急激にグローバル化が進んでいる現代の日本。この国際社会を生き抜くために、世界に関してだけでなく、自分の住んでいる国をまず知る事は欠かせないでしょう。今一度日本を見つめ直すために、こういった本はいかがでしょうか?
新田次郎、藤原ていの作家夫婦の次男として生まれた藤原正彦は、幼少時には満州に住んでいたこともあり、苦難に見舞われました。ソ連の侵攻から1年以上もの逃避行を経て、ようやく日本に落ち着けたのです。その後、長野の祖母宅で経験した自然は、彼の美意識の土台になったと語られています。
そんな藤原正彦が心惹かれたのは、絵と数学でした。国家と国民としての精神性を説いた著作も多いですが、彼の本分は数学者なのです。しかし彼は著作の中で、教育については国語を重視すべきとして、算数はその後、英語は小学校から学ぶべきではないと主張しています。教育の目的は、自ら学べる子供を育てること、とも論じているのです。
教育への関心が強く、他にも飛び級制度へ批判を飛ばしています。先に多くを知る事よりも、その年代らしい経験を経る事こそが重要である、というのです。彼がこう主張するのは、幼少期に長野で自然豊かな環境で育ったことや、当時の流行に乗ったような行動をかけがえのないものと考えているからでしょう。
毅然とした人物であり、息子のいじめ問題には真っ向からやり返せ、と叱責したそうです。武士道精神を重視しているためのエピソードでしょう。国語の重視もその一環であり、日本という国を何より愛しているのです。
グローバルの名の下に洋風に染まってきた私たちの生活ですが、外国と向き合うために、外国になりきってしまうことは本当に必要だったのでしょうか。外国で通用していたやり方が、必ずしも日本に合うとは限らないと、ここで強い警鐘がならされています。
その時まで外国を成立させてきた論理主義が、必ずしも日本人になじむとは限らないでしょう。日本という国にはそれに合わせた形があり、自国の伝統と美意識はそのために磨かれたものと論じられています。
日本らしさを尊重し、守っていくことの大切さを説いた一冊です。
- 著者
- 藤原 正彦
- 出版日
- 2005-11-20
藤原正彦は、幼少には満州、成長してからアメリカやイギリスで暮らしました。様々な人種で溢れるアメリカでは論理が第一とされ、競争から脱落する者への配慮のない、厳しい社会である事が紹介されています。そうした暮らしが、決して論理的ではないものの姿を際立たせたのでしょう。日本らしい情緒や、武士道精神からくる規範を大切に思うようになったと言います。
本書で藤原正彦が主張しているのは、金銭に任せた支配や均一化する世界に反旗を翻し、国際社会に参加する国家として、日本らしい姿を取り戻そう、ということです。過去数多くの悲劇や戦争は論理の先に発生したとも語っています。論理社会では論理的に正しければ、いかなる事でも受け入れられてしまうと懸念しているのです。
今の社会を守る法律は、社会を成立させる論理そのもの。守らねばならないと思うのは当然ですが、未だ多くの悪行が法律の目をくぐり抜けて行われているのも事実でしょう。法を犯していないのだから問題ない、という言い分も珍しいものではないかもしれません。この本では、法律よりも倫理で、そうした悪行を見張るべきだとされています。
様々に言葉が尽くされてきましたが、藤原正彦の主張はとてもシンプルです。ダメなものはダメ、この一言。まったく論理的でないこの単純な一言が、今の日本には必要なのだと語られています。
著者が研究員としてアメリカで暮らした時の体験記です。数学者としての視点で見たアメリカでの経験を分析し、冷静に、しかし生き生きと描いています。
当時はまだ戦後の空気が濃く、アメリカに対する強い対抗意識を持っていたようです。がむしゃらに研究に励む中で経験するアメリカでの暮らしが、次第にその考え方をほぐしていきました。
アメリカと日本との違いを全身で体験し、冷静に分析した一冊です。
- 著者
- 藤原 正彦
- 出版日
- 1981-06-29
遠い異国での体験を豊かなエピソードとともに語りながら、アメリカと日本の違いを露わにしていきます。アメリカで出会う景色、経た経験を一つ一つ取り上げて、自分の感情を丁寧に解きほぐすことでその違いと出会うのです。豊富なエピソードの与えた気持ちをとても大事に、そして冷静に砕いていきます。
感情の由縁を論理的に説明するこの姿勢は、数学者ならではなのでしょう。始まりが感情であっても、その内省は決して感情的ではありません。文章の上ではどうしても冷静を貫いているように見えてしまいますが、アメリカの色々なものに心を動かしたからこそ、この本が書かれたのです。
この体験記が希有なものとされるのは、感情豊かな行動と、冷静理知的な分析がしっかり切り分けられているためでしょう。その時受けた気持ちを忘れずにきっちりと示した上で、分析にはまったく持ち込みません。
ひょっとすると、数学者と聞いて変わり者をイメージしたかもしれません。やや理解しがたい世界への躊躇もあるかもしれませんが、描かれているエピソードは私たちも経験しそうな何気ないものです。構えず、気軽に開いてみるくらいがちょうど良いでしょう。
