仕事のスキルアップや効率化にまつわる書籍は読破したから、ワンランク上のレベルにアップしたい……。そんな意欲に溢れた方に、冨山和彦の書籍をおすすめします。「企業再生のスペシャリスト」が語る実践的かつ現実的な経営論、リーダー論が学べます。
日本経済のこと、経営のこと、もしくはリーダー論について知りたいと思ったとき、とても信頼できる人としてよく名前を挙げられる著者のひとりが、冨山和彦です。
東京大学法学部出身であり、在学中に司法試験に合格しています。大学卒業後はボストン・コンサルティング・グループに入社し、その翌年には日本国内初の独立系戦略コンサルティング会社となるコーポレイトディレクションの設立に携わることになります。後に同社の代表取締役社長にも就任しました。その間には、スタンフォード大学にてMBAまで取得しています。まさにエリート中のエリートなのです。
コンサルタントとして様々な企業に関わった経験があるからこそ、冨山の経営論やリーダー論には説得力がありますが、さらにそれに磨きをかけているのがこの後の経歴。
彼は2003年から、政府の打診を受けて産業再生機構の設立に関わり、そこのトップとして41社の支援を行っているのです。この経歴から「企業再生のスペシャリスト」としての地位を確立しました。
冨山は、単なる組織のシステム論や表面的な経済論などの机上の空論とは無縁です。いまにも沈もうとする船の中に何度も助けに入った彼は、誰よりも生々しい現場を知っています。だからこそ、客観的かつ現実的な経営論、リーダー論の中にも、そこで働く個人の人間性を重視する考え方があり、多くの読者に支持されているのです。
今回はそんな冨山和彦の著書から、いま読んでおきたい5冊をご紹介します。
「失敗は成功のもと」とよく言われます。しかし、たいていの人はなるべくなら失敗したくないと思っているはずです。もし失敗したとしても、それを人に知られたり責められたりすることを嫌って隠す人もいます。
しかし冨山は「挫折をした人だけが、実り多い豊かな人生を送れる」と言い、挫折する体験を積極的に行いそれを乗り越えることが「これからの時代に通用する力」になると説くのです。
- 著者
- 冨山 和彦
- 出版日
- 2011-01-19
冨山のこの言葉がリアリティを持つのは、彼が産業再生機構のトップであったという経歴を持つからにほかなりません。言うなれば、1度挫折した人たちを再び立ち上がらせるためのお手伝いをしてきた人物。接した挫折の数は人一倍でしょう。
その経験から「挫折力」の存在を導き出したのです。
そして、彼自身もまた挫折の経験者であることが明らかにされているのも面白いところです。経歴だけ見れば超エリートである冨山も、司法試験に失敗したり、会社が経営危機に陥ったりと、いくつかの挫折を経たことで成長できたと言います。
挫折の経験が力になるのは、それを乗り越えることで「修羅場に耐え抜く能力」が身につくからだと彼は言います。しかし、失敗を分析し対策を練って自分の力とするのは意味があっても、「もう失敗するまい」と安全な道ばかりを選んだり、新しいチャレンジをしなくなったりするようでは、挫折の経験を活かしたことにはならないと言うのです。
「若いときの苦労は買ってでもしろ」という言葉があります。本書はこれから社会人になる人、または若いビジネスパーソンたちが、いかに苦労して、いかにそれを乗り越えていくか、そしてその先にどんな輝かしい未来が待っているかを学べる一冊です。
日本ではいつのころからか、誰もが名を知る大企業がある日突然倒産したり、あっという間に経営難に陥ったりする状況が珍しくなくなりました。その原因は一体どこにあるのかと日本中が疑問を持っていることでしょう。日本人に新しい発想が乏しいからなのか、年功序列が悪いのか、出来高制にするべきなのか……いろいろな議論が巻き起こりました。
経営の悪化した企業には何が起こっているのでしょう。産業再生機構で企業再生の陣頭指揮をとっていた冨山が実際に目の当たりにしたのは、「マネジメント、経営を担うリーダーの脆弱化」だったというのです。本書のかなり挑戦的なタイトルは、ここに端を発しています。
