「MOTTAINAI」という言葉で、日本でも一躍有名になったワンガリ・マータイは、地球を平和にするために活動した女性でした。笑顔の印象が強い彼女ですが、波乱に満ちた彼女の活動を知るための4冊をご紹介します。
ワンガリ・マータイはケニアのエコロジストであり、政治家です。彼女は環境活動家として、そしてアフリカ人女性として初のノーベル平和賞を受賞した人物で、日本では「もったいない」をキーワードとして活動しました。
彼女は1940年、ケニアで農家の娘として誕生。家族の尽力のおかげで20歳のとき国費で留学、アメリカのマウント・セント・スコラスティカ大学で学んだのち、ピッツバーグ大学で修士号を取得しました。その後帰国しナイロビ大学で博士号を取得、教授となります。
ケニアの環境破壊の現状を見て、1977年、国土の砂漠化を食い止めるための植林活動であるグリーンベルト運動を立ち上げます。当時の独裁政権下において様々な圧力が彼女に襲いかかりましたが、7本の植樹から始まったこの運動はアフリカ全土に広がり、30年間で5000万本を突破しました。
この活動は環境活動の側面と同時に、貧しい人々の経済的自立、それに伴うケニアの民主化・女性解放と密接にリンクしています。彼女自身も2002年に国会議員となり、環境副大臣となったのち緑の党を立ち上げ代表となりました。
その後も彼女の活動は衰えることなく、2005年に京都議定書の関連行事に参加した際 、日本語の「もったいない」にインスピレーションを受け「MOTTAINAI」をスローガンにした運動を開始します。「もったいない」という言葉には資源に対する尊敬が含まれているという点に彼女は着目しました。
彼女の活動は全世界を動かすようなスケールの大きいものでした。酷い弾圧にも負けず、だめなものにはだめと言い続け、反政府分子の烙印を捺されてもなお自分の信念を曲げずに生きた彼女は、単なるエコロジストの枠を超え、グローバルに訴えかける普遍性を持っていました。
ワンガリ・マータイは2011年に死去しますが、国葬となりました。その際葬儀では遺言により木を用いない方法での火葬がなされ、最後まで自分を貫き通した彼女の人生には感動を覚えます。
1:学校まで5キロの道のりを歩いて通った
当時のケニアでは女性には教育を施さないのが一般的でしたが、彼女は家族の理解もあり学校に行くことができました。しかしながら8才のときから5キロの道のりを歩いて通っていたそうで、その教育に対する執念は目を見張るものがあります。毎日往復10キロを歩く少女を想像すると、その大変さがしのばれます。
2:意思の強さによる離婚と投獄
ワンガリ・マータイは活動家と結婚し子供ももうけますが、彼女の意思の強さが夫婦の不仲を招き、最終的に離婚訴訟に発展しました。ここまではそれほど驚くような話ではありませんが、当時は女性の社会進出が一般的ではなかったこともあり、裁判でなんと法廷侮辱罪に問われ投獄されるという事態に陥っています。
3:東京オリンピック・パラリンピックの標語が「MOTTAINAI」に?
環境大臣を務めていた際に彼女と交流のあった小池百合子東京都知事は、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックのスローガンを「おもてなし」から「MOTTAINAI」に変更すると語りました。それが実現するかはさておき小池都知事は彼女に風呂敷も提示するなど、エコロジーの部分で相通じるものがあったようです。
4:輝かしい受賞歴
ワンガリ・マータイはノーベル賞を受賞しましたが、他にも数多くの栄典を受けています。その中には、ネルソン・マンデラなども受賞している世界市民賞、フランスの最高勲章にあたるレジオン・ドヌール勲章なども含まれます。
ワンガリ・マータイについて知るには、やはり本人自らが語る話を避けては通れないでしょう。この作品はマータイの自伝です。
彼女を突き動かすものの根底には常に「平等」という言葉があるのではないでしょうか。社会進出を幾度も妨害されたこと、社会的に抑圧された女性について、人種問題……これらが彼女を動かす動機でもあり原動力にもなっていたことが本書を読むとわかります。
翻訳は彼女とも親交のあった小池百合子で、平易な文体がワンガリ・マータイのシンプルな思想を引き立てています。
- 著者
- ワンガリ マータイ
- 出版日
- 2017-06-06
タイトルにもある「へこたれない」という言葉が、簡単なようで簡単ではないことを痛切に感じさせる内容ですが、その反面我々もそう簡単にはへこたれない人生が歩めるのではないか、と勇気づけられます。
