自身が官僚でありながら、社会のために官僚を告発した古賀茂明。各方面からの圧力に屈せずに、メディアでの意見発信を積極的に行う彼の原動力は何か、どんなことを主張しているのか。ここでは、官僚批判から脱原発まで、彼の主張を理解する5冊を紹介します。
1955年に長崎県に生まれた古賀茂明は、東京大学法学部を卒業した後、現在の経済産業省(当時は通商産業省)に入省しました。OECDプリンシパル・アドミニストレーターや、経済産業政策課長などを歴任し、2008年には国家公務員制度改革推進本部事務局審議官に就任と、キャリア官僚のなかでも出世街道を歩んできた経歴の持ち主です。
しかし、省益よりも国のためという行動基準により急進的な改革を提言してきたため、経産省大臣官房付という閑職に追いやられ、ついには退職を迫られて2011年9月に辞職しました。
本来国家公務員は全体の奉仕者であって、特定の省益に沿ったことはしてはいけないはずなのに、正直に改革をしていくと組織から阻害されていく。古賀はそのような霞が関の不気味な仕組みに、勇気を持って疑義を投げかけました。
辞職後は大阪府市エネルギー戦略会議副会長として脱原発政策を提言し、特定の組織に利することのない発言を続けている古賀。彼の主張はシンプルで、「日本社会をよりよくするためにはどうすればいいか」という問題意識を軸に展開されます。様々な利害団体からの圧力に耐えながら、著作活動を通じて発信を続ける彼の気概を、以下の5冊でご紹介します。
本書は、当時経済産業省の官僚だった古賀茂明が、官僚の実態を内側から解き明かし、リークした本です。
優秀な人材であるはずの官僚が「国のため」ではなく省益に走り、利権拡大と身分保障に甘んじて天下りしていくのはなぜなのか。「利害にとらわれ政策提言力をなくした官僚では、日本は崩壊する」という危機意識を率直に述べ、官僚はどう振る舞うべきか、どういう制度改革を行うべきかを提案します。
- 著者
- 古賀 茂明
- 出版日
- 2011-07-16
なぜ古賀茂明は官僚になったのでしょうか。その理由は漠然としているものの、国のためになる仕事をしたいという思いがあったことは確かだと彼は振り返ります。そして省益ではなく、日本経済のためになるような改革を提言してきましたが、次第に経産省の居場所を奪われていき、改革派の官僚が抑圧されていくことを知ります。
官僚が省益に走るのはなぜか。それは一人一人の資質や欲というよりも、組織における構造上の問題に原因があり、これを古賀は「霞が関は人材の墓場」と表現し、優秀な人材から変革力を抜き取る仕組みを改革する必要性を、本書を通して訴えかけているのです。
本書は、官僚の実態をリークすると同時に、「身分」に甘んじる行政の変革を強く主張する本です。
発送電分離の提言をすると、経産省からストップをがけられた古賀茂明。閑職に追いやられた自身の経験とその後の行動を時系列で紹介しながら、天下りによって官僚組織と産業界が癒着し、公正な行政運営ができなくなっている状況、霞が関を取り巻く村の掟を白日のもとに晒します。
- 著者
- 古賀 茂明
- 出版日
- 2013-08-09
古賀茂明の批判は、官僚という「身分」に対して向いています。一見すると「亡国大連立」や「未曾有の危機」、「最後の決断」など、危機感を煽るフレーズが並び、真実とは受け入れがたい箇所もありますが、一貫して既得権益の地位に甘んじる行政や産業界のあり方にメスを入れようとします。
言い換えると、古賀はより良い日本社会のために必要な改革は何かを、中立な立場で議論していると言えるでしょう。努力なしで、身分に甘んじて生活を保障される人がいる状況は、近代市民社会においてはおかしなことですが、これがまかり通っている状況を告発する勇気のある人は、滅多にいません。
刺激的なタイトルですが、そこで行われる論理展開は客観的で、権力への批判の裏に、日本の将来を真剣に考える古賀の姿が見えてくる著作です。