- 著者
- 冨山 和彦
- 出版日
- 2007-07-13
冨山が産業再生機構で支援したのは41社でしたが、支援するかどうか調査をし、支援の方法について提案をしたのは100社以上にのぼるといいます。ところが「経営陣の交代」がその提案に組み込まれていると、ほとんどの場合で経営者自身が支援の依頼を取り下げたそうです。経営の傾いた会社ほど、
「自分の地位や立場、保身などを第一に考えている人たちが、経営を担っていた」(『会社は頭から腐る―あなたの会社のよりよい未来のために「再生の修羅場からの提言」』から引用)
ということが浮き彫りになりました。
一方で彼は、日本企業の現場は今なお強さを保っていると指摘します。だからこそトップが脆弱化しているにもかかわらず、国際競争に何とか食いついていけているというのです。
経営とはどうあるべきか、現場をどうすれば活かせるのか、なぜ日本の会社は腐ったのか、腐らせないためにはどうすればいいのか……こうした点について冨山の考える経営論を、実際に腐ってしまった企業の末路やそこから這い上がってきた企業の実例をふんだんに交えながら、展開してくれるのが本書です。
日本企業の抱える問題点を、机上の空論ではなく実際にその現場を見た人物が語るという、とても貴重な一冊になっています。
本書『結果を出すリーダーはみな非情である』のサブタイトルは「30代から鍛える意思決定力」とあります。要するに本書は、企業における30代くらいの中間管理職、言い換えるならミドルリーダー、より具体的にすると課長クラスにいるようなビジネスマンに向けて書かれたリーダー論です。
ただし「部下を育てる」とか「チームをまとめる」というよくあるリーダー論を飛び越えて、会社を変革し、日本社会を変革し、時代を動かすためのリーダー論になっています。冨山いわく本書は、「リアリズムのリーダーシップ論の大古典、N・マキャベリ著『君主論』の日本企業ミドルマネジメント版」とのこと。
長い歴史を紐解けば、日本で時代の流れが変わるときに中心にいたのはミドルリーダーでした。たとえば明治維新の三傑、西郷隆盛、大久保利通、桂小五郎も、藩内では課長レベルの下級武士だったそうです。
- 著者
- 冨山 和彦
- 出版日
- 2012-10-26
ミドルリーダーは、上の役職にいる人間より身軽で動きやすいうえ、現場と上層部の両方から情報が集まりやすいために実態をつかみやすく、キーパーソンになりうる要素が揃っているといいます。
しかし条件が揃っていても、誰もがキーパーソンになれるわけではありません。ここで問われるのは「決断力」です。何かを選べば、その他のものを切り捨てることになります。選んだ道の先にはメリットもあればデメリットも待ち受けています。そのデメリットを受け止める覚悟もしなければなりません。
情に流されず、逃げず、悩みに悩んで苦渋の決断を下す能力がリーダーには求められます。また様々な利害関係や人の思惑を調整したり、権力闘争に打ち勝ったりする能力も必要です。
「どんな答えを選ぶにしても、精錬で美しいだけの結論はない」(『結果を出すリーダーはみな非情である』から引用)
こう冨山は言います。そういう意味での「非情」なのです。
決断を下し、それにまつわる諸々に折り合いをつける能力は、若いころから意識して鍛えなければ身につきません。だからこそ、時代を支え会社を支えるミドルリーダーたちに、冨山は「今やるべき」と発破をかけるのです。
ミドルリーダーは何をどう考え、決断し、行動すべきなのか。真のリーダーへと成長するために必要なすべての要素が詰まった一冊です。
かつて日本は「ものづくり日本」として世界中から認められていました。今でもなごりはあり、日本製品に対する信頼度はそこそこ保たれていますが、一方で各メーカーは海外の企業にシェアや人気を奪われ、かなり四苦八苦しているのも現実です。