地球を愛する上でへこたれてはいけないという不屈の闘志ももちろんですが、もうひとつの彼女の顔である、聡明で明るい女性という側面もまたよく出ており、彼女が出会った様々な人や教育の影響が丁寧に記されています。
「我々は他に住むところがない」という彼女のメッセージはシンプルであるが故に非常に鋭く読者の胸に刺さるでしょう。自分さえ良ければ良い、という時代は終わったのだと彼女は語っているようです。この不世出の女性活動家に興味が出た方はぜひ読んでみてください。
ワンガリ・マータイ書き下ろしの一冊。彼女が展開するグリーンベルト運動がいかに平和とリンクするか、彼女の考えが手に取るようにわかる内容です。
本作はグリーンベルト運動に関して記されているのですが、これが単なる環境保全・保護活動だけでなく、女性の経済的自立というもうひとつのテーマを持っていることが語られています。しかしながらその活動はひと筋縄ではいかなかったことも彼女は語っています。
環境保護も女性の地位向上も当時の政府の考えとは真反対であったことは驚くべきことです。それは資本主義とエコロジー、独裁政権と民主主義の戦いでもありました。
- 著者
- ワンガリ マータイ
- 出版日
物事には必ずジレンマがつきもので、深く考えるとどう行動したらよいか分からなくなるときもありますが、彼女はおそらく頑固な人なのでしょう。正しいと思ったことを遂行するためにどう組織を運営するかを細かく語っています。リーダーシップとは何か、組織経営とは何かを教えてくれる内容でもあるのです。
また、「MOTTAINAI」を取り上げた国連でのスピーチも収録されていて、彼女が本当にこの言葉を素晴らしいコンセプトであると考えていることが分かります。日本人の「もったいない」精神に、彼女がいかに共鳴したかを読んでみませんか。
「MOTTAINAI」は平和に通ずるとワンガリ・マータイは言うのです。本書は、一般から募った「私の、もったいない」がまとめてあります。
彼女の再発見した「もったいない」とは何か、なぜ日本語だったのか、ということを再確認させてくれる「もったいない」がたくさん飛び出してきます。
いわゆる3R(リデュース・リユース・リサイクル)に、4つめのR、リスペクトを加えるとはどういうことか。それは、物質の後ろに静かにたたずむ気持ちのことではないか、ということを語りかけてくる作品です。
- 著者
- 出版日
- 2016-09-28
書かれている内容は、「そうそう」「日本人だったら普通だよね」というものが多いですが、それで良いのです。当たり前のことであるべきことがここには収録されています。
様々な人の「マイもったいない」をながめて、自分の「もったいない」は何か、考えるのが楽しくなる一冊です。
最後はワンガリ・マータイの絵本です。ドナ・ジョー・ナポリの文、カディール・ネルソンの力強くも素朴な絵によって、「木の母」ワンガリ・マータイの人生が子供から大人まで楽しめます。
ドナ・ジョー・ナポリは作家でもあり言語学者でもあるのですが、彼女の持つすべての世代に訴えかける文章がここでもきらめいています。自分でできることをしよう、というマータイの考え方が徐々にアフリカを緑にしていくのです。
とにかく目に鮮やかな色彩で、ケニアってこういうところなのか、と読者に思わせてくれます。そこにある鮮烈な緑色が印象的で、眺めているだけで幸せな気分になれるでしょう。
- 著者
- ドナ・ジョー ナポリ
- 出版日
- 2011-03-01
ワンガリ・マータイは困っている人に色々な知恵を授けます。それはすべて「自分でできることをしましょう」というシンプルなメッセージで、食べ物がなければ果物の木、燃料がなければ薪になる木、というように問題を解決する木が登場するのです。
まるで魔法使いのようですが、その根底には「人々に平和を」という彼女の熱い思いがあります。考えるのは簡単ですが実践に移すことは難しい、そのことの重要性をあたらめて考えさせられます。
しかし固いことは抜きにして、「木の母」である大きな心を持った女性、マータイを中心にしたピースフルな絵本として読むことができるので、ぜひ気軽に手に取ってみてください。
ワンガリ・マータイの素晴らしいところは、貧しい人や困っている人に目が向いていたというところでしょう。自分のための活動ではない、そこに彼女が光り輝いていた理由があると思います。突然の逝去は悲しいものがありますが、その考えや活動がこれからも継承され、地球をどんどん緑にしてほしいと思います。