レイチェル・カーソンにまつわる逸話4選!『沈黙の春』を書いた女性生物学者

更新:2021.11.9

まだ誰もそのようなことを考えたことがなかった時代に、環境問題に関して提言をした女性、レイチェル・カーソン。彼女が60年代以降のエコロジー運動の出発点となった、いわば先駆者です。そんな彼女を知るための本をご紹介します。

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レイチェル・カーソンとは

レイチェル・カーソンはアメリカでもっとも早く環境問題に警鐘を鳴らした生物学者で、化学物質による汚染に対して告発を続けた人物です。「環境への権利」という概念を根付かせた先駆者であり、女性が科学者になる道筋を付けた人でもあります。

彼女は1907年にアメリカはペンシルベニア州で生まれ、子供の頃は小説を書いていたような利発な少女でしたが、後に生物学者を志します。当時としては女性が科学者を目指すのは稀なことで、大学院研究室でも女性は彼女だけでした。

大学時代も財政的には恵まれず、大学院を卒業した後さらなる家庭の不幸が重なり、収入を得るため彼女は連邦漁業局に就職します。そこで彼女は広報用のラジオ番組『ロマンス・アンダー・ザ・ウォーター』を制作しますが、それは海洋生物にフォーカスを当てた公共性の強いものでした。その後彼女は海洋生物に関する記事を新聞などに寄稿するようになります。

その後正式に公務員となったカーソンは様々な記事を書きますが、1937年にアトランティック・マンスリーが随筆を取り上げたのを始めとして、彼女の記事は様々なところで取り上げられ一定の成功をおさめました。この頃の作品として『潮風の下で』があります。

しかしながら第二次世界大戦が本格化すると、政府の予算は軍事方面に集中され、彼女が行なっていたような自然科学分野は後回しとなりました。そして終戦間近の頃、レイチェル・カーソンはDDTの危険性と生態系における影響に着目します。しかしそれは1962年に『沈黙の春』として発表されるまで棚上げされました。

その後50年代より著作が次々とベストセラーとなります。それによりついに彼女はフルタイムの作家となることができました。そして最終的に彼女は『センス・オブ・ワンダー』に着手しますが、完成半ばの1964年に癌により亡くなります。 

自然を愛する彼女は女性という立場でありながら常に研究を続け、まだ誰もそのことを考えていない時代に環境問題に関して告発しました。まさに現代に続くエコロジストの最初の人といえるでしょう。

レイチェル・カーソンにまつわる逸話4選!

1.文学少女で最初の小説の出版はなんと10才

レイチェル・カーソンは少女時代から利発で高校も主席で卒業しています。そんな彼女ですが、元々作家志望でなんと8歳の頃から小説を書いていたようです。しかも最初の彼女の小説の出版は10才だったというので早熟も極まっています。興味深いのはその後彼女が歩む自然科学分野の芽がすでに出ていたようで、8歳の頃の小説は頻繁に動物が登場したようです。

2.小さい頃から自然好き

彼女は農場で育ったのですが、つねに広大な農場を探索していました。その農場はペンシルベニア州にあったのですが、広さは26ヘクタールもあり、さぞいろいろな動植物が生息していたと思われます。育った環境のおかげもあり、小説の話も含めて小さい頃から自然が好きだったのです。 お母さんの影響が多大だと彼女は語っています。

3.つねにつきまとった財政難

女子大に進学した後、行きたかった大学があったのですが財政難でうまくいっていません。大学院ではネズミやハエの研究で授業料を稼ぎつつ動物学の修士号は取りましたが、お父さんの急死、お母さんの介護などでさらに財政状況が悪化します。そこで彼女は博士号をあきらめ就職することになります。

4.史上2番目のプロ生物学者に

漁業局に就職した後、彼女は持ち前の才能でラジオ番組の制作に従事しますが、フルタイム勤務を狙っていた彼女は公務員試験を受けます。そこではやはり1位の成績を取り、史上2番めのプロの水生生物学者となります。やはり聡明な女性だったのです。

現在の環境運動の出発点となった本

レイチェル・カーソンが1962年に発表したベストセラー。「鳥たちが鳴かない春」を軸に化学物質が生態系あるいは環境に及ぼす影響を告発したもので、環境・公害が注目をまだ集めていなかった当時としては最前衛の内容です。

ここでは徹底したフィールドワーク、研究による彼女の説を淡々と記しています。彼女はDDTに代表される殺虫剤が、標的となる害虫だけではなくすべての生物に影響を与える、特に生体濃縮の危険性について繰り返し繰り返し警告を発しています。