日本は人件費も物価も税金も高く、リーズナブルな商品を作れないために価格競争で太刀打ちできない一面があります。一方で、日本のものづくり技術には定評があり十分な競争力があるという見方もあります。
どちらが正しいのかという議論になりがちですが、そう単純でもありません。日本のものづくりメーカーは明らかに苦戦している会社もあれば、十分に結果を出している会社もあるのです。この2者にはどういう違いがあるのでしょうか。
- 著者
- 冨山 和彦
- 出版日
- 2013-06-25
そして、ものが売れないのはなぜなのでしょう。どこに問題があるのか、そしてこの苦境から抜け出すためにはどうすればいいのかについて、冨山の考えをまとめたのが『稼ぐ力を取り戻せ!―日本のモノづくり復活の処方箋』です。
たとえば、日本製のテレビが売れなくなったのはAV機器などの分野ではもはや「熟練のワザ」などないため、新興国で同じレベルのものが安く作れてしまうからです。一方、経験値や技術の蓄積がものをいうのは新幹線や原発などの重電業界であり、この方面は未だ需要があるといいます。
また本書が面白いのは、よくありがちな「日本人の発想力の乏しさ」であるとか「競争力がない」といった方向で話を終わらせるのではなく、日本人らしいものの考え方や日本人の文化的要素、また日本の企業に見られる独特の組織構造についてまで言及されているところです。
製造業にお勤めの方、またはこれから製造業に携わりたいと考えている人にはもちろん、「最近の日本のメーカーは元気がないな」と気になっている方にも、日本の製造業をとりまく現状と問題点、解決策について具体的かつ現実的に知ることができる良書となっています。
日本では最近、よく「格差問題」が取り入れられます。格差にもいろいろとありますが、とくに経済的な面での格差や日本経済の停滞において、その大きな要因となっているものは何でしょうか。
冨山は、経済政策において「グローバル企業」と「ローカル企業」の区別をしてこなかったからであると、本書『なぜローカル経済から日本は甦るのか』で指摘しました。
グローバル企業というと「大企業」とざっくり受け取られがちですが、基本は大手製造業のことを指します。日本はかつて高度経済成長期に、加工製品の貿易によって経済成長を成し遂げたことから、今でも製造業の業績が日本の経済の指標となるように考えがちです。
しかし著者は「日本のGDPと雇用のおよそ7割を占めるのは、製造業ではなくサービス業である」と指摘します。さらにサービス業のほとんどは、「グローバル企業ではなく国内各地域内の小さなマーケットで勝負するローカル企業が大半」なのです。
- 著者
- 冨山 和彦
- 出版日
- 2014-06-14
2017年現在、グローバル企業には過去最高益を更新する企業が出てくるなど、回復の兆しを見せています。しかし日本経済が今後元気を取り戻せるかどうかは、ローカル企業が元気を取り戻せるかどうかにかかっている……と冨山は考えるのです。
グローバル企業とは、ローカル企業とは何なのか。また、ローカル企業を取り巻く現実や抱える問題点、その解決策について本書はまとめられています。冨山は、グローバル企業とローカル企業はまったく別物であり、別々の戦略をもって臨むことが日本経済復活のためには不可欠と説きます。
景気はよくなっているとニュースで言うけれど、お財布の中身はまったく増えない……。そんな現実にとまどっている方の疑問が本書で一気に晴れること請け合いです。日本のいまを知りたい方の必読書です。
以上、冨山和彦の著書を5冊ご紹介しました。日本経済の読み解き方から、日本企業の経営についてといった幅広い視点から、ビジネスマンが身につけるリーダー論や忍耐力の身に付け方など身近な視点まで、さまざまなテーマの作品が揃っています。多くの企業に関わった経験から、事例も大変豊富なので、テーマが直接自分とは関係ないように思えても、読み物として十分に楽しめます。自分のステップアップを視野に入れ、気になったものから手にとってみてはいかがでしょうか。