阿部謹也のおすすめ本5選!歴史学者の代表作は『ハーメルンの笛吹き男』

更新:2017.8.22

日本人にほとんど知られていなかった中世ヨーロッパの社会の様子を研究した、阿部謹也という人物がいます。おすすめの本とともに、彼の業績をみていきましょう。

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中世ヨーロッパを解き明かす歴史学者、阿部謹也

阿部謹也は、1935年生まれの歴史学者です。中世ドイツを専門分野とし、特に中世ヨーロッパの社会がどのようなものであったかについての様々な研究成果を発表してきました。

歴史学や中世ヨーロッパという時代に関心を持つことになったきっかけは、自身が少年時代にカトリックの修道院生活を送ったことであったといいます。

一橋大学を卒業後、研究者として『ハーメルンの笛吹き男』などの中世ヨーロッパに関する研究を行う一方、ヨーロッパの人々と比較した日本人論についても意見を持っていました。

また一橋大学の学長などを歴任し大学教育の発展にも力を注ぎ、1997年に紫綬褒章を受賞しています。

晩年は腎臓病を患いながらも人工透析を受け、執筆を続けていましたが、2006年に71歳で死去しました。亡くなる日の朝まで、最後の著作に取り組んでいたと言われています。

有名な童話を題材に、中世ヨーロッパを理解する

1284年6月26日、130人の子どもたちが失踪するという事件がドイツの町ハーメルンにて起こりました。

この事件がグリム童話などでも有名な「ハーメルンの笛吹き男伝説」になって今日まで伝えられることになった経緯を、阿部謹也が現地に入ってつぶさに検証し、その研究成果をまとめたものが本書になります。

著者
阿部 謹也
出版日
1988-12-01

主題は「ハーメルンの笛吹き男伝説」の謎を解き明かすことに置かれているものの、本書の見どころはむしろ、中世ヨーロッパ社会の実際の姿がどのようなものであったか、その歴史的背景を詳しく知ることができる点にあります。

ドイツ人たちが東方へと植民活動を行っていた時代であり、また飢餓や疫病がたびたび猛威をふるっていた時代でもあった当時、なぜ集団失踪事件が発生するに至ったのか、なぜ「笛吹き男」が犯人であるとされたのかを考察することで、「ハーメルンの笛吹き男伝説」の本質に迫っていくのです。

ひとつの有名な童話から「中世ヨーロッパ」という世界をとことん掘り下げて具体的なイメージを与えてくれる、歴史好きの人の知的好奇心を刺激してやまない好著です。

阿部謹也が中世ヨーロッパの庶民たちの日常生活を解説

中世ヨーロッパにおいて、徒弟制度の中に組み込まれた職人の子弟たちは、各地へ修業の旅に出ることが運命づけられていました。

そして彼らが出向いて行った先の都市には、職人を受け入れるために宿屋の仕組みが整備されていたのです。

職人と宿屋の主人たち、また農民やジプシーといった人々がそれぞれ暮らしていた中世の日常を、詳しい取材によって明らかにした本です。

著者
阿部 謹也
出版日
2008-07-09

どんな時代においても庶民の生活については資料が少なく、どのように暮らしていたかを知ることは難しいのですが、本書ではそれを阿部謹也が調査して当時の様子を立体的に描き出してくれています。

限られた人数しか親方になることができない職人ギルドのシステムをうまく維持するために、他の都市に出て腕を磨きチャンスを見つけ出すことが義務付けられていた、という事実はほとんど知られていないのではないでしょうか。

貴族たちの華々しい騎士道世界の裏側で、一般の人々がどんなルールに従って暮らしていたのか、それを現代に伝える貴重な本です。

社会の価値観が変化していく経緯を解明する

本書には中世ヨーロッパ社会に関する6本の論文が収められています。

「賤民」とされて虐げられた人々についての考察や、当時のキリスト教の広がりにともなって社会構造や価値観がどのように変化していったのかなど、中世ヨーロッパを理解するうえで知っておきたい情報が記されています。

著者
阿部 謹也
出版日

人間がコントロールできる「小宇宙」と、その範囲を超えるものとしての「大宇宙」という2つによって世界が成り立っているとする考え方が、中世ヨーロッパ社会を読み解く鍵として提示されます。

死刑執行人や皮革職人、旅芸人といった人々は、これらの2つの「宇宙」をつなぎ行き来することのできる職業として畏敬されていました。しかし1つの神がすべての世界をコントロールしていると考えるキリスト教の価値観からは異質な存在となってしまいます。

結果として彼らが社会階層の最底辺に置かれることになった、という経緯から、社会の意識の大きな変化が起きていたことを読み取ります。

被差別民という難しい問題に、歴史学の視点で挑んだ価値ある著作ということができるでしょう。

阿部謹也が教える「学び」の本質

阿部謹也の自伝でもある本書では、歴史学者である彼がなぜ歴史研究の道に進もうと考えたのか、どのように研究に取り組んできたのかといった経歴が明かされています。

学生時代に胸に刻んだ恩師の言葉や、中世ヨーロッパ社会を知っていく中で起こった様々な出来事から、なぜ歴史を学ぶのかについての著者の考えが示されています。

著者
阿部 謹也
出版日
2007-09-10

本書を読むにあたって一番のポイントは、「学ぶ」とはどういうことなのかについて、「自分が変わる」ことこそが、その意味であるという考え方にあると思います。研究対象について自分自身の内面が反応することで、はじめて理解できたといえると阿部謹也は述べています。

「自分はどう感じるのか」に着目するこのような姿勢が、ただ知識を獲得するだけでは決して到達できない地点へと彼が進み、後世に残る研究成果をつくることができた理由であるといえるでしょう。

本書のタイトルにもあるように、自分のなかに歴史をよむことが阿部謹也にとっての「学び」であり、私たちがどのように学ぶべきなのかについて教えてくれているのです。

ヨーロッパ社会の専門家から見た、日本社会の特徴

日本社会には「世間」というものが存在し、日本人はその枠組みの中で生きています。

とらえどころのない「世間」とは一体どういうものなのかを、中世ヨーロッパ社会を研究してきた阿部謹也が、万葉集の時代から現代に至るまでの歴史をひも解き、また西欧社会の様子と比較することによって明らかにしていきます。

著者
阿部 謹也
出版日
1995-07-20

日本ではよく「世間を騒がせたことをお詫びする」ということが言われますが、これを英語などヨーロッパの言葉で表現することはできないという事実があり、ヨーロッパ的な社会観とは異質なものであることがわかります。

このことに注目した阿部謹也は、古代の万葉集にはじまり中世の歎異抄、江戸時代の井原西鶴、近代の夏目漱石といった各時代の文献を参照しながら、「世間」がどのように成立していったのかを探ります。

そうして発見されたのが、「世間」こそが日本人の行動を規定しており、それは1人ひとりの独立した個人がお互いに契約したものとしてのヨーロッパ的な「社会」とは別物である、ということでした。

ヨーロッパ社会の歴史を熟知している著者だからこその視点で日本の「世間」が解明されており、とても興味深く読むことのできる本です。

いかがでしたか。中世ヨーロッパ社会について膨大な研究成果を残した阿部謹也のすごさが伝わったかと思います。ご紹介したその著作にも、ぜひ触れてみてください。

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