国民生活が置き去りにされ、国家中枢の利害を優先して行われる政治を批判し、よりよい国家にするためには何を変えたら良いかを議論する本です。
対談形式をとっており、討論番組でおなじみの須田慎一郎がホストとなって、行政の内部事情に詳しい古賀茂明にインタビューをしていきます。
優秀なはずの官僚がなぜ民意に気づかないのか、といった率直な疑問を古賀にぶつける須田のインタビューは、私たちの肌感覚に近い理解に役立つでしょう。
- 著者
- ["古賀茂明", "須田慎一郎"]
- 出版日
- 2011-07-06
この本も『国家中枢の崩壊』と同年に書かれたもので、「東電」、「公務員改革」、「不良債権処理」といったテーマで政治と役所の腐敗について訴え、どのように仕組みを変革させる必要があるかを議論しています。
大きな特徴として、須田が率直な庶民感覚を代弁するような質問を古賀に向けるなど、対談形式のよさをうまく引き出し、初歩的な内容から順に理解できるようにしている、というところが挙げられます。
古賀の実体験に基づいた明晰な行政批判と、政治や経済界にたくさんのコネクションを持つ須田のコンビネーションは、報道されている事実以上の裏話を知るチャンスを多く与えてくれるでしょう。
原発は倫理的に許されない、といった議論すると、それは感情論だとレッテルを貼られる現状があります。しかし、実は脱原発とは一つの生き方の選択で、倫理の問題なのです。
脱原発し、「再生可能エネルギーで自然と共生する日本を目指す」という思想の方向性に国民が合意できたとき、ようやく脱原発が可能になると古賀茂明は主張します。
- 著者
- 古賀 茂明
- 出版日
- 2013-11-29
原発は高度な科学技術です。それに頼るか頼らないかの議論の特徴として「非倫理性」が挙げられます。しかし、科学技術をどう使うかという問題は、科学の領域だけでは議論できない、いわゆるトランスサイエンスの問題と言えます。
本書は、そうした倫理と原発の切り離しにストップをかけ、倫理と合わせて考える議論の焦点をはっきりさせてくれるでしょう。
そして古賀は、原発に代わって自然エネルギーで補う国家を実現し、日本はその技術と思想を輸出する「夢の伝道師」になる、という方向性を示します。これは、自然の技術による征服という西洋思想とは違った、日本独自の思想です。原発事故が起きたいまは、その方向に舵をとるチャンスと言えるのでしょう。
国家の暴走とは、国民の意思を置き去りにして、集団的自衛権を認める憲法解釈の変更を閣議決定する強引な安倍政権のやり方を指摘する言葉です。
この本では、軍事と経済、雇用政策といったテーマから、いかに国家が暴走しているのかを解き明かし、最後に日本再興のための提言を語ります。
- 著者
- 古賀 茂明
- 出版日
- 2014-09-11
本当の「積極的平和」とは、貧困や飢餓、人権抑圧といった暴力のない状態をつくることで、安倍総理のいう積極的平和主義ではないことを指摘する古賀茂明。また、経済政策についてはアベノミクスが行き詰まりを見せていること、そして雇用では、かねてから主張している天下り問題など適切な行政運営ができない現状を指摘しています。
しかし特筆すべきなのは、古賀は常に対案として何が最適かも議論し、今後日本社会が向かう方向について自然エネルギー路線や、日本のブランド化といった形でアイデアを提起します。
この本には現状分析と、その課題に対するアイデアが詰まっており、何が正しいのかわからない政治情勢の動きに一つの視点を与えるものとして、一読の価値があると言えるでしょう。
以上の5冊全てに言えることは、古賀茂明の著作は単なるプロテストではなく、よりよい社会にしていくためにはどう変えるべきか、という提案を伴う未来志向な内容であるということです。彼の議論は決して感情的ではなく、客観的なデータに基づいた分析で、何が正しいのか判然としない政治状況に、一つのアイデアを提示してくれるものです。読了後はこれをたたき台にして、私たち一人一人が議論していく姿勢が重要と言えるでしょう。