通底するテーマは「自然を人間がコントロールするのは無理」というもので、フィールドワークで上がってきたいろいろな事例がそのことを裏付けているのです。

著者
レイチェル カーソン
出版日
1974-02-20

標的となる生物が耐性を持ち、他の生物を駆逐するというような話が何度も何度も登場し、化学物質の力では何もうまくいかないのだ、というメッセージが痛烈に響きます。

彼女の説に異議を唱えたのは産業界だったのはもっともなことで、現在もカーソンに対する非難は続いているようです。特にDDT使用を禁止した結果、マラリアが再び勢力を盛り返したという事実は実際にあります。しかしながら彼女が研究をした、DDTに耐性を持つ蚊(生物)が登場するというのもまた事実なのです。

いずれにしても1960年代に勃興したエコロジー運動の先鞭をつけた役割は非常に大きく、人々に環境を意識させるというベースを作ったのが本書といえるでしょう。結局生物的な手法で害虫を駆逐するのが一番であると彼女は述べています。

まるで海の中にいるような気持ちに

1951年に出版され、彼女を経済的苦境から脱出された一冊です。カーソンは文学少女と科学者の二面性を持っていますが、この作品は海に関するもので彼女のその二面性がよく出ている作品です。

内容は海を通じて生物や歴史、地球そのものを科学的に論述、しかもその筆致にはポエジーが感じられ、深海、火山、川、そして海についての壮大なスケールのエッセイとなっています。

海洋生物学者の彼女が実際に見聞したもの、研究したことをベースに書かれているため、我々が知らない海、ひいては地球の姿が描写されており、ありとあらゆる事柄に関して優しく静かに語ってくれています。

著者
レイチェル・カースン
出版日

古い書籍なので現在の研究とは違っている部分もありますが、それを差し引いてもこのポエジーには特筆すべきものがあります。『沈黙の春』は彼女の科学者的側面を前面に押し出していましたが、この作品は彼女の文学者としての部分がより強く出ているのです。

海を愛したレイチェル・カーソンが海に関して様々なことを教えてくれます。なぜ海は青いのか。地層って何?文体も平易で、読むと美しい海が眼前に広がるような気分になる一冊です。彼女の一大傑作といえるでしょう。

レイチェル・カーソンを研究する

レイチェル・カーソンの考えは著作を読むとわかりますが、本作はそんな彼女の人物像を記したもので、彼女の人生を俯瞰するのには最適といえます。

世界初の環境問題提唱者である彼女の著作を紐解きながら、彼女が何を考え後世に何を訴えたかったのかを探る内容となっています。

本書は6つの章からなっており、生物の織りなす多様性から農薬や放射線、環境ホルモンなどについて、水と生命の連鎖、自然と感性など、彼女の考えを紐解きます。

著者
多田 満
出版日
2015-09-07

巻末にはレイチェル・カーソンの年譜も付いており、彼女の活動を俯瞰する手助けになってくれます。作家研究の手助けになる好資料といえましょう。

科学万能主義で突っ走る時代は終わり、別の道を模索しなくてはならないとレイチェル・カーソンは考えています。その根底には「生命への畏敬」があると作者は語っているのです。

「地球は人間だけのものではない」という陳腐にも聞こえる常套句が、彼女にかかると「だから新たな可能性を探求するのだ」と付け加えられ説得力が増します。口だけで何もしないのではだめだということです。

レイチェル・カーソンからの最後のメッセージ

病床にあったレイチェル・カーソンの遺作。子どもたちに捧げるメッセージとなっています。「神秘さや不思議さに目を見はる感性」であり「センス・オブ・ワンダー」を忘れてはいけないと彼女はここで静かに語っているのです。

この作品では彼女の詩的な部分がより強調されており、メーン州の自然がいきいきと描写され、亡くなった姪の息子ロジャーがそれを見て体験してどういう反応を示したかを、愛情たっぷりに記しています。

読者は、レイチェル・カーソンの自然を見る目、観察眼ではなく自然を感じる感性には目を見張ることでしょう。我々も見ているであろう普通の情景も彼女にかかるとこんなにもみずみずしくなるとは……。

著者
レイチェル・L. カーソン
出版日

子どもたちにとって初めて見るもの、我々大人はそれを彼らにプレゼントしなくてはなりませんが、レイチェル・カーソンは迫りくる自分の死の前にそれをロジャーに贈ろうとします。

自然を愛する気持ちを持つことは、大事なことなのだとこの作品は我々を勇気づけてくれるのです。

要所要所に挟み込まれるメーン州の写真が非常に美しく、自然探索をしてみようかなという気持ちになれる一冊です。読んだらきっと誰かに見せたくなりますよ。

研究者と詩情あふれる作家という2つの顔を持つレイチェル・カーソンにより、現在我々が環境問題に目を向けることができるようになった、そういう機会を与えられたと言って過言ではありません。生まれてから亡くなるまで常に自然を愛し、自然に畏敬の念を抱いていた彼女の著作を通じて、あらためて自然の素晴らしさを味わいたいと思います。

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