数学が美しいと聞いて、同感できる人はどのくらいいるでしょうか。複雑で専門的、難しそうというのが大方の印象だと思います。数字は数字、美醜とは感覚が離れていると思うのも仕方のないことでしょう。
この本はそんな数学へのマイナスのイメージを取っ払う、平易で、親しみやすい対談形式の一冊。小説家、小川洋子と藤原正彦に数字を見つめ、その形への触れ合いに導いてくれます。
- 著者
- 藤原 正彦 小川 洋子
- 出版日
- 2005-04-06
そもそも数学に美を感じられる、というのは、その世界にどっぷり浸かり込んでいるからでしょう。0の発見や未だ見果てぬ素数の世界など、普段から何気ない計算で数学に親しんでいても数字の底は見えそうにありません。多くの学者の頭を悩ますこの世界に飛び込む人が絶えないのは、やはりそこに大きな魅力があるからでしょう。
この本は多くの読者の支持を得ている小説家小川洋子との対談形式で、数学が苦手という人にも入りやすくなっています。俳句にも触れて、少ない文字数で表現することの芸術性から、日本人が昔から数字の持つ美を感じていたことを示しています。身近にあるものをシンプルに表すことは、多くの言葉を費やすよりもずっと美しいのです。
この本で語られる定理や公式の話はそう多くはありません。確かにずっと数学をテーマに対談を続けるのですが、一つ一つの公式を読み解くようなものではなく、その定理や公式との出会いを多く語っているのです。
数学に魅せられた2人が、ずっとその面白さについて語っている本書。きっとその楽しさに浮かされて、次々にページをめくっていることでしょう。読み終わる頃には、数学への抵抗はなくなっているに違いありません。
私たちは何を持って日本人であることを誇れるのでしょうか。文化、芸術、世界への貢献、形あるものや目に見えるものは数多く存在しますが、同時に反省すべき点も多く目につくことでしょう。どうしてもマイナス面は強く印象に残りがちです。しかし確かに、日本人には誇るべきものがあるのです。
多くの悪い情報に閉ざされた目をもう一度開き、自国の素晴らしい点を認識すること。世界の中で自立するための意識を提起するための、著者の強い願いが込められた本です。
- 著者
- 藤原 正彦
- 出版日
- 2011-04-19
どの国もそうであるように、歴史の上で良い部分もあれば悪い部分もあります。この良い悪いをどう分類するかについては様々な意見があるでしょう。そこに正誤はありません。ただ、全てのことは一面的ではない、というだけの話です。
しかし、日本はこれまでの歴史で育んできた精神を損なってしまいました。本書で藤原正彦は、一体どのようにして、築き上げられてきた精神性が失われたのか、歴史上の様々なターニングポイントを徹底的に分析されています。
本当に当時に戻れるわけではありませんから、現代の価値観で正しいかどうかを唱えることはできません。藤原正彦は、現代の理論で当時のことを萎縮するべきではない、と強く主張しています。
多量の歴史資料を細密に分析しており、書かれている内容はかなり深いものです。屈辱に甘んじ続ける日本人を克己させたいという思いがひしひしと伝わる一冊で、文章もユーモアがあり読みやすいものです。歴史を知るためにこの本を開いてみても良いかもしれません。
日本を日本らしい姿にしたいという願いを凝縮した一冊。新聞や雑誌に書いたエッセイを本にまとめたもので、すっきりと短く、独特の語り口で個々のテーマについて語られています。タイトルから連想されるような厳しい論調はありません。
語られていることは、経済や教育、主義や政策に至るまで多岐に渡ります。その根底にあるのは日本人の誇るべき精神性への尊敬です。今も私たちの根底にあるその精神を、今一度復活させたいと、願い続けているのです。
- 著者
- 藤原 正彦
- 出版日
- 2008-04-10
内容は現在蔓延する日本人の制度などへの批判ですが、平易で読みやすい文章で語られています。どれも本来あるべき日本人を思ってのもので、読んでいてもストレスはないでしょう。
批判の的となっているものは非常に多く、どれも理想論が語られているように感じられるかもしれません。しかしどれも、無理な事を言っているのではなく、叶えたいという形が具体化されて書かれており、実現させようと思えばすぐにでもできるでしょう。
卑怯な振る舞いをしない、礼儀と人との和を大事にするなど、語られる精神はいかにもこの著者らしいものです。失われた日本人らしさというものを、本当に惜しんでいるのでしょう。惜しまれるほどの人間性が、日本に確かに存在したのです。
誇りを取り戻せ、と言われると仰々しく思えるかもしれません。しかし誇りとは、そこまで遠いものではないのでしょう。日本人で良かったと心から語れるようにすることこそ、この本の目指すところなのです。
数学者でありながら情緒的に日本という国を捉えた藤原正彦。作家の両親を持つだけあって読みやすい文章で、私たちを知っていたはずの知らない世界へ案内してくれます。