激動の時代といわれた昭和時代を理解するにあたって、外すことのできない作家に保阪正康という人がいます。彼がどのような研究を行ってきたか、おすすめの本とともにご紹介します。
保阪正康は1939年生まれ、北海道出身の作家であり、評論家です。
同志社大学を卒業後、電通PRセンターや朝日ソノラマで働き、1972年に『死なう団事件』でノンフィクション作家としてデビューしました。特に昭和初期から中期にかけての人物や、事件を取り扱った著作を多数出版しています。
また日本の医療制度に関する問題意識も強く、医療事故や尊厳死の問題などに対する提言も行っています。
歴史的事件の当事者やその家族に対する取材と、その証言をもとに物語を組み立てていく書き方が、保阪正康作品の特徴です。
1937年2月17日、「死のう団」と呼ばれたカルト教団のメンバー5人が、国会議事堂や警視庁などに侵入し、次々と割腹自殺を図る事件が発生しました。この自殺はすべて未遂に終わりましたが、翌年に教団のリーダーが病死した際には、後を追って自殺する者まで現れました。
本書ではその事件の経緯を追うとともに、戦前の日本でなぜこのような教団が発生し、悲劇が起こってしまったのか、その背景を探ります。
- 著者
- 保阪 正康
- 出版日
新興宗教の教団メンバーが「死のう、死のう」と叫んで行進したことに端を発する「死のう団事件」は、当時の社会からすれば新聞報道などで好奇の目で見られる対象でしかなく、あまり重要とはみなされていなかったようです。
しかし、保阪正康はこの事件に関わった警察権力の異常性に着目し、もともとは既成宗教に対する批判と、世直しの理想を掲げてスタートしたはずの教団が、なぜ死に追いやられてしまったのかを考察しています。
また、現代においても次々と悲劇を起こしているカルト教団について、その本質を知るという点でも参考になる本です。
昭和の日本陸軍が戦争遂行へと突き進み、結果として日本という国を滅亡の危機に導いてしまったのはなぜなのでしょうか。
保阪正康は多数の関係者の証言を得ることによって、日本陸軍という組織にはびこっていた無責任体質に、その失敗の本質を見出します。そのなかで無残に犠牲となっていった人々の知られざる事実も、本書に記されています。
- 著者
- 保阪 正康
- 出版日
- 2006-02-07
戦争や、その中で起こった多くの悲劇を回避できなかったのは、有無を言わせない絶対的な命令がなされていたから、というわけではありません。むしろ、本来は意思決定の責任を引き受けるべき指導部の将校たちが、自分の不利益になることを怖れて見て見ぬふりを重ねていった結果であると、保阪正康は指摘しています。
決して過去だけではなく現代にも通じる、失敗する組織に表れる特徴について、この本を読むことで教訓として学び取ることができるでしょう。
1941年10月に東條内閣が成立してから、対米開戦を決意し実行に移す12月までの2ヶ月間に、日本陸軍の首脳部である陸軍省軍務局で起こっていたことをまとめた本です。
陸軍省軍務局軍務課のメンバーであった石井秋穂の視点から、対米戦を回避したい昭和天皇の意向やそれを受けた外務省と、開戦論を強硬に主張する参謀本部の板挟みにあい、結局はアメリカとの交渉を打ち切って無謀な戦争を仕掛けることになってしまった経緯が記されています。
- 著者
- 保阪 正康
- 出版日
- 1989-06-01
もともと開戦派であった東條英機が1941年に首相に任命された理由は、実は戦争を回避する方向性を探るためでした。
なぜなら、あくまで東條は昭和天皇に対して忠実であり、その意思が戦争を回避したいというものであったため、軍部の強硬派を押さえて軌道修正を実現することができると期待されたのです。
保阪正康はあまり知られていないこの事実を本書で示しますが、そもそも開戦論そのものが、アメリカの日本潰しの思惑にまんまと乗せられた悲喜劇でしかなかったと結論づけています。
情報戦に負けることがいかに大きな敗北であるか、本書を読むことで身にしみて理解することができます。
保阪正康と、同じく昭和史研究の大家であり『日本のいちばん長い日』などを著した半藤一利との対談本です。
特に昭和前期にフォーカスし、当時の軍部の意思決定プロセスのまずさや無責任体質などについて語りながら、現代に直接つながっている昭和という時代から何を学ぶべきかを見直していきます。
- 著者
- ["半藤 一利", "保阪 正康"]
- 出版日
- 2008-07-18
保阪正康と半藤一利にはそれぞれ多数の著作があり、本書に出てくるキーワードや登場人物に対してひも付けて紹介されているので、本書は昭和史の手引書としての役割を果たしています。
2人は戦争の時代から今に至るまで、責任逃れが悲劇を生み出す構造は何も変わっていないと考えており、そういう視点から現代社会を問い直す本としても読むことができるでしょう。
昭和という時代を知り尽くした2人だからこそ語ることのできる主張には説得力があり、過去の経験を次世代に活かすという意味で、ぜひ読まれるべき本です。
本書は、昭和の歴史を視覚的に捉えて理解することを目的としています。
歴史的局面ごとに、政治思想や指導者、代表的な勢力などを図形にしてまとめ、事件がどのような構造で起こっていたのかを解明していきます。
- 著者
- 保阪 正康
- 出版日
- 2015-10-21
歴史を読み解く際に、地理関係や軍事行動を説明するために盤面で見ることはよくありますが、たとえば昭和前期に現れた日本のファシズムが、どのような構造で成り立っていたのかなどを、図形を用いて解説することを試みた書籍は、本書以外にはなかなかありません。
単純化しすぎて本質を見落とすこともなく、読者の頭にすんなりと入ってきやすい図式にまとめきっているのは見事というべきでしょう。
様々な要素が複雑に絡み合っているため把握することが難しい、しかし現代社会を知るうえで無視することのできない昭和という時代を理解したいと思うならば、まずはこの本を読んで整理してみることを強くおすすめします。
いかがでしたか。保阪正康が精力的な取材によって明らかにした数々の歴史的事実は、現代に生きる私たちにとっても重要なことばかりであることがお分かりいただけたかと思います。ぜひ彼の書籍にもチャレンジしてみてください。