「短歌」と「電線」をこよなく愛する女優・タレントの石山蓮華さん。夜な夜なツイッターに自作の短歌を投稿し、いい電線を探し回って写真に収めることをライフワークにしている24歳。連載第4回目では『浪費図鑑』を取り上げます。
自分の機嫌をとるためにどうやってお金を使っていますか。わたしはお酒を飲んだり、舞台を観たりするためこまごまと、時には思い切ってお金を使います。
その月々であったりなかったりするんだけどお仕事で少しずつお金をいただけるようになってから、自力で好きなものを買いに行けるようになりました。自分で稼いだお金で幸せになれるなんて、こんなに素敵なことはない。ほんとうにそう思います。ただ、貯金はゼロです。
ということで今回は『浪費図鑑』を読んでみました。劇団雌猫というサークルが出した「悪友」という同人誌を元に小学館から出版された本です。オタクの女性がゲームやアイドル、若手俳優などの愛するものにどうお金を使って(浪費して)いるかについての赤裸々なインタビューを中心に書かれています。
- 著者
- 劇団雌猫
- 出版日
- 2017-08-08
2月、夜な夜な開かれた「ユーリ!!on ICE」の女性ファン同士で語り合う会でお会いしたもぐもぐさんが劇団雌猫に所属されていたこともあり、この本は出る前から気になっておりました。自分の愛するものに向かって怒涛のごとくお金を「浪費」していく人たちのなんと気持ち良さようなことか。急な坂道を駆け下りるような気持ち良さと興奮を感じながらパーっと読めます。値段が「1000円(税別)」なのは同人誌価格っぽくしたのかなあとも思いました。
さて、つかぬことをお伺いしますが、同人誌即売会には行ったことがありますか? 高校生の頃にケモナー(画像検索してみてね)の同級生が夏コミへ行くのについて行ったときは、わたしの大好きな綾波が、三尺玉のような乳になって全身に汁をかぶって恍惚としているのにビビって本は一冊も買えませんでした。なぜかせっけんの香りの香水を買って帰った思い出があります。
ケモナーの友達とは今でもよく遊びますが、どんな本を買ったのかはついぞ秘密にされたままです。 そして先月、ツイッターでビルや団地などの愛好家さんたちが夏コミに出展されるとの情報を得て、すぐさまマネージャーさんに「電線の同人誌を出している方がいるかもしれません! 後学のためフィールドワークに行ってきます! 後学のために!」と言って、夏コミ2日目に休みを取ってもらいました。
前日、仕事から帰るとすぐさま電子版のカタログで団地や工場、建物などの愛好家さんサークルと「ユーリ!!」のサークルをチェック。これで明日は朝7時に起きれば余裕。さすがに始発で行かずとも欲しい本はだいたい買えるだろうと安堵し、アラームを10分おきにかけて寝ました。
そして翌朝11時。なぜか昨晩のわたしはスマートフォンの電源を切ってから寝たらしい。なんでなんだろう、夜遅くまで起きていると不思議なことが起こりますね。
ビッグサイトへ向かう電車に揺られながらいくつもの新刊が完売したことを知り、心を無にして完売宣言をしたサークルをチェックリストから外しました。
心しおしお枯れていくのを感じつつ、スーツケースを薄い本でパンパンにして幸せな顔をした人たちの誰とも目を合わせないようにして東ホールへ早歩きで向かいました。
東ホールでは薄い本の表紙に、美しきアイススケーターたちがずらりと並びます。あまりに素敵な彼らを目の前にして、私は、ああもう思い出すだけでくらくらする程ときめくのです。キュンキュンのキュン。この気持ちはなんて言えばいいの。ああもう好き、みんな素敵、好きになっちゃう。たくさんの同人作家さん達が思い思いに描いた愛に包まれ、見るもの全てに微笑みかけたくなるような幸せな気分で本の列に並びます。
ときめきで痺れた頭に算数はできません。「一冊ずつください」を何度か繰り返し、汗ばむ手でリュックに同人誌こと愛をいっぱいに詰め込んだら、いよいよ団地や建物などの愛好家さんたちが頒布する同人誌こと愛をゲットしにゴーです。
結果から言いますと、もう、ほんっとうに楽しかった。お金はいくら使ったかわからないし、暑くて汗びしゃびしゃだし荷物はどんどん重くなるしで大変なんだけど本当に気持ちよくってデトックスされた感がすごかった。
それぞれの愛好家さんたちがそれぞれの目線、愛を込めた同人誌のおかげで
その世界を垣間見ることが出来、世界の面白さが増していくのです。団地やエスカレーター、ビルや廃墟に美容院など都市を鑑賞する愛好家さんたちの同人誌のいいところは本そのもののを読む楽しさに加えて外へ出かける楽しみも増えることだと思います。同人誌を通じて頭の中で広がった世界を、都市を歩き鑑賞することでもっと広げられる。こんなに楽しいことってそうそうないんじゃない?
楽しいことは自分でやって見たほうがもっと楽しいんじゃない?と思って冬コミに応募しました!
わたしも、いい電線への愛を同人誌の形にしたいのです。もし抽選に当たったら、わたしの愛を買いにビッグサイトまで来てくださいね。
撮影:石山蓮華
電線読書
趣味は電線、配線の写真を撮ること。そんな女優・石山蓮華が、徒然と考えることを綴るコラムです。石山蓮華は、日本テレビ「ZIP!」にレポーターとして出演中。主な出演作は、映画「思い出のマーニー」、舞台「遠野物語-奇ッ怪 其ノ参-」「転校生」、ラジオ「能町みね子のTOO MUCH LOVER」テレビ「ナカイの窓」など。