アトムの最後」。
アトムの存在のみを知る人には、強くてカッコイイヒーローに見えるかもしれませんが、実際は万能な科学の力を持ち、地球のため、人間のために戦いながらも、人間からの差別に直面し、感情があるがゆえに悩み、葛藤し、挙句の果てにロボットに殺されるという、悲しすぎる存在なのです。
そして、 この残酷ともいえる「アトムの最後」を描くことによって、私たちによりリアリティを与え、現実に繰り返されている人種や宗教の差別による戦争の恐ろしさと、文明が支配する未来を伝えたかったのではないでしょか。
それはまた、命の尊さと勇気や愛といった人間の生きる上で大切なことを学ばせてくれているのです。
どうでしょうか?『鉄腕アトム』について知らないこと多いなと思いませんか?知れば知るほど気になることが山積みで、何度も読み返したくなる作品です。
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