宮脇淳子のおすすめ本5選。東洋史が専門の歴史学者

更新:2021.11.9

モンゴルの歴史研究に始まって、「世界史とは何か」を追求した宮脇淳子という人物がいます。彼女が提唱した歴史観を、その著作とともにみていきましょう。

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歴史の疑問に切り込む歴史学者・宮脇淳子

宮脇淳子は1952年生まれ、和歌山県出身の歴史学者です。東洋史を専門に研究しています。

京都大学を卒業後、大阪大学大学院へ進み、その後大学講師を勤めながら、モンゴルや満洲といった地域で遊牧民たちが築いてきた歴史を題材とした著作を多く手掛けてきました。

学生時代からの師匠で、同じく東洋史の専門家であった岡田英弘と結婚していましたが、彼は2017年5月に死去しています。

この記事では、そんな宮脇が様々な切り口から歴史について考察している作品『世界史のなかの満洲帝国と日本』や『どの教科書にも書かれていない 日本人のための世界史』など、5冊紹介いたします。

宮脇淳子の視点で、満洲の歴史を客観的に考察する

戦前に中国東北部に進出した日本が打ち立てた新国家である「満洲帝国」を題材として、満洲という地域で起こった歴史的事実を世界史の流れのなかで理解しようとする試みが、本書では行われています。

中国、モンゴル、ロシア、日本、そして満州という各勢力がせめぎ合うなか、満洲がどのような意味を持っていたのでしょうか。満洲帝国の建国や、その後の中華人民共和国の成立までを含めて語られます。

著者
宮脇 淳子
出版日
2010-10-28

現代の日本人にとって「満洲」という言葉は、戦前日本の帝国主義を象徴するものであるかのように、どこか否定的な印象をもって捉えられがちです。

宮脇淳子は、「善か悪かという考え方にこだわって歴史から目を背けるようなことをやめるべきだ」と本書で提案しています。

なぜ日本は満洲を勢力下に収めようとしていたのか、さまざまな勢力が入り乱れた満洲の歴史はどのようなものだったのかを、歴史学者としての立場から冷静に見極めよう、というのです。

かつて日本人が深く関わっていながら忘れ去られてしまった、満洲の歴史を教えてくれる好著です。

歴史ドラマにあらわれる、日韓の歴史に対する考え方の違い

2003年9月から2004年3月まで放送された『チャングムの誓い』に代表されるような韓国の時代劇ドラマは、史実から大きく外れたファンタジーであるとするのが、宮脇淳子の本書における主張です。

これらの時代劇は、現代の韓国人が自らの願望を投影した物語に過ぎないこと、他にも「ハングル」が韓国の一般社会に普及した経緯などについて、歴史的事実と対比しながら明らかにしていきます。

著者
宮脇 淳子
出版日
2014-07-01

本書を執筆するにあたって宮脇淳子は、大長編の韓流時代劇を読み込み、実態の解明に多大な労力を注ぎ込みました。その成果として、韓国人は自らが望むような歴史認識を作り上げるために時代劇を製作しているのだ、ということを本書で指摘しています。

宮脇による韓国文化に対する厳しい意見も綴られていますが、ドラマの世界を通して韓国文化の実態を学び、日本人と韓国人の歴史に対する考え方がどれほど違っているのかを理解するためには、本書は有用です。

宮脇淳子の専門分野「モンゴル帝国」の扱いから世界史の本質を考える

「世界史とは何か」という問いかけに始まり、世界の歴史に多大な影響を及ぼした事実がありながら、その功績を表立って語られることの少ない、「消えた帝国」としてのモンゴル帝国について語られます。

そして本書の後半では、もうひとつの帝国として「大日本帝国」の存在を取り上げ、世界史から日本の歴史へとつながる一本の筋道を明らかにしていきます。

著者
宮脇 淳子
出版日
2017-02-24

本書の見どころは、歴史とはそれぞれの国の思想において正しいとされたものであり、いま日本で学ばれている世界史とはそれらの継ぎ接ぎに過ぎない、という問題設定にあります。

モンゴルの歴史を専門に研究してきた宮脇淳子からすれば、各国の歴史において異質なモンゴル帝国の存在は、「目障りであったために重要なファクターとしての扱いを受けてこなかった」というように見ることができます。

世界の歴史を理解するための新たな視点を導入してくれる点で、読み応えがある一冊です。

日本人だからこそ語ることのできる世界史とは

本書は、夫である岡田英弘の著作や歴史に対する考え方について、宮脇淳子が解説していくものです。

西洋ではヘロドトスが、東洋では司馬遷がそれぞれ作った歴史書のスタイルがあり、それらが構造を保ったまま現代にまで繰り返されていること、そしていま「世界史」と呼ばれているものも異質な歴史同士をつなぎ合わせたものに過ぎないということを、本書では指摘しています。

著者
宮脇 淳子
出版日
2016-09-27

日本人だからこそ語ることのできる、新しい世界史のストーリーというものは成立し得ないだろうか、という着眼点に本書の面白さがあります。

世界各地の地域ごと、また時代ごとに権力者によって都合のいいように書き換えられてきた歴史のなかに、ひとつの一貫した道筋を見出すことこそが、岡田英弘と宮脇淳子が目指してきたテーマであることが、本書を読むことでよく分かります。

書かれた歴史をただ無批判に受け入れることなかれ、という筆者の主張には、耳を傾けるべき説得力があるのです。

中国人女性の持つ感覚とその背景を語る、宮脇淳子と福島香織の対談本

宮脇淳子と、元・産経新聞記者で、中国での経験も豊富なジャーナリストの福島香織との対談をまとめた本です。

「中国人女性」という存在の文化的・経済的な背景を交えながら、日中関係にまつわる様々な問題、また日本人が知っておくべき中国人のメンタリティなどについて語り合っています。

著者
["宮脇淳子", "福島香織"]
出版日
2012-04-07

日本に来ている中国人女性の具体的な実話も交えて紹介されているので、彼女たちがどのような感覚を持って生きているのか、また彼女たちから見て日本人男性はどのような存在として映っているのか、といったことを分かりやすく理解できます。

2人が中国人と実際に関わってきた経験がライトな語り口で示されており、非常に読みやすい仕上がりです。

著者の2人による中国人に対する多くの意見が飛び交いますが、ひとつの文化比較として参考になる書籍です。

いかがでしたか。宮脇淳子が追求した、日本人ならではの世界史観という考え方はとても参考になるものだと思います。ぜひ著作も手にとってみてください。

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